テロリズムとカウンター・テロリズム 安全保障論 (第10回) 担当:神保 謙.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
だい六か – クリスマスとお正月 ぶんぽう. て form review ► Group 1 Verbs ► Have two or more ひらがな in the verb stem AND ► The final sound of the verb stem is from the い row.
Advertisements

第9回(11/20)  立憲制度と戦争.
21世紀の東アジアと日本 柿澤弘治 大阪市立大学国際シンポジウム 
甲南大学『ミクロ経済学』 特殊講義 新旧産業組織論と ネットワーク・エコノミックス 2Kyouikukatudou/3Hijyoukin/2000/Konan2000.html 依田高典.
セキュリティ・アーキテクチャに基づく IT 設計
大阪大学法学部 国際公共政策学科3回 山下汐莉
国際システム理論によるイラン問題へのアプローチ
情報は人の行為に どのような影響を与えるか
参考資料5 世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)
CSWパラレルイベント報告 ヒューマンライツ・ナウ        後藤 弘子.
ECの成立へ マーストリヒト条約の成立 通貨統合
米ソ 冷戦       ~今現在とのつながり~       11-3      福島 愛巳.
反米、米国式教育、ダーウィンの進 化論を教えない 女子、子供を拉致、多数の死傷者
In larger Freedom 平和構築・人権擁護・開発援助 日本から国際社会へ
援助は現場で起きている ODAの現地機能強化を どのように推進すべきか FASID国際開発援助動向研究会 2005年7月22日
Chris Burgess (1号館1308研究室、内線164)
第12章 現在のグローバル化を考える.
現代のグローバル化を考える 冷戦体制解体 民主主義とグローバル化.
イラク戦争2 イラク-アメリカの絡み合い.
安全保障政策の体系 - 国防・同盟・多国間協力の諸類型 -
第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
児童労働問題とILOの取り組み ー条約の重要性ー
民営化とグローバリゼーション 国家の役割は何か.
第1章 地域の政治力学と日本 ~東亜共同体への動き~
失われた10年 日本経済の現状と課題 日本の平和への貢献
公共政策大学院 鈴木一人 第7回 政治と経済の関係 公共政策大学院 鈴木一人
金融の基本Q&A -Q21~Q24-  小瀬村愛子.
手に取るように金融がわかる本 PART6 6-11 09bd139N 小川雄大.
地政学2 「新しい地政学」の登場 政治地理学の理論と方法論 第3週.
日本の安全保障 c 橋本彩香.
President, Japan Council on Energy & Security
Licensing information
Chapter 4 Quiz #2 Verbs Particles を、に、で
The Sacred Deer of 奈良(なら)
“You Should Go To Kyoto”
抑止論(Deterrence)と 拡大抑止(Extended Deterrence)
ヘルスプロモーションのための ヘルスリテラシーと 聖路加看護大学『看護ネット』
対北朝鮮「最大限の圧力へ」.
公共政策大学院 鈴木一人 第7回 政治と経済の関係 公共政策大学院 鈴木一人
軍備管理・軍縮・不拡散・拡散対抗 Arms Control, Disarmament Non-Proliferation, and Counter-Proliferation 安全保障論 (第5回) 担当:神保 謙.
What is the English Lounge?
現代の経済学B 植田和弘「環境経済学への招待」第3回 第7章 環境制御への戦略と課題 京大 経済学研究科 依田高典.
オウム真理教と日本社会の変容 2011年12月26日 安岡ゼミ c 赤澤彩香.
国際的な情報セキュリティへの取り組み 各国の対応とサイバー犯罪条約 インターネット時代のセキュリティ管理.
ISO 9001:2015 The process approach
米国の軍事戦略 NSC68文書 (1950.4) .
§7. 平和主義 2007年7月3日・10日 社会科学部 憲法.
§5. 平和主義 人間科学部 憲法.
文化戦争の世紀末 文化戦争の世紀末 文化戦争の世紀末 1990年代.
第11回 継続的監査.
ベトナム戦争 戦争の正義・勝者の苦悩.
Where is Wumpus Propositional logic (cont…) Reasoning where is wumpus
「空間横断の安全保障」の出現? ー冷戦後と9.11後の安全保障ー
国家.
日本政治の第一歩 第1章 戦後の日本政治.
Satoshi Kawashima, LLD 川島 聡 University of Tokyo
資料 2-6 世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)
イクレイの発展とローカルアジェンダ21 岸上 みち枝 2006/11/29
宗教の問題 宗教的対立をどう克服するか.
グローバリゼーションは 国際的画一化なのか
ロータリー財団委員会 委員長 溝畑 正信 (東大阪東RC)
5本柱 運動推進の 時代の変化に即応した、金属運動のさらなる強化と発展の追求 勤労者に安心・安定をもたらす雇用をはじめとする生活基盤の確立
Cluster EG Face To Face meeting
2011 行動分析学特論 (1)行動分析学と 対人援助(学)
生物多様性条約とは何か 森林を取り巻く様々な国際的取り決めと生物多様性条約 生物多様性条約の課題 藤原敬
▲ 80 80~95 75 米国 カナダ フランス 英国 ドイツ 削減目標 柔軟性の確保 主な戦略・スタンス 削減目標に向けた
戦争と平和 正義の戦争は 戦争で利益を得る者は.
討議テーマ② 現行憲法9条に自衛隊について 明記すべきという意見がありますが どう思いますか?
新しい日本の安全保障戦略ー多層協調的安全保障戦略
平成から「令和」へ 日本の針路 情報パック4月号.
Presentation transcript:

テロリズムとカウンター・テロリズム 安全保障論 (第10回) 担当:神保 謙

9・11事件とは なんだったのか? 1.非対称的(asymmetrical)脅威の台頭 2.大量破壊兵器と非対称的脅威のリンケージの恐怖 9・11事件とは       なんだったのか? 1.非対称的(asymmetrical)脅威の台頭 2.大量破壊兵器と非対称的脅威のリンケージの恐怖 ・・・によって挑戦を受ける国際政治の考え方 → 1) 国際政治の「空間軸」    2) 国際政治の「時間軸」

国際安全保障における脅威の座標軸 非対称脅威とWMDの結びつき 台頭する中国への対応 小規模紛争への対処 High Intensity 旧ソ連 +WMD +WMD 中国 非対称脅威とWMDの結びつき 台頭する中国への対応 北朝鮮 非対称 経済秩序の破壊・混乱 国家統合の破綻による政治危機 対称 テロリズム 南沙諸島領有権問題 小規模紛争への対処 国際組織犯罪 小規模越境紛争 大規模災害等 Low Intensity

大量殺傷型テロの時代 <死者数> <テロ事件> <実行犯> 3000以上 米国9.11同時多発テロ (2001) アルカイダ  <死者数>        <テロ事件>            <実行犯>  3000以上 米国9.11同時多発テロ (2001) アルカイダ  477 イラン・アバダンでの放火事件(1979) 反王政派  412 アルジェリア・レリザンヌ地区虐殺(1997) GIA  270 米パンナム機103便爆破事件(1988) リビア  241 ベイルート米海兵隊宿舎爆破(1983) イスラム戦線機構  223 ケニア・タンザニア米大使館爆破(1998) アルカイダ  168 オクラホマ連邦ビル爆破(1995) マクベイ&ニコルス  115 大韓航空機858便爆破事件(1987) 北朝鮮 <負傷者数>  5500 地下鉄サリン事件(1995) オウム真理教  4000 ケニア・タンザニア米大使館爆破(1998) アルカイダ

インドネシア・フィリピン(テロリスト・セル) 9.11テロの「空間」 欧州各国(テロリスト・セル) ロシア(兵器調達) 米国(テロリスト・セル・訓練) アフガニスタン(訓練基地・組織) サウジアラビア(資金提供) パキスタン(テロリスト・セル) スーダン(訓練基地) インドネシア・フィリピン(テロリスト・セル)

テロリストの組織構造(アルカイダ) Supporter Sleeper Cell Hub Cell = Terrorist Cell

Source: Mark Sageman, Understanding Terror Network

テロリズムの類型 (米国の視点) 国内テロ 通常兵器 非通常兵器 世界貿易センター爆破事件(1993) 9.11テロ/炭素菌テロ(2001) テロリズムの類型 (米国の視点) 通常兵器 非通常兵器 国内テロ  海外テロ 世界貿易センター爆破事件(1993) 9.11テロ/炭素菌テロ(2001) ケニア・タンザニア米大使館爆破事件(1998) オウム真理教事件(1996)

テロリズムの類型 領土的テロリズム 観念的テロリズム 政治的テロリズム 宗教的テロリズム 社会争点テロリズム 個人妄想テロリズム パレスチナ・北アイルランド・バスク・カシミール・スリランカ北部・コソボ 観念的テロリズム 政治的テロリズム 極左運動・極右運動・アナーキスト 宗教的テロリズム イスラム教過激派・キリスト教過激派・新興宗教 社会争点テロリズム 中絶反対・動物愛護・環境保護 個人妄想テロリズム ユナボマー

テロリズムのプロセス 集団の形成 集団の過激化 反体制的な性格を持つ民族的な抵抗運動 宗教的・社会的な改革運動 体制の支配を補完する自警団的集団・・・等 集団の過激化 内在的要因:集団内部の路線対立           グループ指導部の性格 外在的要因:ライバル組織の台頭           政府・国際組織の弾圧

テロリズムのプロセス (contd.) テロ行為の実行 テロ組織の弱体化・活動停止 受動的テロ 能動的テロ 平均のテロ組織の寿命は10数年 政府や敵の反撃(やその予想)があったり、そのままでは組織にとって不都合な状況に追い込まれることが予想される場合、それを回避するためのテロ 能動的テロ 自らの目的を実現するために、先制攻撃的に発動するテロ テロ組織の弱体化・活動停止 平均のテロ組織の寿命は10数年 テロ組織の弱体化要因 テロに対する反動(一般市民からの批判と組織内部の反発) 政府の改革(テロ誘因の緩和) 抑止(法執行の強化)

テロ対策の4段階 (宮坂直史) 予防・先制 被害管理(consequence management) 予防(prevention) テロ対策の4段階 (宮坂直史) 予防・先制 予防(prevention) かなり前からテロ組織の活動そのものを監視し、必要に応じて規制する(eg. テロ組織メンバーの入国規制・資金凍結・防御的措置) 先制(preemption) テロを起こす直前の差し迫った段階でとる措置(eg. テロ組織の急襲、容疑者の逮捕) 被害管理(consequence management) 大規模なテロ事件の被害を最小化し、社会的なパニックを除去する応急措置

テロ対策の4段階(contd.) 対テロ組織 新対策 テロ発生直後の混乱状態が一段落ついたのちに、次はそれを実行したテロ組織と戦う 対テロ組織の手段 司法の場で実行犯を裁く 実行犯が所属する組織を非合法化・活動規制する 大規模テロを戦争とみなし、軍事力でテロ組織を制圧 新対策 政策評価 一連のテロを招いた政策的、制度的欠陥、テロ対応についての問題点をレビューし、失敗の教訓を導き、新たな対策を勧告していく

弾道ミサイル脅威に応じた拒否的抑止力、対処能力(MD)の必要性 脅威と紛争のスペクトラム概念図 弾道ミサイル脅威に応じた拒否的抑止力、対処能力(MD)の必要性 対処 伝統的(対称的)脅威 脅威の烈度 外交 弾道ミサイルと結びついた対称的脅威 対処 外交 抑止 新しい(非対称的)脅威 被害局限 脅威の質の差 復興・安定化 国家・国際総合力によるリスク・ヘッジ 予防 先制行動 紛争のスペクトラム       平 時        危 機     有 事       収 拾

テロ対策の見取り図 自助 同盟国・ 友好国との協力 地域機構 国際機関 テロリスト 周辺 I 予防 情報分析 情報提供 出入国管理 情報共有 I 予防 情報分析 情報提供 出入国管理 情報共有 対応能力向上の相互支援 勧告とその実施状況の調査支援 情報収集 II 被害管理 演習 中央と地方との連携 緊急時の相互受け入れ セミナーでの知見の共有 III 対テロリスト及びテロ組織 捜査・裁判 制圧 捜査協力 司法協力 軍事協力 情報交換 共同行動 IV. 新対策 教訓と改善 新しい協定 新しい構想 新条約 規範強化 出典:宮坂直史『日本はテロを防げるか』(ちくま新書、2004年)

米国におけるテロ対策 I 『パターンズ・オブ・グローバル・テロリズム』(年次) 30団体以上のテロ組織を指定 対テロ4つの原則 米国におけるテロ対策 I 『パターンズ・オブ・グローバル・テロリズム』(年次) 30団体以上のテロ組織を指定 対テロ4つの原則 テロリストに譲歩しない・取引しない テロリストの犯罪を法廷で裁く テロ支援国家の行動を変えさせるために、その国を孤立させ、圧力をかける 米国と協力する国、また支援を要請してくる国の対テロ能力を向上させる

米国におけるテロ対策 II 『テロに立ち向かう国家戦略』(2004年2月) 「国家」・「地域」・「グローバル」の3空間に地理的制限を越えて点在するアクター・セルの存在 情報、要員、技術、資源などの面で直接的に相互協力を行い、間接的に共通のイデオロギーを共有し、テロ活動の「正当性」を訴える国際的なイメージの創出に協力し合っている テロ組織の「連結性」という特質をから、地理的領域を横断してテロリストを追尾し、組織間の連結を断絶させていくことに主眼を置いている

米国の対テロ戦略(概念) 「4D」(Defeat, Deny, Diminish, Defend) Defeat Deny Diminish 戦略地球規模のテロ組織の安全区域、指導部、指揮命令系統、通信、物質的及び財政的支援体制に対する攻撃⇒組織を地域レベルに分散化・縮小化 Deny 国際テロ組織に対する対処法を主権領域内で定めるように各国に促し、テロリストに対する支援や安全区域の提供の阻止 Diminish 国際社会の支持を取り付け、テロリストが活用するような根源的状況の改善を図る Defend 脅威を早期発見し、無力化させるために、本土防衛、防衛力の展開を行う

テロリズムは抑止可能か? 抑止の成立3条件 1) 十分な報復力   (能力) 2) 報復意志の明示  (意思) 3) 相手側の理性   (相互理解)

『国家安全保障戦略』(2002年9月)  Traditional concepts of deterrence will not work against a terrorist enemy whose avowed tactics are wanton destruction and the targeting of innocents; whose so-called soldiers seek martyrdom in death and whose most potent protection is statelessness. The overlap between states that sponsor terror and those that pursue WMD compels us to action.

『国家安全保障戦略』(contd.)   For centuries, international law recognized that nations need not suffer an attack before they can lawfully take action to defend themselves against forces that present an imminent danger of attack. Legal scholars and international jurists often conditioned the legitimacy of preemption on the existence of an imminent threat—most often a visible mobilization of armies, navies, and air forces preparing to attack.   We must adapt the concept of imminent threat to the capabilities and objectives of today’s adversaries. Rogue states and terrorists do not seek to attack us using conventional means. They know such attacks would fail. Instead, they rely on acts of terror and, potentially, the use of weapons of mass destruction—weapons that can be easily concealed, delivered covertly, and used without warning.

『国家安全保障戦略』(contd.)   The United States has long maintained the option of preemptive actions to counter a sufficient threat to our national security. The greater the threat, the greater is the risk of inaction— and the more compelling the case for taking anticipatory action to defend ourselves, even if uncertainty remains as to the time and place of the enemy’s attack. To forestall or prevent such hostile acts by our adversaries, the United States will, if necessary, act preemptively.

先制行動論の採用 テロ組織に懲罰的抑止は機能しにくい テロ組織と大量破壊兵器が結びついた場合の被害は甚大 テロリズム実行の「時間」概念は、伝統的安全保障よりも切迫

先制行動論への批判 従来の「自衛権」の根拠を適用できるか(例:潜在的脅威を放置しておくと1年後には自国が大量破壊兵器の脅威にさらされるという見込みをたて、相手国の原子力発電所を爆撃することは自衛権の範囲に含まれるであろうか? またその脅威の性質をインテリジェンスによって実証できるものなのか?) 多くの国がテロリズムを理由に「先制行動」論を適用すれば、武力行使の敷居が低くなるのではないか?(例:ロシア及びインドの安全保障政策における先制行動論の援用) 実際は抑止可能性があったにも関わらず、「先制行動論」を論拠とした、攻撃がまかり通るようになりはしないか?

テロリストに抑止は通用するか?(I) テロ組織のタイプごとの抑止可能性 認識ギャップ防止 (懲罰抑止) (拒否抑止) 利益の調和可能性 分離主義 △/○ ○ △ 社会革命 × 宗教主義 △/× 右翼暴力主義 単一争点 ×/△ 出展:神保謙・高橋杉雄・古賀慶『日本の対テロ抑止戦略』 (2004年度東京財団委託研究報告書)

Deterring Diverse Audiences Peer / Emerging Peer Rogue States Violent Extremists (VE) Senior Leadership Military Commanders Trigger Pullers General Populace State Sponsor Org Leaders X X X X X X X X X X X X X X X X X Cells x x Volunteers from General Populace x x x x x x One approach to characterizing the problem; Based on work by Keith Payne; Is this the right approach? Need a debate on these issues… Sympathetic Patrons and Supporters Families Figureheads Tribes Is there a “unified field theory” for deterrence?

テロリストに抑止は通用するか? (II) 「拒否的抑止」の重要性 国内体制 国際体制 重要施設・インフラの防護 バイオテロ・化学兵器テロに対する防護体制 国際体制 大量破壊兵器・通常兵器の移転阻止 テロリスト資金の凍結 ヒト・モノ・カネの移動の管理強化 ①テロリストに対し「テロ攻撃はあまり効果ない」と思わせるだけの   防衛手段(損害限定)と ②テロリストの能力を未然に削ぐ攻勢的防衛手段を高め、けん欠の   無いグローバルな体制をつくることが重要