相対論的衝撃波での粒子加速 プラズマの不安定性による磁場の生成と粒子加速について 国立天文台 加藤恒彦.

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相対論的衝撃波での粒子加速 プラズマの不安定性による磁場の生成と粒子加速について 国立天文台 加藤恒彦

フェルミ加速のメカニズム 上流、下流に磁場の乱れが存在 上流 下流 Pesc 粒子が散乱される 衝撃波を往復 下流で逃げる 粒子 衝撃波面 往復の度にエネルギーを得る

相対論的な衝撃波と磁場 強い乱流磁場が必要 垂直衝撃波 下流で粒子が上流へ戻れない フェルミ加速が働かない 上流静止系 衝撃波静止系 Vs, Γs 上流 下流 磁場の ローレンツ変換 B⊥= ΓsB’⊥ B|| = B’|| 一様磁場: B’ B 衝撃波面 衝撃波面 垂直衝撃波 下流で粒子が上流へ戻れない フェルミ加速が働かない 強い乱流磁場が必要

衝撃波面で強い磁場が作られると考えられている 衝撃波下流の磁場 フェルミ加速の散乱体 フェルミ加速が働くためには、衝撃波下流で強い 乱流的な磁場が必要: δB>>B GRBのシンクロトロン・モデルで要求される磁場 Equipartition に近いエネルギーの磁場が必要: UB/Utot=εB~0.1-0.01 衝撃波面で強い磁場が作られると考えられている

無衝突衝撃波と関係する物理 無衝突プラズマでの散逸過程 下流の磁場の生成 → シンクロトロン放射、フェルミ加速の散乱体 フェルミ加速の「インジェクション」の問題 「その場」での粒子加速 いずれも、無衝突プラズマのミクロ・プロセスが重要になる

今日の話の概要 無衝突プラズマの不安定性による磁場の生成 ●Weibel 不安定性のメカニズム 2次元シミュレーション ●Particle in Cell シミュレーション(電子・陽電子プラズマ) ●磁場および電流の進化の基本的性質 3次元シミュレーション (Frederiksen 2003) ●陽子・電子プラズマでの磁場・電流の進化 ●移流がある場合の3次元的な構造 ●不安定性に伴う「その場」での粒子加速

Weibel 不安定性 プラズマ中の微視的不安定性 プラズマ粒子の速度分布の非等方性が原因となり磁場が成長する Weibel, 1959, Phys.Rev.Lett., 2, 83 プラズマ中の微視的不安定性 プラズマ粒子の速度分布の非等方性が原因となり磁場が成長する 作られた磁場により、粒子は等方化する 十分に強い非等方性の場合には、典型的には、最初の粒子のエネルギーの1-10%の磁場が生成される 衝撃波面…上流と下流のプラズマが混ざり合う場所 衝撃波面法線方向に強い速度非等方性が生じ、不安定性が発生? Medvedev & Loeb, 1999, ApJ, 526, 697

Weibel 不安定性の メカニズム 正味の電流密度 不安定性 電子軌道 電流密度 Bz Bz Bz y e Bz 正味の電流密度 電子ビーム Bz e x 不安定性 磁場の 揺らぎBz y e Bz 電流により、最初の揺らぎを大きくする方向の磁場が作られる Bz x ※電子だけが動くと考える

基本的な性質 非等方性が十分大きい場合、典型的には 成長率 最も不安定な波数 サチュレーション時の磁場のエネルギー :プラズマ振動数 :典型的なローレンツ因子 最も不安定な波数 サチュレーション時の磁場のエネルギー 粒子(電子)のエネルギーの数%程度が磁場のエネルギーになる。

Weibel不安定性の 2次元シミュレーション Particle in Cell Simulation 粒子:個々の軌道を追う 電磁場:グリッド上で Maxwell 方程式を解く 粒子 グリッド: 計算ステップ

電磁場はグリッドサイズで平均化 (粒子同士の衝突はない): Effective には無衝突ボルツマン方程式を解くことに相当する 基礎方程式 粒子: (相対論的運動方程式) 電磁場: (Maxwell 方程式) 電磁場はグリッドサイズで平均化 (粒子同士の衝突はない): Effective には無衝突ボルツマン方程式を解くことに相当する

シミュレーション単位系 時間の単位 長さの単位

シミュレーションの設定 シミュレーションの設定 シミュレーション領域 y 組成 e±-plasma サイズ 60×60 グリッド数 512×512 粒子数 各700万 境界条件 周期境界条件 背景磁場 なし 計算時間 200 z 60 x 60 シミュレーション領域

初期条件 粒子は空間的に一様な分布 速度分布は z 方向に強い非等方性 電磁場は0 pz p/mc の偏差 z py y px シミュレーション平面 py y px p-空間の分布関数の等密度面 x

結果:エネルギーの進化 左図は各エネルギーの進化 (全エネルギーで規格化) 粒子 左図は各エネルギーの進化 (全エネルギーで規格化) t=20 ぐらいで total の約10%のエネルギーの磁場ができる その後、緩やかに減少 粒子は t=100 ぐらいまでに、ほぼ等方化 磁場 電場 粒子の運動エネルギー

磁場の時間進化 磁場の大きさ|B| の時間進化 大きなスケールへ進化していく 各瞬間で特徴的な波長は1つ

電流密度の時間進化 電流密度Jzの時間進化 電流が作る磁場 電流同士の合体で構造が進化する 電流 I 磁場 カラーが電流密度(赤:手前、青:奥)、矢印は(Bx,By)

電流と粒子の分布 (t=50) 電流密度 Jz 質量密度 電流が強いところで粒子密度が大きい ピンチした粒子ビームによる電流

粒子の質量密度の時間進化

構造の進化のモデル 同方向 逆方向 ビーム(電流)間に働く力 ビームの合体→より大きいスケールへ進化 平均波長のオーダー評価

磁場の平均波長の時間進化 「平均波長」の計算 として t~100 までは      に大体良く従う(若干、成長率は大きい?)

その後の進化 (t>100) さらに大きな構造へ進化 電流および粒子分布がビーム状からフィラメント状に変わる 磁場 |B| 電流密度 Jz 質量密度 ρm さらに大きな構造へ進化 電流および粒子分布がビーム状からフィラメント状に変わる

電流と粒子の分布 (t=200) 電流密度 Jz 質量密度 ρm ピンチしたビームとは対照的に、電流が強いところで粒子密度は小さい

3次元シミュレーション Frederiksen et al. (2003), astro-ph/0308104 今年になって、いくつかの3次元シミュレーションが行われるようになった Frederiksen et al. (2003), astro-ph/0308104 陽子-電子プラズマの3次元シミュレーション 質量比:mp/me=16 グリッド数:200×200×800 (lx,ly,lz)=40×40×160 粒子数:8×108 計算時間:480 静止したプラズマに相対論的な速度を持つプラズマをぶつける 陽子がある場合のWeibel不安定性の進化の様子や、移流がある場合の3次元的な構造の進化の様子が示された

電流の構造と進化 ① ② ③ 衝突領域のすぐ下流で、まず電子についてのWeibel 不安定性が起こり、電子電流が多数形成される 初期状態 相対論的 プラズマ 静止したプラズマ z 衝突領域のすぐ下流で、まず電子についてのWeibel 不安定性が起こり、電子電流が多数形成される 電子電流は合体して、より強い電流になり、ついには、陽子軌道を曲げるくらいの強い磁場を作り、陽子を磁場構造に取込む 十分下流では電子電流は散逸し、陽子による電流が主要になる。以後、陽子電流は電子電流と同様に合体して大きなスケールへ成長する t=1200 での電流分布 ① 電子電流密度 ② 陽子電流密度 ③ z=0 z=800

磁場のパワースペクトル 磁場のパワースペクトルの時間進化 (z=250) 特徴的な波数(ピークの位置)は、時間とともに長波長側へ移動する 特徴的波数より大きいところでは、Power-law 的になる Power-law型のエネルギースペクトルは、フェルミ加速で Power-law の高エネルギー粒子を作るために好都合

粒子の位相空間プロット 電子はある程度下流で急速に Thermalize される 電子分布は Thermal (Relativistic-Maxwellian)で、非熱的高エネルギー粒子は見られない 陽子はわずかに減速・加速され、少し加熱もされている Weibel不安定性により作られた磁場が、散逸のためのeffectiveな散乱体の役割を果たしている (静電不安定性による電場も?) 赤:電子  青:陽子 運動量

「その場」での粒子加速 Frederiksen et al. (2003), astro-ph/0303360 「背景磁場が少しある場合には、不安定性の進行と同時に粒子加速も起きる」 ローレンツ因子が100程度までの電子加速が見られる (計算時間は書いていないが、おそらくプラズマ振動数の逆数の数百倍程度と思われる) フェルミ加速よりも短い時間での加速 時間がたてば Power-law になる? 単独で十分高エネルギーまで加速できなくても、フェルミ加速のインジェクション機構にはなる

まとめ 無衝突衝撃波における粒子加速を理解するためには、無衝突プラズマのダイナミクスを詳しく調べることが不可 → 衝撃波面での散逸のメカニズム、磁場の生成メカニズムとも深く関係 プラズマの不安定性の非線形効果が重要になるので、シミュレーションが有効な手段となる Weibel不安定性の2次元シミュレーションでは、初期はビームの合体により構造が進化し、その後、電流と密度の対応が反転したフィラメント状の構造になることがわかった 長い時間の、より大きいスケールへの進化の様子は、さらに調べる必要がある 最近の3次元のシミュレーションでは、陽子・電子プラズマでの不安定性の進行の様子や、移流がある場合の3次元的構造がわかるようになってきた 衝撃波の散逸領域で、Weibel不安定性と同時に粒子加速が起きる可能性も示唆されている より大規模な3次元シミュレーションにより、衝撃波の散逸メカニズムや、磁場の生成、粒子加速などが統一的に理解できると思われる