平成29年度 特許調査実践研修 J-PlatPat応用 改訂ver02 2017年8月24日 川原英昭 大阪工業大学 知的財産学部 客員教授 弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記) 注:本書の方法で調査した結果については筆者は責任を負いません。 © hideaki kawahara 2017.08
川原英昭の略歴 1983.11 弁理士試験合格 ~2004.09 大阪ガス(株)で、同社と関係会社の知財を担当 On Line DBを使用した特許調査の高度利用も研究 退職時:理事、エグゼクティブスタッフ 2005.04~2015.03 大阪工業大学 知的財産学部 教授 2015.04~ 大阪工業大学 知的財産学部 客員教授 (c) hideaki kawahara
<目次> 1.キーワード検索 2.事例研究に使用する発明 3.PMGSで発明1,発明2のIPCを調査 4.IPCがわからないときの特許調査の手順例 5.事例の予備検索 6.本検索 7.Q&A (c) hideaki kawahara
1.キーワード検索 (1)KWの掛け合わせのみの検索は漏れが多発 →①新規性・進歩性があることの調査 及び ②特許侵害回避調査 では不適切 →異議・無効の特許調査では見つかればOK (2)点数での評価 Q: 明細書等には【0001】等の「段落番号」がある。 「同一または隣接する段落番号内」に複数のKW1、KW2があれ ば点数を高くする方式で公報の重要性の評価はできるか? A: 筆者の検証では、「公報の得点」と「公報の重要度」に相関が なかった。精度の高い特許調査には特許分類の活用が必須です。 (c) hideaki kawahara
2.事例研究に使用する発明 ・発明1、発明2の新規性・進歩性の有無を調査 ・判断の基準日は2011.4.15 図1 発明1,発明2 (c) hideaki kawahara
【発明1 】 岩盤にドリルで穴を開けその穴にセメント、樹脂 等を注入(グラウトGrout)する。 さらにその穴に、途中から尖端部に向かって直径が 大きくなっているアンカーピンを挿入して、岩盤に開 けた穴とアンカーピンの外周の間にグラウト剤を介在 させる。このような特徴のアンカーピン 【発明2】 発明1で、アンカーピンの外周部は塗装等の処理を 施し、アンカーピンの外周部にグラウト剤が付着しな いようにする。このような特徴のアンカーピン 調査担当者は、本願の公報を知らない。 (c) hideaki kawahara
発明1,発明2は本願「特開2012-224998(アンカーピン)」 の発明 (1)拒絶査定不服審判の審決は、本願発明は ・刊行物1(主引例)落石等の防護網工法(特開2010-285826) ・刊行物2(副引例)拡張ボアホールに取り付けた高耐荷力アン カー構造(特開2007-63882) ・周知の技術 「刊行物1+刊行物2+周知の技術」で進歩性なし判断した。 知財高裁は拒絶審決を支持した。 (c) hideaki kawahara
公報記載のIPC 本願特開2012-224998 E01F7/04 刊行物1(主引例) 特開2010-285826 E02D5/80 公報記載のIPC 本願特開2012-224998 E01F7/04 刊行物1(主引例) 特開2010-285826 E02D5/80 E02D17/20 刊行物2(副引例) 特開2007-063882 E04B1/41 F16B35/04 (c) hideaki kawahara
図2 刊行物1(主引例) (c) hideaki kawahara
図3 刊行物2(副引例) (c) hideaki kawahara
結論: IPC、FIの定義は抽象的で、どのIPCが適切かがかわからない。 3.PMGSで発明1,発明2のIPCを調査 表3 PMGSでキーワード検索した結果 KW:アンカーピン KW:アンカー FI 0件 多数ヒット FIハンドブック Fタームリスト 2件←ノイズIPC Fターム解説 IPC第8版 結論: IPC、FIの定義は抽象的で、どのIPCが適切かがかわからない。 © © hideaki kawahara
4.IPCがわからないときの特許調査の手順例 (1)調査対象発明の特定 (2)予備検索 KW検索でヒットした公報からノイズを削除し、本検索に 使用する検索式を決める。 事例ではノイズのIPCを削除し、残ったIPC群を本検索 に使用する。 (3)本検索 (4)公報を流し読みしてノイズの公報を削除する。 (5)残った公報を読み込んで報告書を作る。必要に応じてパテ ントマップを作る。 (c) hideaki kawahara
5.事例の予備検索 【Step1】 特許・実用新案テキスト検索 表4 予備検索の検索式とヒット件数 種別:v 公開特許公報(特開・特表(A)、再公表(A1)) 検索項目 検索キーワード 公報全文(書誌を除く) 含む 岩 OR AND 要約+請求の範囲 アンカー グラウト セメント モルタル ガラス 樹脂 公報発行日 :20110415 キーワードで検索 ヒット件数840件 一覧表示 (c) hideaki kawahara
表5 予備検索でヒットした840件の一覧表(抜粋) 表5 予備検索でヒットした840件の一覧表(抜粋) (c) hideaki kawahara
【Step2】ヒット公報の一覧表をExcelに貼り付ける。 表6 ヒットした公報の一覧表をExcelに取り込んだもの (c) hideaki kawahara
【Step3】 ピボットテーブルの作成 表9 筆頭IPCの出現頻度を筆頭IPC順に並べたもの (c) hideaki kawahara
行ラベル▼の▼をクリック >「その他の並び替えオプショ ン」 >◎降順:個数/筆頭IPC OK で表10になる。 表10 筆頭IPCを出現頻度順に 並べたもの (c) hideaki kawahara
【Step4】 ピボットテーブルのデータをSheet5にコピー 表11 ピボットテーブルのデータを貼り付けたSheet (c) hideaki kawahara
【Step5】 出現頻度上位のIPCの評価 出現頻度上位1位(頻度123)~21位(頻度6)を 本検索のIPC候補とする。 1位のE02D5/80の定義をPMGSで確認する。 PMGS>照会>IPC照会 ◎第8版 分類 : E02D5/80 表示種別:一覧表 「照会」をクリックすると表12 (c) hideaki kawahara
表12 IPCの評価 途中省略 (c) hideaki kawahara
出現頻度1位のE02D5/80は妥当なIPCであった(表12)。 同様にして、出現頻度2~21位のIPCを確認して IPCを5,4,3,1(5は最も重要、1はノイズ)で評価する。 (c) hideaki kawahara
【Step6】 IPCの評価結果 表13 本検索に使用するIPC群 (c) hideaki kawahara
出現頻度22位以下のIPCを削除し、 かつ、IPC重要度1のノイズIPCを削除したあとに残るIPC、 つまり、表13のIPC群の上位1~11の E21D20/00 E02D5/80 E04B1/41 E02B3/14,301 E04B1/41,503 E02D5/80,102 E02D17/20 E02D17/20,102 E02D17/20,103 E01F7/04 E02D17/20,104 が本検索に使用するIPC群です。 本願,主引例,副引例の公報記載のIPCで上記IPCに含まれていな いのはF16B 35/04のみ。F16B 35/04は本件調査では不要です。 (c) hideaki kawahara
6.本検索 予備検索で特定したIPC群を 使用して本検索をすると、 465がヒットした(表14)。 表14 IPC群を追加した本検索 ヒット件数 472件 一覧表示 (c) hideaki kawahara
この465件には、主引例も副引例も含まれている。 企業では465件の公報を精査するが、ここでは調査研修なので、漏 れを覚悟でヒット件数を更に絞り込むことにする。 要約+請求の範囲:含む:拡大 拡張 テーパー 傾斜 大きく 大き い を追加して検索すると、ヒット件数123件。 ところが、この123件には主引例は含まれていない。 副引例は含まれている。 (c) hideaki kawahara
<筆頭IPCでの調査の限界> 筆頭IPCの統計処理で得たIPC×KWの検索では 465件までの絞り込みが限界です。 ただし、審決が引用した主引例,副引例よりも、本願に近 い公報があるかもしれない。その場合は、主引例,副引例が 含まれていなくても正解です。 465件から、FI、Fタームで絞り込むと、主引例,副引例を 含んだ状態で絞り込めるかも? (c) hideaki kawahara
演習課題では本願「握り押釦スイッチ(特開平11-219636)」 の新規性・進歩性を否定する公報の調査では、 7.Q&A Q追加: 演習課題では本願「握り押釦スイッチ(特開平11-219636)」 の新規性・進歩性を否定する公報の調査では、 皆様は、本願公報のフロント頁記載のIPCを用いて主引例(実登 3023770)を抽出しましたが、 技術説明を受けただけで、本願公報記載のIPCを特定できる でしょうか? A追加: 先ほどのKW検索の手法で、IPCを特定できます。 (c) hideaki kawahara
v公開特許公報 (・・・) v特許公報 (・・・) v公開実用新案公報 (・・・) v実用新案公報 (・・・) キーワード検索 特実テキスト検索 種別 v公開特許公報 (・・・) v特許公報 (・・・) v公開実用新案公報 (・・・) v実用新案公報 (・・・) キーワード検索 要約+請求の範囲 :含む: 押しボタンスイッチ 押し釦スイッチ 押釦スイッチ 公報全文(書誌を除く):含む: オルタネイト 自己保持 キーワードで検索 ヒット件数149件 一覧表示 (c) hideaki kawahara
(c) hideaki kawahara
説明した方法で、本願公報記載のIPCを特定できました。 A61G12/00 は、押し釦スイッチの用途なので、 H01H13/56 A61G12/00 H01H13/02 H01H13/14 です。このうち H01H13/56 H01H13/02 H01H13/14 が H01H 13/ の中に含まれています。 説明した方法で、本願公報記載のIPCを特定できました。 A61G12/00 は、押し釦スイッチの用途なので、 使用したKW検索では特定できない。 (c) hideaki kawahara
Q1:筆頭IPCの統計処理と同じことが、 筆頭FI、筆頭Fタームでできないか? A1:できない。ヒット公報の一覧表に筆頭IPCはあるが、 筆頭FI、筆頭Fタームの表示がないためです。 ただし、詳細画面のデータを活用すれば、筆頭FI、 筆頭Fタームの頻度を求めることは可能です。 (c) hideaki kawahara
Q2:公報に記載の全IPC、全FI、全Fタームを 統計処理すれば、筆頭IPCを統計処理した 場合よりも精度が高くなるのでは? A2:調査精度が高くなります。 そのためには、ヒット文献の一覧表で文献番号を クリックしたとき表示される公報の詳細表示にある 全IPC、全FI、全Fタームの使用が必要です。 (c) hideaki kawahara
Q3:審査時に追加されたFI、Fタームは特実テキスト検索の対象になるか? 【特実テキスト検索】 <種別> v 公開特許公報 (特開・特表(A)、再公表(A1)) v 特許公報 (特公・特許(B)) <FI> E21D20/00 E02D5/80 E04B1/41 E02B3/14,301 E04B1/41,503 E02D5/80,102 E02D17/20 E02D17/20,102 E02D17/20,103 E01F7/04 E02D17/20,104 <公報発行日> :20110415 →ヒット件数 3279件 【特許・実用新案分類検索】 <種別> v 特許(特開・特表(A)、再公表(A1)、特公・特許(B)) <FI・Fターム> E21D20/00 + E02D5/80 + E04B1/41 + E02B3/14,301 + E04B1/41,503 + E02D5/80,102 + E02D17/20 + E02D17/20,102 + E02D17/20,103 + E01F7/04 + E02D17/20,104 <公知日/発行日> ~ 20110415 →ヒット件数 15462件 分類検索はKWとの掛け合わせができないため使いにくい。 (c) hideaki kawahara
Q4:調査の作業時間を減らし、かつ調査精度を高める には? A4:特許調査ではデータ整理にEXCELを使う。 インターネットを活用して、許される範囲で、 いかに効率よくデータをEXCELに取り込むかです。 それにはEXCEL VBAの勉強が必要です。 (c) hideaki kawahara
Q5:ヒット公報一覧表の他の使い方がないか? A5: 大阪ガスの10年間の公開特許公報の公開件数は3264件。 A5: 大阪ガスの10年間の公開特許公報の公開件数は3264件。 検索結果が1000件以下になるよう年度を区切って検索 し、結果をエクセルに入力し、エクセル上で合算すれば、 表15、表16、表17も作成できる。 筆頭IPCも1000件を超える場合も、1000以下になるよ うに分けて検索し、エクセル上で合算すれば統計処理は 可能です。 (c) hideaki kawahara
表15 出願年 vs 筆頭IPCのサブクラス (c) hideaki kawahara
表16 出願年vs筆頭IPCのサブクラスtop10 (c) hideaki kawahara
表17 出願が多いIPCサブクラスtop10の定義 (c) hideaki kawahara
Q6: KW検索結果で、筆頭出願人の出現頻度表を作れば、 当該分野で出願が多い企業がわかるのでは? A6: その通りです。わかります。 KWを緩めて検索するとヒット件数が多すぎて処理できない場 合、次のような使い方ができます。 当該分野で出願が多い企業については、企業名で絞ると(その 代わり他のKWは緩める)、重要な発明を抽出できることがあり ます。 (c) hideaki kawahara
本日ご紹介した処理では、Excel VBAは使っていませ ん。使わなくてもこれだけのことできるのです。 Excel VBAを使えば、 ①手動ではできない処理ができます。 ②調査精度を高めることができる。 ③調査時間を短縮できます。 (c) hideaki kawahara
特許法とJ-PlatPatの知識が必要です。 Q7:審査経過の見方について A7:一目置かれる調査担当者になるには、 審査経過の見方は重要です。審査経過の理解には、 特許法とJ-PlatPatの知識が必要です。 両方をよく知っている方に審査経過の見方に特化 したレクチャーしてもらえば、1日で理解できます。 一目置かれる特許調査の専門家になって下さい。 (c) hideaki kawahara
ご清聴ありがとうございました。 残った時間で実演をします。 ご質問等は下記HPのお問い合せフォームで! 川原特許事務所 検索 弁理士 川原英昭 hideaki_kawahara@mrf.biglobe.ne.jp 電話 090-3722-5815 FAX 072-997-5578 残った時間で実演をします。 (c) hideaki kawahara