香川晶子 (富士通FIP/情報通信研究機構) 大気微量成分を観測する 香川晶子 (富士通FIP/情報通信研究機構)
Outline 大気を観測する重要性 FTIRとは リトリーバル 大気科学研究例 まとめ
地球大気には窒素・酸素以外のごくわずかの微量成分が存在し これらの微量成分が大気に大きな働きをしている 大気の構造 高度~50-~80 kmは 中間圏と呼ばれる 高度~10-~50 kmは 成層圏と呼ばれる 「オゾン層」が存在 高度 0-~10 km の領域は 対流圏と呼ばれる 地球大気には窒素・酸素以外のごくわずかの微量成分が存在し これらの微量成分が大気に大きな働きをしている
大気観測の重要性 S. RolandとM. Molina(1974年) 人為起源物質のフロン(CFCs)が 成層圏オゾン破壊を ・成層圏(10-50km)オゾン破壊問題 S. RolandとM. Molina(1974年) 人為起源物質のフロン(CFCs)が 成層圏オゾン破壊を 引き起こす可能性を発見 1980年代から 中緯度のオゾン層が減少 中緯度オゾンの年変化 [WMO, 2003] ノーベル化学賞(1995年) フロンは化学的に安定 →人体に安全で便利
フロン規制の反応としてのオゾン「回復」の検出の議論が注目されている 1980年代に J. FarmanとS. Chubachiが 南極オゾンホールを発見 1987年モントリオール議定書でフロン規制 フロン規制の反応としてのオゾン「回復」の検出の議論が注目されている [Newchurch et al.,2003]
しかし、オゾンはフロン以外からも影響を受ける (e.g., 地球温暖化が引き起こす気温変化) 「フロン規制」に伴い、近年、オゾン層が「回復」し始めたかどうかは、更なる議論が必要 対流圏(0-10km) 人工衛星・地上観測からのCO2等全球観測が始まろうとしている 精度良い観測が必要(~1%) 地球温暖化メカニズムの解明の必要性
大気微量成分をとりまく現在の複雑な状況において、大気を「モニター」する重要性は近年更に増加 アラスカ上空においてFTIRを用いて1999年から大気微量成分の観測を行っている 世界のFTIRコミュニティの1サイト FTIRとは 大気微量成分の導出 微量成分の季節変動 FTIR観測装置がある場所
Fourier Transform InfraRed Spectroscopy (フーリエ変換赤外分光法) 分子の振動や回転を測定 FTIRとは Fourier Transform InfraRed Spectroscopy (フーリエ変換赤外分光法) 分子の振動や回転を測定 高感度・高分解能の測定を、全自動で高速に行える Jean Baptiste Joseph Fourier (1768年-1830年) フランスの数学者・物理学者
FTIRの原理 マイケルソン干渉計 光源 (太陽) 固定鏡 試料 (測定する大気) 可変鏡 ビーム スプリッタ 光路差 検出装置 コントロール スペクトル 干渉計の 出力信号 フーリエ 変換 強度 光路差 波数
アラスカに設置されたFTIR (年) 観測期間(オゾンの場合) FTIR サン トラッカー アラスカ州・ポーカーフラット (65.12N, 147.43W, 0.61km) 2.5-13.5 mmの 赤外吸収を観測 (年) 観測期間(オゾンの場合)
観測スペクトルの例 2.5-13.5 mm (750-4200 cm-1) の 赤外スペクトルを観測 3ミクロンフィルターを用いた観測例
リトリーバル (取り出すこと・取り戻すこと) スペクトルからの分子導出 リトリーバル (取り出すこと・取り戻すこと) ドラゴンの足跡から ドラゴンの全容を推測すること スペクトルに含まれた分子の情報から、最も確からしい量を導出 化学種混合比 高度 波長 強度 リトリーバル
リトリーバル ① ② ③ スペクトル線の形は 気圧に依存 (圧力広がり) 低圧 高圧 地上で「分子の吸収線」が観測される 観測されたスペクトル線の形 ② ③ 高度 濃度 濃度で重み付けして、 理論値を用いて足し合わせ フィットしたスペクトルに相当する分子の量を導く
リトリーバルした化学種 FTIRで観測可能な分子: O3, HNO3, CH4, H2O, NO2, ClONO2, HCl, CCl3F, CCl2F2, HF, CO, C2H2, C2H4, HCN etc. 対流圏(0-10 km) 成層圏(10-50 km) 中間圏(50-80 km) O3 CO CO C2H2 HNO3 比較的 安定な分子 人間活動 で発生 オゾン変化 に寄与 C2H4 HCl HCN HF CH4 中間圏の 力学研究 気候変動に関係する 化学種を検出 オゾントレンドを導く
成層圏オゾン変動の研究例 オゾンのリトリーバル例 観測スペクトルと 計算結果の重ね打ち どれだけの情報量で リトリーバルできたかの指標 十分な情報で リトリーバルできた範囲 (高度分解能は約5 km)
季節変動・年変動等の議論を行うためには、 誤差の見積もり 季節変動・年変動等の議論を行うためには、 誤差を見積もる必要がある (1)誤差解析(観測とリトリーバルの誤差分を計算)から 気温・観測ノイズ・アベレージング カーネル・吸収線の理論値・ 装置関数の誤差を仮定 系統誤差はランダム 誤差より大きい 全量に対する誤差は4つの化学種で~5% Partial columnの誤差は~10%
これら4つの化学種のリトリーバルの結果は妥当 (2)他観測との比較 衛星観測との比較 地上観測との比較 誤差範囲内で一致 これら4つの化学種のリトリーバルの結果は妥当 他のFTIRサイトからの報告とも一致
季節変化 HF HNO3 Ozone HCl アベレージング カーネルから 求めた独立に リトリーバルできる層 季節変化は 春大きく夏小さい 量の変化は 下部成層圏で大きい 春に極渦の影響
対流圏COの研究 アラスカのCOの 季節変化は 化石燃料・森林火災 が支配的 春大きく、夏小さい 季節変化を示す 2002年秋に :エラーバー アラスカのCOの 季節変化は 化石燃料・森林火災 が支配的 [Holloway et al., 2000] CO 全量 春大きく、夏小さい 季節変化を示す 2002年秋に イベント的な増大が 観測される →この大きな値の原因を調べた
発生源を調べるため、流跡線解析 (風を追尾する手法)を行った 2002年9月21日に観測されたCOの大きな値 はシベリアから輸送された
統計解析 アラスカの COの季節変化は 「ロシア森林火災 が4-5月中旬, 8月, 9月後半に増加し」 「アジア・シベリアから輸送された」 ことを示唆する
中間圏COの変化は中間圏の力学で決定される
2002年と2004年の COの春季の 減少時期が異なる
東風 西風 同じ場所の成層圏と中間圏の風 COは冬の力学状態で増加 風が冬から夏のパターンに変化する時期と COの減少時期が一致
まとめ 地球環境問題において、大気微量成分の観測を行うことは近年更に重要である 我々はアラスカ上空の興味深い場所で1999年からFTIRを用いて大気観測を続けている 大気微量成分をリトリーバルし、季節変動を議論するために誤差を見積もった 成層圏オゾンとオゾン破壊に関連する化学種の季節変動を調べた 対流圏COとシベリア森林火災の関連を調べた 中間圏COから力学状況の年変化を調べた
今後 成層圏オゾン長期変動の研究 対流圏COと数値モデル研究との比較 CO2の観測計画 アラスカは北半球で観測が比較的少ない 今後も成層圏オゾンモニタリングや気候変動の研究を行っていく予定