乳用牛ベストパフオーマンス 実現に向けて (後継牛確保に向けた課題と技術的対応)

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乳用牛ベストパフオーマンス 実現に向けて (後継牛確保に向けた課題と技術的対応) 北海道版 テキスト 平成28年度 <<タイトル>> 後継牛確保に向けた課題と技術的対応 支援者用テキストにあるスライドについては、右下に該当するスライド番号を付しています。

課題編 「乳用雌牛の減少」 「交雑種の増加」 「個体価格の高騰」 「除籍頭数の増加」 「分娩時事故が多い」 14 「乳用雌牛の減少」 「交雑種の増加」 「個体価格の高騰」 「除籍頭数の増加」 「分娩時事故が多い」  では、北海道において、現状どのような課題があるのでしょうか?大きく道内での生乳生産基盤が揺らいできた要因はどこにあるのでしょうか?具体的な数値をあげ検証してみましょう。  子牛は、分娩後、母牛に十分に舐められることで、体の隅々に血液を送り、体を乾かすことができます。母牛が、繋がれた状態では、自由に舐めることができません。生れ落ち、何もされないと、寒い時期は子牛の体感温度が下がり死に至るケースが多いので、十分注意してください。 14

経産乳用雌牛は減少している 北海道 この6年間で 北海道では、3万5千頭も 減少・・・ 都府県 府県では、更に減少が激しく 課題 1 北海道 この6年間で 北海道では、3万5千頭も 減少・・・ 都府県 府県では、更に減少が激しく 7万3千頭も減少・・・  図は乳用種雌牛月齢24ヶ月以上の頭数推移を示していますが、都府県では非常に激しい減少傾向となっており、2010年1月に50万1千頭あった頭数が、2016年1月には43 万頭となり、7万1千頭も減少しています。  北海道においても2010年1月に52万1千頭あったものが、2016年1月では、48万6千頭と、3万5千頭も減少しています。 15

後継乳用雌牛も減少している 北海道 都府県 北海道でも、6千頭 程度減少・・・ この6年間で 北海道 都府県 課題 2 後継乳用雌牛も減少している 北海道 都府県 北海道でも、6千頭 程度減少・・・ この6年間で 北海道 都府県 都府県では、3万頭近くも減少・・・  図は乳用種雌牛月齢23ヶ月以下の頭数推移を示しています。  都府県では2010年1月に16万2 千頭でしたが、2016年1月には、13万6千頭と、季節的な変動はあるものの、2万6 千頭も減少しています。  北海道では動きが大きいものの2010年1 月では、33万頭でしたが、2016年1月は、32万4千頭と6千頭ほど減少しています。  これらからも、将来において更に乳用後継牛が減少していくようなことになれば、今後の生乳生産拡大に向けての阻害要因となってしまいます。  国内での生乳生産減少を食い止めなければ、海外からの乳製品輸入拡大への口実を与えかねず、TPPがらみでの悪影響も懸念されます。 16

交雑種が増えている 乳用種が減少する中、交雑種の頭数は この6年間で2万3千頭も増加・・・ 交雑種(F1) 乳用種 17 課題 3 課題 3 乳用種が減少する中、交雑種の頭数は この6年間で2万3千頭も増加・・・ 交雑種(F1)  図は北海道における乳用種並びに交雑種の頭数推移を示したものです。  乳用種は、2010年1月には108万8千頭でしたが、2016年1月では102万1千頭と6万7千頭も減少しています。これに対して、交雑種は、2010年1月には11万3千頭でしたが、2016年1月では13万6千頭と2万3千頭も増えています。  黒毛の種を付けると、ホルスタインに比べて初生での個体価格が高く、また明らかに体が小さいため、分娩時の難産を防ぐことができるということで重宝される傾向にあります。  近年の肉牛価格の高騰から、交雑種(F1)の場合、飼養期間が短くても、高い現金収入が得られるということがあります。この結果、乳用種を生産する頭数が減少し、後継牛不足を招いているという負の部分があることも見逃してはいけません。 乳用種 17

個体価格も高くなっている 全ての種別で個体価格が高騰しています! 18 課題 4 図は年次別種別販売価格の推移を示したものです。 課題 4 全ての種別で個体価格が高騰しています!  図は年次別種別販売価格の推移を示したものです。  乳用牛の頭数が少なくなってきたため、最近は初生、育成、初妊、経産牛全てにおいて非常に高騰してきており、いわゆる酪農バブルと呼ばれる状況にあります。特に、ただちに生乳生産に結びつく初妊牛などは史上初めて70万円を超えるという異常な状況となっています。  この結果、新規に個体を導入をしている農家は、メガファームやギガファームなどの大規模農家が中心となっており、家族経営の中では、新たな個体を導入することは、価格面から大きな支障が出ています。このため、自家生産でしっかり後継牛を確保する対策が必要です。 18

死亡や疾病で除籍頭数は増えている 課題 5  図は年次別の除籍理由別頭数を示したものです。直近の除籍頭数は12万7千頭となり、増加傾向にあります。  地域別に差があるものの自分の経営内で弱点を追求し、改善した上で、経営に損失をもたらすような除籍牛を減らす努力を行うべきでしょう。  また、検定での除籍報告で、「その他」の項目が増えていますが、理由をあいまいなまま「その他」で報告しますと正確に除籍理由が把握できませんので、原因をしっかりと把握して除籍報告を行うように心がけましょう。 19

死亡や疾病で除籍産次も低下している 2003年 3.7産 2015年 3.5産 20 課題 7 図は年次別の除籍産次の推移を示したものです。 課題 7  図は年次別の除籍産次の推移を示したものです。  除籍頭数においては、今後の生乳生産を期待していた初産牛が全体の12%(未経産を除くと16%)、2産牛で15%(未経産を除くと19%)の割合を占めていることは、経営上の大きな問題です。  除籍の平均産次は3.5産で繁殖障害、乳房炎、運動器病が影響していますが、実際にはその他、死亡が、除籍理由の 1、2位を占めており、これらの要因を排除することが、急務となっています。  乳量を維持拡大していくためには、将来の戦力である後継牛と分娩後の母牛が健康であることが前提条件になります。乳牛にとっては、長命連産で、更に生産能力を100%発揮させることにより「本来の生涯を全うした」ということになるのではないでしょうか。 2003年 3.7産 2015年 3.5産 20

分娩後に母牛・子牛の死廃事故が多い 貴重な乳牛資源が意識しない中で失われ、莫大な損失に繋がっています!! 21 課題 6 課題 6  北海道NOSAIの引受頭数に対する死廃事故頭数・被害率をみても、地域別に差がありますが、毎年高い割合で推移しています。  平成27年度における頭数被害率、死廃事故頭数は、乳用成牛は6.0%、4万3千頭、乳用子牛等は6.9%、4万6千頭で、合わせて6.4%、8万9千頭にも達し、これは平成26年度とほぼ同じ数値です。  同様に、死廃事故を金額でみても、個体価格の上昇に伴い乳用成牛101億円、乳用子牛等17億円が支払われています。しかも、子牛共済には9割が加入しており、乳用子牛等の半数が雌であったと考えれば、貴重な乳牛資源が意識しない中で失われていることを意味しています。  一方、振興局別に除籍率、母牛60日以内死廃率、子牛死産率をみると、地域によって大きな差がみられます。死産率は全道平均では5.7%ですが、地域でみると 4.2~6.5%となっており、詳細な地域単位や酪農家単位では更に開きがあると推測できます。自らの農場における死産の発生状況を今一度確認してみましょう。 貴重な乳牛資源が意識しない中で失われ、莫大な損失に繋がっています!! 21

技術編 「 死なせない!」 「 長持ちさせる!」 「 増やす!」 「 死なせない!」  「 長持ちさせる!」 「 増やす!」 「 死産牛を減らす!」 「 除籍牛を減らす!」 「 初産月齢・分娩間隔の短縮!」  北海道における課題が見えてきましたね。  そこで、どのように乳用後継牛を作出し、出生時の事故を減らしながら、長命連産が可能となるよう効果的に飼養・管理していくかが重要なポイントになります。  そのための課題発見と検証に必要となる有効なツールや活用方法などについてもお伝えします。  「もう一産搾ろうかな」と農場主の方が軽くおっしゃってましたが、この雌牛は17歳、15産です。顔が白くなって老けも目立ち、脇が広がっていますが、肢蹄もしっかいりして乳房の垂れも少ない状態です。まさしく、長命連産の鏡ですね!!      (道内の検定農家にて) 22

1 分娩時の子牛の事故を減らす (貴重な後継牛を失わない) 1 分娩時の子牛の事故を減らす (貴重な後継牛を失わない) 後継牛確保 1  分娩前・当日 死亡(死産) (乳検3890戸6.2%) 6% 分娩0か月の 死亡 (H26年牛個体識別北海道4.2%) 4 % 分娩時子牛の 事故 10 % 死産率が、1年間ゼロという酪農家もいる中で、逆に死産率が、 2割を超える酪農家もいるのね・・?!  現状における分娩時の子牛の死「死産」は定義が明確でなく、獣医師の病名もさまざまで乳検では検定農家からの自己申告によるものです。  分娩から個体識別センターへの報告は、概ね出生後3日以内に行われており、その前に胎児の段階で既に死んでいるもの、分娩時の牽引によって死んだもの、十分なケアを受けられず死に至ったもの・・・などを集計すると、北海道における過去3年間での「死産」は6%台で推移しています。  さらに、酪農家が耳標を装着してから分娩0か月齢に死んだ子牛(牛個体識別センター)は、平成26年に北海道では4.2%にも達しています。図は北海道における平成26年1月からの1年間において、途中離農や飼養形態変更を除く牛群検定農家 3,890戸の死産率の分布を示したものです。死産率が、年間ゼロという酪農家はおよそ1割、逆に2割を超える農家もありました。  このことを考えると、北海道における子牛の事故は分娩前後で約6%、0か月齢で約4%となり、両方を加えると分娩事故率は10%にも達します。つまり、生後0か月齢以内における子牛の1割ほどは死んでいることが明らかになりました。  23

(出生後しばらくは子牛を注視・管理する) 北海道はホル・黒毛とも死亡率が高い (出生後しばらくは子牛を注視・管理する) 北海道は黒毛・交雑種が府県より2%高い (寒さが原因?) 1.5 1.7 ホルは北海道が 全国(都府県)より1%(3%) 高い  表は牛個体識別センターから耳標装着後0ヶ月以内の死亡率を示しましたが、ホルスタイン種は、平成26年では、全国3.4%、北海道4.2%です。過去3年間を比較しても、北海道はおよそ全国より1%、性別では雄は雌より2%ほど高く推移していることが分かります。また、黒毛和種や交雑種の死亡率は、北海道が全国より1~2%高く、管理だけでなく生まれた子牛が小さいだけに寒さの影響が大きいと考えられます。  一方、北海道における種別・月齢別死亡率の推移を図に示しましたが、双方とも分娩直後に死亡が集中し、経過とともにと死亡率は低下していく傾向にあります。出生後10ヶ月以内での死亡率ではホルスタイン種は9.7%、黒毛和種は7.4%にも達していました。  いずれにしても、北海道におけるホルスタイン種の雌が10ヶ月以内に死亡する頭数は1万2千頭にも及んでいます。これは、将来、後継牛となる貴重な乳牛資源が失われていることを意味しています。 ホルは♂が ♀より2%高い 24

隣りどうしの酪農家の死廃率と死産率 2枚の図はある地域における隣どうしの牛群検定WebシステムDLでの総合グラフ疾病関連情報の一部です。  分娩後60日以内死廃率は8.7%と2.4%、死産発生率は13.3%と0%で牛の位置が右と左に分かれています。  ところが、この2軒は自分の母牛・子牛のおよそ理解していますが、隣の実態はまったく把握していません。乳量や体細胞と異なり、農業者、奥様どうしの話題になっていないのがこの問題の解決を阻んでいます。  是非、DLを活用して全道、地域、規模、乳量と比較、自分の位置を確認することから始めてください。 母牛死廃率と子牛死産率

酪農家の分娩事故(死産)頭数は毎年同じ  上図は酪農家における平成26年と25年の死産頭数の関係を示したもので、相関は極めて高いことが分ります。また、下図は平成25年と24年死産頭数の関係も全く同様の傾向でありました。率でみると分母の小さい小規模酪農家の数値が上下し、相関係数は低くなるものの年次間の関係は高くなっています。  よって、死産が昨年20頭の酪農家は分娩前後の管理を見直さない限り、本年だけでなく3年後、5年後も20頭前後が死ぬと推測されます。逆に、昨年ゼロの酪農家は飼養管理を変えない限り本年だけでなく、3年後、5年後もゼロに近いことを意味しています。

分娩時事故(死産)率と規模は関係ない  規模が大きいほど労働力は回らず死産率が高いと推測したものの、経産牛頭数と死産率の関係は薄い傾向にあります(上図)。130頭以上の大型経営は5%前後で、分娩時の管理マニュアルが確立し実践されていると考えるべきでしょう。  逆に、飼養頭数の少ない酪農家ほどバラツキが大きく、お爺ちゃんの時代から分娩前後の管理が伝統的に動いていると判断できます。個体乳量と死産率の関係は乳量が高い酪農家ほど死産率が高くなる傾向にありました。

初産牛は分娩時事故(死産)率が高い 現状の体重 初産牛584kg、3産以降牛676kg 85% 26年328千頭  北海道における年次別死産率は産次で大きく異なっており、平成26年は2産4.9%、5産以降5.8%と過去5年間は5%台で推移しています。しかし、初産牛は22年10.7%、24年10.2%、平成26年8.3%といずれも他の産次より高い傾向にあります(表1)。  分娩難易は5段階に分かれており、「1介助なしの自然分娩」~「5外科処理を必要とした難産」まで報告されています。分娩難易3は2~3人を必要とした助産で、3以上を難産に定義すると、同じ♂でも2産以降牛が4.9%であるのに対し初産牛は8.9%と高い傾向にあります。  北海道における平成27年の分娩時体重は初産牛584kg、2産牛635kg、3産以降牛676kgで、初産牛は3産以降牛の85%程度です。そのため、初妊牛は成熟牛と比べて分娩時の体格が小さく、母体は子牛の大きさに耐えきれず難産となります。  難産で産まれた子牛は分娩時間が長引き、血液中の酸素レベルは低く血液pHが酸性へ傾き、初乳(免疫グロブリン)の吸収率が低下します。さらに、呼吸は低酸素状態とアシドーシスからの回復が遅く死産の確率が高くなります。  分娩時の体高140cm、体重600kgにすると、授精時は130cm350kgを超えるころが目安になります。死産率が低い酪農家の中には早い初産月齢を求めず、育成牛は骨格を形成してから授精するところもあります。    現状の体重  初産牛584kg、3産以降牛676kg 85%  26年328千頭

分娩事故(死産)は子宮内膜炎へ 空胎牛の割合 正常な子宮 子宮内膜炎 分娩後日数 分娩後6週目における子宮内膜炎の発生率は40%であり、農場により30~57%異なっていた(根釧農試)  空胎牛の割合      正常な子宮 子宮内膜炎    Potterら(2010)  個体牛でみていくと、子牛の死産記録があった母牛の分娩間隔は2産426日(n=38)が次産456日、3産以降牛419日が次産441日(n=68)と延びています。さらに、長期不受胎牛が多く、淘汰の割合も高くなっています(下表)。  その要因は分娩状況が子宮内膜炎へ関連し、オッズ比(罹患牛と非罹患牛)は胎盤停滞34.3倍、死産7.9倍、双子5.0倍、助産2.8倍、乳房炎1.8倍、低Ca血症1.6倍です(Potterら2010)。  妊娠中の子宮は無菌状態な環境ですが分娩直後からさまざまな細菌が検出、子宮の収縮に伴って悪露と一緒に体外へ排出されます。しかし、分娩後しばらく経過しても細菌が検出され、子宮の修復がスムーズでなければ子宮内膜炎へ移行します。死産は子宮炎や子宮内膜炎と関連が強く、産道へ大きなダメージとなり受胎率を低下させている実態にあります。 分娩後日数 M.J. Giuliodori (2013)

後継牛確保にX精液を選択する 北海道の死産率  H27 6.09% H26 6.16年 H25 6.86% H24 7.04%  26年328千頭 受胎率 ♀率93.8% 39.6% 50.6% ジェネテックス北海道提供28.2 2~3人を必要とした助産  北海道の死産率は分娩年で平成24年7.05%、25年6.87%、26年6.16%まで低下しています。わずか1%減の数値でも北海道35万頭以上の分娩頭数から判断すると大きな意味をもち、子牛の大きさが要因として考えられます。  北海道における交雑種の頭数推移をみると、平成22年に1万1千頭であったものが、平成には27年1万3千頭まで増えています。日本飼養標準乳牛2006年版によると、子牛の体重はホルスタイン(経産)46kg、黒毛単子は30kg、交雑種(F1)36kgを基礎数値にしています。ホルスタインと比べて黒毛は明らかに体が小さく、分娩時の難産を防ぐことができます。  性判別精液(性選別精液とも呼びます)の受胎率は、通常精液に比べ、やや落ちるものの♀が9割生まれるというのが魅力的で、増頭を希望する酪農家などで急速に普及してきました。中には数年前から初妊牛だけでなく、経産牛を含めてすべての牛に性判別精液を授精しているところもあります。  難産を分娩難易3以上にすると、初産牛の♀は3.8%で♂の8.9%より低く、♀は体格や体重が小さく難産のリスクは低くなっています。また、双子出産は通常精液と比べ性判別精液では明らかに少ないのが特徴です。  性判別精液は後継牛確保や遺伝的改良だけでなく、難産を低減する有効な手段と考えられます。 5か月以内死亡率は5.7%で通常精液8.2%より低い、但し精液で0~33%の差、乳量、除籍月齢は通常精液と全く同じ。

性判別精液は双子が少ない 性判別精液が双子が少ない。80%が異姓双子(萩原) ①双子は2産以降牛に多い、②精子数が少なく= 受胎率低下  双子は酪農家にとって難産や死産で分娩前後のトラブルが多く(特に♂♂の組み合わせ)、その後の繁殖まで影響することが少なくありません。また、周産期病が発症し自家牛群から放出せざるを得ない状況に陥り、昔から農業者に嫌われています。馬の世界は妊娠診断で卵巣に2つの黄体があれば、単子に産まれるよう処置をするといわれています。  上表は北海道における双子の実態を示していますが、双子率(双子以上)は平成22年、2.94%、平成24年、2.85%、平成26年、2.84%と大きな違いはありません。性判別精液は難産を低減する双子出産は通常精液と比べ明らかに少ないのが特徴です。  5か月以内の死亡率は通常精液より低い、乳量や除籍産次が変わらない、精液の封入方法2層に分離すると受胎率が6%も向上し通常精液と変わらない・・・など、性判別精液に関する新しい報告が次々にでてきています。今後、母牛の分娩時体格を大きくするだけでなく、子牛が小さく単子で産まれる性判別精液も選択肢となります。

性判別精液事業の活用 (北海道牛群検定促進クラスター協議会) 性判別精液の活用(牛群内頭数の上位1/2以内)性判別精液授精対象牛選定理由確認書必須 区 分 年齢 未経産牛 経産牛 判定 根拠 牛群検定 加入の 生産者 2歳未満 高能力と判断 ○   [生年月日で2歳未満を確認] ・個体識別情報 ・牛群改良情報 ・繁殖台帳等 (未経産と同等とみなす) 2歳以上 [出産履歴で未経産を確認] 能力確認要 △ 牛群内の1/2以上の能力を確認 原則、牛群改良情報の牛群内評価を用いて6以上。 ただし、牛群改良情報の耐久性成分又は疾病繁殖成分による順位付けも可とし、その場合、全国パーセント順位 50%以内。 ※ 未加入の ・乳量等客観的指標を用いて、牛群内で上位 1/2以上   1管内AIデ 平成21年 北人協 *2 平成21年 LIAJ調べ    (H26十勝・根室ータより、雌生産率94.7%)  北海道牛群検定促進クラスター協議会では、選択的な交配を推進し、優良後継牛を確保し、生乳生産量の維持・増加に努めるため、平成27年度から、高能力牛への性判別精液の授精、高能力性判別受精卵を活用した事業を実施しています。また、低能力の乳牛には、和牛受精卵を活用し、所得確保を図るとともに、和牛子牛の道内保留による道内和牛繁殖基盤の強化に取り組んでいます。  これらの乳用牛の性判別精液利用や受精卵移植と併せ、和子牛受精卵移植にも補助金が支給されています。なお、補助金の交付対象と要件は以下のとおりです。 ① 乳用牛性判別精液 1 頭6 千円上限(2分の1以内補助)牛群内頭数の上位1/2 以内を対象(ただし、未経産牛並びに2歳未満の経産牛は全て高能力の対象とし、2歳以上の経産牛は、検定農家では、牛群改良情報の牛群内評価6以上を対象とします。検定未加入農家は、乳量等客観的指標を用いて、牛群内1/2 以上を判断します。) ② 乳用牛性判別受精卵移植 1 頭100 千円上限(2分の1以内補助)で能力判断要件はなし ③ 子牛受精卵移植 1 頭70 千円上限(2分の1以内補助) 牛群内頭数の下位1/3 を対象(牛群内の1/3 以下の能力判断は、生産者判断による)  なお、乳用牛性判別精液、和子牛受精卵移植の補助金交付を受けるには、対象牛選定理由確認書が必要です。 46 6千円/1頭、2分の1補助 窓口は農協

和牛受精卵の活用(牛群内頭数の下位1/3以内)性判別精液授精対象牛選定理由確認書必須 X精液を選択する (後継牛確保難産防止)   和牛受精卵の活用(牛群内頭数の下位1/3以内)性判別精液授精対象牛選定理由確認書必須 区 分 未経産牛 経産牛 牛群検定 加入の生産者 生産者判断 △ 牛群内の1/3以下の能力を確認 ※牛群検定 未加入の生産者 性判別受精卵の活用 区 分 未経産牛 経産牛 牛群検定 加入の生産者 能力判断要件なし ○ ※牛群検定 未加入の生産者  性判別精液の受胎率は、通常精液に比べると、若干は落ちるものの雌牛が生まれる割合が9割となっており、増頭を希望する酪農家にとっては、魅力があり急激に普及してきた経過にあります。一方、北海道の死産率は分娩年ごとに見ると、平成24年は7.05%、平成25年6.87%、平成26年6.16%と順次低下してきています。これは性判別精液及び黒毛和牛の精液の普及が拡大したためと推測できます。  性判別精液を用いると、ほとんどが雌牛として生まれるため、雄牛に比べ体格や体重が小さいので難産のリスクが低く、双子の割合も2.8%となっており、通常精液と比べて明らかに難産が少なくなっています。性判別精液では5か月以内の死亡率は通常精液より低く、乳量や除籍産次が変わらない、受胎率が向上している・・・など、新しい報告が次々とでてきています。  牛群内評価成績やゲノミック評価等による乳用雌牛の能力に基づき、性判別精液や性判別受精卵を用いた選択的な交配を推進し、優良後継牛を確保しましょう。そのためにも、牛群検定情報を活用した経営を行い、収益性の向上を図っていく必要があります。また、牛群検定の普及と後代検定への協力のもと遺伝的改良量の確保に向けた取組を続けていくことも重要なテーマです。  なお、牛群検定未加入の生産者が本事業に参加するには、北海道牛群検定促進クラスター協議会に対し参加申請書の提出が必要となっています。 ※牛群検定未加入の生産者が事業に参加するには、 北海道牛群検定促進クラスター協議会参加申請書の提出が必要です。 47

北海道は冬期間の死産率が高い (分娩時の監視と看護を徹底する)   北海道は冬期間の死産率が高い (分娩時の監視と看護を徹底する)   冬期間における寒さ対策を徹底し、子牛の死産を防ぎましょう!! 死産となった子牛の9割は 分娩開始時に生きています。  図は北海道における分娩月別死産率を示したものです。年間を通して分娩頭数は同程度ですが 12~2月は多い傾向にあります。母牛を繋ぎの状態で産ませると、子牛の体感温度は母胎内温度から外界の温度まで一気に低下します。次の朝まで母牛や人の看護がなく放置しておくと、子牛の体温が下がり死に至ることもあります。  乳牛は寒さに強い動物と言われていますが、子牛は体脂肪が少なく、被毛も薄く、ルーメン発酵がありません。このため、哺乳子牛は育成牛や泌乳牛と比べて外気温が15℃を下回ると、体温維持に多くのエネルギーを消費します。さらに、体が濡れていたり、風があたったり、床が糞尿だらけ・・・などの環境に置かれると、大きな寒冷ストレスを受けることになります。  このことを考えると、分娩の日時を事前に察知し冬期間における寒さ対策を徹底し、子牛の死廃を減らすべきです。分娩監視装置を導入したら、分娩後の子牛看護ができ死産が減ったという報告もあります。母牛体温において0.4℃以上の下降がみられたら、高い確率で24時間以内に分娩することが予測できます。保温のためには、白熱灯の電熱や100均ショップなどで購入作成したカーフジヤケット、ネックウオーマー、更には湯たんぽなどを用いると良いでしょう。子牛は仮死状態で産まれることがあり、その際は、体力消耗を防ぎ免疫吸収率を高めるケアーが必要になります。 25

同じ冬期間でも気温の低いと死産増  一年間を通してみていくと分娩月別死産率は12~2月の厳寒期が他の月より高く推移しています。しかし、同じ冬期間であっても気温の低い年ほど死産率は高いことがわかりました。2013年が比較的に寒く死産率が高く、2015年は暖かく死産率が低くなっています。  子宮内が38度から突然気温の低い外界にでると、生まれた子牛は寒冷ストレスで死に至るケースがあります。

ICT(牛温恵)を活用した分娩監視 北海道 渡辺農場 母牛250頭センサー数15本 使用暦:6年半 使用前5%の事故率が0% 北海道 渡辺農場 母牛250頭センサー数15本 使用暦:6年半 使用前5%の事故率が0% 2014/11/28農業新聞 親機(20m飛ぶ) 子機(分娩房) Mailで2回通報  飼養頭数が増えている現状では、すべての牛をモニターすることは難しいため、乾乳から分娩に至る間を注視すべきです。いつもと違う牛をプロとして察知、早めに対応する自覚と責任が求められています。体温測定や分娩予知通報システム等で分娩日時を特定することがポイントになります。  そのことで、適切な介助、早期乾燥、子牛の保温、母子分離、初乳給与・・・など、牛が満足できる環境を提供できます。牛は人からエサ、水、寝床・・・を与えられなければどうすることもできない生き物です。 13:15 段取り通報(分娩前約24時間) 膣温を24時間5分毎測定 分娩予定1週間前挿入 他に「モー安心」ロールクリエートKK、「ハッピーコール」北海道藤原KK ホクレン冬期子牛飼養環境向上支援事業 カーフウオーマ、ハッチ、分娩監視・・・30万円/戸、50%補助 13:00 駆けつけ通報(一次破水)

子牛の乾燥・保温対策を徹底する カーフウオーマ 冬の低体温対策 ホクレンでは、「冬期子牛使用環境向上支援事業」を平成28年度より始めました。 カーフウオーマ  冬の低体温対策   ホクレンでは、「冬期子牛使用環境向上支援事業」を平成28年度より始めました。  冬場での子牛の死廃事故防止に向け、分娩監視装置、カーフウオマー、カーフハッチなどの資材等を導入した場合、酪農家一戸当たり30万円を上限として助成することになっています。

2 母牛の周産期病を低減する (長命連産は後継牛を少なくできる) 2 母牛の周産期病を低減する  (長命連産は後継牛を少なくできる) 後継牛確保 2 分娩後60日以内の死廃率は、平均で6.2%ですが、0%の酪農家がおよそ1割、逆に、20%を超える酪農家が1%います。 分娩後60日以内の死廃率は、平均で6.2% ですが、0%の酪農家がおよそ1割、逆に、20%を超える酪農家が1%程度います。   図は牛群検定農家3,890戸における分娩後60日以内での死廃率分布を示したものです。死廃率は平均6.2%ですが、0%の酪農家がおよそ1割存在しています。逆に、20%を超える酪農家がいるなど、広い範囲で分散していることがわかります。死廃の状況としては、分娩当日が15%、分娩1か月以内が34%、分娩3か月以内が53%となっており、多くは分娩後1~2か月で除籍されています。  分娩後における母牛の除籍要因としては、起立しない、歩行しない・・・など、治療不可能で淘汰というより廃用の意味合いが強くなっています。これから本格的な生乳生産を期待していただけに、農業者の意志に反しての除籍は大きなダメージとなります。  酪農家における年間子牛死産率と年間牛群除籍率の関係は、死産率が高ければ除籍率も高くなります。また、酪農家における年間子牛死産率と牛群平均産次の関係は、死産率が高くなれば平均産次は低下する傾向にあります。長命連産にすることで、必要とする後継牛を少なくすることができます。平均除籍産次が5.5産の酪農家もいるので、対応次第で除籍を減らすことは充分可能です。 26

分娩後死廃と年間除籍はイコール  図は酪農家の分娩60日以内除籍率と年間除籍率の関係を示していますが、両者の相関は高く、また、一年間に除籍する牛は乳期全体にバラツクことなく、泌乳初期に集中していることが分かります。  分娩後における母牛の除籍は、淘汰というより起立しない、歩行しない・・・など、治療不可能で廃用の意味合いが強く、これから本格的な乳生産と期待していただけに、農業者の意志に反して大きなダメージとなります。  このことから、酪農家個々の60日以内の除籍率が高いということは、牛群の淘汰を早め、長命連産を妨げていることが分かります。いかに、分娩後に体調を良くしていくかが、除籍率を低減するための大きなポイントになります。

繁殖が悪くなれば、その分、後継牛も不足します。 必要最小限の頭数で効率的な経営を目指しましょう! 3 繁殖成績を良好にする (後継となる育成牛を増やす) 後継牛確保 3 繁殖が悪くなれば、その分、後継牛も不足します。 必要最小限の頭数で効率的な経営を目指しましょう! 牛群100頭を維持するための  生乳生産の維持拡大は導入だけでなく、経営内で必要とする育成牛頭数が最小限になる技術を追求すべきです。乳牛の一生を順番に示すと自ら産まれ、初めての出産、幾度かの出産を経ますが、回数が増えれば長命連産へと繋がります。その過程で自分の経営内で牛を増やすか、また、これ以上減らさないということは、増頭と同意語であると言えるでしょう。  ①子牛の死産率を低減する、②初産月齢を早める、③分娩間隔を短縮する、④母牛の除籍率を低減する。  牛群100頭を維持するための必要な育成牛頭数は「2.45×初産月齢(月) + 2.63×除籍率(%)-70」で計算できます。例えば、初産月齢25か月、除籍率26%であれば補充する育成牛は60頭となります。しかし同じ初産月齢25か月でも除籍率が30%になると育成牛が70頭、逆に、同じ除籍率26%でも初産月齢が30か月とすると育成牛が72頭必要になります。除籍率が低いほど、初産月齢が早いほど、少ない育成牛で経営を維持することが可能です。  特に、乳牛資源が高く初妊牛の入手が難しくなっている現状では、経営上、必要最小限の後継牛で牛群が回るようにすることを考えるべきです。 誕生 淘汰           (②と③は繁殖成績で牛を増やす) ①子牛死産率 ②初産月齢 ③分娩間隔 ④母牛除籍率 27

生まれる後継牛の数を増やす (初産月齢、分娩間隔を短縮する)  生まれる後継牛の数を増やす (初産月齢、分娩間隔を短縮する)    分娩間隔は、個々の酪農家や 牛個体によって、こんなに大きな開きがあります。  子牛の数を増やすためには、育成牛は初産分娩月齢を短縮することであり、経産牛は分娩間隔を延ばさないことが重要です。平成26年度(2014)個体の305日間成績においても酪農家及び牛ごとに大きな差があることが認められます。  初産分娩月齢は、23ヶ月以内が39%を占めていますが、48ヶ月以上の牛も存在しています。一方、分娩間隔は年ごとに延びており、平均429日で、中央値405日ですが、800日以上の牛もいます。  例えば100頭牛群で年に1産する場合は、100頭の子牛が生まれますが、分娩間隔15ヶ月(450日)では80頭しか生まれません。一経営体で20頭の差があると、後継牛が大きく不足に転じる可能性があります。繁殖を良好にすることは、生乳生産だけでなく後継牛頭数を確実に増やしていくことを意味しています。  ただし、初産分娩月齢を短縮するためには月数だけでなく、育成牛(初妊牛)の骨格をしっかり作ってから分娩させることが重要です。 28

4 乳房炎(体細胞)を減らす (分娩時のストレスを軽減する) 分娩直後は、大きなストレスで免疫力が低下しています。 4 乳房炎(体細胞)を減らす (分娩時のストレスを軽減する)  分娩直後は、大きなストレスで免疫力が低下しています。 その結果、急性乳房炎も多発しやすくなります。  図は分娩後経過日数による急性乳房炎の発生件数を示したものです。乳期全体でみると、急性乳房炎の発症は分娩直後に集中しているのがわかります。分娩後10 日以内が26%、30 日以内が39%を占めている状況です。これは搾乳方法や手順というより、低カルシウム血症などの周産期病で牛自体の免疫機能が弱まっていると判断すべきです。  牛にとって出産・泌乳は大きな仕事です。分娩がうまくいくかどうかは、分娩前後の管理や飼料によっても変ってきます。これらがストレスとなってあらゆる疾病に絡むので、乾乳から分娩にかけて管理を徹底して免疫機能を高めるべきです。  一方、牛床や通路が泥濘化していれば、肢蹄に糞や泥が付着して乳房を清潔に保てず乳房炎になる可能性が高くなります。牛周辺の環境整備、とりわけ、牛床・通路などの乾燥が乳房炎を減らすためには極めて重要なポイントです。 29

5 良質粗飼料を調製給与する (健康な牛づくりをする) 5 良質粗飼料を調製給与する     (健康な牛づくりをする) 牛は、草食動物なので、良質な粗飼料を食べると、疾病も減少します!  図は分娩後に疾病が多発している酪農家群(10戸618頭)と、少発の酪農家群(9戸1,059頭)の経過日数別乳脂率の推移を示したものです。乳タンパク質や乳中尿素態窒素(MUN)などには大きな差はみられませんが、多発農家は乳脂率が0.2%低い傾向にあります。  乳脂率はルーメン内における揮発性脂肪酸(VFA)中の酢酸量で決まります。その原料は繊維源(NDF)の粗飼料です。草地の更新率は、平成5年に6%前後であったものが、平成22年には2.8%まで低下し、更新は30年に一回という頻度まで減っています。関連する事業が減少したこともあって、石灰が適正に投入されず草地の土はpHが低くなり、播種したチモシーやアカクローバが消え、踏圧に強い草だけを優先してきたのが現状です。  雑草といえば、以前はギシギシやレッドトップが多かったのですが、最近は、シバムギ、リードカナリーグラスやメドウフォックステールなどの地下茎イネ科雑草が増えてきました。各地で草地の草種構成の調査を行なわれていますが、およそ半分は雑草というショッキングな報告が多くなっています。分娩後は乾物摂取量が極端に低下するときですので、植生を改善し、嗜好性が良く栄養価の高い粗飼料を給与すべきです。   30

後継牛確保は分娩前後の管理で変わる 事故率の少ない酪農家は疾病も少ない 淘汰  母牛が健康で自然分娩であれば、生まれてきた子牛は元気で初乳を飲み発育は良好です。周産期病がなく受胎も早いため、適度なBCSとなり結果として次の産次もスムーズに分娩しますのでうまく回転していきます。  逆に、母牛不健康で分娩が難産や介助が行われれば、生まれてきた子牛は元気がなく発育は良くありません。母牛も周産期病で受胎も遅くなり肥りすぎとなります。結果として、次の産次も分娩に苦労しますのでうまく回転していきません。  このことから、後継牛確保は分娩前後の飼養管理次第で回り方が大きく変わるということを理解すべきです。 削蹄 淘汰 削蹄 子牛は健康 速やかに初乳を飲む、健康、発育良好 子牛は仮死状態 初乳を飲まない、疾病多発、発育不良、

(BP目的(能力を最大) 粗飼料を腹いっぱいに食べると、 このように、ルーメンが張って 健康な状態になります。 31 飼料を腹一杯食い込ませる      供用年数延長 1 粗飼料を腹いっぱいに食べると、 このように、ルーメンが張って 健康な状態になります。 根釧農試04  乾乳前期に食い込んだ牛は、後期でも産褥期でも飼料充足率が高く、この期間に食い込んだ牛は泌乳初期でも食い込むことができます。逆に、乾乳前期に食い込まない牛は、後期でも産褥期でも飼料充足率が低く、ここで食い込まない牛は泌乳初期でも食い込まないことになります(図)。さらに、乾乳後期にTDN充足率が高くなれば難産発生は少なく、低ければ多くなり死産につながります(表)。  ただ、分娩前60日間は、胎児がそれまでの大きさのほぼ倍に成長するため、子宮が胃腸を圧迫し採食量を落とします。栄養要求量はどんどん増えるのですが体は大きく重くなり、飼槽、水槽や牛床へのアクセス回数が減ることにもなります。  乾草やサイレージをしっかり食い込める環境を提供することで、穀類ではなく繊維源の充足率を高めれば左腹が膨れてきます(写真)。ルーメンスコアが高ければ血液の流れが多く、毛艶もよく、健康な母牛となり、その結果、健康な子牛が生まれます。計画的な草地更新、植生改善、低NDF・・・など選び食いが不可能な粗飼料を調製し給与すべきです。  31 根釧農試04

きれいな水を豊富に与える (BP目的(能力を最大) 一日の飲水量は、搾乳牛一頭あたり、130リットルを超えています。 供用年数延長 2  水は人間にとっても牛にとっても命を保障する必須要件で、体の水分を大量に失うことは致命的です。しかも、牛乳の87%が水であることを考えると、生産活動のためにも非常に重要です。  乳牛の必の必要量は1日1頭あたり、哺乳牛で、23~38リットル(L)、育成牛、38-57L、乾乳牛、76~114L、搾乳牛130~170Lです(NWPS-7 1995)。  飲水量を要求量の75%にすると乾物摂取量が89%、50%では79%まで低下し、一回当たりの吐水量が少ないと飲水量も減ります。飲みたい牛に対して清潔な水を豊富に与えることができるか、そのためには農業者が水槽を頻繁に掃除することが重要です。  泌乳牛における飲水回数は繋ぎ牛舎(スタンチョン)で14回、ルーズバーン牛舎で6.6回です。水槽の必要幅は牛1頭あたり50cmほどで、最適な高さは90cmとなっています。最低でも牛10頭にひとつの給水器を推奨しています(NRC 2001年版)。 一日の飲水量は、搾乳牛一頭あたり、130リットルを超えています。 いつでも十分に新鮮な水が飲める ようにしましょう。 32

ゆったりした横臥時間を増やす (BP目的(能力を最大) 同じエサを与えているのに、なぜ個体乳量に 差が出るのでしょう。 供用年数延長 3 同じエサを与えているのに、なぜ個体乳量に 差が出るのでしょう。 ひょっとして横臥時間が短くなっていませんか? 酪農家12戸の横臥時間の差は 380分 乳量1kg当たり血流量 430L  乳量の差は380*(9.7ー7.2L)/430L=2.2kg  酪農家個々で牛の寝る時間や姿勢に違いがあることを現場で確認できます。また、同じ牛床の上でも常に姿勢を変え、寝たり起きたりの回数を増やして自分の安楽的なポジションを維持しています。1日に寝る時間はおよそ10~12時間ですが、酪農家12戸の行動調査をみると横臥時間は380分の差がありました(根釧農試 1998)。  図は子宮と胎子の養分消費量を直接測定したもので、子宮動脈血流量の日内変動を示したものです。横臥の方が佇立している時間帯より血流量が多く、母牛から胎子への酸素と養分供給量が増加していることがわかります(国立畜草研 2004)。これを乳量に換算しますと380分×(9.7-7.2L)/430L(乳量1kg当たり血流量)=2.2kgとなります。つまり、同じエサと管理をしても横臥時間によって酪農家間で乳量に差が生じます。  生乳生産を高める上で、疾病や繁殖障害に共通していることは、牛床での寝る時間がポイントになっています。横臥時間が長いということは乳腺への血流の増加だけでなく肢蹄にかかるストレスの軽減、発情行動の促進…などプラスの要素が限りなくあるのです。さらに、ゆったりリラックスした横臥は、常に緊張しビクビクしている状態より反芻活動は促進され、持続的に唾液を分泌しルーメン内に十分な量を供給しています。 33 (国立畜草研 2004)

暑熱の影響を最小限にする 34 (BP目的(能力を最大) 供用年数延長 4 表 湿度と温度による不快指数(THI)  牛は分厚い脂肪と毛皮のコートを着ており、さらに大量の飼料をルーメン内微生物で発酵させています。そのため、人が快く感じる気温20℃前後から、牛は暑さを感じ、大きなストレスに陥っています。気温上昇に伴って、牛の免疫機能が落ち、体細胞数が上昇します(図)。また、実際には、暑熱ストレスは、湿度も関連しており、人間でいうところの不快指数(THI)が大きく影響しています。乳牛の場合、THIの値が72を超えると暑熱ストレスが大きくなると言われています(表)。温湿度計を設置するなどして、事前に暑熱対策がとれるように心がけましょう。  暑熱時は体温の上昇を抑えるため、姿勢と行動に変化がみられます。目はうつろになり、体全体が小刻みに震え、反芻する姿は少なく、動き回らず、じっとたたずんでいるといった状態です。しかも、畜舎全体に散在することなく、風通しの良い出入り口周辺の一部に集中する様子がみられます。  体熱を放散するため、横臥姿勢はほとんど見られず起立する牛が多くなります。ガサのある粗飼料は発酵熱が出ることを牛は知っているので、摂取量は低下します。そのため夜間の固め喰いが起き、ルーメンアシドーシスになり動きの悪い牛が増えることになります。  繋ぎ牛舎で、トンネル換気、フリーストール牛舎でリレー方式の換気扇を導入し、新鮮な水をいつでも飲めるようにして暑熱の影響を最小限にすべきです。 乳牛は、気温が20℃を超えると暑いと感じます。暑熱は、体調に悪影響を及ぼし、その結果体細胞数も増えてしまいます。 暑熱対策をした母牛はしない母牛より子牛が3~5kg↑IGG濃度や初乳の吸収率↑ 34

自由な動きで自然分娩をさせる (BP目的(能力を最大) 自然分娩ができる体勢 以下になると獣医師の出番です! 35 供用年数延長 5  自由な動きで自然分娩をさせる 供用年数延長 5 自然分娩ができる体勢 以下になると獣医師の出番です!  乳牛は一日の寝起きの回数が10回以上で、出産が始まると立ち上がっては寝て、立ち上がっては反対側に寝てと、頻繁な寝起きを繰り返します。これによって体の後躯や前躯は上下して胎児が子宮の位置を変えて子宮捻転や胎児失位を防ぐのです。しかし、分娩が集中して、出産場所が過密になったり、また、牛床が硬い・滑るなどの状態になると、起立横臥が少なく不自然な動きとなります。肢蹄の悪い牛は一方向の姿勢が長くなり、逆子が増える原因となります。  飼養形態別に年間で変更がない酪農家について、繋ぎ、フリーストール、放牧、ロボットの4つに分類しました。その結果、死産率は放牧農家(250戸)が5.4%となり、繋ぎ(2,676戸)5.9%、フリーストール(908戸)6.7%、ロボット (56戸)6.4%と比べ低くなりました(表)。牛は放牧するとおよそ4万回噛みながら一日4km歩行する生き物です。本来このような動きで、代謝を良くしているのです。  乳牛に対しては、寝起きがしやすいような足配りとクッション性があり清潔で乾燥している場所を提供し、自由な動きを促すべきです。人の手をまったく借りず牛自から出産する割合は現状で北海道71%(初産牛67%)ですが、現場の実態から自然分娩は9割以上にすることが可能と考えられます。 道の自然分娩 H26年73% 35

初産牛のストレスをなくす  供用年数延長5項目において注意すべき点は、初妊牛がスムーズに牛群へ移行できず、疾病で廃用となるケースが現場で見受けられることです。すべての牛が採食しているとき、後方でウロウロしているのは初産牛などの弱い牛です(上図)。  また、連動スタンチョンやウォーターカップの人工的施設に突然出会うと戸惑い体調を崩します(下図) 。本来、初産牛は健康なはずですが、このようなことでトラブルになることを防ぐためにも、牛を事前に馴致しておくべきでしょう。

参考資料 「 生産乳量維持拡大」 「 分娩時の事故低減」 「 自家後継牛で経営維持」 48 「 生産乳量維持拡大」 「 分娩時の事故低減」 「 自家後継牛で経営維持」  参考資料として、ベストパフォーマンスの実現に向け、参考となるリーフレットをご紹介します。特に、死亡・死産を防ぐことで期待される効果を以下にまとめました。  現状として、乳用母牛は分娩時あるいは分娩60日以内に死んでる割合いが高く推移しています。また、初産次及び2産次の死亡している割合が高いのが特徴です。乳用子牛の死亡割合は、実は10年前となんら変わっておらず、分娩時の事故が低減していないのが現状であり、そのほとんどが胎児死あるいは出生当日に死んでいます。特に、冬季・多胎・初産・雄子牛で難産・死産が多い傾向にあり、農業者や関係者は母牛・子牛が死んでいるかの認識があまりないのが実情です。また、獣医師や普及員などの酪農関係者の認識も深まっているとはまだ言い難い面があります。  飼養管理技術の向上(乳検成績やDLの活用)を図りつつ、性判別精液を活用することが効果的です。性判別精液は、雌の出生割合が高く、双子も少なく難産率も低いという特徴があります。  また、効果としては以下のことが期待され、後継牛の確保に繋がれば、その分乳量の増産が可能になります。 ①母牛の生産性の向上 ⇒ 長命連産・供用年数の延長 ②難産の減少 ⇒ 母牛の死廃事故並びに子牛の死産も減少 ③支払共済金の削減 ⇒ 農家掛け金の低減効果 ④子牛の死産  ⇒ 3万頭のうち1万頭が生き残れば2年後10万トンの増産が可能  群の中であっても、発情をしっかり見つけ、無駄のない繁殖管理に努めましょう!!                              (道内の検定農家にて) 48

(リーフレット)   生産乳量維持拡大  このリーフレットは、分娩時の死廃率を低減し、経産牛頭数を確保しながら乳量生産維持拡大を図るための技術的対応を示したものです。  数値は北海道の乳検加入農家で経営形態の変更、離脱を除く3,890戸の各項目の平均値と最小値~最大値を示しています。一乳期の流れの中で、次の5項目の飼養管理をしっかりと行うことが重要です。 ① 分娩時の子牛の死を減らす ② 母牛の周産期病を低減する ③ 繁殖成績を良好にする ④ 経産牛の供用年数を増やす ⑤ 良質な粗飼料を給与する  ただ、この5項目は単独なものではなく、相互に連結しており、並列的な対策をとるのではなく、ストーリーとしての技術の一貫性が求められています。乾乳から分娩をスムーズにすることで子牛の死産が減り、母牛も健康になり、結果として初回授精が早く分娩間隔が短く、長命連産が可能になります。それを達成するには、乾草やサイレージなどの良質な粗飼料の調製と給与が基本になります。  一方、子牛を一頭死なせてしまうと、NOSAIの共済金支払としておよそ3万5千円が支給されますが、この子牛が死なずに4産まで搾乳できたとすると、およそ250万円も儲けることができるという試算もあり、経済的に大きなプラスになるはずです。死産事故は、その時点で忘れ去られる傾向がありますが、実は、相当大きな経済的損失に繋がっているのだということを認識しなければなりません。 49

50 (リーフレット) 分娩時の事故低減 このリーフレットは、将来の戦力となる後継牛確保で分娩時における子牛の事故低減技術を示したものです。 (リーフレット)    分娩時の事故低減  このリーフレットは、将来の戦力となる後継牛確保で分娩時における子牛の事故低減技術を示したものです。  一戸あたりの飼養頭数が増えている現状では、すべての経産牛を観察・管理をすることは不可能です。分娩前後1ヶ月間における次の5項目の飼養管理で事故が低減できるかどうかが決まります。 ① 乾乳後期に食い込ませる ② 母牛は歩行分娩時は自由にする ③ 自然分娩で介助は必要最小限にする ④ 生まれた子牛の看護を徹底する ⑤ 性判別・黒毛精液を授精する  いずれも、母子ともに健康な体で分娩時に難産を防ぎ、スムーズな分娩をするための技術です。一乳期は泌乳からではなく、乾乳から既にスタートしており、牛にとって分娩は命がけの営みであることを、管理者は認識して牛周辺の環境整備を行うことが極めて重要です。 50

(リーフレット)   自家後継牛で経営維持  このリーフレットは、個体価格が非常に高くなっている現状から、導入より自家での後継牛を確保を目的にし、いかに少ない後継牛で経営を維持するかという項目を示したものです。  数値は、前述した3,890戸の検定農家における各項目の平均値を示しています。  出産から淘汰までの乳牛の一生で必要とする頭数は次の4項目で決まります。 ① 子牛死産率を低減する ② 初産月齢を早めにする ③ 分娩間隔を短縮する ④ 母牛除籍率を低減する  ①と④は現状の経営でいかに牛を減らさないか、②と③は現状の経営でいかに後継牛を増やすかを表した項目です。一経営体で乳牛資源を枯渇させないためにも、飼養管理技術の向上が求められています。なお、この4項目は牛群検定WebシステムDLの総合グラフで確認ができます。前述のDLの説明でもありましたように、総合グラフでは、全道、地区、頭数規模、乳量水準別に比較が可能となっています。 51

BP指導力で成果が現れる条件 乳検成績から自分の弱点を見出す  地域の課題は、単一組織では限界がありますので、地域の関係機関(仲間)が協力し合って解決することがベストです。関係機関が目標を定めて役割分担を明確にし、合意形成をしてストーリーを作成し行動することがもっとも重要です。  米や麦は一年に一回しか結果がでないので経営譲渡されて30年とすると、災害や気象変動で自分の計画戦略とおりでやれるのは8割、つまり24回しかありません。しかし、酪農は毎日生乳が生産され、気象条件の影響も少なく、海外からの情報も活用できます。従って 30年×365日 10,950回トライして軌道修正できるというチャンスがあります。ただし、いつでもできるからと言って後回しにしないことがもっと重要です。 地域の課題は地域のメンバーで解決する