核磁気共鳴法とその固体物理学への応用 東大物性研: 瀧川 仁 [Ⅰ] 磁気共鳴の原理と超微細相互作用、緩和現象 東大物性研: 瀧川 仁 [Ⅰ] 磁気共鳴の原理と超微細相互作用、緩和現象 [Ⅱ] NMRスペクトルからスピン・軌道・電荷・格子の局所構造を探る (静的性質) [Ⅲ] 核磁気緩和現象を通して電子(格子)のダイナミクスを見る (動的性質)
[Ⅰ] 核磁気共鳴の基礎と超微細相互作用 1.磁気共鳴の原理 磁場中での磁気モーメントの運動と共鳴現象 [Ⅰ] 核磁気共鳴の基礎と超微細相互作用 1.磁気共鳴の原理 磁場中での磁気モーメントの運動と共鳴現象 Free-Induction-Decay, FT-NMR, Spin-Echo 核スピンー格子緩和率とスピン・エコー減衰率 2.固体中の超微細相互作用 磁気的相互作用 電気四重極相互作用 3.NMRで見る固体の性質 超微細磁場の静的効果 超微細磁場の動的効果 電気四重極相互作用の効果
1.磁気共鳴の原理 proton: gN=5.59 neutron: gN=-3.82 I=1/2 磁気共鳴 ・原子核の磁気モーメント 振動磁場 の遷移を引き起こす。
磁場の周りの角速度gNHの回転運動を表す。 Larmor precession (ラーマー才差運動) 磁場中での磁気モーメントの運動 古典力学 磁気モーメントに働くトルク は角運動量の時間変化に等しい。 磁場の周りの角速度gNHの回転運動を表す。 Larmor precession (ラーマー才差運動)
磁場中での磁気モーメントの運動 量子力学 Heisenberg 運動方程式 古典力学と等価
回転座標系 z y x 有効磁場 磁気モーメントは回転系で静止
z 高周波磁場 --- 磁気共鳴 y HL x HR z x 静磁場 ~10T(105G) 高周波磁場 10~100G wt
z Free-Induction-Decay (FID) P(H) H 高周波パルス磁場 磁化反転 回転する磁化がコイルに誘起する誘導起電力 局所磁場に分布があれば信号は減衰する。 H P(H) 実際には高周波(ラーマー周波数)信号を直接は観測しない。 位相検波 Phase Sensitive Detection
位相検波 A B A点とB点の電位が rf-signal source reference信号の半周期ごとに交互にゼロとなる。 gate Double Balanced Mixer (DBM) A directional coupler B filter oscilloscope NMR probe
Fourier Transform (FT) - NMR reference rf-signal source V1 IF 0º DMB power divider rf local 90 degree hybrid NMR signal DMB 90º V2 位相検波 回転座標系への移行 参照信号の位相 回転座標系の方向 V1+iV2をフーリエ変換すると、局所磁場の分布P(H)が求まる。
t t a b c d e (a) (c) (d) (e) (b) スピン・エコー 2 3 P(H0) 1 4 I H0 1 4 2 3 Y X スピン・エコー減衰(T2)の機構 I 1.局所磁場の時間的揺らぎ 2.同種の核スピン間の結合 2t
核スピンー格子緩和率 (1/T1) -1/2 N- N+ スピン系は熱浴との相互作用によって平衡分布を達成する。 振動磁場がないとき 平衡状態では -1/2 N- W-+ W+- N+ 従って
1/T1の測定 (Inversion Recovery 法) (p) Mz
1/T1の公式 -1/2 N- 局所磁場の揺らぎによる核磁気緩和率 Iz=1/2 N+ 遷移確率 相関関数 (一般的原理、中性子磁気散乱)
直感的理解 局所磁場の揺らぎ:周波数スペクトル 運動による尖鋭化(motional narrowing)
t t スピン・エコー減衰率 スピンエコー減衰は、局所磁場の揺らぎのxy成分の寄与とz成分の寄与の積で表される。 局所磁場のz成分をランダムな確率過程として考える。2tにおけるスピンの位相をf(2t)とすると、スピン・エコー強度は スピンエコーの原理より 具体的に計算するには、例えばガウス分布に従う局所磁場と、指数関数的に減衰する局所磁場の相関関数を仮定する。
2.固体中の超微細相互作用 --- 磁気的相互作用 2.固体中の超微細相互作用 --- 磁気的相互作用 ・電子-核スピン系のハミルトニアン 外部磁場 核磁気モーメントの作る双極子磁場 r=0おける 相互作用が欠如。 e T+V 殆どの物質ではこの2つが重要。(例:蛋白質の構造) 電子の反磁性電流と核スピンの相互作用(化学シフト) 反磁性エネルギー (原子核が複数あるとき)電子を媒介とした核スピン間の結合
電子が原子核スピンに及ぼす磁場 orbital field spin dipolar field (Fermi) contact field S状態にのみ有効
常磁性シフト 超微細磁場:時間平均 常時性シフト、 揺らぎ 緩和現象 共鳴条件 常磁性状態では 周波数シフト 局所的な磁化率に比例する。 超微細磁場:時間平均 常時性シフト、 揺らぎ 緩和現象 共鳴条件 常磁性状態では 周波数シフト 局所的な磁化率に比例する。 s電子スピン偏極によるシフト 1mB のs電子スピンモーメントが作る内部磁場 Hhfatom(T) K (%) metal 3Li 12.2 0.026 23Na 39 0.113 85Rb 120 0.652 133Cs 200 1.49
Core Polarizationの効果:閉殻s状態のスピン偏極 スピン偏極したd(f)電子があると、交換相互作用のために、s電子はスピンの向きによって異なるポテンシャルを感じる。 閉殻s状態であってもスピン偏極が生じる。(全空間で積分すればゼロ) Hcp~ -12 T/mB 3d -35 T 4d -100T 5d 内部磁場は磁化と逆向き
Transferred hyperfine field 軌道混成(covalencyの効果) リガンド(酸素)核超微細磁場には s軌道からの接触磁場 on-siteのp軌道上のスピン密度からの双極子磁場 Cuサイト上のスピンからの古典的双極子磁場 が含まれる。
K-c プロット:超微細結合定数の決定 63Cu,17O -NMR in YBa2Cu3O6.6 Kodama et al., J. Phys.: Condens. Matter 14 (2002) L319. 63Cu,17O -NMR in YBa2Cu3O6.6 Takigawa et al., Phys. Rev B 43 (1991) 247. 11B-NMR in SrCu2(BO3)2 常磁性状態では
異方的シフト 常時性状態では超微細磁場は外部磁場に比べて遥かに小さい。シフトに寄与するのは超微細磁場の外部磁場に平行な成分のみ。 シフトテンソルの主軸を座標軸に取ると と定義すると、 1次の四重極シフトと同じ角度依存性
異方的シフトがある場合の粉末パターン 軸対称な場合(Kanis=0) 非対称な場合 (Kanis≠0)
緩和現象の例:単純金属(自由電子) 瞬間的な局所磁場の大きさ 揺らぎの速さ 遷移確率を正確に計算すると アクティブなスピンの割合(フェルミ縮退の効果) 揺らぎの速さ 遷移確率を正確に計算すると
例2:高温極限の局在スピン(短距離相関が無視できる場合) もう少し正確には
電気四重極相互作用 (Electric Quadrupole Interaction) イオン 原子核
電気四重極相互作用 (Electric Quadrupole Interaction) 静電相互作用 原子核の電荷分布 電子や周囲の原子核が作る静電ポテンシャル 電場勾配 Electric Field Gradient Wigner-Eckertの定理 Q:原子核の電気四重極モーメント Vij: (原子核位置で見た)結晶構造の対称性、電子の電荷分布(軌道波動関数)を反映する。
四重極相互作用がある場合のNMRスペクトル 1.外部磁場がない場合(NQR:Nuclear Quadrupole Resonance) I=5/2の場合 NQR周波数 各共鳴線は2重に縮退する。
I=5/2の場合 反奇数スピン:2重縮退は残るが、共鳴線が等間隔でなくなる。 整数スピン:|Iz=m>と|Iz=-m>の縮退が解け、共鳴線が分裂する。 I=5/2の場合
2.外部磁場が大きい場合:HQを摂動として扱う I=3/2の場合
粉末パターン 粉末試料の場合:q, jが分布する。 17O in Cd2Os2O7 軸対称な場合 (h=0) 非対称な場合 (h≠0)
四重極相互作用を用いて構造相転移が検出された例 Cd2Re2O7: パイロクロア酸化物で初めての超伝導体。 パイロクロア格子 Reサイトの3回対称性が破れている。 構造相転移によって低対称下
NaV2O5における電荷秩序