大学生の「生徒化」をめぐって ○武内 清 (敬愛大学) ○浜島幸司(立教大学) 第20回 日本子ども社会学会大会(於:関西学院大学)

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大学生の「生徒化」をめぐって ○武内 清 (敬愛大学) ○浜島幸司(立教大学) 第20回 日本子ども社会学会大会(於:関西学院大学) 第20回 日本子ども社会学会大会(於:関西学院大学) 研究発表Ⅰ-2 子ども研究(1) G号館 2階 204教室 2013年6月29日(土) 10:45-11:35 大学生の「生徒化」をめぐって ○武内 清 (敬愛大学) ○浜島幸司(立教大学)

1.大学生の「生徒化」の背景とそれを示すデータ <「生徒化」に関する文献> 1 岩見和彦・富田英典(1982) 「現代中学生の意識分析-『生徒化』論の可能性-」『関西大学 社会学部紀要』第14巻第1号 2 伊藤茂樹(1999)「大学生は『生徒』なのか」『駒沢大学教育学研究論集』第15号 3 浜島幸司(2003)「生徒化する大学生たち」『キャンパスライフの今』玉川大学出版 4 武内清編(2004)『12大学・学生調査』上智大学・学内共同研究報告書 5 浜島幸司(2005)「大学生は『生徒』である。それが、何か?」『上智大学社会学論集』第29号 6 武内清・浜島幸司 (2008) 「大学生は『子ども社会学』の研究対象になりうるか」 『子ども社会学研究』第14号 7 新立慶 (2010) 「大学生の『生徒化』論における批判的考察」『名古屋大学大学院 教育論叢』第53 号 8 武内清(2013年)「現代大学生論―生徒化現象」『教育展望』4月号

「生徒化」の特質 A キーワード 「受動的」、「他律的」、「閉塞的」、「子ども化」 「素直」、「真面目」、「遊び離れ」、 「勉強志向」、「学問=授業」、 「実利的」、「安定志向」、 「満足度高い」、「居場所探し」   B 内容 大学生の「生徒化」とは、 大学生が、既存の制度や大人に従順になり、目先の実利を求め、狭い分野に閉塞し、自立を志向せず、安定を求める傾向を指す。それは適応戦略でもある。

18歳人口の減少 進学率の上昇 大学入学形態の変化 (推薦入試、AO入試等特別入試の増加) 大学生の学力低下 経済不況 教育重視の大学改革 生徒化の社会的、教育的背景   18歳人口の減少 進学率の上昇 大学入学形態の変化   (推薦入試、AO入試等特別入試の増加) 大学生の学力低下 経済不況 教育重視の大学改革  

4年制大学への進学率 (全体・男女別) 1996年-2012年 高等学校卒業者数 と進学者総数 1995年-2010年 文部科学省『学校基本調査』各年度版を参照 高等学校卒業者数 と進学者総数 1995年-2010年 文部科学省『学校基本調査』各年度版を参照

大学生の学生文化の特質と大学教育   1 中高校生の生徒文化と同様の側面(勉強文化、遊び文化、反抗文化)と同時に広範な広がりと深さをもつ。 2 学生の「生徒化」により、枠の中に閉じ込められ、広がりと深化が失われ、「俗」(実利性)が追求され、自立性も失われる。 3 文部科学省の大学改革が、大学の研究より教育を重視し、各大学も、「学校化」の施策を工夫し、教員も職員も、学生に手厚い教育&指導を行うようになっている。 4 学生は、生き残り戦略として「生徒化」を使用する場合もある。

学生の「生徒化」を示すデータ 図1 大学生の生活の重点 (全国大学生活協同組合連合会,2012)

図2 大学&大学の人間関係満足度 (全国大学生活協同組合連合会,2012)

図3 一日当たりの平均読書時間 (全国大学生活協同組合連合会,2012)

学生文化の4類型  武内編(2003)『キャンパスライフの今』p.170

 武蔵太郎君の一日 (1970年代末)

「武蔵太郎君の一日」に対する学生のコメント(2012年、2013年) A大学   A大学 「すごくだらしない生活、全く自分の為にならない」「生活のリズムが乱れている」「はたしてはこんな生活をしていていいのか」「大学に行っている意味が分からない」「両親に申し訳ない」「しっかりバイトしてお金を稼げ」 B大学 「この物語の中で、彼が勉強している姿はひとつもない」「だらしがない。現代の大学と過去の大学とでは大きな溝があるように感じる」「非常に腹がたった。何の為に大学に行っているのかと、つい聞きたくなってしまう」「授業料の無駄をしている。将来的に苦労するのではないか」「講義に出ても寝ているのでは意味がない。大学で学ぶべき知識や教養などの少し専門的なものが欠けている」「高い学費を払っている両親の気持ちを考えると意識を変えるべき」「これでは、学校に通っている意味は分からないし、毎日がこの繰り返しであれば、本当につまらない生活だと思います」「何の為に、大学に来ているのかわかりません。大学に通っている本来の目的を根本から見つめ、意識を変えることが大切である」「学生であるという自覚が全く見られない」「太郎君のような学生は、もっと勉学に励んだり、バイトを、目標をもって生活をするべきだと思います」「私はもう少し為になることをして生活したい」「こういった大学生活を送っていては、今の私たちは不安になるのではないか」

つづき B大学 「私たち生徒は、もっと自分に厳しくすべきだと思う」。「怠惰な生活を送る友人に囲まれると自分まで怠惰になってしまう」「このような楽な大学生活を送ってきた人達が自分たちの上司になるかと思うと嫌な気分になる」 「今21世紀を生きる私の周りにもこのような堕落している大学生はたくさんいる。私はこのような人を見て軽蔑さえする」「こうゆう人多い。楽しい今ということしか重要視せず、将来を長い目で見ることができていない」「学生らしいと言えば言える。麻雀をして生きている。アルバイトもサークルなどしない。講義に出る気がない」「これが、世間が想像しているいわば大学生のステレオタイプなのだろう」 「この漫画は少し極端ですが、実際このような学生がほとんどだと思います」「大学生の一日は昔も今も、そう変わっていない」「現代の大学生とやっていることはほとんど同じ。それにしても全く勉強しない」「現代の大学生でも普通にあること」「就職の心配もない。だから毎日をただ思うように過ごせばいい時代」「私たち大学生からすれば特に異端な学生とは言えない」「こんな大学生はたくさんいるし、特に珍しいとは思いませんでした」「今の大学生と変わらないと思う。この4年間でどれだけ自分の為になる時間を過ごすかで、卒業後の将来が大きく変わるのではないかと考えさせられる」「「大学生になったら、親や教師に指図されるのではなく、学生自身で考えて行動していくべきだと強く考えます」

2.大学在学時間にみられる大学生の「生徒化」 (1)問題と分析枠組み 「大学生は一日のうちどのくらい大学に居るのか(大学滞在時間)」という量的側面 小・中・高校と「生徒」時代は、平日の朝から夕方(ときには晩)まで、学校に居る 大学に入ると・・・ 大学滞在時間については、実態を含め明らかにされていない 大学滞在時間の紹介は、全国大学生活協同組合連合会(2013)が集計結果を示しているものの、詳細に検討した研究は、ほとんどない。生協調査以外の調査からについては、Benesse教育研究開発センター(2013)、および、岩田・北條・浜島(2001)による簡単な結果報告がなされている。 <本報告の流れ>  ① 現時点の実態を提示:「生徒」時代の生活と違いがみられるのかどうかを検討  ② 過去のデータとの比較  ③ 大学滞在時間の分析から、大学生の「生徒化」をどう読むか

属性、回答別による平均値を提示・紹介し、検討指標とする (2)使用するデータと質問項目 使用する調査データ 全国大学生活協同組合連合会(Univ.co-op)が実施している「学生生活実態調査」の個票データを使用する(大学院生の回答は除く)。 大学入学ランクとして中より上に位置する大学生のものであると留意 ①「1996年(第32回)」、②「2001年(第37回)」、③「2006年(第42回)」、④「2011年(第47回)」の4回分とした。調査時期は、各回とも10~11月である。 1996年から5年間隔で2011年までの15年間の変化 分析サンプルは、「1996年(第32回)」は16564名、「2001年(第37回)」は12788名、「2006年(第42回)」は18204名、「2011年(第47回)」は16885名である。 大学滞在時間 調査を実施した当日の「登校(大学に到着した)時刻」と「下校(大学を出た)時刻」を質問がある →「下校時刻-登校時刻(=大学滞在時間)」として、時間ではなく分に換算・集計 属性、回答別による平均値を提示・紹介し、検討指標とする

(3)2011年の大学滞在時間 表では「分」を時間換算にしている (3)2011年の大学滞在時間 表では「分」を時間換算にしている (浜島・谷田川,2012:55)

(4)大学滞在時間の推移 全体・男女別 15年間で約50分滞在時間が平均で増えている

学部(専攻)別

学年別

設置形態別

通学形態別

1996年から2011年まで一貫して 大学滞在時間は増加している <小括> 15年間のデータを分析すると  1996年から2011年まで一貫して  大学滞在時間は増加している ⇒大学を中心とした「学校化」した生活 属性による差異は1996年時点からあるが、2011年に至るまで全体的に増加している 以降、属性以外 (生活の重点、授業コマ、大学満足度)の分析

「生活の重点」別 大学滞在時間 勉強第一 サークル第一 ⇒もともと長く居る 趣味第一 ほどほど ⇒伸びてきている お金第一      大学滞在時間 勉強第一    サークル第一  ⇒もともと長く居る 趣味第一 ほどほど  ⇒伸びてきている お金第一  ⇒15年で39分増 以前から内部差  ⇒全体的に増加

その日の授業コマ数別 調査年下の()は全体平均履修コマ[0コマ含む]

前出の授業出席時間を除いた大学滞在時間 (授業時間分[1コマ90分]を引いた)0コマ除く

大学が好き(回答の変化)% 好き⇒増える 嫌い⇒減る

「大学が好きか」別大学滞在時間 好き⇒長く居る 嫌い⇒短くならない 好き

大学生活充実度(回答の変化)% 充実 ⇒増える 充実して いない ⇒減る

「大学生活充実度」別大学滞在時間 充実 している

大学滞在時間を規定する要因:重回帰分析

・2011年の大学滞在時間の平均は7時間30分 ・1996年の平均と比較して、約50分増加 ・授業中心 (5)まとめ ・量的側面から長く大学に居る大学生:「居場所としての大学」 ・授業中心  ⇒主体的に学んでいるとしたら「生徒」ではないかもしれない しかし  「大学が嫌い」「学生生活に充実していない」学生の  大学滞在時間も増加している   ⇒受動的に学校生活を送る大学生(「生徒」と変わらない) さらに、主体性の有無のほかに  ⇒学内に長時間居る環境の整備・改善・充実の側面もある    (カリキュラム、施設、課外活動など)

<参考文献> 「生徒化」に関する文献 以外 Benesse研究開発センター,2013,『第2回 大学生の学習・生活実態調査報告書』,研究所報vol.66,Benesse研究開発センター. 浜島幸司・谷田川ルミ,2012,「大学生活の充実度の分析」全国大学生活協同組合連合会,『バブル崩壊後の学生の変容と現代学生像』,全国大学生活協同組合連合会,pp.48-66. 岩田弘三・北条英勝・浜島幸司,2001,「生活時間調査からみた大学生の生活と意識-3大学調査から-」,『大学教育研究』,第9号,神戸大学 大学教育研究センター,pp,1-29. 全国大学生活協同組合連合会,2012,『バブル崩壊後の学生の変容と現代学生像』全国大学生活協同組合連合会. 全国大学生活協同組合連合会,2013,『CAMPUS LIFE DATA 2012(学生生活実態調査報告書)』全国大学生活協同組合連合会.