北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/ 地球惑星科学II 気象学事始(1/3) 北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/
気象学事始(全3回) 第1回目 第2回目 第3回目 大気の概観・気候の形成 日本の四季 大気大循環の様相 様々な気象現象 大気の観測 大気運動の原理 数値予報の基礎 参考文献 ・「一般気象学(第2版)」 小倉義光、東京大学出版会 ・「新気象読本」 新田尚、東京堂出版 ・「改訂版 流れの科学」 木村竜治、東海大学出版会 ・「新 教養の気象学」 日本気象学会編、朝倉書店 ・「天気図の歴史」 斉藤直輔、東京堂出版 (その他多数) 教科書「地球惑星科学入門」の該当箇所は、第18・22章
1.大気の概観 1997年8月 台風“Winnie” スペースシャトル Discovery 高度300~500 km 2000年4月 http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/archivepix.html 2000年4月 タイ~カンボジア国境付近の積乱雲 旅客機にて、高度10 km 地球の平均半径:6371 km ≫ 雲の最大到達高度:10~16 km(対流圏界面) エベレスト:海抜9 km弱、 海洋の平均深度:4 km(最深部~10 km) オゾン層のある成層圏:10~50 km、 オーロラ出現高度:100 km付近が頻度最大 我々は大変薄い大気の底に住んでいる
大気の温度構造 [熱圏] 数100kmにわたり極めて高温(分子運動活発) ただし、空気は希薄(気圧極低) 電離層の存在、オーロラの存在 (太陽からのプラズマ粒子が大気分子に作用) [成層圏・中間圏] オゾン層が存在し太陽紫外線を吸収 気温極大層を形成 ・雲は基本的には存在しない ・対流活動がない代わりに波動活動あり ・火星や金星にはオゾン層がない 気温極大層ない (ジャンボジェット機 ~ 10-11 km) [対流圏] 気温減率 ~ 6℃/1 km 鉛直対流運動活発 雲(積乱雲)が存在 (0℃=273K) (小倉義光著、一般気象学、東京大学出版会)
大気の組成分布 大気の主成分: N2(78.084%)、O2(20.946%): 長波放射(赤外線)と相互作用しない、化学反応しない 0.01 0.1 地球大気の主成分 窒素分子N2(混合比0.78、過去の火山活動により固体地球から供給) 酸素分子O2(混合比0.21、光合成を行う生物により生成) 他の地球型惑星: 火星(地表10hPa): CO2(0.93), N2(0.06) 金星(地表90,000hPa):CO2(0.96), N2(0.034) 地球大気の微量成分( H2O、CO2、O3などなど) (1)温室効果気体としての役割 長波放射(赤外線)(地表面・大気温度)と相互作用 地球の温度構造を決める(いわゆる温室効果気体) (2)オゾン層 O3(およびO2)は太陽紫外光を吸収 成層圏・中間圏(温度構造)を形成 地表生態系を保護(大気の進化と生物の進化) (3)水と雲 H2Oは地球温度環境下で活発な相変化潜熱は大気循環の駆動源のひとつ。 雲と放射の相互作用 地球の温度構造 (4)大気化学 オゾン層破壊の問題、大気汚染の問題 対流圏におけるO3、NOx、CO、SO2、CH4、各種有機物等々 “大気汚染”(光化学スモッグ、酸性雨)、大気の酸化能(洗浄能力) 大気微量成分は、気候変動・環境問題において重要な役割を果たしている (北海道大学大学院環境科学院編、オゾン層破壊の科学、北海道大学出版会) 大気の主成分: N2(78.084%)、O2(20.946%): 長波放射(赤外線)と相互作用しない、化学反応しない 大気の微量成分: 短波放射・長波放射と相互作用する、化学反応する (紫外線・可視光線・近赤外線)
2.気候の形成 地球の自転と公転 太陽地球間距離: 1.47×108 km 1.52×108 km 太陽地球間距離: 1.52×108 km 1.47×108 km (J. Williams, The Weather Book, 1997) 地球の自転と公転 放射(光・電磁波)の観点: 昼と夜(1日)、春夏秋冬(1年/季節) 力学の観点: コリオリ力・遠心力(渦巻運動等)、潮汐(海洋、大気) 1 day (太陽で測る1日、1年平均)= 24 h 1 sidereal day (恒星で測る1日、春分点)= 23 h 56 m 4.090530833 s http://ja.wikipedia.org/wiki/ (自転)
短波放射(太陽放射)と長波放射(地球放射) 放射=光=電磁波: 真空中を光速約3x108 m/sで進む電磁波。波動性と粒子性(“光子”)の二面性を持つ。 波長により名称・利用法等が異なる (μ=10-6, T=1012, G=109, M=106, k=103) 例: X線(レントゲン)、紫外線(日焼け)、紫外・可視・近赤外(太陽光)、赤外線(暗視カメラ、地球放射)、 マイクロ波(電子レンジ)、電波(テレビ、ラジオ、携帯電話(800MHz, 1.5GHz, . . .)) プランクの法則 物体は自分自身の温度に対応した光・放射(波長・エネルギー)を出す (色(=波長)で温度が分かる、高温ほど短波長) <例> 太陽(恒星)、白熱電球 : 紫外線~可視光線~近赤外線 人間、動植物、地球大気・地表: 赤外線 宇宙背景放射(3K)ビッグバンの名残り : マイクロ波(~1mm、~300GHz) (19世紀末、鉄鋼業の発展(溶鉱炉)やエジソンによる白熱電球の発明)
短波放射(太陽放射)と長波放射(地球放射) 地球大気・地表系のエネルギーの源は太陽からの光である 太陽放射(短波放射): 太陽表面温度5800K (0℃=273K, 5800K~5500℃) 紫外線(<0.36μm) (μ=10-6) : O3層などにより吸収 可視光線(青:0.48μm、緑:0.53μm、赤:0.7μm): O2やN2等により一部散乱 他は地表を暖める 近赤外線(1~5μm) : H2Oなどにより一部吸収 (太陽11年周期変動にともなう“全太陽放射照度”の変化は0.1%程度。紫外線域に限ると1.5%程度。 cf. 黒点数変動。) (太陽の変動は地球温暖化(~100年)の原因ではない。太陽・地球間の距離の変動は、数万年scaleの気候変動の要因。) 地球からも宇宙へ光の形でエネルギーを捨てることで、 エネルギー収支を保っている(温度をほぼ一定に保っている) 地球放射(長波放射): 地表・大気温度200~300K 赤外線(5~100μm): 温室効果ガス(H2O, CO2, O3, . . .)により吸収・射出 下向き射出分の一部が再度地表を暖める(温室効果)
地球大気・地表系のエネルギー収支 ・短波放射エネルギーのうち: 3割:雲・大気・地表面により宇宙へ反射(“散乱”) 3割:雲・大気・地表面により宇宙へ反射(“散乱”) 2割:大気(微量)成分( O3、H2O、雲、塵・ダスト・エアロゾル)により吸収(大気を加熱) 5割:地表面に到達し地表面を加熱する ・大気微量成分( H2O、CO2、O3、CH4、N2O、フロンなど)や雲やエアロゾル: 赤外線を吸収・射出する性質(温室効果=赤外線閉じ込め効果)を持つ 大気からの下向き長波放射も地表面を加熱(短波放射の2倍の加熱量!) 地表温は大気がない場合よりも昇温している(-20℃ +15℃) (地学図表、浜島書店)
大気による太陽光の散乱と空の色・雲の色 大気分子(0.1nm)による太陽光散乱 “レイリー散乱”過程 ・強度は波長の4乗に反比例 ・赤い光よりも青い光の方が 5倍近く強く散乱される 雲粒子(10-100μm)による太陽光散乱 “ミー散乱”過程 ・波長依存性弱い 白色 1996年9月 イタリア・ヴェネツィア (運河都市、迷路の街) 2004年12月 ミクロネシア連邦・チューク (熱帯西太平洋、グアムの南、北緯7度)
温室効果: 大気分子による赤外線閉じ込め効果 温室効果: 大気分子による赤外線閉じ込め効果 3原子以上の分子(H2O、CO2、O3、CH4、N2O、CFCなど)は、振動・回転状態の 遷移に伴い、固有の波長の赤外放射を吸収・射出する性質を持つ 地表から出た赤外放射は、大気中の上記分子に吸収・射出を受け、一部は地表を 再度暖める(温室効果)結果的に地表温は大気がない場合よりも上昇している。 “空気塊”の図 CO2 : 15μm帯 O3 : 9.6μm帯 H2O : 6.3μm帯、 回転帯(>10μm) (北海道大学大学院環境科学院編、オゾン層破壊の科学、北海道大学出版会)
地球の気候を決める 基本定数および物理・化学過程 太陽定数(太陽表面温度、地球・太陽間距離(地球公転軌道)) 地球公転速度、地球自転軸と公転面の傾き(“地球軌道要素”) 地球半径・質量、自転速度 重力とコリオリ力(転向力) 大気総量、大気組成(温室効果気体、エアロゾル、雲) 気温気圧分布(大気安定度)、水蒸気量(潜熱)、粘性(乱流) 地表面状態(海陸、植生、雪氷等の分布 放射的、熱的、力学的特性) 大気海洋相互作用、大気陸面(生物圏含む)相互作用、 大気雪氷相互作用、海氷海洋相互作用 海洋深層循環 火山噴火、隕石衝突… 気候変動には様々な周期成分がある 様々な過程・“外力”変動が関わっている 地球軌道要素/太陽定数: (例えば)数万年~数十万年、他様々 海洋深層循環(熱塩循環): (例えば)数百年~数千年~数万年 大気海洋(海表)相互作用、大気陸面相互作用: (例えば)数年~数十年 温室効果気体の変動: (例えば)数十年~数億年
日本の四季 日本はおおむね温帯に位置し、春夏秋冬のいわゆる四季が明瞭に現れる。 冬は日本海側での降雪、太平洋側の晴天が比較的良く出現する。地上天気図では、日本の東海上に発達した低気圧、大陸上に優勢な高気圧がある。このとき、大陸から吹き出す冷たく乾燥した空気は日本海上で水蒸気の補給を受け、日本海側の地方に降雪をもたらす。 一方、夏、特に真夏には全国的に晴天となり、日最高気温が30度をこえる。地上天気図では、日本付近は太平洋高気圧に覆われる。時として、積乱雲による雷雨が発生することがあるが、おおむね晴天が継続する。 春や秋には、低気圧や移動性高気圧が交互に通過していく。低気圧の通過前には南風が強まり気温が上昇し、通過後は北風が強まり気温が低下する。このような寒暖を繰り返しながら、春から夏に向けて次第に気温が上昇し、夏から秋に向けて低下する。 春から夏への季節の変わり目には、梅雨と呼ばれる特徴的な時期がある。この期間は、西日本での多雨ばかりではなく、東日本での低温・寡照などの特徴がある。梅雨前線の形成には、チベット高原と偏西風、太平洋高気圧の関係など地球規模の大気の循環が関係している。同様な前線は初秋にも現れ、秋雨(あきさめ)前線と呼ばれる。 夏から秋にかけては、南海上から北上してくる台風により日本付近の天気が大きく影響を受ける。 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-2-1.html
冬 冬は日本海側での降雪、太平洋側の晴天が比較的良く出現する。地上天気図では、日本の東海上に発達した低気圧、大陸上に優勢な高気圧がある。このとき、大陸から吹き出す冷たく乾燥した空気は日本海上で水蒸気の補給を受け、日本海側の地方に降雪をもたらす。 いわゆる「西高東低の冬型の気圧配置」
夏 真夏には全国的に晴天となり、日最高気温が30度をこえる。地上天気図では、日本付近は太平洋高気圧に覆われる。時として、積乱雲による雷雨が発生することがあるが、おおむね晴天が継続する。 2007年8月
春や秋 春や秋には、低気圧や移動性高気圧が交互に通過していく。低気圧の通過前には南風が強まり気温が上昇し、通過後は北風が強まり気温が低下する。このような寒暖を繰り返しながら、春から夏に向けて次第に気温が上昇し、夏から秋に向けて低下する。 2007年5月26日(土)奄美遅い梅雨入り 低気圧は東海上に抜け西~東日本は晴れ間が戻ったが、北日本は別の低気圧の影響で曇りや雨。沖縄~東北の広範囲で黄砂。奄美地方で梅雨入り。統計開始以来最も遅い発表。 (http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html)
梅雨・秋雨 春から夏への季節の変わり目には、梅雨と呼ばれる特徴的な時期がある。この期間は、西日本での多雨ばかりではなく、東日本での低温・寡照などの特徴がある。梅雨前線の形成には、チベット高原と偏西風、太平洋高気圧の関係など地球規模の大気の循環が関係している。同様な前線は初秋にも現れ、秋雨(あきさめ)前線と呼ばれる。 2007年7月7日(土)九州や八丈島で大雨 梅雨前線が九州から本州南岸に停滞。熊本県八代市平山新町で76.5mm/1hの非常に激しい雨。熊本県では1万人に避難勧告。日本海の高気圧に覆われた北日本は概ね晴れ。 (http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html)
台風 夏から秋にかけては、南海上から北上してくる台風により日本付近の天気が大きく影響を受ける。 2007年7月13日(金)暴風と大雨 台風第4号は沖縄本島付近を北上。沖縄県や鹿児島県で最大瞬間風速が50m/s を超える。那覇市で東南東56.3m/s。宮崎県西都市で84.5mm/1h、日向市で84mm/1hの猛烈な雨。 (14日台風第4号は大隅半島に上陸。 15日台風第4号は潮岬付近から伊豆諸島神津島付近を通過し東海上へ。 16日柏崎市などで震度6強。新潟県中越沖地震と命名。本震(M6.8)発生後も大きな余震続く。台風一過の晴れ は束の間。全国的に曇りの所が多く、上空に寒気の入った中国地方は雷雨。)(http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html)
まとめ: 気象学事始(1/3) 大気の概観 気候の形成 日本の四季 地球の自転と公転 短波放射(太陽放射)と長波放射(地球放射) まとめ: 気象学事始(1/3) 大気の概観 気候の形成 地球の自転と公転 短波放射(太陽放射)と長波放射(地球放射) 地球大気・表層系のエネルギー収支 散乱過程 温室効果 日本の四季