地球惑星科学II 宇宙論(1/4) ー自然哲学から自然科学へー

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地球惑星科学II 宇宙論(1/4) ー自然哲学から自然科学へー 北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/ 単に最新知識・理解を知るだけではなく、過去の人々の    思考の経緯をたどることで、より深い理解を目指す。 後半の気象学・海洋学・地球温暖化を学ぶ際の背景知識。

宇宙論 ー 自然哲学から自然科学へ ー 天体現象の観察の時代 自然哲学の時代 地球中心説(天動説)から太陽中心説(地動説)へ 宇宙は有限か無限か、定常か非定常か 膨張宇宙の発見 ビッグバン宇宙と物質・力の起源 宇宙論(宇宙をどう理解?)の変遷の歴史から科学の誕生と成長を見る ― 科学とは何か   夜空の観察科学の起源?(なぜ夜空から始まった?)   様々な世界認識(人はいろいろなことを考えますが…人類の起源、宇宙の構造、など)   個々人の思想・宗教観・イデオロギーから実験科学・実証科学へ   極限の世界へ(量子論、素粒子論、相対論、宇宙の始まりと果て)   現代的観測技術の発達と現代科学(現代の科学者とは何か)、現代の世界認識   ― このようなことを考えるきっかけに ― 参 考 文 献   :「宇宙論のすべて」 池内了著 (新書館) (教科書の他に)    「物理学と神」 池内了著 (集英社新書)              「はじめての地学・天文学史」 矢島道子・和田純夫編(ベレ出版)              「宇宙像の変遷と科学」二間瀬敏史・中村士著(放送大学教育振興会)              「宇宙は何でできているのか」村山斉(幻冬舎新書)

天体現象の観察の時代 どうして人はそんなに一生懸命夜空を観察していたのか? (どうして科学は天文から(気象でも地震でもなく)始まったのか?) “天球”上の恒星・太陽・月の規則的な運動の発見 暦(カレンダー、時計):     太陽・恒星の動き1日、1年。月の満ち欠け約1ヶ月 測量(星図から地図へ:緯度・経度の決定)  農業、航海・旅行等のための実用天文学; 政治の道具としての天文学  「法則にのっとった“完全”な宇宙」という考え方の発生 星図の中を不規則運動する星、惑星の発見(逆行運動など) 星図の各種不規則性の発見(ヒッパルコス、BC150年頃)      春分-秋分(夏)と秋分-春分(冬)の時間差地球の公転軌道が楕円であるため      春分歳差(1年に角度45秒ずれる地球自転軸の2.6万年周期の歳差運動のため             ギリシャ時代(ヒッパルコスが黄道12宮決定)と現代とでは星座ひとつ分ずれている!)  2000年以上かけて、宇宙における地球の位置付けに関する正しい認識へ

“天球”の“星図”上の太陽の動き(暦) [地学図表より] 図に注意:あくまで天動説(24h-4mで1周)で。太陽をひとつの恒星とした時の星図上の位置。太陽の位置+/-6hでは当然星は見えない。                  (自転+公転の効果)  (BC150年頃にヒッパルコスが「黄道12宮」を定めたが、その後地球の歳差運動により1星座分ずれた)

惑星(planetギリシャ語のπλαναω(planeo、放浪する))とその逆行運動 [地学図表より] 相互の位置関係を変えない恒星(星座という発想へ)に対して、特に惑星は大変変則的な運動をしているように見える。 (惑星の軌道面はほぼ一致しているため、地球から見ると惑星はほぼ黄道上を動く。ただし、惑星によって、赤経位置や 動き方(順行、留、逆行)は大きく異なる。現代では左下図がさらりと描かれるが、この描像を得るまでに何千年も。) *内惑星(水星、金星)は太陽から一定角度以内、外惑星(火星、木星、土星、…)は上図のように太陽から大きく離れる

惑星(planetギリシャ語のπλαναω(planeo、放浪する))とその逆行運動  [内惑星(水星、金星)は常に太陽の近くにいるが不規則運動を示す] [天文年鑑2005(誠文堂新光社)より] “Mercury Over Leeds”   2004年3月17日~4月5日。日没33分後。   月は、3月22日のもの “A Picturesque Venus Transit ”   金星の太陽面通過 写真はいずれも http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/archivepix.html より

宇宙創生神話と古代宇宙論 [宇宙論のすべて、より] 宇宙創生神話と古代宇宙論 [宇宙論のすべて、より] ・古代人の宇宙創世神話-宇宙は何から生まれたか ・主要なタイプは6つ  創造神(聖書等)、原人/世界巨人の死体(インドのリグ・ヴェーダ)、  宇宙卵(フィンランドのカレワラ)、世界両親(古事記等)、原初の海等、海底泥  多くは比較的身近な現象からの類推か(“創造神”だけは抽象的?)  共通する観念は「混沌(カオス)から秩序(コスモス)へ」 ・古代の宇宙論(四大文明における宇宙論)  エジプト:深淵、無限、暗黒、不可視である“原初の水・ヌン神”が宇宙を創造  メソポタミア:地下水・大地・天の三層構造から天三層・地三層の六層構造へ   (イラク付近)  層を支える“宇宙の網”と層間を移動するための“宇宙の梯子”  インド:宇宙の中心に山(須弥山・シュミセン/メール山/シネール山)       仏教: 時間には初めも終わりもないが、永遠もない       ジャイナ教: 昇りの時代と降りの時代を繰り返す       ヒンドゥー教: 大火・洪水の繰り返しののち空虚へ        転生輪廻と世界の消滅(ハルマゲドン)という考え方へ集約  中国:BC4C~AD2C(前漢・後漢):3つの代表的な学説 (比較的抽象的?)     蓋天説:天は半球型の蓋(バビロニアからシルクロード経由?)「天円地方」     渾天説:天は丸く(卵殻)、地も丸い(卵黄)(鶏卵宇宙)     宣夜説:天は無限・虚空、太陽・月・星は虚空に浮かび“気”により運動           (宣教師によりヨーロッパへ。ガリレオの宇宙像に影響(?)) ・その後の東洋世界 (統治者が利用するための実用天文学の側面が強かった)  天体の規則運動よりも不規則・突発現象への興味:「天行不斉」「天の命を知る」  彗星、流星、日食・月食、新星など(天変)が地の異変を予言するという考え方 ・日本では古くから、 天の異変を監視する役所(陰陽寮/天文博士)と  毎年暦を改定する役所(暦博士)。実際には中国から伝わった暦の移し変え。  江戸時代に入り日本人独自の暦。江戸の天文学者は実用天文学のみ。   渋川晴海 [宇宙論のすべて、より]

渋川晴海: 江戸時代の天文暦学者、碁打ち衆 渋川晴海: 江戸時代の天文暦学者、碁打ち衆 渋川晴海(安井/保井) 1639~1715 関孝和(和算)と同時代 冲方丁「天地明察」 角川書店 (2010年・本屋大賞第1位) 国立天文台・図書室・ 貴重資料展示室 http://library.nao.ac.jp/kichou/open/ (第6, 41-43回) 葛飾北斎「富嶽百景」浅草鳥越の図 (浅草天文台 1782~ の渾天儀)  宣明暦(唐で822~892、日本では862~1685に使われた) 授時暦・大統暦(元・明で1281~1644に(改訂されつつ)使われた)  江戸時代には宣明暦には2日のずれが生じており、月食や日食の予報外すようになっていた 渋川晴海は、20代前半に日本各地での天文(緯度)観測に参加。 その経験により、中国の比較的最近の授時暦採用を提案するも、授時暦もすでに古く、食予報外す。  晴海独自の大和暦(授時暦の独自改訂)を作成、1684年、「貞享暦」として朝廷により採用される (改暦は、権力・宗教・政治・文化・経済に密に関わる  「天地明察」p.305-309)

自然哲学の時代 (1/2) 東洋世界では: 統治者が利用するための実用天文学 天体の規則運動よりも不規則・突発現象への興味 東洋世界では: 統治者が利用するための実用天文学         天体の規則運動よりも不規則・突発現象への興味 いっぽう、ギリシャの自然哲学者達(BC600~AD200):    「自然現象の解釈に神話でなく合理的精神を」 ピタゴラスの弟子のピロラオス    宇宙の中心に火があり、地球や太陽はその周りを回る    (地球は動き宇宙の中心ではないコペルニクスへ) プラトンの弟子のエウドクソス(ユードクソス)    初めて星図を作る。地球を中心とする同心天球説    アリストテレスの地球中心説(天動説)へ アリスタルコス    太陽の大きさを推定(のちほど)    地球と太陽の大きさの比較から、太陽中心説(地動説)を提唱    (コペルニクスの登場まで忘れ去られる)

自然哲学の時代 (2/2) アリストテレス(諸学問を体系化。後世に多大な影響を与えた偉大な自然哲学者)    「目的論的自然観」:全ての物事には目的がある (vs. 機械論的自然観)    2000年近く支持された地球中心説(天動説)宇宙論 (エウドクソス説を発展)    地球を中心に、月・水星・金星・太陽・火星・木星・土星、そして恒星天球=宇宙の果て     月下圏:土・水・空気・火の四元素。生成消滅。直線上の往復運動(不完全な世界)     月上圏:第五の元素エーテル(“真空”を否定)(cf. 1887年マイケルソン・モーレーの実験)           完全な世界。永久に続く円運動。           惑星は円運動するという先入観の原因に     ・地球が丸いこと論証(地平線と星、水平線と船、月食時の地球影)     ・アリストテレスの自然学・宇宙論と中世ヨーロッパ(“暗黒時代”)      キリスト教の権威・政治権力とアリストテレス        トマス・アクィナス「神学大全」(1225-1274。ヨーロッパ中世のキリスト教文化期)        ダンテ「神曲」(1265-1321。イタリア・ルネッサンス期)      大学、スコラ学者=アリストテレス体系の注釈者     ・生物学の祖でもある:「動物誌」 観察と分類 プトレマイオス(トレミー)「アルマゲスト」          ギリシャ天文学集大成(後述) (天王星は1781年、海王星は1846年、冥王星は1930年に発見) [左の月食連続写真は、http://www.ne.jp/asahi/stellar/scenes/ より

地球と月と太陽の大きさを測る -幾何学の利用- (1/3) ・地球の大きさ: エラトステネス(BC 3世紀) 前提: -幾何学の利用- (1/3) ・地球の大きさ: エラトステネス(BC 3世紀) 前提: 宇宙とは、3次元空間内にある一組の天体群からなる 幾何学により、宇宙を測ることができる 大地はほぼ球形である 宇宙は広大で太陽は遠方にある(太陽光は平行光線)  エラトステネス(および当時の古代ギリシャ人)の 宇宙観により、「棒の影の長さ」を「地球の大きさ」 に結びつけることができた!  ロバート・P・クリース 青木薫訳  「世界でもっとも美しい10の科学実験」 日経BP社  第1章 世界を測る [地学図表より]

地球と月と太陽の大きさを測る-幾何学の利用-(2/3) ・月と太陽の大きさと距離: アリスタルコス(BC 270年頃)   (0)地球の大きさとしてエラトステネスの値を用いる   (1)月食時の地球の影の大きさ地球と月の大きさの比(1:0.36)       月の大きさ(実際は0.27(衛星としては巨大))   (2)月を見込む視角月と地球の距離(地球直径の9.5倍実際は30.2)   (3)半月の時、地球と月と太陽は直角三角形(月で直角)月-地球-太陽の角度 (87度89.5度)から地球と太陽の距離(地球の直径の180倍11726倍)   (4)日食の時、太陽と月はちょうど重なる太陽と月の大きさの比は距離の比と同じ      太陽の大きさ(地球の6.7倍実際は109倍)  (太陽・月の視角は約0.5度)   測定誤差により月の大きさ以外は間違えたが、太陽が地球よりずっと大きいこと判明   太陽中心説(地動説)を提唱(16世紀のコペルニクス登場まで忘れ去られる) [矢島・和田より]

地球と月と太陽の大きさを測る-幾何学の利用-(3/3) [地学図表より] ・月までの距離をより精度良く測定: ヒッパルコス(BC 150年頃)                     (地球自転軸の歳差運動を発見・黄道12宮決定)   地球上の遠く離れてはいるが距離の分かった二点での視差を利用   地球の直径の30倍と見積もった(現在の観測値に大変近い)

2009年7月22日の皆既日食 http://www.jma.go.jp/jma/index.html

http://www.jma.go.jp/jma/index.html

地球中心説(天動説) 宇宙の中心に地球をすえるか、太陽をすえるか (現在の認識では、宇宙には中心も端もない?)    (現在の認識では、宇宙には中心も端もない?) 秩序だった恒星の世界、大地が動くことへの違和  直感的には地球中心説(天動説) 無視できない例外として、太陽、月、そして惑星の存在  やがて、太陽中心説(地動説)へ 太陽は、恒星の間を(“星図”の中を)西から東へ動く(“順行”)(“黄道”―1年で1周)    (cf. 月の場合は“白道”: 黄道から傾き5度つまり自転面でなく公転面。27日で1周。黄道との交点18.6年で天球を1周)    ただし、角速度は一定でない: 太陽は、1月に速く、7月にやや速く、4、10月に遅い   “均時差”(季節により1日の長さが異なる-2月(短)と11月(長)とで30分)の問題に対応       (太陽(“視太陽時”)とは独立な“機械時計”が発明されて初めて発覚)     地球が楕円軌道を描いて太陽のまわりを公転していること、自転軸が傾いていること 惑星は、ほぼ黄道(太陽軌道)を動く(南北8度以内)が、静止した(“留”)のち逆行することもある 赤経方向については、水星と金星(内惑星)は太陽から一定角度以上は離れないが、火星、     木星、土星(外惑星)は太陽位置には一見関係なく大きく動く 特に金星と火星は明るさ・大きさが(従っておそらく距離が)大きく変化する

地球中心説の工夫 -プトレマイオス(トレミー)理論を少しだけ- 地球中心説の工夫 -プトレマイオス(トレミー)理論を少しだけ- [二間瀬・中村] 通称「アルマゲスト」:地球中心説に基づいたギリシャ天文学の成果の集大成 「惑星の動きは等速円運動の組み合わせで表現されるべきである」(プラトン) 「自然は真空のような無意味な空間は持たない」(アリストテレス) 「惑星の動きを数学的に詳しくより正確に記述できればよい」 内惑星と外惑星の天球上の動き方の大きな違いを説明 金星や火星の明るさ、したがって、距離の違いを説明

太陽中心説(地動説)は何故否定されたかー科学的議論 ・ヒッパルコス:  「地球や他の惑星が太陽の周りを円運動しているとするならば、惑星運動の見かけ上   の不規則性が説明できない」(コペルニクスがのちに同じ困難に直面ケプラー)    楕円運動、自転軸の公転面からの傾き、他の惑星の重力の影響 ・プトレマイオス(トレミー):  「そもそも、自身の導円・周転円理論でだいたい説明できてしまう。」  「地球の自転は日常経験に反する。なぜなら、40,000km/day~460m/sなので   雲や鳥は西へ流されてしまう」    角運動量保存、地表摩擦 ガリレオの相対性原理     1851 フーコーの振り子 ・年周視差(季節による恒星の見 える方向の変化)が検出されない   恒星は大変遠方にあり    年周視差は大変小さい    (1秒(1/3600度)以下。    1838年に望遠鏡を用いて    ようやく測定される) [地学図表より]

まとめ ー 宇宙論(1/4) ー 天の観察:天球の星図(恒星・星座) 太陽と惑星(外惑星、内惑星)の天球上における動き方 古代宇宙論・神話   太陽と惑星(外惑星、内惑星)の天球上における動き方 古代宇宙論・神話 ギリシャ時代の自然哲学   太陽中心説(地動説)と地球中心説(天動説)   幾何学と地球・月・太陽の大きさ・距離測定   プトレマイオス(ギリシャ天文学集大成)   アリストテレス(自然学の体系化) 地球中心説(天動説)の工夫 太陽中心説(地動説)は何故否定されたのか   (科学の議論のやり方)