共通価値(CSV)の戦略研究 ―ヤマト運輸を中心に― 国際経営論A報告レポート 共通価値(CSV)の戦略研究 ―ヤマト運輸を中心に― 経営学研究科 李特 2017年8月3日
CSRの弱点 戦略的CSRの基本フレーム 守りの論理とは、企業が社会に存在し企業活動を営む中で、社会に負の影響を及ぼさないように予防するための取組としている。 一方で、攻めの論理とは、企業が社会に存在し、企業活動を営む中で社会に正に影響をもたらす取組と定義している。 出所:野村総合研究所。2005年
CSVとは 社会問題の解決と企業の利益、競争力向上を両立させ、社会と企業の両方に価値を生み出すための経営フレームワーク(ポーター)。 「共通価値」という概念は、経済的価値を創造しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も創造するというアプローチである。(経済産業省) 出所:経済産業省2014年白書
CSRとCSV区別 企業の社会的責任(CSR) 共通価値の創造(CSV) 社会的に善良な活動、意識の向上、慈善事業 費用に比べて高い社会経済的価値の創造 自律的判断、または、外部の圧力に対する対応 収益追求及び企業間の競争 企業の収益とは無縁 社会経済的価値の追求 慈善事業の性格が強い活動 企業と共同体の共有価値の創造 CSRの予算によって活動の幅が制限される 企業のすべての事業や活動に予算が活用できる
CSVと3つの基本アプローチ ①製品・サービスのCSV 製品・サービスという企業のアウトプットを通 じて、収益を上げつつ社会問題を解決しようとするもの 社会問題を事業機会と捉える新規事業開発・推進 ②バリューチェーンのCSV バリューチェーン(VC)の競争力強化と社会問題の解両立させようとするもの VC効率化によるCO2とコストの同時削減、サプライヤー育成による高品質原料の安定調達など ③クラスター/競争基盤 事業展開地域での競争基盤強化と地域への貢献を両立させるようするもの 人材、インフラ、規制などを強化し、地域に貢献しつつ、自社の競争力を向上
【企業概要】 社名:ヤマト運輸株式会社 創立年月日:1919年3月31日 資本金:50,000,000,000円 従業員:201,784人、 2017年3月15日現在) 社員: 161,081人(2017年3月15日現在) 車両:
【事業の内容】 ヤマトグループは、子会社50社、関連会社20社により構成されており、デリバリー事業、BIZ-ロジ事業、ホームコンビニエンス事業、e-ビジネス事業、フィナンシャル事業、オートワークス事業を主な事業としている。ほか、これらに附帯するサービス業務等を営む。 【CSVの推進】 ヤマトでは、地域社会と共通の価値を創造するCSV (Creating Shared Value=共有価値創造)という考えに基づいて、 グループ各社が保有するネットワークや機能(情報・物流・決済) を行政や住民、NPOなど地域の方々に提供し、 一緒に課題を解決す ることで地域活性化を目指す。
製品・サービスのCSV 社会的課題 ヤマトの経営資源 支援モデル 目指すゴール 少子・高齢化 独身高齢者の増加 お買いもの困難者の増加 公共交通機関の廃線 受付・集配業務を通じた多数の顧客の対面接点 地域に密着したセールスドライバー IT(情報)、LT(物流)、FT(決済)機能 宅急便の全国ネットワーク 生活支援 お買いモノサポート 見守りサポート 安全・安心に暮らせる生活環境に実現 自然災害 災害時の緊急物資の運送確保 被災地での支援物資の管理 仮設住宅や避難場所等の生活環境の悪化 災害時支援 緊急支援物資輸送 青空市の開催 販促・納品支援 産物販売サポート 海外販路拡大サポート 地域産業の衰退 収益性の悪化 高齢化や後継者不足 耕作放棄地の増加 観光支援 当日配送 多言語対応 地域経済の活性化 地域経済 地域商店の廃業加速 地域の情報発信、誘客力の低下 外国人観光客への対応 地域支援 イベント運営サポート 故郷納税サポート
バリューチェーンのCSV 安全マネジメント公表情報: 輸送の安全に関する目標及びの達成状況 安全運転を支える「See-T Navi」の導入 輸送の安全に関する予算・実績額 出所:YAMATO HOLDINGS CO., LTD. アニュアルレポート2015.
バリューチェーンのCSV ヤマト運輸では、トラック中心であった中長距離の幹線輸送を 鉄道や海運にシフトし、トラックとの複合一貫輸送を推進している。鉄道や海運はトラックに比べてエネルギー効率が高く、CO2排出量が大幅に削減できるとともに、大気汚染防止や道路渋滞の緩和、コスト削減にも大きな効果がある。 グループ会社と連携して鉄道とフェリーのシームレスな輸送や、 台車と新スリーターによる車両台数削減に取り組むなど、様々な 形で環境保全と物流ソリューションの両立にできる。 出所:YAMATO HOLDINGS CO., LTD. アニュアルレポート2015.
事業データ 出所:YAMATO HOLDINGS CO., LTD. アニュアルレポート2015.
事業データ デリバリー事業を取り巻く経営環境は、想定を上回る宅急便取扱数量の増加と労働需給の逼迫により急激に変化している。コスト面では、人件費の高騰に加えて、外形標準課税の増税、社会保険の適用範囲拡大などの費用増加が挙げられる。 出所:YAMATO HOLDINGS CO., LTD. アニュアルレポート2015.
企業活動の社会性と経済性の両立は、途上国市場に留まらない 両者がトレードオフ、相乗効果をもたらすか、実証すべき課題である 経済性と社会性にシナジーがある本業としてのビジネス:共有価値の実現 BPOで求められる社会的インパクトの最低レベル 高 CSRを果たしつつ経済的パフォーマンスが高い営利事業 社会的厚生を害したり、違法な領域 ユヌス博士の「ソーシャルビジネス 出資者を維持する必要最低限の財務的リターン 純粋な慈善活動 低 高 外部環境に対する社会・環境上の効果 出典: 岡田 正大 DIAMOND HARVARD BUSINESS REVIEW,2015年 出所:DIAMOND HARVARD BUSINESS REVIEWに基づいて筆者作成
参考: 1.http://www.kuronekoyamato.co.jp/ 2017/07/20 2.近藤 久美子(2012)「CSV(共通価値の創造)と経営戦略」『国際公共政策研究』16(2)P.43-P.57 3.岡田 正大(2014)「CSVは企業の競争優位につながるか」DIAMOND HARVARD BUSINESS REVIEW,2015年。 4.「企業の持続的成長に向けた競争力の源泉としてのCSRの在り方に関する調査」経済産業省、2014年。 5.尹 敬勲 (2015)「共有価値の創造(CSV)の概念の形成と課題」『流経法学』 第14巻 第 2 号(2011年) 6.YAMATO HOLDINGS CO., LTD. アニュアルレポート2015. 2017/07/20 7. 「CSV事業の先進事例分析を通じた 支援の枠組みに関する調査研究事業報告書」株式会社野村総合研究、2014年。
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