F.テーラー(Frederick Winslow Taylor)と 科学的管理: Scientific Management

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F.テーラー(Frederick Winslow Taylor)と 科学的管理: Scientific Management 1856 ~ 1915年  アメリカ 科学的管理=テーラー・システムの始祖 『科学的管理法の原理』(The Principles of Scientific Management) http://www2.bus.osaka-cu.ac.jp/~y-naba/ProjectSugitaGenpaku/SciMgt.htm

科学的管理 :科学の対象としての管理 広義:「科学的」に設定された標準(standard)に基づく管理(計画・組織・指揮・統制) 狭義:テーラー・システム =課業管理Task Management       一日の標準作業量の「科学的」設定 標準は、目標or平均? 科学的管理の歴史的意義 19C~20Cの転換期ー職人(熟練労働者)中心から企業中心への現場管理の再編ー標準をめぐって熟練労働者と企業家との争い

大量生産・消費・販売形成の条件 西漸(せいぜん)運動:17世紀以後,米国西部の未開拓地フロンティアへの定住地の拡大,人口の移動。インディアン排除,ルイジアナ購入,テキサス併合,1849年ゴールドラッシュ,鉄道交通機関の発達で急速に進み,19世紀末終了。 19世紀半ばから19世紀末まで、大陸横断鉄道建設の競争、政府支援獲得競争、全国鉄道網形成・確立 ①重工業の発展レールや車両の鋼鉄の大量消費による製鉄業、車両などの機械産業の急速成長 ②全国市場形成ー市場拡大:西部農村で生産された農作物を大都市に供給、東部工業地帯で生産された工業製品を農村に供給   1918年時点のアメリカの鉄道網 大企業、株式会社、 労働組合の形成・発展 ー資本と労働の固定・長期化

科学的管理の歴史的背景- 大量生産と大企業形成(第一次企業M&A運動)と労働運動の台頭 アメリカ的大量生産システムの萌芽 1851年ロンドン万博ー  互換性部品→部品寸法の標準化(規格化) 熟練解体 機械への熟練の移転、熟練労働者の現場管理権限の根拠の動揺 企業へのコスト削減要求が高まってくる 1 機械化・設備の巨大化による固定費の増加 2 大量生産による過剰生産→不況→価格競争・低下 3 労働者の集中→組織化(労働組合)→労働時間短縮や賃上げ運動が高まる。→労働コスト増加  例 1886年5月1日8時間労働要求全国ストライキ 「メーデー」の起源

当時の現場管理の状況:職人=熟練労働者から企業中心へ現場管理の再編 当時の現場管理の状況:職人=熟練労働者から企業中心へ現場管理の再編  ①雇用管理システム 内部請負制(企業ー親方ー徒弟(未熟練工)・不熟練工の2重雇用)から直用制(未・不熟練工の直接雇用)と雇用部(採用権)へ ②技能教育制度 徒弟制(親方からの熟練(カン・コツ)の伝承・口伝え) から企業による直接指導=企業内昇進制、企業内教育、マニュアル ③作業の量・方法の管理 1日の作業量・方法・道具に対する熟練労働者の決定と職能別(熟練)労働組合の規制から熟練労働者排除と反組合主義や企業組合

F.テーラーの科学的管理 目的 労使双方の繁栄=高賃金・低労務費 ←怠業の克服 怠業=最大可能な作業量と現実の作業量の差 目的 労使双方の繁栄=高賃金・低労務費     ←怠業の克服 怠業=最大可能な作業量と現実の作業量の差   自然怠業  人間の本性-解決不能   組織(制度)的怠業  後天的-解決可能  組織(制度)的怠業の3つの原因  1 労働者の誤った考え 過密労働による疲労 それを防衛するための作業規制  2 非効率作業方法  熟練(カン・コツ)にもとづく職人的作業方法  3 根本原因としての誤った管理制度=成り行き管理システム→科学的管理:課業・標準の科学(客観)化

上野一郎訳『科学的管理』

馬場克三編『経営学概論』

課業(1日の標準作業量)の科学的決定のプロセス=科学的管理の本質 作業の時間研究(time study) ストップウォッチを使った作業時間の測定 one best way(唯一最善の方法)としての最速作業時間の発見 Element time study 作業の要素分解・測定 Total time study 総合時間と余裕時間 作業を細分化・要素化し測定 各要素別最速作業時間の集計+余裕時間

上野一郎訳『科学的管理』

作業速度は管理者が決める ② 作業の標準化 one best wayの決定 作業条件(道具、機械、部品、原材料)の標準化 最も速かった作業条件  作業方法(やり方)の標準化 要素別に測定して最も速かった作業方法を標準化 作業時間の標準化 最も速かった要素別作業時間の合計と余裕時間との総計 ③ 1個当たりの標準作業時間の「科学的」決定→1日の標準作業量(課業・task)の「科学的」決定

科学的管理のメカニズム 計画 時間研究による標準(作業時間、方法、条件)の決定 =本質 計画 時間研究による標準(作業時間、方法、条件)の決定 =本質 指揮 作業指図書(マニュアル) カードで要素別の標準の作業時間、方法、条件を指示  すでに存在 統制 差別出来高給制度 課業以下は低い賃率 課業以上は高い賃率 ほとんど導入されず 組織 計画(企画)部門、職能別職長制 ファンクショナル組織、ほとんど導入されず

科学的管理の原理旧訳250から325 新訳44 従来の管理法 成行管理 Initiative and incentive 精進(自主性)と奨励 目分量と口伝え=熟練(カン・コツ)の作業方法 科学的管理の原理⇔成行管理 ①科学の原理⇔目分量と口伝えの作業方法・課業設定 ②労働者の科学的選択・教育・発達⇔作業者・工員の自己選択・教育 ③労使の協力、標準の科学による決定⇔ 剰余金の奪い合い、労働組合の標準への介入 ④管理と作業の分離(職責の分担)⇔作業者に管理を任せる

テーラーの「精神革命論」 労働・工員と管理・企業の双方の側での精神的態度の転換ー技術者的(社会工学)世界観への転換 意見から科学へ(経験則から法則性へ新訳122頁 反対と闘争から友情的協働と助け合い 旧訳352~355頁 「これまでは人材が第一に捉えられてきたが、これからは仕組み(システム)を第一に捉えなくてはいけない」新訳6頁

科学的管理と現実 1910 東部鉄道運賃率事件-科学的管理法が全米で有名に―運賃の値上げの反対の根拠 1910 東部鉄道運賃率事件-科学的管理法が全米で有名に―運賃の値上げの反対の根拠 1911 科学的管理に対するストライキ ―米国陸軍の要請による兵器廠へのテイラーシステム導入、ウォータータウン工場鋳物工の時間研究拒否に対する解雇 1913 AFL (American Federation of Labor:アメリカ労働総同盟)の反対決議 熟練労働者中心の労働組合 下院での1915年軍需産業と1917年公企業に科学的管理の採用を禁止する決議 1914~1915年)、米国労使関係委員会シカゴ大学経済学教授ロバート・F・ホクシー(Robert Franklin Hoxie)―報告書「Scientific Management and Labor」ー「経営独裁(企業の一方的・専制的決定)を招き、労働強化の手段となる」と指摘 第一次大戦 1917年アメリカ参戦により科学的管理法全面採用 1920テーラー協会と労働組合との協力による標準決定 ※参考 ドイツでの標準に対する労働協約(労組との取り決め) 1920年代 科学的管理普及期。製造現場から事務管理や行政管理にも範囲拡大

労働生産性(広義:労働者一人当たりの生産量)=労働生産性(狭義)と労働強度 労働生産性(狭義)の引き上げ:労働エネルギー量当たりの生産量の拡大=科学的管理の役割 、「科学」を利用した標準 労働強化ー労働強度(密度)の増加:一定期間における支出労働エネルギー量の増加=労働組合の役割、労働強化の規制、標準労働強度 労働者の自律性(自ら考える)=自己管理の解体 労働組合、政府(労働基準)の役割:一日の賃金、労働時間、労働強度、休憩時間の監視・交渉、ただし労働市場、離職、社会全体の圧力等も影響 生産性の拡大が、直ちに労働条件を改善しない。

無理、強制・やらされる・他律ー適正な労働密度・強度 回復しない慢性疲労や過労(長時間過密労働,24時間労働,感情労働)に対する管理責任と社会的規制の必要性

生産性の拡大が、直ちに労働条件を改善いないー1948–2011年における米国における生産性と民間製造業非管理労働者の実質報酬との上昇率 時間報酬は、民間企業の非管理職生産労働者における賃金と福利厚生。生産性は、民間企業、政府、非営利セクターを含む経済全体の純生産性で、時間当たりの、減価償却費を差し引いた製品・サービス生産量の増加を意味する。 Lawrence Mishel, Elise Gould, and Josh Bivens ” Wage Stagnation in Nine Charts” Economic Policy Institute Briefing Paper JANUARY 6, 2015,p.4

万能的職長制 から 職能別職長制へ 万能的職長制=ライン組織 単線的命令 秩序化(命令一元化)の原則 職能別職長制=ファンクショナル組織 万能的職長制 から  職能別職長制へ 万能的職長制=ライン組織    単線的命令     秩序化(命令一元化)の原則 職能別職長制=ファンクショナル組織   テーラーの提案した組織」    複線的命令    専門化(専門による分業)の原則  ライン・アンド・スタッフ組織    命令(ライン権限)と助言(スタッフ権限)との区分    秩序化と専門化の共存  条件・環境による組織の選択

確認テスト Ⅰ 科学的管理は、アメリカの( 1 )によって唱えられた。彼は、標準が成り行き的に決まる( 2 )によって組織的怠業が生じ、1日の標準作業量である( 3 )を科学的に決定すべきと指摘した。その時期は、職人のような熟練労働者が中心的な役割を果たした現場管理のシステムが解体しつつある時期であった。熟練労働者中心の現場管理システムは、親方としての熟練労働者が未熟練労働者や不熟練労働者を採用・雇用する( 4 )、教育する( 5 )、( 6 )労働者中心の職能(職種)別労働組合による作業規制からなった。科学的管理は、当時の現場管理再編に対応する新しい管理を模索するものであった。

課題 課業の科学的決定のプロセスについて述べよ。歴史的意義についてもかんがえてみる テーラー・システム=課業管理における、進歩性(科学性)と歴史性(労働者への影響、熟練と現場管理が企業へ移転)の二つの側面 なぜノルマ(課業)は、悪い意味をもつのか?労働組合の責任と交渉力の重要性(労働時間・賃金だけでなく、適正労働強度への規制)、政府の責任:労働法・労働基準法(工場法)の役割、企業の責任:人間らしい労働の保証