第7回 法律行為の有効性①-a(心裡留保;虚偽表示;94条2項の類推適用)

Slides:



Advertisements
Similar presentations
法務部・知的財産部のための 民事訴訟法セミナー 関西大学法学部教授 栗田 隆 第 10 回 補助参加.
Advertisements

第8回 商事関係法. 前回の内容 商号とは 類似商号規制の撤廃 類似商号の事例研究 名板貸って 名板貸の事例研究.
企業の開示( disclosure ). 取引機会・ 取引環境の 提供 取引的立場 の平等化 情報提供 情報弱者 情報強者.
法務部・知的財産部のための 民事訴訟法セミナー
2013年度 破産法講義 13 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産財団の管理 財産状況の調査 否認権 法人の役員の責任追及.
法律行為(契約) 民法上の法律行為の代理 商法行為の代理
2006年度 商法Ⅰ (商法総則・商行為法) ・そもそも大学で法律を学ぶ意味はどこにあるのか?
基礎商法2_ /11/18 基礎商法2 第9回.
秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然として知られていないもの(不2Ⅳ)
債権者代位権とその転用 名古屋大学大学院法学研究科 加賀山 茂.
大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
第4回 商事関係法.
基礎商法2 第2回.
大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
「事 務 管 理」 の 構 成 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
新しい要件事実論の必要性 司法研修所編『新問題研究 要件事実』 (2011)の徹底的な批判
講義レジュメNo.13 組織再編(2) 合併(吸収合併・新設合併) 会社分割(吸収分割・新設分割) 株式交換および株式移転
企業法Ⅰ(商法編)講義レジュメNo.05 商号 名板貸人の責任
消費者撤回権と民法法理 報告全体の構成 Ⅱ 各論的考察 京都大学 松岡久和 1 過量販売取引における消費者撤回権
大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
2012年度 民事訴訟法講義 秋学期 第12回 関西大学法学部教授 栗田 隆
2016年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
2005年度 民事執行・保全法講義 第2回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
債権 債 権 法 の 構 造 (不法行為法:条文別) 第709条 不法行為の要件と効果 第710条 非財産的損害の賠償
平成18年度 商法Ⅰ 講義レジュメNo.04 商法9条と民法112条等との関係 会社の場合:会社法908条1項
総則・商行為講義レジュメNo.06 商業使用人 会社の使用人 代理商
企業法I(商法編)講義レジュメNo.07 商業使用人 会社の使用人
企業法Ⅰ(商法編)講義レジュメNo.06 営業(事業)譲渡の意義(15~18、会社21~24、467~470)
模擬裁判2008 ~ウルトラマンは正義か?~ 事件の概要.
情報法 第6講 情報不法行為(2) プロバイダ責任.
2014年度 破産法講義 7 関西大学法学部教授 栗田 隆 取戻権 別除権.
2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆
請求権競合論 1.請求権競合論とは 2.問題点1,2 3.学説の対立 4.請求権競合説 5.法条競合説 6.規範統合説
2015年度 民事再生法講義 9 関西大学法学部教授 栗田 隆
看護現場における 労務管理の法的側面① <労働法と労働契約>
市民後見人養成講座 民法その他の法律の基礎 弁護士 田上尚志.
第20回 商事関係法 2005/12/ /11/8.
第8回 商法Ⅱ        2006/11/ /11/8.
法教育における アニメーションの効用 明治学院大学法科大学院 加賀山 茂 2018/11/8 法教育におけるアニメーションの効用.
2008年度 倒産法講義 民事再生法 7 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2008年度 倒産法講義 民事再生法 8 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2006年度 破産法講義 第8回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2005年度 民事執行・保全法講義 秋学期 第5回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2005年度 民事執行・保全法講義 秋学期 第1回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
企業法Ⅰ(商法編)講義レジュメNo.2 商法の特色 企業の活動に関する特色 企業の組織に関する特色
第4回 商法Ⅰ.
第14回 法人(法人の意義と種類;法人の対内的・対外的法律関係)
市民後見人養成講座 民法その他の法律の基礎 弁護士 田上尚志.
第7回 商法Ⅰ 2006/05/31.
民法(財産法)の体系と 法的推論の基礎 明治学院大学法学部教授 加賀山 茂 2016/6/7
第3回 物権法総説(物権と債権;所有と占有);所有権(所有権の意義;物権的請求権;所有権の取得原因);占有権(占有の意義;占有と取得時効)
第5回 商事関係法.
2001.12.4 エルティ総合法律事務所所長弁護士 システム監査技術者 藤 谷 護 人
第13回 法律行為の主体②-b(無権代理、表見代理)
2006 民事執行・保全法講義 秋学期 第15回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
「行政法1」 administrative Law / verwaltungsrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 行政行為その2 行政行為の効力.
会社法資料 千葉大学2015.
2013年度 民事訴訟法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆
2018年度 民事訴訟法講義 秋学期 第12回 関西大学法学部教授 栗田 隆
「不 当 利 得」 の 構 造 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
法務部・知的財産部のための 民事訴訟法セミナー
1.詐害行為取消権の法的性質 2.詐害行為取消権の要件 客観的要件 主観的要件
2017年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
基礎商法2_ /11/18 基礎商法2 第10回 基礎商法2.
第10回 商法Ⅱ 2006/12/11.
2014年度 民事再生法講義 3 関西大学法学部教授 栗田 隆
明治学院大学 法と経営学研究科 設立時委員長 名古屋大学 名誉教授 加賀山 茂
2006年度 民事執行・保全法講義 第5回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
企業の開示(disclosure).
Presentation transcript:

第7回 法律行為の有効性①-a(心裡留保;虚偽表示;94条2項の類推適用) 民法(1) 第7回 法律行為の有効性①-a(心裡留保;虚偽表示;94条2項の類推適用)

法律行為の有効要件 法律行為の有効要件 ・意思表示に関する有効要件 ・法律行為の内容に関する有効要件 ①意思の不存在がないこと   ①意思の不存在がないこと 表示行為に対応する効果意思が存在しない場合(e.g. 心裡留保〔93条〕、虚偽表示〔94条〕、錯誤〔95条〕) ②瑕疵ある意思表示でないこと 効果意思形成過程における動機に不当な干渉が介在した場合(e.g. 詐欺・強迫〔96条〕) ・法律行為の内容に関する有効要件 ①内容の確定性 e.g. 何かを売って欲しい ②内容の実現可能性?(→原始的不能) e.g. 売買目的物が契約締結の時点で既に滅失していた ③強行法規に反しないこと(91条?) ④公序良俗に反しないこと(90条)

心裡留保 心裡留保(93条) 心裡留保→表示行為に対応する効果意思が存在しないことを知りながら行う、単独の意思表示  e.g. 贈与の意思がないのに贈与の約束をする場合 93条:意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

心裡留保 心裡留保の要件と効果 心裡留保→原則有効(93条本文)  ただし、相手方が悪意または有過失の場合には、意思表示が無効となる(93条但書)

心裡留保 心裡留保と自然債務 ・カフェー丸玉事件(大判昭10・4・25新聞3835号5頁5頁)  客が女給の歓心を買うためになした、独立資金についての贈与約束は、任意に履行すれば有効な履行となるが履行は強制されない(→「自然債務」と呼ばれる債務関係) cf. 心裡留保→相手方の主観的態様によって効力が区別される

心裡留保 悪意または有過失の相手方からの転得者 →94条2項の類推適用(cf. 東京地判平成7・1・26判時1547-80)  〔心裡留保〕            〔虚偽表示〕   無効(93但書)                  無効(94Ⅰ)           94Ⅱ類推                94Ⅱ A B(相手方) C(転得者) A B(相手方) C(転得者)

心裡留保 【債権法改正】心裡留保に関する規定の見直し 改正93条: ① 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。 ② 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。 ・1項:「表意者の真意」→「その意思表示が表意者の真意ではないこと」   ←表意者の真意まで知らなくとも、意思表示の無効を認めてよい ・2項:第三者保護規定の新設(←判例・通説の明文化)

虚偽表示 虚偽表示(94条) 虚偽表示→相手方と通じて真意でない意思表示を行うこと e.g. 不動産売買の仮装 〔虚偽表示〕 A B          〔虚偽表示〕                 無効(94Ⅰ)            A B             C(第三者)  94Ⅱ

虚偽表示 虚偽表示の要件と効果 虚偽表示→原則無効(94条1項)  ただし、虚偽表示による無効は、善意の第三者には対抗できない(94条2項)

虚偽表示 94条2項における「第三者」 →虚偽表示の当事者以外の者で、虚偽表示による表見的法律関係について、新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者(cf. 大判大正5・11・17民録22-2089)

虚偽表示 「第三者」の具体例 ・目的物につき物権を取得した者→○ ・表意者に対する債権者→×  ただし、虚偽表示の目的物を差し押さえた債権者は第三者にあたる(大判昭和12・2・9判決全集4-4-4) ・虚偽表示の目的物である土地上の建物の賃借人→×(最判昭和57・6・8判時1049-36)

虚偽表示 94条2項における「善意」 善意=知らないこと(⇔悪意) 無過失の要否→不要(大判昭和12・8・10新聞4181-9)  善意=知らないこと(⇔悪意)  無過失の要否→不要(大判昭和12・8・10新聞4181-9)   cf. 94条2項の類推適用における無過失要件

虚偽表示 対抗要件の要否 *対抗要件とは? ・94条2項の第三者と表意者の関係 →対抗関係に立たない以上、対抗要件は不要  *対抗要件とは? →177条:不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。 177条の「第三者」=両立し得ない物権相互間で優劣を争う者(cf. 同一の不動産に関する二重譲受人) ・94条2項の第三者と表意者の関係   →対抗関係に立たない以上、対抗要件は不要

虚偽表示 表意者からの譲受人と第三者の関係 →対抗関係に立つものとして、対抗要件具備の先後によって優劣を決する(通説) A B        虚偽表示(94Ⅰ)                     94Ⅱ    A    B     D       C(第三者)

虚偽表示 第三者からの転得者 →直接の第三者ではなくその者からの転得者であっても、94条2項の「第三者」に含まれる(最判昭和57・6・8判時1049-36〔ただし、94Ⅱ類推の事案〕)        虚偽表示(94Ⅰ)    A    B                 C                 D

虚偽表示 絶対的構成と相対的構成   直接の第三者(C)が94条2項の保護要件(→善意)を満たしていた場合に、転得者(D)はどのような地位に立つか  →①絶対的構成  直接の第三者が善意であれば、転得者が悪意であっても、虚偽表示無効を対抗されない(大判大3・7・9刑録20-1475)    ②相対的構成  直接の第三者が善意であっても、転得者自身が善意でない限り、虚偽表示無効の対抗を受ける

94条2項の類推適用 94条2項の類推適用   虚偽表示が介在せず、単に虚偽の外観が作出されていたに過ぎない場合について、その外観を信頼した第三者を保護するための法理(←表見法理、権利外観法理)            A B 登             C(第三者)  94Ⅱ類推

94条2項の類推適用 94条2項と公信力 ・動産における占有→対抗力(178条)はもちろん、公信力もあり (cf. 192条〔即時取得〕) ・不動産における登記→公信力なし、対抗力のみ(177条)  →不動産取引においては、登記等の外観を信頼した第三者は原則として保護されない  ←この場合について第三者の保護を図るための法理として、94条2項類推適用が存在する

94条2項の類推適用 94条2項(類推適用)の基本構造 ①真の権利関係に一致しない外観 ②本人の帰責性 ③第三者の信頼  ←表見法理に関する他の諸規定(cf. 表見代理)にも共通する要件枠組

94条2項の類推適用 94条2項の類推適用の類型 ①意思外形対応型 作出された外観が真の権利者の意思と一致する場合 ①-a 外形自己作出型   →本人の帰責性の程度に従った区別(①-a>①-b>②) ①意思外形対応型   作出された外観が真の権利者の意思と一致する場合   ①-a 外形自己作出型   ①-b 外形他人作出型 ②意思外形非対応型   作出された外観が真の権利者の意思と一致しない(権利者が意図した以上の外観が作出された)場合

94条2項の類推適用 ①意思外形対応型 ・①-a:外形自己作出型  e.g. 虚偽の意思表示(仮装売買など)を経由させずに、単に不実の登記を作出した場合  ・①-b:外形他人作出型  e.g. 真の権利関係に一致しない登記を、真の権利者がそのまま放置した場合 → 最判昭和45・9・22民集24-10-1424   虚偽の外観につき「明示または黙示の承認」があれば、94条2項が類推適用され得る →この場合には、虚偽の外観を自ら作出したと同視され得る程度の本人の帰責性が必要(e.g. 不実の登記の存在を単に放置していたにとどまらず、積極的にそれを承認したといい得る程度の関与)

94条2項の類推適用 ②意思外形非対応型 最判昭和43・10・17民集22-10-2188  最判昭和43・10・17民集22-10-2188   ←通謀の上で不動産売買の予約を仮装し、所有権移転請求を保全するための仮登記を行った後に、外観上の仮登記権利者が所有権移転の本登記手続きを行った上で、その不動産を第三者に売却した場合  →「民法94条2項、同法110条の法意に照らし」、善意無過失の第三者に対して本登記の無効を対抗できない            A B 仮登記→本登記             C(第三者)

94条2項の類推適用 無過失の要否 ・判例の立場 意思外形対応型→無過失は不要 意思外形非対応型→無過失必要  意思外形対応型→無過失は不要  意思外形非対応型→無過失必要 cf. 表見法理における無過失要件  権利の外観に対する第三者の信頼を保護する表見法理においては、その信頼要件の内容として、第三者の善意無過失が要求されるのが通常である (cf. 最判平成18・2・23民集60-2-546 → 94条2項および110条の類推適用)