北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/ 地球惑星科学II オゾンホール 北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/

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北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/ 地球惑星科学II オゾンホール 北海道大学・環境科学院 藤原正智 http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/

オゾンホール オゾン層 オゾン層破壊問題とオゾンホール オゾン層破壊の影響    オゾンとオゾン層、オゾンの測定法、オゾン分布を決める力学・光化学過程 オゾン層破壊問題とオゾンホール    フロン、オゾンホールの発見、オゾンホールの形成メカニズム、    オゾン層保護条約、オゾン量の変遷と将来予測 オゾン層破壊の影響    太陽紫外線、生物・人体への影響 参考図書等: ★北海道大学大学院環境科学院 編、「オゾン層破壊の科学」 北海道大学出版会、408 pp.、2007 ・関口理郎, 2001: 成層圏オゾンが生物を守る, 成山堂書店 ・TOMSの公式web site: http://toms.gsfc.nasa.gov/ (“Multimedia”へ) ・小川利紘, 1991: 大気の物理化学, 東京堂出版 ・ジェイコブ(近藤豊訳), 2002: 大気化学入門, 東京大学出版会 ・Benedick(小田切訳), 1999: 環境外交の攻防―オゾン層保護条約の誕生と展開, 工業調査会 ・WMO, “Scientific Assessment of Ozone Depletion 2002” 等 http://ozone.unep.org/Publications/index.asp ・環境省(パンフレット)「オゾン層ってどうなってるの?2006」 等 ・環境省(パンフレット)「紫外線保健指導マニュアル2006」  教科書「地球惑星科学入門」の該当箇所は、第29章等

オゾン? O3 (ギリシャ語で“におう”) 酸化力強い。殺菌・脱臭・漂白作用 光と相互作用 ・紫外線(および可視光線)の一部を吸収し分解    ・紫外線(および可視光線)の一部を吸収し分解      地表生物圏の保護、成層圏・中間圏の形成    ・赤外線の一部を吸収・射出      温室効果・地球温暖化 大気中における光化学反応    ・光化学スモッグ、“オキシダント”の主成分      大気汚染、大気の質

オゾン層? ・オゾン濃度の単位(1): オゾン分圧(~数密度と対応)、オゾン混合比(~分圧÷気圧) ・分圧低緯度ほどオゾン層ピーク高高度、 Ny Aalesund 2002.1.13(北極圏) 札幌 2004.3.29(中高緯度)     Watukosek 2003.1.20(熱帯) 成層圏  対流圏界面  対流圏  ・オゾン濃度の単位(1):   オゾン分圧(~数密度と対応)、オゾン混合比(~分圧÷気圧) ・分圧低緯度ほどオゾン層ピーク高高度、 高緯度ほどオゾン層ピーク値大

オゾン層? 注:白抜きは観測 データがない領域 オゾン濃度の単位(2): オゾン全量 DU(ドブソン・ユニット) [http://ozoneaq.gsfc.nasa.gov/] 注:白抜きは観測 データがない領域 オゾン濃度の単位(2): オゾン全量 DU(ドブソン・ユニット) 鉛直気柱内の全分子数(オゾン分圧曲線を鉛直積分したもの)紫外線遮蔽能力 気柱内の全オゾンを0℃、1気圧に圧縮した時、300DUは3mmの厚さに対応   (ちなみに、大気自体は8kmになる) 熱帯で少なく中高緯度ほど多い。南極の春(9-10-11月)に極小=オゾンホール

大気オゾンの測定法 1 オゾンゾンデ(気球飛揚、電波でデータ送信) オゾンをヨウ化カリウム溶液へ導入するとヨウ素を遊離し、電流を発生する 大気オゾンの測定法 1 オゾンゾンデ(気球飛揚、電波でデータ送信) オゾンをヨウ化カリウム溶液へ導入するとヨウ素を遊離し、電流を発生する 2KI + O3 + H2O  2KOH + I2 + O2 発生した電流量からオゾン量を算出 地上から成層圏中部(~30 km)まで (キリバス共和国・クリスマス島にて)

大気オゾンの測定法 2 オゾンが太陽紫外線を吸収する性質を利用 吸収量から光路中の積算量(オゾン全量)を算出 大気オゾンの測定法 2 オゾンが太陽紫外線を吸収する性質を利用 吸収量から光路中の積算量(オゾン全量)を算出 例えば、人工衛星搭載TOMS(Total Ozone Mapping Spectrometer) 人工衛星“Nimbus 7” (1978~1993) (http://toms.gsfc.nasa.gov/) 各種大気観測リモートセンシング装置搭載。 (極軌道・太陽同期。)その中の1つがTOMS ブリューワ型分光光度計(インドネシアにて) 太陽自動追尾装置が付いている

大気オゾンの測定法 3 http://smiles.tksc.jaxa.jp/indexj.shtml 大気オゾンの測定法 3 超伝導サブミリ波リム放射サウンダ (SMILES; Superconducting Submillimeter-Wave Limb Emission Sounder) : 国際宇宙ステーションの日本実験棟曝露部を利用して、 成層圏大気中の微量分子を高感度で測定し、地球規模でその分布と変化を明らかにする。 2009.9.11 H-IIBロケット打ち上げ 2009.9.18 HTV技術実証機の ISSへの結合が完了 2009.9.25 SMILES が、船外実験プラットフォームに設置される 2009.9.28 SMILESの機械式冷凍機の最低温度が約 4.1 K に達する(観測開始) 2010.4 機器の不具合のため観測終了 http://smiles.tksc.jaxa.jp/indexj.shtml

大気オゾンの測定法 3 (右写真)SMILESセンサーを、 H-II Taransfer Vehicle (HTV) の中に設置したところ 大気オゾンの測定法 3 (右写真)SMILESセンサーを、 H-II Taransfer Vehicle (HTV) の中に設置したところ http://smiles.tksc.jaxa.jp/indexj.shtml

オゾン分布を決める力学過程 成層圏極渦と極域大気の孤立性 成層圏~中間圏(中層大気) の平均子午面循環の様子 流体粒子に色をつける(初期位置) 30日後の位置 成層圏~中間圏(中層大気)   の平均子午面循環の様子 中層大気の循環には、対流圏から 伝播する大気波動の散逸が重要。 下部成層圏では低緯度から高緯度へ。 中間圏では夏半球から冬半球へ。 [ながれの事典、“中層大気”] 成層圏極渦と極域大気の孤立性 冬の南極上空(~17km)の極渦では、ロスビー波活動 (~熱と物質の南北輸送)弱い 極渦内部へは、中緯度大気は侵入しにくい(上図) 熱と物質のやりとりが少ないため、   極渦内は、低温、低オゾン濃度(冬極は極夜)の状況 オゾンホール形成の条件整う [Shepherd, 2000]

オゾン分布を決める光化学過程 O3 O3 O2 O2 O2 太陽紫外線 (UV-C) 太陽紫外線 (UV-B) HO NO HO2 NO2 触媒反応サイクル  HO NO HO2 NO2 Cl Br ClO BrO フロンなど

オゾン層破壊問題とフロン ・フロン(freon、フレオン:米国デュポン社の商標) 炭化水素(例:メタンCH4)のHをClやFに置き換えた人工物質群(CFCl3、CF2Cl2など) 正式名称:chlorofluorocarbons (CFCs): 1930年代、米国で開発される(アンモニアの代替) 冷媒、噴射剤、発泡剤、洗浄剤として多岐にわたり使われる ・フロンは対流圏では不活性・安定、人体に無害。  産業上大変有用 ・1974: Molina & Rowland、フロンによるオゾン層破壊説(ClOxサイクル)を発表 上部成層圏で紫外線により光解離し、Clを放出、オゾン消失触媒反応サイクルに関わる ・大気中のフロン濃度の増大が観測される(ガイア仮説で有名なラブロック) ・大きな温室効果を持つことも明らかになる [オゾン層ってどうなってるの?2006、環境省]  および [http://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2011/full.pdf]

オゾンホールの発見 1/2 Molina & Rowlandの研究以降、国際的なフロン規制へ向けた外交交渉開始 ところが、現実には、理論予測をはるかに超えた事態が南極上空で進行 Farman et al. [1985] イギリスの南極観測データにより、南極オゾン減少とフロン増加との関連を示唆 NASAの人工衛星観測チーム、南極でのオゾン減少を測定の間違いとしていた 南極昭和基地越冬隊(1982~1983)における、忠鉢・梶原隊員(気象庁職員)によるオゾン観測結果。    1984年に国際学会にて発表。 [関口]

オゾンホールの発見 2/2 オゾンホールの特徴 1.南極の春の時期に、 オゾン濃度が回復せず、 さらに減少する 2.下部成層圏で濃度が [ジェイコブ, 2002] オゾンホールの特徴 1.南極の春の時期に、   オゾン濃度が回復せず、   さらに減少する 2.下部成層圏で濃度が   ゼロに近くなる 3.年々、オゾンホールは   “深く”なっている   (周囲の“堤”(~極渦)   は“浅く”なっている) TOMSの観測画像はセンセーショナルだった。“穴”というイメージ。 (当初は観測の誤りとされた。)[http://toms.gsfc.nasa.gov/multi/monoct.gif]

オゾンホールの形成メカニズム [力学的背景] 北極に比べ安定した南極上空の「極渦」(波活動弱い)大気は隔離・孤立、冬季に低温・低オゾン   北極に比べ安定した南極上空の「極渦」(波活動弱い)大気は隔離・孤立、冬季に低温・低オゾン [特殊な化学過程]   低温下(-76℃程度以下)で、下部成層圏に特殊な雲   (Polar Stratospheric Clouds, PSCs)が発生。   硝酸(HNO3)の水和物等が凝結。 ・低温下・雲粒子表面で、フロンから生成していたHCl、   ClONO2(“貯留”分子)から、Cl2、ClOなどが生じる ・同時に、雲粒子の重力落下とともに、ClOを不活性化   する役割を持つHNO3が大気中から除去される ・春先の太陽光により、Clによる触媒サイクルが活性化、  下部成層圏でオゾンが劇的に減少 最近では北極でも オゾン減少が見られる。 写真は、Iceland 上空に出たPSCs。 粒子サイズが小さいため プリズムのように働き きれいな色を見せる。 http://earthobservatory.nasa.gov/cgi-bin/texis /webinator/printall?/Study/Tango/index.html [ジェイコブ]

オゾン層保護とオゾン層科学の歴史 地球環境問題に対する国際的取り組みの最初の成功例 1970:クルッツェン、オゾン層におけるNOx触媒サイクルを提唱 1974:モリナとローランド、フロンによるオゾン層破壊説(ClOxサイクル)を発表 1977:UNEP(国連環境計画)、調査委員会設置。 1985:南極オゾンホールの発見(従来のオゾン層理論に重大な欠陥) 1985:「オゾン層保護のためのウィーン条約」(オゾン層破壊問題を指摘) 1987:「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(特定フロンの段階的削減を明記) 1986、1987:PSCsに着目したオゾンホール理論確定(クルッツェン、モリナ) 議定書の改正・規制強化:ロンドン(1990)、コペンハーゲン(1992)、モントリオール(1997)、北京(1999) 1995:ノーベル化学賞「オゾンの形成と分解に関する大気化学研究」クルッツェン、モリナ、ローランド 1996:先進国、ほとんどのオゾン層破壊物質の段階的削減完了 先進国、代替フロンの削減中。途上国、オゾン層破壊物質の削減中

オゾン量・フロン量の変遷 [http://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2011/full.pdf]

北極でもオゾンホール出現? 北極・2011年3月 南極・2010年9月 北極・2011年3月  南極・2010年9月   2011年3月、北極のオゾン全量が220-230 DUにまで落ちた。過去最低を記録。  (ただし、南極の春には100 DU程度にまで落ちる。)  この原因は、北極成層圏が2010年12月~2011年3月まで継続して記録的に   低温だったためである。極域成層圏雲が発達し、南極同様の化学プロセスが進行した。  (二酸化炭素の増加は温室効果の強化につながり、対流圏は温暖化するが、成層圏は    寒冷化する。従って、今後北極でのオゾンホール的現象がより頻発する可能性もある。    ただし、モントリオール議定書によるフロン・代替フロン削減の効果との兼ね合い。) [Manney et al., Nature, 2011; Garcia, Nature, 2011]

オゾン層の将来予測 天気予報のための数値モデル(大気大循環モデル, General Circulation Model, GCM)を用いる 運動量保存則(運動方程式)、質量保存則(連続の式)、熱エネルギー保存則(熱力学第一法則) オゾン層の将来予測には、さらに、オゾン等の微量成分についての“連続の式”(各微量成分についてそれぞれ1本の式) (密度の時間変化)=(風の収束・発散)+(光化学反応による生成・消滅) ただし: 地球大気のような非線形システム特有の性質、初期値鋭敏性(決定論的カオス)、により、厳密な意味での「予測」(prediction; 例えば、将来のある日ある場所におけるオゾン濃度値の予測)は不可能である。 外部条件・境界条件(例えば、フロン量)に対してある程度決定論的に決まる部分について「推定」・「見通し」(projection; 例えば、30年後の平均的なオゾン量の推定)をおこなう。 作戦としては: 過去の再現実験をおこなうことで、数値モデルの妥当性を評価する。 フロン排出、地球温暖化に関するありえそうな将来シナリオに基づいて計算する。 世界のさまざまな研究機関のモデル(機関・開発者により細部が結構異なる)による数値実験の結果を持ち寄り、総合的に判断する。 (なお、温暖化予測についても、同様の手続きを取る)

年平均、東西平均オゾン全量の時間変化(緯度別) 南極オゾンホール(減少量・面積)の時間変化 年平均、東西平均オゾン全量の時間変化(緯度別)  南極オゾンホール(減少量・面積)の時間変化   2040~2050年頃に1980年のレベルに戻るか   2050~2060年頃に“オゾンホール”は消滅するか  (EESCとは、成層圏有効塩素量)  [WMO, Scientific Assessment of Ozone Depletion: 2006, 2007]

太陽光と紫外線 UV-Bと生物とオゾン DNA(生物の遺伝情報を担う物質)は UV-Bを強く吸収 オゾン全量が1%減ると、UV-Bが2%増加 皮膚ガン、白内障、感染症が3~6%増加     [紫外線保健指導マニュアル2006、環境省]

紫外線の観測 地上紫外線量を決める要素 ・太陽高度 ・オゾンによる吸収 ・大気分子による散乱 ・雲による散乱 ・エアロゾルによる吸収・散乱 ・地表面反射 適度な雲による散乱、 地表面(新雪や白い砂浜)での 反射は、紫外線を増加。 (曇った雪山に注意。) [紫外線保健指導マニュアル2006、環境省]

生物・人体への影響、紫外線対策 人体への影響 DNA損傷、免疫機能低下。皮膚疾患(皮膚癌など)、 眼疾患(角膜疾患(雪目)、白内障)、感染症の増加、など 「日光浴・日焼けは、皮膚や目への紫外線照射の観点からは、有害無益。」 陸上植物への影響 UV-Bが葉緑素(光合成)の発達を阻害、分解を促進  生育阻害、発芽阻害、葉面の白化など 水中小型生物(プランクトン)への影響 UV-Bにより成長阻害。 ものによっては絶滅の可能性。 海洋生態系の基礎部分に 激変の可能性 [紫外線保健指導マニュアル2006、環境省]

まとめ ー オゾンホール ー オゾン層 オゾン層破壊問題とオゾンホール オゾン層破壊の影響 オゾンとオゾン層 オゾンの測定法    オゾンとオゾン層    オゾンの測定法    オゾン分布を決める力学・光化学過程 オゾン層破壊問題とオゾンホール    フロン、オゾンホールの発見    オゾンホールの形成メカニズム    オゾン層保護条約    オゾン量の変遷と将来予測 オゾン層破壊の影響    太陽紫外線    生物・人体への影響