軍備管理・軍縮・不拡散・拡散対抗 Arms Control, Disarmament Non-Proliferation, and Counter-Proliferation 安全保障論 (第5回) 担当:神保 謙.

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軍備管理・軍縮・不拡散・拡散対抗 Arms Control, Disarmament Non-Proliferation, and Counter-Proliferation 安全保障論 (第5回) 担当:神保 謙

第5回講義の狙い 軍備管理・軍縮の経緯を振り返り、今日の課題を明らかにする 米ソ核軍縮交渉 核拡散防止条約(NPT)体制 大量破壊兵器「不拡散」の努力を学び、「拡散対抗」という概念が浮上した背景を探る 軍備管理・軍縮論の新しい展開と課題を見出す

学習の手引き 「安全保障論ノススメ」(第5回)基礎編①・② 佐瀬昌盛「軍備管理・軍縮」防衛大学校安全保障学研究会編『安全保障学入門』(亜紀書房、2004年) ストローブ・タルボット『米ソ核軍縮交渉:成功への歩み』   (サイマル出版会、1988年) 関場誓子『超大国の回転木馬(メリーゴーラウンド):米ソ核軍縮交渉の6000日』(サイマル出版会、1988年) 納家政嗣・梅本哲也編『大量破壊兵器不拡散の国際政治学』(有信堂、2000年) 吉田文彦編『核を追う:テロと闇市場に揺れる世界』   (朝日新聞社、2005年)

軍備管理(Arms Control )と 軍縮(Disarmament) 安定的均衡の下での軍拡の抑制 軍事力管理の強化 軍備の質的側面に注目 軍縮 軍事力の削減を通した緊張緩和 軍備の量的側面に注目

安定的均衡下での軍備管理 軍備制限と上限設定 安定均衡下での軍縮 /軍備制限 BのAに対する 抑止レベル 相互抑止関係 AのBに対する 脅威認知度 BのAに対する 脅威認知度 安定均衡下での軍縮 /軍備制限 AのBに対する 抑止レベル

軍縮は手段か目的か? 軍備管理の手段としての軍縮 軍事力削減と全廃の構想 安定的均衡下での軍備削減(協調的削減)のみが軍縮措置として有効とする考え方 軍事力削減と全廃の構想 軍縮論の歴史的陥穽 ベルサイユ条約(1919) ワシントン軍縮会議(1922) ロンドン軍縮会議(1930) 例外としての非核地帯? 「軍縮」と「安全保障」 を整合させる必要性

軍備管理・軍縮の成功する条件 関係国全てが「より悪くならない」と考えることが 可能なこと 軍事的に不利にならない 軍備管理・軍縮をしないと事態がより悪くなる 平和的発展の可能性がある 違反の発見が比較的容易なこと 兵器体系の特定化 査察・検証体制の信頼性 違反に対する制裁の可能性 4. 軍備管理・軍縮が経済的・政治的に重大な損失を一時的にも伴わないこと

軍備管理の類型 軍備削減・軍縮 規制措置 予防 戦略的核兵器体系の削減 通常戦力の削減 核実験の規制 核拡散・ミサイル拡散の規制等 制度化された信頼醸成措置(CBM) 演習の事前通知・オブザーバー派遣 ホットラインの設置

核軍備管理条約の種類 核軍縮型 WMD配備・実験制限型 非核地帯型 中距離核(INF)全廃条約(1987) 戦略兵器削減条約(I: 1991) (II:1993) モスクワ条約(2001) WMD配備・実験制限型 部分的核実験禁止条約(1963) 核拡散防止条約(NPT)(1968) 生物・毒素兵器禁止条約(1972) 核実験禁止条約(CTBT)(1996) 非核地帯型 南極条約(1959) トラテロルコ条約(1967) ラロトンガ条約(1985) 東南アジア非核地帯 (1997)

出典:外務省編『外交青書』(平成16年度版)

http://www.pcf.city.hiroshima.jp/peacesite/ 参照

冷戦期の米ソ核軍備管理 第1次戦略兵器制限交渉(SALT I) 第2次戦略兵器削減交渉(SALT II) 中距離核戦略(INF)条約 第1次戦略兵器削減交渉(START I) 第2次戦略兵器削減交渉(START II) 軍備制限 軍備削減

米ソの核弾頭数の比較(1945-2002) Source: Source: National Defense University

SALT-I と SALT-II SALT-I (1972) SALT-II (1979) ICBM発射基(ランチャー)追加建造を凍結 SLBM発射基及びSSBNの配備上限設定 同時にABM条約(第4回参照)を調印 SALT-II (1979) ICBM, SLBM の総数2400を上限 MIRV化ミサイル総数1200を上限

中距離核ミサイル(INF)全廃条約 中距離核ミサイルの配備 INF条約(1987)の締結 ⇒「NATO二重決定」 ソ連 :中距離核SS-20を配備 NATO:中距離核パーシングIIの対抗配備+         ソ連に対する削減交渉の呼びかけ        ⇒「NATO二重決定」 INF条約(1987)の締結 米ソの地上発射型中距離核(SS-20/パーシングII)を18ヶ月以内に全廃⇒Global Double Zero / Zero-Zero

安定的均衡下での軍備管理 INF全廃条約の構造 BのAに対する 抑止レベル 戦略核戦力による均衡 不均衡⇒デカップリングの恐怖 パーシングII SS-20 Global Double Zero 均衡と相互削減提案 「NATO二重決定」 AのBに対する 抑止レベル

START-I とSTART-II START-I (1991) START-II (1992) ICBM, SLBM, Bomberの総数を条約の発効から7年後にそれぞれ1600基に削減 配備される戦略核弾頭数を6000発に制限 ベラルーシ・カザフスタン・ウクライナはSTART-Iの当事国となり、非核保有国としてNPTに加入⇒「リスボン議定書」 START-II (1992) 2007年までに配備される戦略核弾頭数を3000~3500発に削減

米ロモスクワ条約 米ロモスクワ条約(2001) 「ABM条約」からの脱退通告(米国) ⇒2002年6月に正式脱退  ⇒2002年6月に正式脱退 2012年までの10年間で米ロの戦略核弾頭を1700~2200発まで削減

核拡散防止条約(NPT)の概要 条約の成立及び締約国 条約の目的と内容 1968年7月1日に署名・1970年3月5日に発効 締約国は189ヶ国(2003年9月現在)。主たる非締約国はインド、パキスタン、イスラエル 条約の目的と内容 核不拡散: 米、露、英、仏、中の5ヶ国を「核兵器国」と定め、「核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止。 「核兵器国」とは、1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国」 核軍縮 各締約国による誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定(第6条)。

NPTの概要(2) NPTの主要規定 核兵器国の核不拡散義務(第1条) 非核兵器国の核不拡散義務(第2条)  原子力の平和的利用は締約国の「奪い得ない権利」と規定(第4条1)  原子力の平和的利用の軍事技術への転用を防止するため、非核兵器国が国際原子    力機関(IAEA)の保障措置を受諾する義務を規定(第3条)  NPTの主要規定  核兵器国の核不拡散義務(第1条)  非核兵器国の核不拡散義務(第2条)  非核兵器国によるIAEAの保障措置受諾義務(第3条)  締約国の原子力平和利用の権利(第4条)  非核兵器国による平和的核爆発の利益の享受(第5条)  締約国による核軍縮交渉義務(第6条)  条約の運用を検討する5年毎の運用検討会議の開催(第8条3)            *1995年5月、条約の無期限延長が決定された。

NPTの発展と課題 締約国の増加 1991 南アフリカ (保有していた核兵器を放棄して「非核兵器国」として加入。) 締約国の増加  1991  南アフリカ       (保有していた核兵器を放棄して「非核兵器国」として加入。)  1994  ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン       (核兵器を露に移転して「非核兵器国」として加入。)  1995  アルゼンチン  1998  ブラジル NPT体制への挑戦 NPT体制内の問題 (条約締約国が条約上の義務を不履行)  イラク(91年)、北朝鮮(93年、02年)、イラン(05年)の核兵器開発疑惑 NPT体制外の問題:インド、パキスタンの核実験(98年)

NPT運用検討会議(2005年) 会議の空転と山積する課題 イラン・北朝鮮への不拡散重視(米国) 核保有国の軍縮措置重視(非同盟諸国) 中東問題(イスラエル)に関する議論の保証(エジプト) イラン問題の新規議題化(「最新の展開」という文言)・核保有国の軍縮努力の欠如を批判(イラン) 原子力の平和利用をめぐる問題

核拡散問題をめぐる新動向 1998年5月 : インド・パキスタン核実験 2003年1月 : 北朝鮮、NPT脱退を宣言 1998年5月 : インド・パキスタン核実験 2003年1月 : 北朝鮮、NPT脱退を宣言 2003年12月: リビア、秘密核計画を放棄 2004年2月 : カーン博士が中心となった           「核の闇市場」が発覚 2005年2月 : 北朝鮮、核兵器の製造・保有を宣言 2005年9月 : 六者協議「合意文書」採択 2006年1月 : イラン、ウラン濃縮活動を再開 2006年3月 : 米国・インドに民生用核支援を発表

「新しい脅威」と 拡散防止+拡散対抗 拡散防止 拡散対抗 軍備管理・軍縮・国際的圧力 拡散対抗構想(DCI) 拡散安全保障イニシアティブ(PSI) 先制行動ドクトリン

Source: Australian Department of Foreign Affairs and Trade (DFAT)

脅威の座標軸 非対称脅威とWMDの結びつき 台頭する中国への対処 小規模紛争への対処 High Intensity 非対称 対称 旧ソ連 +WMD +WMD 中国 非対称脅威とWMDの結びつき 台頭する中国への対処 北朝鮮 非対称 経済秩序の破壊・混乱 国家統合の破綻による政治危機 対称 テロリズム 南沙諸島領有権問題 小規模紛争への対処 国際組織犯罪 小規模越境紛争 大規模災害等 Low Intensity

弾道ミサイル脅威に応じた拒否的抑止力、対処能力(MD)の必要性 脅威と紛争のスペクトラム概念図 弾道ミサイル脅威に応じた拒否的抑止力、対処能力(MD)の必要性 対処 伝統的(対称的)脅威 脅威の烈度 外交 弾道ミサイルと結びついた対称的脅威 対処 外交 抑止 新しい(非対称的)脅威 被害局限 脅威の質の差 復興・安定化 国家・国際総合力によるリスク・ヘッジ 予防 先制行動 紛争のスペクトラム       平 時        危 機     有 事       収 拾