かなた望遠鏡・Swift/XRT,UVOT・MAXI によるMrk 421の長期観測 伊藤亮介、深沢泰司 広島大学 かなた望遠鏡、スイフト衛星XRT,UVOT, MAXIによるマルカリアン421の長期観測というタイトルで発表します。発表者に変わりまして、私浦野が代読させていただきます。
ブレーザー天体 Mrk 421 軟X線 可視光 2012年現在、最も良く多波長観測の進んでいる天体 TeV, X線帯域で、非常に速い(~10分)時間変動が知られているが、 GeV領域で変動は小さく、その増光メカニズムは十分に分かっていない。 軟X線 電波からTeVガンマ線までの 多波長スペクトル 時間平均スペクトルは、 One – Zone SSC モデルでよく 再現できる。 多波長同時観測による、 光度変動機構解明を 目指す。 可視光 まず、マルカリアン421について簡単にご紹介いたします。マルカリアン421はHSPに分類されるBL Lac型天体であり、2012年現在、最も多波長観測の進んでいる天体の一つです。こちらは2010年にフェルミガンマ線望遠鏡チームによって行われた、電波からTeVガンマ線までの同時多波長観測キャンペーンの多波長スペクトルでの観測結果になっています。2こぶ構造をしており、典型的なBL Lac天体の描像を示しています。この時間平均の多波長スペクトルは、一つの放射領域からくるシンクロトロン放射と、その逆コンプトン散乱、いわゆるOne Zone シンクロトロンセルフコンプトンモデルでよく説明できることがこの論文中(Abdo+11)で示されています。 X線、TeVガンマ線帯域では、10分オーダーでの非常に速い時間変動が報告されています。その変動幅は5-10倍と非常に大きな振幅幅を持っていることが知られています。一方で、GeVガンマ線領域では、フェルミ衛星による2年に及ぶ長期モニターの結果、最大で2倍程度までしか変動していないことが知られています。 我々は今回、可視、紫外、X線同時観測により、シンクロトロン放射スペクトルの変化を重点的に調べ、変動メカニズムに迫りました。 また、シンクロトロン放射であることから、偏光情報が非常に重要な情報となることが期待されます。 Abdo+11 波長 [Hz]
Mrk421可視偏光先行研究 一般にHSP(High-Synchrotron Peaked Blazar)の可視偏光度は低い(Ikejiri et al. 2011) Mrk 421は過去に高い偏光度が観測されたことのあるHSPでも特異な天体 (Tosti et al. 1998) Optical polarization of Mrk 421 (Tosti+98) 多波長観測による シンクロトロン放射 スペクトル決定 + 同時に偏光観測 次に、マルカリアン421の過去の偏光観測の結果について、簡単にご紹介します。 一般的に、BLLac天体の中でも、HSP天体は偏光度が低い傾向となることが知られています。しかし、マルカリアン421では過去に偏光度が10%を超えるような高い偏光を示すことも報告されており、特異な天体であるといえます。こちらの図は、1990年代に測定された、可視偏光度の推移になります。この図が示す通り、数%から15%程度まで、偏光度が大きく変化している様子が伺えます。 先ほどからの繰り返しになりますが、今回の我々の観測では、偏光変化とシンクロ地論放射多波長同時観測によりブレーザー天体での、変動メカニズムに迫っていきたいと考えています。
ISS / きぼう / MAXI かなた望遠鏡 HOWPol Swift /XRT, UVOT R, V band +偏光 こちらの図は、今回観測に用いた望遠鏡になっています。 かなた望遠鏡はHOWPolによる可視R,Vバンドでの偏光撮像観測、スイフト衛星ではUVOTにより、ここにあげるVからUW2バンドまでの可視・紫外線帯域と、XRTにより0.2keVから10keVまでのX線帯域を観測しています。 また、国際宇宙ステーションに設置されているMAXIでは、1.5keVから20keVまでのX線帯域で、全天モニター観測を実施しています。 今回私は、これらの装置を使って、可視光・紫外線、X線同時モニターを実施しました。 1.5-20 keV X線 全天モニター観測 0.2 keV – 10 keV X線 可視・紫外線(V,B,U,UW1,UM2,UW2)
多波長ライトカーブ 2010 Jan. 2011 Jan. MAXI/Flux(1.5-20 keV) preliminary MAXI/Flux(1.5-20 keV) XRT/Flux(0.2-10keV) XRT/Index UVOT, Kanata/Flux (UVW2, UVM2, UVW1, R, V) UVOT, Kanata/Color (UVW2-UVW1, R-V) 観測結果のライトカーブになります。 上から、MAXIによるX線光度曲線、 XRTによるX線光度関数、XRTの帯域での、X線ベキ変化、UVOT、かなたによる紫外線と可視光帯域光度曲線、具体的には赤がRバンド、緑がVバンド、水色がUW1、青がUVM2, 紫がUVW2バンドをしめしています。次のパネルは紫外線帯域での色変化、可視光帯域での色変化を示しています。最後2つのパネルはそれぞれ可視光帯域偏光度変化、偏光方位角の変化をしめしています。 横軸が時間で、2010年1月から2011年1月までの1年間の観測になっています。 このライトカーブを詳しく見ていきます。 まず最初に、前半時期と後半時期において、明らかにX線帯域での活動性の違いが見られます。前半時期ではX線の光度変化は活発であり、5倍程度の変動を見せています。一方、後半期ではX線の光度変化はさほど大きくありません。 これを今後、「X線活動期」と「X線非活動期」と呼んでいきます。 この点に注目し、他の波長での様子も見ていきたいと思います。 可視光光度はX線の変動とそれほど相関が無く、両方の時期で大きく変化していることが分かります。 また、可視光の色に関してはあまり変化していないことが分かります。こちらも可視光度と相関なく、ほぼ一定のようです。 偏光度に関しては、X線活動期においては7%程度まで変化していますが、 X線非活動期においては、半分程度の変化に収まっています。 こちらもX線、可視光光度との相関は見られていませんが、X線の活動性とはなんらかの関連がありそうです。それでは、この点に、注目してみていきたいと思います。 Kanata/Polarization degree (R, V) Kanata/Polarization Angle (R, V)
ライトカーブの傾向 X-ray active state (2010) 2011 Jan. 2010 Jan. 偏光度の変動 (~ 6%). 偏光度のX線・可視光光度との相関は見られない 偏光方位角はほぼ一定 (-50 ~ 0 deg) . MAXI/Flux XRT/Flux XRT/Index X-ray inactive state (2011) Optical – UV/Flux 可視光度変動のタイムスケールは2010年のものより速い X線での光度変化はほとんど見られない 偏光度はほとんど変化していないが、 偏光方位角の変動は大きい(0 – 150deg). Optical color 図は先ほどのページと同じライトカーブとなっています。 赤丸はそれぞれX-ray active state, 青丸はX-ray inactive stateを表しています。 さきほど口頭で述べたことを簡単にまとめます。 2010年のX線で活動的な時期では、偏光度は大きく変動しています。 ただし、これらの変動はX線光度や可視光度と相関していないようです。 偏光方位角に関しては、ほぼ変化していないことがわかります。 いっぽうのX線で活動的でないこれらの時期に関しては、偏光度の活動性は低くなっていることが分かります。 PD PA
+ Systematical changes of Polarization 2010年: 偏光方位角があまり変化せず、 偏光度も高めの値 X-ray 2010年: 偏光方位角があまり変化せず、 偏光度も高めの値 2011年: 偏光方位角はバラバラ 偏光度低め Optical PD preliminary Stokes Parameter U Origin of QU plane X-ray active and inactive stateにおいて、QU平面上で平均的に偏光ベクトルは第四象限に位置(図中青点は前半観測の平均点;PD=4%, PA=-20deg) + これらの時期の偏光を、ストークスパラメータQUの平面上で見てみます。 上の図は、先ほどのライトカーブから、X線光度、可視光度、偏光度だけを抜き出したものになっています。 下の図はQU平面上での偏光を表しています。 赤の点がX線活動期、黒い点がX線で活動的でない時期を表しています。 この図の通り、X線活動期においては、その偏光度は系統的に原点からずれた位置に存在している可能性があります。 Stokes Parameter Q
Variability of SED X-ray X線帯域では 大きなスペクトル変化 可視帯域では光度変化は顕著だが、 Optical スペクトルの傾きに大きな変化はない Optical PD preliminary これらの変化を、それぞれの時期の多波長スペクトルの変化の様子から見てみます。上の図は先ほどと同じく、X線光度と可視光度、偏光度変化のライトカーブです。 下の図は、ライトカーブ各点でのSED,多波長スペクトルを示しています。 こちらのほうが可視光、紫外線、右側がX線のデータ点となっています。 この図から、X線活動期においては、可視光度のスペクトル形状はあまり変化せず、 X線帯域で、その形状が大きく変化していることがわかります。
議論 X線活動期(2010年)SED変化 一領域からの単純なシンクロトロン 放射を仮定。 下表の6パラメータをフリーパラメータ としてフィッティング 磁場、電子スペクトルのカットオフ位置の移動(高エネルギー電子注入?)により、X線帯域で大きく変動が引き起こされていることが示唆される。 同時期に偏光度の変化がみられることも、同様に磁場変化を示唆している 赤 青 B [G] 1.14± 0.03 0.73 ±0.01 D 37 ±2 44 ±1 R [cm] 1.1× 10 15 1.3 × 10 15 Ke [erg/s] 1.6 × 10 48 1.2 × 10 48 Rc ( 10 4 ) 2.5±0.2 17 ±4 P 2.31 ±0.03 2.26±0.03
磁場、電子スペクトルカットオフ位置に変化は見られない。 X線非活動期(2011年)SED変化 赤 青 B [G] 1.5± 0.3 1.45 ±0.01 D 35 ±1 39 ±0.2 R [cm] 1.0× 10 15 1.1 × 10 15 Ke [erg/s] 0.9 × 10 48 1.6 × 10 48 Rc ( 10 4 ) 1.4±0.2 1.2 ±0.4 P 2.09 ±0.1 2.31±0.01 磁場、電子スペクトルカットオフ位置に変化は見られない。 電子スペクトルのNormalization, ベキの値の変化によって可視光度、X線光度が変化?
まとめ かなた望遠鏡・Swift衛星・MAXIにより、Mrk 421の多波長・偏光同時観測を実施 そうでない時期では、偏光はQU平面上でほぼ原点付近に位置 一領域からの単純なシンクロトロン放射を仮定し、それぞれの時期でのSEDを フィッティングすることにより、ジェットパラメータの変化を調査 X線活動期では、磁場、高エネルギー電子注入によるSED変化が示唆される そうでない時期に関しては、電子スペクトルのNorm, ベキが変化していることが示唆される。