ドープT型量子細線の発光(PL)および 発光励起(PLE)スペクトルと電子温度 ’07 6/26 小川研合同研究会@大阪大学 ドープT型量子細線の発光(PL)および 発光励起(PLE)スペクトルと電子温度 秋山研究室 D3 井原章之 アウトライン (はじめに) 研究背景、実験方法、計算方法 実験結果 ① PLとPLEの間の関係 (計算結果) ② 高濃度1次元電子ガスのフェルミ端 ③ 低濃度へのクロスオーバー
イントロダクション 低次元電子ガスの光学スペクトルの概要 イントロダクション 低次元電子ガスの光学スペクトルの概要 状態密度(DOS)やクーロン相互作用の特異性、量子統計の研究舞台 <自由電子モデル> バンド端 : 状態密度の特異性を反映 フェルミ端 : パウリの排他律を反映 <相互作用モデル> フェルミ端特異性(FES)、バンドギャップ収縮効果 束縛状態 (励起子、荷電励起子) 等を再現
先行研究 2次元電子系 1次元電子系 1D DOSは現われるのか?1D FES効果は強いのか? ’87 M. S. Skolnick, PRL ’93 K. Kheng, PRL ’99 V. Huard, PRL [1] ’00 R. Kaur, PSS(b) ’02 T. Ogawa, Nonlinear Opt. フェルミ端特異性 (FES) 荷電励起子 (Trion) Trion → FES クロスオーバー FES理論計算 ’91 J. M. Calleja, SSC [2] ’01 D. Y. Oberli, Physica E ’02 H. Akiyama, SSC 1D FES effect 1D BGR effect [2] 2x1010 3x1011 1x1011 1.3x1011 1.8x1011 [1] low Excitons (X) Electron density Trions (X-) high Band-to-Band recombination 1D DOSは現われるのか?1D FES効果は強いのか? といった問題を調べるため、実験的な課題を解決する。
結晶成長を共同研究者のL. N. Pfeiffer博士に依頼し、高品質な試料を作製。 試料構造 T型量子細線 ③ 結晶成長を共同研究者のL. N. Pfeiffer博士に依頼し、高品質な試料を作製。 ① 変調ドープ量子井戸 分子線エピタキシ装置(MBE) ④ [1] ② [1] M. Yoshita et al., Jpn. J. Appl. Phys. 40, L252 (2001).
反射配置および直交配置の PL(発光)およびPLE(発光励起)スペクトルの測定系を開発 光学測定系 反射配置および直交配置の PL(発光)およびPLE(発光励起)スペクトルの測定系を開発 光源の強度 (揺らぎ±1%) 井戸 細線 単一量子井戸・細線の基底準位のPLとPLEの両方を検出可能
計算手法 自由電子モデル Hartree-Fock by Huaiさん Rectangular Quantum wire Screened Hartree-Fock Single Plasma-Pole Approx. (static) Semiconductor Bloch equation Matrix inversion Spectral representation KMS relation from Abs. to Emission Ideal 1D quantum wire (1D DOS) Effective mass approximation k-conservation Fermi distribution functions Gaussian Broadening functions
① PLとPLEの間の関係 ~ 概要 ドープ量子井戸に対して発光(PL)と発光励起(PLE)スペクトルを低温(5~200K)で測定し、それらの比が温度Tのみで関係づけられるという、以下の式を発見した。 この式を用いて温度を見積もると、弱励起では格子温度に近い値となり、励起強度に対して単調増加する傾向を示した。 McCumber - Neporent relation 先行研究 ’88 ’96 ’04 Y. B. Band and D. F. Heller, Phys. Rev. A 38, 1885 (1988). D. A. Sawicki and R. S. Knox, Phys. Rev. A 54, 4837 (1996). S. Chatterjee, C. Ell, S. Mosor, G. Khitrova, and H. M. Gibbs, W. Hoyer, M. Kira, S. W. Koch, J. P. Prineas, and H. Stolz, Phys. Rev. Lett. 92, 067402 (2004). Kennerd & Stepanov relation Kubo-Martin-Schwinger relation
単一ドープ量子井戸の基底準位のPLE測定 2DEG濃度 (VDP測定値) 6×1010 cm-2
PL PLE PLとPLEの線形性を検証 50mW以下の共鳴 励起のPLは線形 50mW以下で測定したPLEは線形の吸収 励起強度を1~2000mWの範囲で変えてPLとPLEをそれぞれ測定 PL 弱励起・共鳴励起ならば加熱や 非線形性の影響が小さい 50mW以下の共鳴 励起のPLは線形 PLE 弱励起であれば 非線形性の影響が小さい 50mW以下で測定したPLEは線形の吸収 50mW以下で測定すれば、格子温度に近い値が求まると期待できる。
PLとPLEから温度を求める 励起強度:10mW 測定温度:5K 傾きから温度が求まる 見積もられた温度は、、、 7.0±0.5K
励起強度を増やすとともに、求まる温度が上昇している 励起強度を変えた場合 ×200 (強励起) 10mW 7.0±0.5K 2mW 8.7±0.5K ×1/10 (弱励起) 1mW 6.8±0.5K 励起強度を増やすとともに、求まる温度が上昇している (原因は明らかでない)
ヒーターで温度を変えた場合(弱励起;10mW) 測定した温度の値は、5~200Kの領域で温度計の表示にほぼ比例。 (求めた温度の妥当性を反映) 測定精度は低温(5~50K)で ±10%程度。 励起光の調整をうまく行うことで、さらなる精度の向上が見込める。
① PLとPLEの間の関係 ~ まとめ 試料温度を直接測定・より低温での測定 電子濃度依存性(特にノンドープ系) それらの比をプロットしたところ、 光子エネルギーに対して指数関数で減衰した。 減衰率が温度の逆数に比例するという関係式を用いて 温度を見積もったところ、7.0±0.5Kという値が得られた。 励起強度を増やすとともに、求まる温度が上昇したが、 原因は明らかになっていない。 ヒーターで試料を加熱しながら測定を繰り返したところ、 求まる温度は温度計の表示にほぼ比例した。 <課題> 試料温度を直接測定・より低温での測定 電子濃度依存性(特にノンドープ系) パルス励起・時間分解測定・非平衡系
② 高濃度1次元電子ガスのフェルミ端 ~ 概要 高濃度1次元電子ガスのPLとPLEを測定し、温度と濃度を見積もったところ、T~10K、ne~5.8x105 cm-1となった。 フェルミ端が少し盛り上がる点、BGR効果を再現する点に おいて、実験はHartree-Fock計算とコンシステントであった。 過去に報告されたような顕著なFES効果は観測されなかったが、これは正孔の有効質量が軽いのが原因だと考えられる。 先行研究 [1] ’91 ’93 ’01 J. M. Calleja, A. R. Goni, B. S. Dennis, J. S. Weiner, A. Pinczuk, S. Schmitt-Rink, L. N. Pfeiffer, K. W. West, J. F. Muller, and A. E. Ruckenstein, Solid State Commun. 79, 911 (1991). [1] F. J. Rodriguez and C. Tejedor, Phys. Rev. B 47, 1506 (1993). D. Y. Oberli, A. Rudra, and E. Kapon, Physica E 11, 224 (2001).
サンプル構造と測定配置 <細線のサイズ> 14 x 6nm x 4mm (単一) <ドーピング [2]> ①Si 変調ドープ ②ゲート電極 →電子濃度可変 [1] H. Akiyama, L. N. Pfeiffer, A. Pinczuk, K. W. West, and M. Yoshita, Solid State Commun. 122, 169 (2002).
ゲート電圧依存性(電子濃度依存性)の実験結果(5K) 見積もられたキャリア温度: 5.8x105 cm-1 (Ef ~ 5meV) 高濃度 ゲート電圧 低濃度 電子濃度ゼロのノンドープの極限 (Ef ~ 0meV)
PL peak at Band edge と PLE onset at Fermi edgeを観測 0.7V(高電子濃度)の実験結果 Pex = 40mW Exc. ホール濃度は小さい PL peak at Band edge と PLE onset at Fermi edgeを観測
PLとPLEの比からキャリア温度を見積もる 1次元系でも成立 縮退電子でも成立 PL peak at Band edge と PLE onset at Fermi edgeを観測 見積もられたキャリア温度: 10.5±1K (kBT ~ 1meV)
1次元電子濃度を見積もる (Free-Electron計算) Yamaguchi et al., Jpn. J. Appl. Phys. 33, L912 (1994). PL peak at Band edge と PLE onset at Fermi edgeを観測 顕著なFES効果は観測されなかった 見積もられたキャリア温度: 10.5±1K (kBT ~ 1meV) Ef/kBT ~5 見積もられた電子濃度 : 5.8x105 cm-1 (Ef ~ 5meV)
クーロン相互作用を考慮に入れてみる (Hartree-Fock計算) Rectangular Quantum wire Screened Hartree-Fock Single Plasma-Pole Approx. (static) Semiconductor Bloch equation KMS relation from Abs. to Emission Arm wellの吸収のテールが重なっていることを考慮すると、 HF計算と実験はコンシステントであると言える。 細線が細く(6x14nm)、低温(10K)で、高品質(g=0.9meV)にも関わらず FES効果がそれほど顕著で無いのは、 正孔の有効質量が小さい(mh~0.105m0)ためと考えている。
正孔の有効質量を大きくした場合 (Hartree-Fock計算) mh=4me mh=1000me 吸収 吸収 発光 発光 F. J. Rodriguez and C. Tejedor, Phys. Rev. B 47, 1506 (1993). 正孔の有効質量が大きい場合は、 正孔が波数空間で広く分布する事、 FES効果が増大する事によって、 発光および吸収のフェルミ端が強調される傾向を示す。 (Rodriguezらが理論計算によって主張した内容と同じ)
少しだけ電子濃度を減らしてみる (Vg = 0.7-0.5V) フェルミ端の盛り上がりに加え、BGRを再現する点においても、自由電子モデルよりも特徴をよく捉えている。
② 高濃度1次元電子ガスのフェルミ端 ~ まとめ ② 高濃度1次元電子ガスのフェルミ端 ~ まとめ 高濃度1次元電子ガスのPLとPLEを測定し、温度と濃度を見積もったところ、T~10K、ne~5.8x105 cm-1となった。 フェルミ端が少し盛り上がる点、BGR効果を再現する点において、実験はHartree-Fock計算とコンシステントであった。 過去に報告されたような顕著なFES効果は観測されなかったが、これは正孔の有効質量が軽いのが原因だと考えられる。 <課題> Arm wellのテールを無くす。吸収絶対値を測定する。 より低温で測定する。 アクセプタードープの結果についても理論と比べる。
③ 低濃度へのクロスオーバー ~ 概要 低濃度の極限(0-0.15V)では、対称的な形状のXとX-が現れ、それぞれ励起子と荷電励起子と同定した。 高濃度のFE・BEから低濃度のX-へのクロスオーバーで、1次元系特有と考えられるPLEのダブルピーク構造が観測された。 低エネルギー側のピークは、1D DOSおよびクーロン相互作用に起因するものであると考えるが、それぞれの寄与を分離することは、実験的には難しい。 2x1010 3x1011 1x1011 1.3x1011 1.8x1011 先行研究 ’99 ’00 ’06 V. Huard, R. T. Cox, and K. Saminadayar, A. Arnoult, and S. Tatarenko, Phys. Rev. Lett. 84, 187 (1999). R. Kaur, A. J. Shields, J. L. Osborne, M. Y. Simmons, D. A. Ritche, and M. Pepper, Phys. Status Solidi B 178, 465 (2000). [1] F. J. Teran, Y. Chen, M. Potemski, T. Wojtowicz, and G. Karczewski, Phys. Rev. B 73, 115336 (2006).
FEとBEに現れる特徴的な ダブルピーク構造を観測 (後で考察) ゲート電圧依存性 at 5K (0.4 - 0.2 V) PLE FEとBEに現れる特徴的な ダブルピーク構造を観測 (後で考察)
ゲート電圧依存性 at 5K (0.2 – 0 V) バンド間再結合の描像 (Vg > 0.3V) から 励起子再結合の描像 (Vg < 0.2V) へのクロスオーバー 2次元電子系の実験結果と類似している [’99 V. Huard, PRL, '00 R. Kaur, PSS(b), '02 T. Ogawa, Nonlinear Opt. ]
ゲート電圧依存性 at 5K (0.3 – 0 V) XおよびX-をそれぞれ、励起子および荷電励起子と同定した バンド間再結合の描像 (Vg > 0.3V) から 励起子再結合の描像 (Vg < 0.2V) へのクロスオーバー 2次元電子系の実験結果と類似している [’99 V. Huard, PRL, '00 R. Kaur, PSS(b), '02 T. Ogawa, Nonlinear Opt. ] 0VのPLEはノンドープ量子細線のPLEと一致 [ ’03 H. Itoh et al., APL 83, 2043 (2003). ] XおよびX-をそれぞれ、励起子および荷電励起子と同定した
ダブルピーク構造について、2次元の実験と比較 ※ Arm well の測定データ CdTeドープ量子井戸の吸収 Huard et al., PRL 84, 187 (1999). PLE PLE 2D 2x1010 3x1011 1x1011 1.3x1011 1.8x1011 吸収 0.7V 0.6V 0.5V X- 0.4V ダブルピークは1次元系でのみ観測される構造である。
1次元系であれば、Free-Electron計算でも Hartree-Fock計算でも再現する。2次元系では現れない。 ダブルピーク構造について、計算と比較 PLE 1次元系であれば、Free-Electron計算でも Hartree-Fock計算でも再現する。2次元系では現れない。
ダブルピーク構造について、計算結果の分析 1D DOSの影響と、クーロン相互作用による影響を分離するのは、実験的には難しいが、理論的には可能。 何か言えるかも(?)
③ 低濃度へのクロスオーバー ~ まとめ 低濃度の極限(0-0.15V)では、対称的な形状のXとX-が現れ、それぞれ励起子と荷電励起子と同定した。 高濃度のFE・BEから低濃度のX-へのクロスオーバーで、1次元系特有と考えられるPLEのダブルピーク構造が観測された。 低エネルギー側のピークは、1D DOSおよびクーロン相互作用に起因するものであると考えるが、それぞれの寄与を分離することは、実験的には難しい。 <課題> 1次元や2次元の電子系で、 様々にパラメータを変えて計算をしてみる
関連する研究について① Kennerd & Stepanov relation 光放出 光吸収 光吸収 光放出 Y. B. Band and D. F. Heller, Phys. Rev. A 38, 1885 (1988). “Relationships between the absorption and emission of light in multilevel systems” D. A. Sawicki and R. S. Knox, Phys. Rev. A 54, 4837 (1996). “Universal relationship between optical emission and absorption of complex systems: An alternative approach” Kennerd & Stepanov relation McCumber - Neporent relation 光放出 光吸収 光吸収 光放出 1-3 : 513K、633K、713K 計算 吸収 発光 T* = 556K、655K、755K 試料 : ローダミン6G、アレキサンドライト、など 測定 : 蛍光分光&透過吸収 @ 室温 試料 : ペリレン、フィコシアニンなど 測定 : 蛍光分光&透過吸収 @ 500-700K
Kubo-Martin-Schwinger relation 関連する研究について② ‘04 S. Chatterjee, C. Ell, S. Mosor, G. Khitrova, and H. M. Gibbs, W. Hoyer, M. Kira, S. W. Koch, J. P. Prineas, and H. Stolz, Phys. Rev. Lett. 92, 067402 (2004). “Excitonic Photoluminescence in Semiconductor Quantum Wells: Plasma versus Excitons” Kubo-Martin-Schwinger relation 計算 光放出 光吸収 発光 : 光子エネルギー T : 温度 m : 化学ポテンシャル 吸収 試料 : ノンドープ多重量子井戸 測定 : パルス励起の発光&過渡吸収測定 @ 5K 彼らはパルス光で非共鳴励起(13.2meV高エネルギー側を励起)しており、この場合は系が準熱平衡状態とみなせないという主張なので、KMSが成立する今回の結果と矛盾するわけではない。
Hartree-Fock計算との比較の現状 10K mh=0.105m0 10K mh=0.457m0
0.7V(高電子濃度)における温度依存性の実験結果 T=5K (Ef/kBT ~ 5) 高温 PLE onset at Fermi edge (FE) 環境温度 T=50K (Ef/kBT ~ 1) sharp PLE peak at Band edge (BE) 低温 計算と良い一致を示している 1次元系特有の現象である 1次元状態密度の特異性を反映したバンド端吸収ピークの観測
温度依存性に関する、計算結果の比較 自由粒子 Hartree-Fock クーロンによってバンド端とフェルミ端の構造が強調される傾向が現れるものの、 その影響はそれほど大きくなく、どちらも実験を再現している。
J. M. Calleja et al., Solid State Commun. 79, 911 (1991). PL and PLE spectra on doped GaAs quantum wires Investigation of 1D FES effects