岡田安弘 (KEK) 2017年8月1日 “素粒子物理学の進展 2017” 京都大学基礎物理学研究所

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岡田安弘 (KEK) 2017年8月1日 “素粒子物理学の進展 2017” 京都大学基礎物理学研究所 ILC プロジェクト 岡田安弘 (KEK) 2017年8月1日 “素粒子物理学の進展 2017” 京都大学基礎物理学研究所

ILCプロジェクトの概要 ILCにおける物理 ILC実現に向けての最近の動き   ILC250

1.プロジェクトの概要

International Linear Collider (ILC) 次世代最高エネルギー電子・陽電子コライダー 電弱相転移の時期の物理法則を解明するための実験施設 国際的な枠組みで研究開発、設計作業が進められ、計画推進されている

電子・陽電子リニアコライダーの歴史 1980年代から次世代高エネルギー物 理学加速器実験施設と検討を開始。 国内では高エネルギー物理学コミュ ニティからの最初の提言は1986年。 2000年代初めまで、3極でリニアコラ イダー計画の研究開発、検討が行わ れてきた。 2004年にICFA(国際将来加速器委員 会)のもとで、リニアコライダーの 加速器の基本技術の選択がなされた。 それ以降、ILCプロジェクトとして、 Global Design Effort (GDE) もとで、国 際的な枠組みで加速器の設計、研究 開発が行われた。 2013年に、GDEは技術設計書(TDR)を 完成させた。ILC プロジェクトの詳細 設計は、GDEからLinear Collider Collaboration (LCC) に引き継がれた。 2017年1月からの組織

JLC-I KEK Report 92-16 December 1992 ヒッグス、トップ、超対称粒子

ILC TDR (技術設計書) 2013年6月にGDEにより発表されたドキュメント。 重心系エネルギー200-500GeVをカバーし、将来の1 TeV 拡張 性を保った、加速器の設計とコストの見積もりが示されている。 加速器の建設経費は7,982MILCU (1ILCU=2012年1月の1米ドル)で2 5%の不定性を想定。 Item Parameters C.M. Energy 500 GeV Length 31 km Luminosity 1.8 x1034 cm-2s-1 Repetition 5 Hz Beam Pulse Period 0.73 ms Beam Current 5.8 mA (in pulse) Beam size (y) at FF 5.9 nm SRF Cavity G. Q0 31.5 MV/m Q0 = 1x10 10 e- Source e+ Main Liinac e+ Source e- Main Linac Physics Detectors Damping Ring

ふたつのKey Technologies 最近の進展 ナノ・ビーム技術 KEK のATF2でILCのスペックをほぼ達成 超伝導加速技術(SRF) DESYに、同じ超伝導技術加速技術を使った 光科学施設 European XFELが完成した。 ILCの技術の産業化の実証として位置づけられる。 European XFEL

TDRに示されたふたつの Detector Concepts Large R with TPC tracker LOI signatories: 32 countries, 151 institutions, ~700 members ILD SiD High B with Si strip tracker LOI signatories: 18 countries, 77 institutions, ~240 members Features of ILC Detectors Compared with LHC detectors, ILC detectors have ~10 times better momentum resolution and 100~1000 times finer granularity. This performance can be achieved only in the clean environment of the ILC, and cannot be achieved in the LHC environment. The cost of ILC detectors is similar to or less than that of the LHC detectors.

2.ILCにおける物理

Physics at the ILC ヒッグス粒子を通じて標準理論を超える物理を探る。 暗黒物質粒子や超対称粒子の直接探索。 2012年7月のLHCにおける ヒッグス粒子の発見 ヒッグス粒子を通じて標準理論を超える物理を探る。 暗黒物質粒子や超対称粒子の直接探索。 トップクォークやフェルミオン対生成過程を通じて、標準理論を超える物理を探る。 ILC250でどこまでできるか、それ以上にエネルギーが必要な物理は?

TeV 以下の物理 TeV 以上の物理 ヒッグス粒子あり ヒッグス粒子なし One Higgs doublet model 超対称性 Little Higgs Models (複合ヒッグス場) 高次元模型 大統一理論 複合ヒッグス模型 新たな強い力 重力との統一 Planck scaleの物理 など、など 最も単純な標準模型(One Higgs doublet model) では、その性質はヒッグス粒子の質量さえ決まれば予言可能。どんなずれも新物理の証拠。 ずれの原因はいろいろ考えられる (余分なヒッグス場、新粒子のループ効果、複合ヒッグス などなど) =>ヒッグス粒子の性質の精密な決定が重要  ILC物理の最重要課題

e+e- -> ZH 過程 : ヒッグス機構の検証 Ecm=250 GeV で十分 Z-> mm モードを使うと ヒッグス粒子の崩壊モードに 依らずZHH 結合が測定できる f Z |Dm f|2 f=v+H ZZH はもともとZZ ff から

Higgs coupling の測定精度 LCC Physics WG arXiv:1506.05992v2 LHC ILC LHC+ILC (kappa parameter は標準理論の結合乗数との比)

250GeV ILC で ヒッグス結合の詳細決定はどこまでできるか Effective Filed Theory (EFT) による解析 T.Barklow et al. , presented at AWLC17 ILCのヒッグス結合の詳細決定で重要な点は、結合定数の絶対値が精度よく決まること。 そのためには H->WW* の分岐比とWW fusion 過程によるヒッグス粒子の生成断面積 が重要と考えられていた。 しかし、gauge invariant なEFTよると、それは、必ずしも正しくなく、必要でもない。 電弱精密測定、ee->WW による、triple gauge coupling と合わせて、ILC250 で結合定数の絶対値が精度よく決められる =>

M.Peskin AWLC17 ヒッグス物理にも、beam polarization が非常に重要。 同じ integrated luminosity なら、ILC250 では、500GeV までのILC とヒッグス結合定数の決定精度は変わらない。

Invisible branching ratio 03.% 測定 ILC250のヒッグス結合測定のインパクト Invisible branching ratio 03.% 測定  => H->XX のよりヒッグス粒子の半分の質量までsinglet dark matter 探索可能 様々の模型を区別する (M. Peskin AWLC17) HL-LHC の直接探索を超える モデルポイント9例についての ヒッグス結合のずれ(%) SM およびそれらのモデルポイント の区別可能性 (n シグマ)

Double Higgs Production 250GeVより高いエネルギーでの重要な測定 トップクォーク対生成領域のthreshold scan による質量の精密決定 (50MeV 程度まで) Double Higgs Production LCC Physics WG arXiv:1506.05992v2 標準理論の真空安定性の問題へのインプット D.Buttazzo, et al arXive:1307.3536 C.F. Durig et al, LCWS2016

3.ILC実現に向けての最近の動き

2012年以降の動き 2012年7月ヒッグス粒子の発見。 2012年10月高エネルギー物理学研究者会議がILCをglobal project として日本がホストすることを提案。 欧米のHEP将来計画や国際コミュニティからの支持表明。    The European Strategy for Particle Physics Update 2013   US P5 report (May 2014) ACFA/AsiaHEP Statement (September 2013, March 2016) ICFA statements (January and July 2014) 2013年6月ICFAのもとのGDEが ILC-TDRを発表。 2013年8月 高エネルギー物理学研究者会議のもとのILC立地評価会議がILCの国内候補地として北上サイトを最適と評価するとの結果を公表。

The European Strategy for Particle Physics Update 2013: May 2013

AsiaHEP/ACFA statement on the ILC project: September 2013 AsiaHEP/ACFA welcomes the proposal by the Japanese HEP community for the ILC to be hosted in Japan. AsiaHEP/ACFA looks forward to a proposal from the Japanese Government to initiate the ILC project. ICFA statement on the progress towards an ILC in Japan: February 2014 US P5 report :May 2014

日本政府の取り組み 2013年5月、文部科学省は日本学術会議に対して「ILC計画に関する学 術的見地からの検討」を求める審議依頼。 学術会議の提言を受けて、文部科学省では2014年5月に、省内のタス クフォース(副大臣が主宰)のもとに、有識者会議を設置。 それ以降、有識者会議のもとに順次4つの作業部会を設け、報告書を 策定した。2015年6月にはこれまでに議論のまとめを発表。現在 も精力的に検討を続けている。  素粒子原子核物理作業部会、TDR検証作業部会、人材の確保・育成方 策作業部会、体制及びマネージメントの在り方作業部会 2016年5月に文部科学省と米国エネルギー省(DOE)間でILCに関 する”Discussion Group”を設置。ILCコスト削減のための共同研究事業を 開始した。

2017年2月1日 ILCに関する有識者会議(第6回)資料より 2017年7月28日 第7回有識者会議で、体制及びマネージメントの在り方 作業部会の報告書(案)が示された。

MEXT-DOE Discussion Group 2016年5月に文科省とDOE間で局長レベルをco-chairとするILCに関する日米Discussion Group を設置。 カバナンス、経費分担なども議論のテーマであるが、まずは日米で共同でILCコスト削減の共同研究事業に着手することを決定。 2016年10月の第2回会合で KEKとFNALの提案に基づき、ILCコスト削減に関する2つのテーマについての共同研究を開始。 第39回日米科学技術協力事業 (高エネルギー物理学)合同委員会で 正式に共同研究が開始された。 April 19-20, 2017 at BNL

KEKの取り組み LCCの枠組みのもとで、加速器、測定器の研究開発、詳細設計を進 める。 有識者会議が時宜を得た結論を出せるように協力する。 プロジェクト準備期間から建設への計画(アクションプラン)を 立てる。    ILCの参加に関する政府間の議論が進むように、外国の研究者コ ミュニティ、Lab directorate、Funding Agency と連携、協力する。 国民及び科学コミュニティの理解を得るための活動を進める。 コスト削減R&D KEK-ILCアクションプラン http://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Release/20160106140000/ ILC理解増進のための寄附金 http://www2.kek.jp/ilc/ja/contents/contribution/index.html

ILC250の提案 2016年12月の盛岡でのLCWS2017で、 ILCコストを大幅に削減して開始するため、 Staging を検討することで合意した。 ICFAの下に設置されている、Linear Collider Board (LCB)と Linear Collider Collaboration (LCC) では、250 GeV ILCの施設・設備案、 経費、物理について検討作業を進めてい る。 2017年8月及び11月に予定されて いる、LCB/ICFAで議論され、国際コミュニ ティとしての方針を決める予定。 日本の高エネルギー物理学コミュニティ (高エネルギー物理学研究者会議)では、 LHCの最新結果を踏まえて、ILCの科学的 意義を評価し、ILC250を早期に建設す ることを提案した。 ILC議員連盟河村会長の講演@LCWS2016 LCWS2016, Morioka, Dec. 2016

LHC RunII のこれまでの結果を踏まえたILCの科学的意義とILC早期実現の提案 2017年7月22日  高エネルギー物理学研究者会議 高エネルギー物理学研究者会議では、「ILC250GeV Higgs Factoryの物理意義を検証する委員会」を設置し、重心系250GeVのILC(ILC250)を建設した場合についての物理的意義を、重心系500GeVのILC(ILC500)を建設した場合やILCを建設しなかった場合と比較・検討した。 ………… その結論は次のとおりである。  HL-LHCの物理成果をより実りのあるものとするためにも、ILC250の同時期の実験が望ましい。  新しい物理のスケールが分かっていない現状では、ヒッグス粒子や標準理論の精密検証において、ILC250は、ILC500に十分比肩できる物理成果が期待出来る。  HL-LHCやSuperKEKBなどの成果と合わせて、Λ(新しい現象・原理のエネルギースケール)=2-3TeV程度までの新現象の確実な発見や、また物質の非対称性の起源の解明に、ILC250「Higgs Factory」は、不可欠な役割を果たす。  エネルギーアップグレードはリニアコライダーの先天的な長所であることから、ILC250は自身で出す結果で示唆される新物理のエネルギースケールに見合ったアップグレードを実行する可能性を持っている。 以上のことから、LHC RunII のこれまでの結果を踏まえて科学的な重要性を考慮すると、高エネルギー物理学研究者会議は、ILCを、重心系250GeVのヒッグスファクトリーとして、早期に建設することを提案する。 (前略) (中略) http://www.jahep.org/files/JAHEP-ILCstatement-20170722.pdf

今後の進み方 今後1-2年が重要な時期 ICFAのもとで、ILC250についての合意形成 外国パートナーとの議論 今後1-2年が重要な時期

まとめ ヒッグス粒子を調べることは、今後の素粒子物理学の進む方向を 決めるうえで決定的に重要である。エネルギー拡張性にすぐれ、 ビーム偏極を利用できるILCは、そのために最適な実験施設である。 ILCを重心系250GeVのヒッグスファクトリーとして早期建設す るための物理、技術、経費の検討が国際的に行われている。 ILC実現には今後1-2年が重要な時期である。