「税法」 Tax Law / Steuerrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 税務調査 (質問検査権)

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「税法」 Tax Law / Steuerrecht 担当:森 稔樹(大東文化大学法学部教授) Toshiki Mori, Professor an der Daito-Bunka Universität, Tokyo 税務調査 (質問検査権)

税務調査の必要性 申告納税制度を維持するため 納税額の(最終的な)確定のため 更正処分、決定処分、または賦課処分を行うため 課税要件に係る事実に関する資料や情報を入手するため

税務調査とは 課税に必要な資料や情報を入手するために、税務職員が納税者などに対して質問し、帳簿書類などを検査すること。 行政法学でいう質問検査権の一種。 間接的強制調査に当たる。 国税通則法第74条の2以下に規定される。 質問検査権≠(実力行使を伴う)強制調査 (実力行使を伴う)強制調査は国税通則法第130条以下に規定される(国税犯則取締法は平成30年4月1日に廃止された)。

税務調査の目的 質問検査権の目的:租税の公平かつ確実な賦課徴収のために必要な資料の取得収集である。 犯則調査を目的とするものではない。 但し、質問に対する不答弁、検査の拒否や妨害に対する罰則がある(国税通則法第127条第2号・第3号)←間接的強制調査である。

税務調査(質問検査権)の要件 国税庁、国税局もしくは税務署または関税の職員は、 個別の租税に関する「調査について必要があるとき」に行うことができる(国税通則法第74条の2第1項など)。 「必要があるとき」:上記職員の裁量(要件裁量)に或る程度は委ねられているものと解さざるをえない。

間接的強制調査と憲法(1) 最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁(川崎民商事件) 憲法第35条第1項による保障は、行政手続にも及びうる(但し、性質による)。 憲法第38条第1項による保障は「実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする」。

間接的強制調査と憲法(2) 最三小決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁(荒川民商事件) 「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目について」、「権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている」。 質問検査の「実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない」。

質問検査権と犯則調査との関係(1) 国税通則法第74条の8:質問検査権を犯罪捜査のために利用してはならないという趣旨の規定。 問題:質問検査権を行使して税務調査を進めるうちに、何らかの犯罪容疑を裏付ける事実が発見された。このような場合、税務調査によって得られた資料を犯則調査に利用することが可能であるか。

質問検査権と犯則調査との関係(2) 最二小決平成16年1月20日刑集58巻1号26頁 税務署による税務調査で得られた資料を基にして、国税局調査査察部が国税犯則調査を行った。 税務調査が国税犯則調査の手段として利用された、と言いうるのか?

質問検査権と犯則調査との関係(3) 質問検査権は、「犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されない」。 「上記質問又は検査の権限の行使に当たって、取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、そのことによって直ちに、上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならない」 。

質問検査権と犯則調査との関係(4) 最一小判昭和63年3月31日訟務月報34巻10号2074頁 国税局調査査察部が国税犯則調査を行った結果として得られた資料を、税務調査のために利用することは許されるか。 判旨:「収税官吏が犯則嫌疑者に対し国税犯則取締法に基づく調査を行つた場合に、課税庁が右調査により収集された資料を右の者に対する課税処分及び青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許される」。