コンピュータで探る 天体爆発現象 柴田一成 京大理学研究科・花山天文台 2005年10月18日 現代物理学リレー講義

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コンピュータで探る 天体爆発現象 柴田一成 京大理学研究科・花山天文台 2005年10月18日 現代物理学リレー講義 2005年10月18日 現代物理学リレー講義 (40分) 4:30-5:10 コンピュータで探る 天体爆発現象 柴田一成 京大理学研究科・花山天文台

本講演のプラン はじめに 数値天体物理学(Numerical Astrophysics)入門 太陽フレア 近年の観測が明らかにした驚くべき天体爆発現象を、最新の スーパーコンピュータがどこまで明らかにしたか紹介 はじめに 数値天体物理学(Numerical Astrophysics)入門 太陽フレア 原始星フレア 宇宙ジェット(活動銀河核、ブラックホール、原始星) (超新星とガンマ線バースト)

はじめに 19世紀 永遠不変の静かな宇宙 ↓ 20世紀前半 進化する宇宙 ↓ 電波、X線、赤外線 20世紀後半 活動する宇宙 19世紀  永遠不変の静かな宇宙             ↓ 20世紀前半 進化する宇宙              ↓ 電波、X線、赤外線 20世紀後半 活動する宇宙           宇宙は爆発だらけ!

星は進化する 形成 星間雲=>主系列星(太陽) 進化 主系列星(太陽)=>巨星 死 (軽い星:太陽) 惑星状星雲 =>白色矮星 形成  星間雲=>主系列星(太陽) 進化  主系列星(太陽)=>巨星 死 (軽い星:太陽) 惑星状星雲              =>白色矮星         (重い星) 超新星爆発          =>ブラックホール             中性子星

活動銀河核の発見 1960年代ー 活動銀河が 続々と見つかる クェーサー(QSO:準星) 電波銀河 セイファート銀河 =>中心核活動 1960年代ー 活動銀河が   続々と見つかる    クェーサー(QSO:準星)    電波銀河    セイファート銀河       =>中心核活動 きわめて遠方(宇宙初期)   宇宙最大の爆発        クェーサー =若い銀河の中心核    クェーサー (3C273)

電波銀河(白鳥座A) (距離=5億光年、長さ=30万光年)

太陽プロミネンス噴出 (史上最大:1946年6月4日)

太陽フレア/ジェット (京大飛騨天文台:Hα)

私の青春の夢 宇宙最大の謎の活動銀河核(とそのジェット)を生きているうちに解明したい! しかし、本体の直接観測は遠い未来。  ならば身近な太陽面爆発(フレア)や他の類似の天体フレア・宇宙ジェットにヒントを探し、MHDプラズマ理論でせまる。(私の戦略)

日本のコンピュータは世界一! 地球シミュレータ(Earth Simulator) http://www.hoise.com/primeur/02/articles/weekly/AE-PR-05-02-59.html Japanese 'Computenik' Earth Simulator shatters US supercomputer hegemony Tokyo 20 April 2002 The Japanese Earth Simulator is on-line and producing results that alarm the USA, that considered itself as being leading in supercomputing technology. With over 35 Tflop/s, it five times outperforms the Asci White supercomputer that is leading the current TOP500 list. No doubt that position is for the Earth Simulator, not only for the next list, but probably even for the coming two years. In the New York Times, bench mark compiler Jack Dongarra compares the event with the Sputnik, hence he dubbed the Earth Simulator "Computenik". 計算プロセッサのピーク性能8Gflops 総プロセッサ数5120 計算ノードのピーク性能64Gflops 総計算ノード数640 計算ノードの主記憶容量16GB ピーク性能40Tflops 主記憶容量10TB

数値天体物理学 Numerical Astrophysics or Computational Astrophysics コンピュータを用いて、天体現象の物理学を探求する学問 コンピュータは、理論の望遠鏡

なぜ数値シミュレーションが 必要か? 基礎方程式(流体力学、電磁流体力学、一般相対論、重力多体問題、、、)が非線形 天体爆発現象における物理量のダイナミックレンジはきわめて広い=>非平衡開放系

流体方程式 (断熱、重力なし) 未知数5個: 密度(ρ)、速度ベクトル(v)、圧力(p) 方程式5個: 非線形連立偏微分方程式 質量保存   未知数5個: 密度(ρ)、速度ベクトル(v)、圧力(p)   方程式5個: 非線形連立偏微分方程式 質量保存 運動量保存 エネルギー保存 ただし

電磁流体(MHD)方程式 (断熱、重力なし)   未知数8個: 密度(ρ)、速度ベクトル(v)、圧力(p)、磁場ベクトル(B)   方程式8個: 非線形連立偏微分方程式 質量保存 運動量保存 エネルギー保存 ただし 誘導方程式

さらに一般的な方程式は、 以下の式や項を含む 自己重力方程式(ポアソン方程式) 放射輸送方程式 非理想過程:放射冷却、熱伝導、粘性 ミクロ物理過程:宇宙線(非熱的粒子)、   原子・化学反応、、、 速度が光速に近づくと特殊相対論が必要 ブラックホール近傍では一般相対論が必要 いずれにせよ、みな微分方程式

差分法 差分法: 微分を差分で近似。 有限の格子点上 で計算 粒子法: 超粒子の運動方程式を解く ラグランジュ法。MHDには不向き。 差分法: 微分を差分で近似。 有限の格子点上      で計算   粒子法: 超粒子の運動方程式を解く         ラグランジュ法。MHDには不向き。         (磁場を解く必要があるので、                     格子点はどうしても必要)

参考文献 活動する宇宙(裳華房1999、柴田、福江、 松元、嶺重編) 写真集 太陽(裳華房 2004、柴田、大山) 活動する宇宙(裳華房1999、柴田、福江、                     松元、嶺重編) 写真集 太陽(裳華房 2004、柴田、大山) 数値流体力学ハンドブック(丸善2002)   最終節「天体数値流体計算」(柴田) シミュレーション天文学最前線2002  電子集録  http://th.nao.ac.jp/sim2002/proceedings/list.htm 詳しい文献リストについては、この中の私の原稿を参照のこと

太陽フレア

太陽フレア 京大飛騨天文台 Hα 19世紀中頃発見 彩層 1万度 黒点近傍で発生=> 磁気エネルギーが源 サイズ~(1-10)万km 全エネルギー     1029 - 1032erg    (水爆10万ー1億個) 彩層 1万度 京大花山天文台

「ようこう」の見たコロナ 1991年11月ー12月 軟X線望遠鏡による (1 keV) 200万度ー 数千万度

「ようこう」が見たフレア 軟X線(~1keV) 磁気リコネクション

磁気リコネクションとは? 磁力線 磁気エネルギーを短時間の内にプラズマの 運動エネルギーや熱エネルギーに変換 地球磁気圏でも発生 http://www-solar.mcs.st-andrews.ac.uk/~eric/ 磁気エネルギーを短時間の内にプラズマの 運動エネルギーや熱エネルギーに変換 地球磁気圏でも発生

世界初の 熱伝導を含むMHDリコネクション計算 (Yokoyama-Shibata 1998) ようこう 軟X線望遠鏡 で観測された 太陽フレア

フレア温度の scaling law の 発見(Yokoyama and Shibata 1998, 2001)

シミュレーションの効用 1) 定性的物理が良くわかる。教育的効果。 1) 定性的物理が良くわかる。教育的効果。 2) 天体物理学的モデリングを可能にする。観測と理論の橋渡し。(e.g., Yokoyama and Shibata 1995) 3) 解析的手法では発見困難な物理の 発見の道具。シミュレーションは数値実験。 理論のカンニング(!)   例) scaling law (Yokoyama and Shibata 1998)      (世界初の熱伝導MHDリコネクションの       シミュレーションより発見)

太陽コロナにもジェット発見 (ようこう軟X線) 足元でマイクロ・フレア 長さ=数万ー数10万km 速度=10-  1000km/s

太陽コロナ・ジェットのコンピュータ・ シミュレーション(横山・柴田1995) ようこう軟X線望遠鏡 で観測された 太陽コロナX線ジェット

今年3月、京大グループが太陽浮上磁場の3次元シミュレーションに成功

コロナ質量放出(CME) (SOHO/LASCO, 可視光/人工日食) 速度~10-1000km/s、質量~10^(15)-10^(16)g

コロナ質量放出の 電磁流体シミュレーション(塩田ら 2004) コロナ質量放出の 電磁流体シミュレーション(塩田ら 2004)

Three-Part Structure edge? cavity core density t=100 SOHO/LASCO density t=100 The numerical results reproduce the three-part structure. .

原始星フレア

原始星フレア 超低温(10K)の分子雲中の生まれたばかりの星(原始星)で発生 時間スケールは太陽フレアとそれほど変わらない(数時間ー10時間) 超高温、およそ1億度     (太陽フレアは、1-2千万度) 全エネルギーは、太陽フレアの1万倍以上

原始星フレア (X線/あすか衛星:小山ら1995) 原始星フレア (X線/あすか衛星:小山ら1995)  温度~ 1億度 太陽フレアのエネルギーの1万倍以上

原始星フレア(YLW15A)の X線強度の時間変化 (あすか:Tsuboi et al. 2000)

原始星フレアのモデル (林、松元、 柴田 1996)

宇宙ジェット

宇宙ジェット 最初に発見された宇宙ジェット  (1917) 楕円銀河M87(電波銀河)の中心核から噴出 活動銀河核ジェットの一種

活動銀河核ジェット (電波銀河:M87) 二つ目玉電波源のエネルギー源はジェット 1光年以下のスケールから数10万年光年の大きなスケールまで同じ方向にジェットが出ている

活動銀河核ジェットの根元に 降着円盤!

活動銀河核の正体は何か? 1.宇宙で最大級のエネルギー解放 =>大量の物質の静止エネルギー の何割かを変換する必要あり     =>大量の物質の静止エネルギー       の何割かを変換する必要あり 2.短時間の時間変動=>サイズは小 3.ジェットの速度は相対論的(光速に近い) その正体は  超巨大ブラックホール(?)と           その周りを回る降着円盤

活動銀河核に 超巨大ブラックホールの証拠 野辺山宇宙電波観測所の電波天文学者(中井、井上、三好)が発見    (1995)

原始星ジェット (HH1-2 : 長さ約1光年) (ハッブル宇宙望遠鏡:可視光観測)

電波銀河(白鳥座A) (距離=5億光年、長さ=30万光年)

原始星ジェットと降着円盤

宇宙ジェットの特徴(まとめ) 活動銀河核 近接連星系 原始星 中心天体 超巨大ブラックホール ブラックホールまたは中性子星 ジェットの 長さ 100万光年 10光年 1光年 速度 c 0.3c - c 100km/s 脱出速度

宇宙ジェットは いかにして発生したのか? 中心に星またはブラックホール そこにガスが降着=>降着円盤 エネルギー源は重力エネルギー 重力エネルギーをいかにしてジェットの     運動エネルギーに変換するか?

宇宙ジェットの謎 1光年以下から、100万光年の大きなスケールまでジェットが同じ方向に保たれているのはなぜか? (=>回転) 1光年以下から、100万光年の大きなスケールまでジェットが同じ方向に保たれているのはなぜか?                       (=>回転) ジェットは、いかにして加速されるか? ジェットを、細長く絞っている力は何か? これらの謎を解くためのヒントが、          身近な太陽にある!!

回転ヘリカルジェットの発見 磁場の力で回転、へりカル構造をしている 太陽ジェット 原始星ジェット(ハッブル) SOHO/ CDS 黒河ら 飛騨天文台/Hα

太陽フレア/ジェットの 観測・理論からのヒント 直接のエネルギー源は磁気エネルギー(元は核エネルギー) プラズマは磁気力によって加速される ヘリカル・フィラメント(磁力線)構造が普遍的に出現 細長い構造は、磁気力によって容易に形成される

宇宙ジェットの電磁流体数値シミュレーション 降着円盤が 磁力線をねじることにより ヘリカル磁場 生成 磁気力で加速 磁気張力で ジェットを細く絞る(ピンチ) 磁力線 円盤 時間変化 Shibata & Uchida (1990、1986) ジェットの速度~ケプラー速度 世界初

ヘリカル原始星ジェット

宇宙ジェットの電磁流体モデル (工藤、松元、柴田 2005) 宇宙ジェットの電磁流体モデル (工藤、松元、柴田 2005)

原始星ジェットの新しいモデル (MHDシミュレーション)上原ら 2005 原始星ジェットの新しいモデル (MHDシミュレーション)上原ら 2005

流体力学の新しい数値解法:CIP 法 (矢部教授(現東京工大)が1991年に開発) 接触不連続が精度良く解ける。 気体、液体、固体が同時に解ける

降着円盤でもフレア(リコネクション)が起こる! (Kudoh, Matsumoto, Shibata 2002, PASJ) Magnetorotational Instability (Balbus and Hawley 1991) leads to turbulence and reconnection Similar to ADAF

ブラックホール降着円盤から噴出するジェットの一般相対論的MHDシミュレーション (Koide, Shibata, Kudoh 1998,1999,2000) 世界初 Maximum Lorentz factor ~2=>real limit ?

むすび 近年の太陽観測とコンピュータシミュレーションの発展により、太陽フレアのエネルギー解放は磁気リコネクションによるという説が、ほぼ確立した。原始星フレアも、磁気リコネクション説が有力。ただし、リコネクションの物理は未解決。 宇宙ジェット現象は、太陽面爆発現象と類似の電磁流体力学的機構によって発生しているかもしれないという説が、活発に議論されるようになってきた。ただし、まだ解決にはほど遠い。 観測が発展するにつれ、宇宙はますます謎めいた爆発現象に満ちていることが明らかになってきた。 例えば、ガンマ線バースト。

ガンマ線バースト 発見以来20年以上、どこで起きているかも謎だったが、最近ようやく数10億光年かなたの銀河で発生していることが判明 正体はいまだ謎(もしや電磁ジェット?)

ガンマ線バーストのモデル (コラプサー)のシミュレーション 水野ら(2004)ApJ 中心にブラックホールが形成、 そこに大量のガスが落ち込むときに、磁場の力により 0.2c の高速ジェットが発生

はじめに/おわりに 19世紀 永遠不変の静かな宇宙 ↓ 20世紀前半 進化する宇宙 ↓ 電波、X線、赤外線 20世紀後半 活動する宇宙 19世紀  永遠不変の静かな宇宙             ↓ 20世紀前半 進化する宇宙              ↓ 電波、X線、赤外線 20世紀後半 活動する宇宙           宇宙は爆発だらけ! ↓ γ線、ニュートリノ、重力波、 スーパーコンピュータ 21世紀前半  ??する宇宙

Central engine of gamma ray bursts ? Binary neutron star merger model Collapsar model (超新星モデル) magnetar model

回転ブラックホール(Kerr hole) の磁気圏から噴出するジェットのシミュレーション Koide, Meier, Kudoh, Shibata (2000) Koide et al. 2002 Science

Evidence of collimation (Kudoh et al. 2004, in prep) Small Middle Large

天体 形成 (重力収縮)

天体 形成 降着円盤ージェット システムの形成 天体 形成 降着円盤ージェット システムの形成

恒星・降着円盤(銀河円盤) 内部におけるエネルギー発生による活動

太陽コロナ・ジェットのコンピュータ・ シミュレーション(横山・柴田1995) 飛騨天文台 で観測された 太陽Hαジェット

捩れた磁束管の浮上の3次元MHDシミュレーション (Matsumoto et al. 1998)