磁気対流とその関連現象の数値シミュレーション 磯部洋明(東大・地球惑星
帰国報告 行ってたところ:Cambridge大学応用数学理論物理学部(DAMTP) 2005年5月〜2006年6月 イギリス国内で訪問(セミナー)した研究所:St. Andrews(2回)、MSSL、Glasgow、Warwick その間参加した大きな会議 Chromospheric and coronal magnetic field ('05 9月、ドイツ・リンダウ) 6th Solar-B Scientific meeting('05 11月、京都) Sun-Earth energy transfer('06 1月、ハワイ) Harry Petschek sypm. on magnetic reconnection ('06 3月、メリーランド)
DAMTP/Cambridge
DAMTP Astro group Atrophysical fluid dynamics group Nigel Weiss (retired): 黒点、対流、ダイナモ Mike Proctor: 磁気対流、ダイナモ、パターン形成 John Papaloizou: 降着円盤、惑星形成 Gordon Ogilvie: 降着円盤、惑星円盤 Alex Schekocihin: 乱流ダイナモ、銀河ダイナモ Posdoc 4〜5人、院生3〜4人 非線形力学も同じグループ(John Dawes) Atomic Astrophysics group Helen Mason: CHIANTI、EUV/X-ray spectroscopy, SOHO/CDS, Solar-B/EIS Posdoc 1人、院生1人 有名な宇宙論・素粒子グループは別物 Nigel Weiss Mike Proctor
Cambridgeでやってたこと CANSをベースに、磁気対流を解くコードを作る 応用は 輻射輸送をまじめに解くわけではない。 対流+浮上磁場の計算、黒点形成 対流と磁場の相互作用=>彩層、コロナ加熱 対流層〜tachoclineの磁場のダイナミクス、ダイナモ 輻射輸送をまじめに解くわけではない。 CANSのLax-Wendroff、CIP-MOCCT版に、熱・粘性・磁場の散逸を陽的に解くモジュールを追加+境界条件の実装 コードはテスト中。磁気対流はCIPでよりうまくいった。 2次元磁気対流+彩層コロナの計算。コロナ加熱に関して実際の問題に取りかかりつつある段階。 詳細は後述
Cambridgeでやってたこと 2 Atomic astrophysics グループと共同で、主にフィラメント噴出の観測的研究 噴出するフィラメントの振動 非対称なフィラメント噴出と3次元リコネクション 噴出のトリガー関連現象の多波長観測 Durgesh Tripathi Helen Mason Cristina Chifor
噴出するフィラメントの振動 Isobe & Tripathi, 2006, A&A, 449, L17 観測結果: フィラメントはゆっくり上昇=>突然加速 ゆっくり上昇時、加速直前に振動 結論: 「ゆっくり上昇」時でも、大振幅(>20km/s)に対して安定な平衡状態にある(線形不安定のゆっくりした成長ではない。)
非対称なフィラメント噴出と3次元リコネクション Tripathi, Isobe & Mason A&A in press. 巨大アーケード形成が磁気中性線に沿って進行する=>リコネクションの3次元的な進行(Isobe, Shibata & Machida, GRL 2002) Grigis & Benz (2005): フレアの硬X線ソースが同様の(みかけの)動きを示すのを発見=>"standart 2D model"では説明できないと結論 EIT(極紫外線望遠鏡)データでアーケード形成の進行とフィラメント噴出の関係を調べた 結果: アーケード形成進行方向とフィラメントの噴出方向は一致 2次元モデルの簡単な拡張
最も好評だった部分
非対称なフィラメント噴出とトリガーメカニズム Chifor, Mason, Tripahi, Isobe & Asai A&A submitted. 横から見たプロミネンスの片方の端でX線増光(RHESSI、非熱成分有り) フィラメントはゆっくりと上昇開始 上昇の初期、電波(NoRH)の輝度温度上昇 極紫外でフィラメントの一部が増光 フィラメントは増光と共に、加速度的に噴出 解釈:最初のリコネクション→端から上昇開始→磁力線が延ばされて次々リコネクション(加熱)→「ドミノ」のような効果で端から加速度的に噴出
Emergence of LONG sheet Tripathi, Isobe, Archontis
磁気対流コード開発とテスト http://www-space.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~isobe/work/cvcip/mcvcip-test.html をみてください。
(磁気)対流に関連した現象と重要な問題 粒状斑、中間粒状斑、超粒状斑 黒点とその構造形成 MHD波動の発生と彩層・コロナ加熱 音波、重力波の発生、光球/彩層振動、日震学 ダイナモ グローバルダイナモ ローカルダイナモ
(磁気)対流のシミュレーション: realistic vs idealized "Realistic" simulation 輻射輸送(grey/non-grey, LTE) 状態方程式(電離、水素分子形成etc.) "open" bottom boundary 「観測でどうみえるか」を再現できる Stein, Nordlund, Schuessler, Voegler "Idealized" simulation MHDのみ、単純化したモデルで物理を理解する 広いパラメータサーベイ Weiss, Hurlburt, Cattaneo... Stein & Nordlund 1998
Realistic simulationの最近の成果 faculareの起源:磁束管の壁を見ている(Spruitモデル) 黒点暗部のoscillatory convection (Voegler, Schessler) 深い計算領域でマルチスケール対流(Benson, Stein, Nordlund) 対流+磁束管浮上(Cheug, Schessler, Moreno-Insertis)
磁気対流とコロナ加熱 Steiner et al. 1998 これの3次元化は重要。対流の渦運動とtorsional Alfven wave
磁気対流とコロナ加熱 Katsukawa & Tsuneta 2005, Nagata et al. 2006 ...高温コロナループ(>2MK)と低温コロナループ(〜1MK)の足下で、ASPの偏光データを比較 どちらも磁場強度は1kG程度。高温ループの方がフィリングファクターが小さい 磁束管が自由に動けるから?
磁場強度、対流、ポインティングフラックス Poynting flux ∝ E x B ∝ BxBzVx + Bx^2Vz 磁場が弱いと磁場が弱いから 磁場が強いと対流が弱いから ポインティングフラックスが小さい(コロナ加熱が弱い)
ポインティングフラックス z=6 z=0 Q=1000(今のパラメータではB=数百ガウス)あたりでピーク 上空に達するまでに減衰。特にBx^2Vzの項。
今後の発展と問題点 3次元性(渦運動、Alfven波) 波の発生、伝播(モード変換)、散逸まで解く。Alfven波 or リコネクション?AC or DC? 光球(ニュートン近似)、彩層(断熱)の取り扱いは妥当か? どこまでrealisticにすべきか? 光球の擾乱スペクトルはgivenで、波の伝播と散逸の特性を調べるのも大事。(Moriyasu et al. 2004の多次元化、Galsgaard & Nordlundの発展)
浮上磁場、黒点形成と崩壊 今の浮上磁場の3次元計算はどれも小さい、時間も短い。 対流が入るとあっという間に壊れる。(Isobe & Shibata 2004、Cheung et al. 2005) 深く大きな計算領域が必要
対流のスケール? 黒点、活動領域 〜10^4-5 km 粒状斑 〜1000km、超粒状斑〜30000km 深さは?どうやって実現する? Benson Stein Nordlundの"realistic" simulation
黒点のモデリング これを地球シミュレータを使ってやりたい。(午後の講演) 光球下の磁場構造は? 光球下の音速分布、速度場(Kossocichev) これを地球シミュレータを使ってやりたい。(午後の講演) Thomas et al. 2002 半暗部の構造の起源:pumping?
日本の太陽グループは「輻射MHD」に手を出すべきか? 観測と直接比較できる(観測家には受ける) Solar-Bのデータがでてくる。ヨーロッパ勢は当然やってくるだろう。アメリカは? しかしどこまで現実的なのか? ダイナミクスにどれほど重要か? 応用としてはnon-solarの方が面白い? 降着円盤の状態遷移とか とか?
輻射以外のマルチフィジクス:部分電離 Leake & Arber (2006)ー部分電離、中性水素(ambipolar diffusion)の効果を入れた浮上磁場(2D)のMHDシミュレーション 理想MHD 部分電離有り オームの法則 ambipolar diffusion(磁場垂直方向の電気抵抗)の影響で、理想MHDの計算より浮上した磁場がForce-freeに近い(人工的な加熱の影響あり?) 光球・彩層リコネクションへの応用が面白いのでは? 原始惑星系円盤への応用は?MRI、リコネクション
輻射以外のマルチフィジクス:非平衡電離 非平衡電離と流体をカップルさせて解く。1Dフレア/ナノフレアループ:Bradshaw, Mason, (Cargill, Doyle) 非平衡電離のダイナミクスへのフィードバックがどれほどあるのかはよく知らない EUVライン放射等には大きな影響あり。Solar-B/EISの観測に重要。 MHDと非平衡電離ーリコネクション。 CHIANTIの発展版は非Maxwell分布からのライン放射を含む方向に。粒子加速の情報が得られるかも?
まとめ 対流の関わる現象はSolar-Bの重要ターゲット より長期的なターゲット:ダイナモ。段々と奥深くへ。 コロナ加熱 光球ー彩層ーコロナカップリング 黒点・活動領域の形成と崩壊 より長期的なターゲット:ダイナモ。段々と奥深くへ。 輻射輸送MHDに手をだすか?ポストプロセスでやるか? 観測との直接比較には必要だが、、、
出国報告 7/2-9/9まで、Max-Plank Institute for Solar System Research(ドイツ・リンダウ)に滞在。受け入れはSchuesslerさん、Cheungさん Newton近似等、光球の簡略化した扱いがどこまで妥当か、realistic simulationを元にして経験的な光球冷却モデル(例えばローカルな物理量の関数)が作れないか、など相談予定。