素粒子論(素粒子物理学)入門 現代物理学入門 石川 健三.

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素粒子論(素粒子物理学)入門 現代物理学入門 石川 健三

素粒子論入門(石川) 1.質量について。質量とは? 2.原子論の進展 3.基本粒子と4種の基本相互作用 4.素粒子の質量とその起源(世界最大の実験LHC) 5.ニュートリノの質量の発見 6.宇宙を占めるダーク・マター 7.まとめ

1 質量とは何か? (1)万有引力の法則: すべての物体間には、質量の積に比例し、距離の自乗に反比例する万有引力が働く。 1 質量とは何か?   (1)万有引力の法則: すべての物体間には、質量の積に比例し、距離の自乗に反比例する万有引力が働く。   (2)ニュートンの運動の法則      物体の加速度は、物体の質量に反比例し物体に加わった力に比例する。   (3)多数の物体の質量は、各質量の和である。

(1):万有引力定数G 万有引力の法則  G=6.6742(10)x10^{-11} m^3/Kg s^2 Gを精密に決定する方法はあるか?

質量についての問題 1.重力質量と慣性質量は等価か? 3.質量は不変か? 4.質量の起源は何か? 2.合成系の質量は、各要素の質量の和である。 3.質量は不変か? 4.質量の起源は何か?

1-1:重力質量と慣性質量は等価か? 重力中で自由落下する物体は、いつも平行に動くか? 現代における精度は? 人工衛星、惑星ロケット、他 時間の進み方は速度により違う

2.原子論の進展 (i)すべての物質は、小さな基本的な物質の構成要素である原子からできている。 (ii)物質の性質の多くは、原子論から理解することができる。  例: 気体の法則 PV=nRT、熱力学の法則     多様な物質の存在、電磁気現象、他 (iii)物質の生成、変換、崩壊する物質    

原子論の進展

水素原子の質量 水素原子は1モルで1グラムである。1モルは、アボガドロ数(6x10^23)の原子からなるので、一個の水素原子は、1/6x10^23=1.6x10^(-24)グラムである。 水素は、電荷が+|e|の水素原子核が中心にあり、電荷が-|e|の電子が周りを回っている。 陽子の質量は、電子の質量の約2000倍である。

質量(エネルギー)の換算 陽子質量 m 静止エネルギー

3.基本粒子と4種の基本的相互作用 基本粒子 それ以上分解できない粒子、すべての物質の構成要素である。 基本的相互作用 基本粒子    それ以上分解できない粒子、すべての物質の構成要素である。 基本的相互作用   それ以上分解できない相互作用、すべての相互作用が導かれる。 基本的でない相互作用の例:摩擦の力、張力、    、垂直抗力、ばねの力、

物質と相互作用の場 物質は原子(素粒子)から構成されている。 物質はいくつかの基本粒子からなり、 相互作用はいくつかの場から生成している。  相互作用はいくつかの場から生成している。 基本粒子も、基本的な場も共に素粒子である

現代の素粒子 電荷 +2/3|e| ー1/3|e| ー|e|

素粒子の質量の和から物体の質量が決まる  (1)有限の質量の素粒子    荷電レプトンとクォーク     電子  ミュウ  タウ(τ)     u,d,c,s,t,b クォーク、W、Zボソン  (2)ほぼ零質量の素粒子(波)    ニュートリノ  (3)零質量の素粒子(波)    光子(電磁波)と重力波(重力場)

素粒子間の基本的な力(相互作用) 電磁相互作用 電荷を帯びた物質間の力、電流間の力 弱い相互作用 ベータ崩壊の起源、ニュートリノ    電荷を帯びた物質間の力、電流間の力 弱い相互作用    ベータ崩壊の起源、ニュートリノ 強い相互作用    クォーク間の力、核子内、中間子内の力 重力相互作用    万有引力

力 (相互作用)の統一

基本的な力の場の起源となる素粒子 電磁相互作用 光子(photon,) 弱い相互作用 弱ボソン(W,Z boson) ゲージ粒子 強い相互作用    グルーオン(gluon) 重力相互作用    重力子(graviton)

三世代の物質粒子 第一世代 電子、電子ニュートリノ、uクォーク、dクォーク 第二世代 μ、μニュートリノ、cクォーク、sクォーク 第三世代 τ 、τニュートリノ、tクォーク、bクォーク

電磁相互作用と弱い相互作用の例 電子 陽子 水素原子 光子 ミューニュートリノ ミュー ミュー崩壊 Wボソン 電子 電子ニュートリノ

クォークレプトンの質量 陽子質量 電子質量

4:素粒子の質量の特徴 軽いニュートリノと重い“t”クォークで 12桁以上異なる。 軽いニュートリノと重い“t”クォークで 12桁以上異なる。 WボソンやZボソンは、陽子の約90倍の質量をもち非常に重いが、光に近い普遍的な性質を持つ。 同じ粒子が、質量がある場合(相)とない場合(相)がある。

素粒子が質量を持つのには理由がある。 磁石 磁石はなぜ磁石になっているか。 磁石を高い温度にすると磁石でなくなる。    磁石はなぜ磁石になっているか。    磁石を高い温度にすると磁石でなくなる。      電子間の相互作用より、“磁石”が発現 同様に、素粒子を超高温にすると質量が消失する(宇宙初期)。    ヒッグス場の相互作用より、素粒子の“質量”    が発現する。

4-2:質量の起源は何か? 質量は質量の場(未知の素粒子(ヒッグス粒子))が原因である。 真空中ではヒッグス粒子が凝縮している(超伝導や超流動のようになっている)。基本粒子の質量は、ヒッグス場との結合の大きさで   決まる。 ヒッグス粒子を探す実験(LHC実験)   が始まる。

LHC実験(CERN) ジュネーブ空港

LHC加速器 8.3Tの強力な超伝導双極磁石 ◎世界最高エネルギーであり、 LEP/Tevatronに比べて実質的に 10〜20 倍の重心系のエネルギー ◎LuminosityもLEPの約100倍   (B-factoryと同程度) 豊富な統計量での研究が可能 例えば、Higgs粒子(130GeV)は、 毎時1000事象も生成

ヒッグス粒子が発見されるか? 2007年ー2010年頃に発見される可能性が大きい。

4-3素粒子の崩壊と安定性 重い素粒子はベータ崩壊で軽い素粒子に崩壊する。 重い素粒子は不安定であり、軽い素粒子は安定である。 安定な素粒子: 電子、ニュートリノ、陽子(uud)、光子、

ニュートリノの歴史 ベータ崩壊の発見 1896 ベックレル ニュートリノ仮説 1930 パウリ ベータ崩壊の発見 1896 ベックレル ニュートリノ仮説 1930 パウリ 実験的存在証明 1953-1956 ライネス、コーエン                                               空間反転の破れ  1957 リー、ヤン、ウ― 二つのニュートリノ 1962  ニュートリノ天文学 1987神岡(小柴他) ニュートリノの質量と振動  現在   

5:ニュートリノの質量の発見 ニュートリノ振動実験 ()太陽の内部では核融合反応が進行中。 ニュートリノが生成され、約500秒かけて地   ニュートリノが生成され、約500秒かけて地      球に到達する。 () 原子炉内ではベータ崩壊によるニュートリノが生成される。炉から200kmの距離にある   測定器で観測する。

5-1:ニュートリノ振動 質量を持つ複数のニュートリノは相互転換する。

ニュートリノの生成 SN1987A 超新星爆発 太陽 核融合 宇宙線の崩壊 大気ニュートリノ 加速器 素粒子の崩壊 原子炉 ベータ崩壊    太陽         核融合    宇宙線の崩壊   大気ニュートリノ    加速器        素粒子の崩壊    原子炉        ベータ崩壊  ・ニュートリノの質量が有限であることが分かった。

ニュートリノの生成反応の例 中性子   陽子+電子+(反)電子ニュートリノ(ベータ崩壊) パイ中間子  ミュー+ミュウニュートリノ

太陽内の核融合 陽子+陽子 ー> 重陽子+陽電子+ニュートリノ 重陽子+陽子ー>ヘリウム(3)核+光 ヘリウム(3)核+ヘリウム(3)核       ー> 重陽子+陽電子+ニュートリノ 重陽子+陽子ー>ヘリウム(3)核+光 ヘリウム(3)核+ヘリウム(3)核      →> ヘリウム(4)核+2 陽子 放出エネルギー= 25MeV ( E=mc^2 ) ニュートリノ一個            

太陽ニュートリノの観測 (i)デイビス(1960年代) : ニュートリノが引き起こす化学反応を利用  : ニュートリノが引き起こす化学反応を利用  :太陽のエネルギー生成機構から予想される  ニュートリノ量の半分が観測された。 (ii)神岡チェレンコフ測定器(1980-2000年代)  :太陽ニュートリノによる反応で生成される電  子を測定する。予想値の6割程度が観測

太陽ニュートリノ欠損 太陽ニュートリノの観測量が太陽理論よりも半分程度になっているのは、太陽内で生成  されたニュートリノが地球まで伝播する間に  他のニュートリノに変換された。

太陽ニュートリノ欠損 電子 ニュートリノ ミューオン ニュートリノ 地球 太陽 E= 数 Mev ミューニュートリノ は ミューオン (m=100Mev/c^2)を生成する

デイビスの実験

神岡実験(小柴、戸塚他)

ニュートリノの質量差 (M1)^2ー(m2)^2=10^{-4}(eV/c^2)^2 (m2)^2-(m3)^2=10^{-2}(eV/c^2)^2 質量の差が分かったが、質量の値はまだ分からない。これからの問題である。

ニュートリノを筑波で生成し神岡(富山)で観測する

6.宇宙のダーク・マター 宇宙は、通常の物質(陽子、電子等)より多くのダーク・マターでできている。 現在の素粒子標準理論では、ダーク・マターになる粒子はない。

6-1:銀河とダークマター

見えない質量(ダークマター)                     x星 の運動   

ダーク・マターによる重力レンズ

WMAP 宇宙背景輻射の温度分布 高温度 低温度 宇宙を占める3Kの背景輻射の全天写真

ダークマター 電荷を持たない物質(ダークマター)が宇宙の質量の大部分である。 ダークマターが素粒子であるとしたら、未知の  素粒子である。

現代の素粒子

まとめ 現在、質量の起源となるヒッグス粒子がわかりつつある。今年か来年、実験で見つかる? なぜ、ニュートリノの質量が特異なのか?その絶対値は? 宇宙の起源や、構造で重要なダークマターは新しい素粒子か?