Estimations of subsurface structures and dielectric properties of lunar mare regions from Lunar Radar Sounder (LRS) Observations 月レーダーサウンダー(LRS)による月面海領域の地下構造と電気的特性の推定 富永祐[1],小野高幸[2],熊本篤志[3],中川広務[2] [1]:東京大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻 [2]:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻 [3]:東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター
月の地質構造 高地領域(highland)・・クレーターが密に分布し起伏の大きな地形、主に斜長岩からなる 1. Introduction highland 月の地質構造 高地領域(highland)・・クレーターが密に分布し起伏の大きな地形、主に斜長岩からなる 海領域(mare)・・平坦な表面、主に玄武岩からなる Fig. 1 月面図 mare 衝突クレーター形成の際に周囲に飛び散った物質からなる層 先行研究から 海領域は地層(玄武岩層・イジェクタ層)が厚く堆積した層構造をしている ことがわかっている 月地下構造・構成物質の電気的特性は、月の火山活動史を知る手がかりになる 地下から噴出したマグマが地表で冷えて固まった層
本研究の目標 月面海領域の地下構造を推定 …地層構造の有無を確かめる ←反射エコーの選定を統計的に行う 1. Introduction 本研究の目標 月面海領域の地下構造を推定 …地層構造の有無を確かめる ←反射エコーの選定を統計的に行う 構成物質の電気的特性(誘電率・ロスタンジェント)を求める ←推定された地下構造から地下構造の数値モデルを構築し、海領域全域での平均的な電気的特性を算出 推定結果を先行研究と比較 …先行研究は部分的な観測。SELENEは月面全体にわたって観測を行っており、データ量が豊富
サウンダー観測の原理 月表面・地下面からの反射エコーの到達時間差から、表面層の深さがわかる 分解能・・鉛直方向 75 m 2. 解析の原理と方法 サウンダー観測の原理 月表面・地下面からの反射エコーの到達時間差から、表面層の深さがわかる 分解能・・鉛直方向 75 m ・・水平方向 80 m Fig. 2 サウンダー観測の様子 ・・(1) L:表層の厚さ Δt:エコーの到達時間差 C:光速 ε:表層の誘電率 見かけの深さ (Apparent depth)
ノイズ(clutter echo)が多すぎて、地下境界面からのエコーが見えない Fig. 2 1パルス分の受信データ ノイズ(clutter echo)が多すぎて、地下境界面からのエコーが見えない 時系列順に並べる Fig. 3 パルス平均処理前の受信データ
散乱エコー (Clutter echo) 10パルス分平均 月面での表面のザラツキや地形の凹凸によって、散乱エコーが生じる 2. 解析の原理と方法 散乱エコー (Clutter echo) 月面での表面のザラツキや地形の凹凸によって、散乱エコーが生じる 散乱エコーの中から、表層・地下層面からの反射エコーを識別する必要がある Fig. 4 散乱エコーの説明 反射エコー →位相はそろっている 散乱エコー →ランダムな位相 10パルス分平均 受信したパルス波を10パルス分足し合わせ平均(data stucking) →ランダムな位相の散乱エコーを除去 Fig. 5 パルス平均処理 6
地下境界面エコーの判別は、1パルス分のデータからではできない 2. 解析の原理と方法 Fig. 6 1パルス分の受信パルス ノイズは軽減 地下境界面エコーの判別は、1パルス分のデータからではできない
Fig. 7 パルス平均処理後の受信パルス
表面・地下境界面エコーの選定 Surface echo・・・最も強度の大きいエコー 2. 解析の原理と方法 表面・地下境界面エコーの選定 Surface echo・・・最も強度の大きいエコー Subsurface echo・・・極小点以降で最も強度の大きいエコー 全受信パルスで、同一の基準でエコーを選定 Fig. 8 表面エコー付近の平均処理後の波形 Surface echo Subsurface echo or Clutter echo Fig. 9 Fig.7のデータでの表面・地下エコー
3. 地下構造推定 晴れの海領域の地下構造 ① ② ③ Apollo17号によるサウンダー観測..Apollo Lunar Sounder Experiment (ALSE) ・・深さ1〜2 km付近に地下層境界面を検出(表面層誘電率を8.7と仮定) (Phillips et al.,1978) 本研究では、パス①〜③で地下構造を推定 Fig. 10 Laser Altimaterによる高度データ Fig. 11 ALSEによる観測結果(Phillips et al.,1978)
3. 地下構造推定 Fig.12 パス①の反射エコー Fig. 13 パス②の反射エコー Fig. 14 パス③の反射エコー
深さ平均100 m(誘電率8.7と仮定) →ALSEのレンジ分解能1200 m ..400 m以下の層は見えない 3. 地下構造推定 深さ平均100 m(誘電率8.7と仮定) →ALSEのレンジ分解能1200 m ..400 m以下の層は見えない ALSEで検出された地下層境界面(深さ1〜2 km付近)は、本研究では検出できなかった Fig. 15 パス②での受信データ
2層モデルによる推定 玄武岩層2層からなる数値モデル(2層モデル)を仮定 4. 月構成物質の電気的特性の推定 basaltic layer 玄武岩層2層からなる数値モデル(2層モデル)を仮定 ・・(2) Ono et al., 2000 Fig. 16 2層モデルの概略図 ・・表面・地下境界面の誘電率 ・・表面層のロスタンジェント(L.T.) ・・パルスの角周波数・光速 ・・表面層の見かけの厚さ ・・表面・地下エコー強度 ・・衛星の高度 未知数 ・・求めたい値 既知数 ・・データからわかる値
式(2)から、誘電率・ロスタンジェント(L.T.)を求めたい 4. 月構成物質の電気的特性の推定 式(2)から、誘電率・ロスタンジェント(L.T.)を求めたい L.T. = 0.001,0.003,0.005と仮定 1<e1<10,1<e2<10の範囲で、P2/P1-f(e1,e2)が最小になる(e1,e2)の組を見つける ・・(2’) 取得した全パルスについてe1,e2を求め、誘電率値のヒストグラムを作成 調査領域・・20.9°〜24.4°E:17.5°〜 25.0°N(晴れの海一部)
分布幅が広く、このモデルからでは推定不可 1 < e1 < 3の範囲に分布 L.T. = 0.003 のとき e1 = 2.7 Fig. 17 表面層誘電率分布 分布幅が広く、このモデルからでは推定不可 Fig. 18 地下層誘電率分布
Conclusion 晴れの海(5°〜30°E:15°〜40°N)領域で、見かけの深さ300 m付近に、表面層・地下層境界面を検出した 推定した地下構造をもとに二つの数値モデルを作成し、構成物質の誘電率・ロスタンジェントを推定した Surface basaltic layer Subsurface basaltic layer Fig. 19 2層モデルによる推定結果
Acknowledgement 発表内で使ったLALTのデータは、国立天文台LALTチーム野田寛大様からご提供いただきました。どうもありがとうございます。
Apollo11~17号が採取したサンプルのloss tangent値を測定(Olhoeft et al.,1974) 6. Appendix Apollo11~17号が採取したサンプルのloss tangent値を測定(Olhoeft et al.,1974) loss tangent は、物質の組成(FeO・TiO2)に依存する 一般的な月構成物質では、およそ0.005以下になる C:FeO+Ti02の割合(%) ρ:密度 Fig. 20 loss tangentの分布 の範囲の定数と仮定
一般に、乾燥した岩石では低密度・・2.5、高密度・・9.5 程度の値になる (Olhoeft et al.,1974) 6. Appendix 誘電率は物質の密度に依存する 一般に、乾燥した岩石では低密度・・2.5、高密度・・9.5 程度の値になる (Olhoeft et al.,1974) 表面層は「レゴリス」と呼ばれる未固結物質に覆われる →密度は地下層と比べかなり小さい可能性がある の範囲で値を変化させ計算 Fig. 21 誘電率分布 p:物質の密度
先行研究(Margot et al,. 1996)による表面層誘電率推定 6. Appendix 先行研究(Margot et al,. 1996)による表面層誘電率推定 経度30°-70°、緯度-10°-42°の領域で、月面からの熱放射(波長21 cm域)を測定 ・・放射面(月面)に平行な強度成分 ・・放射面に垂直な強度成分 ・・表面層の誘電率 ・・放射方向 Fig. 22 誘電率分布
最低でも、深さ5 kmまでの反射エコーが見えるはず 6. Appendix 一般に、L.T.<0.005 ↓ 最低でも、深さ5 kmまでの反射エコーが見えるはず Fig. 23 境界面反射エコーの強度 Ono et al., 2000