X線CTにおけるファントム中の エネルギー変化についての検討 名古屋大学大学院医学系研究科 笹田 裕也 名古屋大学保健学科 小山 修司
背景1 体軸方向 多列化により、体軸方向のビーム幅が広がっている ⇒CTの管理によく用いられる体軸方向の検出長が100mm のCT用電離箱では、検出長が十分でない 体軸方向 ⇒比較的エネルギー依存の大きな、TLD・半導体検出器などのポイント型のもので測定するべき
背景2 被写体 Filter X線CT装置は、Beam-Shaping(bow-tie)Filterの影響により、回転中心以外でのポイントでは、X線の線質が変化してしまう。
目的 ファントム中各点におけるエネルギースペクトルを、EGS4のKEKによる低エネルギー拡張版であるLSCAT(Low-Energy Photon-Scattering Expansion for the EGS4 Code)を用いて分析し、エネルギー依存性の比較的大きな検出器(半導体検出器、TLD素子:Mg2SiO4とCaSO4)の正確な補正について検討する。 ※検討対象となる半導体検出器※1は名古屋大学 青山先生の自作のものを対象とし、TLD素子については産業技術総合研究所におけるデータを対象とした ※1:Medical Physics July2002 Volume29,Number7
シミュレーションの設定条件1 ジオメトリ ◎円筒形(直径32cm)、JIS胸腹部用ファントム 材質は円筒形⇒水およびPMMA ◎検出器:直径1cm、厚み0.4cmの円筒形 ◎線源-回転中心間距離:60cm ◎線源 点線源を必要な照射野(ビーム幅10mm、ファン角38度)に制限して使用 今回のシミュレーションでは対象となるCT装置を東芝TCT300として、スライス幅、 BeamShaping(bow-tie)Filterを考慮したスペクトルの設定を行った。ファントムの形状については、円筒ファントム(CT用腹部)とJIS胸腹部ファントムに則った形とした。材質については、両者ともPMMAとした。(JIS胸腹部ファントムは通常アクリルのケースに水を充填し用いる。)
シミュレーションの設定条件2 ◎ PCUTは1keV、ECUTは512keVとした ◎ データ収集は線源を10度ごと回転させ、その都度サンプリングを行った ◎ FSDは線束中心において1%以下の光子数を設定・・・109個 ◎オプションスイッチ(相互作用) IRAYL、INCOH、IPROF、IMPAC、IEDFL、IPHTE ◎計算コード EGS4(低エネルギー拡張版) LSCATを使用した 今回のシミュレーションでは対象となるCT装置を東芝TCT300として、スライス幅、 BeamShaping(bow-tie)Filterを考慮したスペクトルの設定を行った。ファントムの形状については、円筒ファントム(CT用腹部)とJIS胸腹部ファントムに則った形とした。材質については、両者ともPMMAとした。(JIS胸腹部ファントムは通常アクリルのケースに水を充填し用いる。)
円筒ファントム形 線源-回転中心間距離は60cm 32cm Z軸 材質にはPMMA および水とした Y軸 40cm 6点 ・・検出器(円筒形) 直径1cm×0.4cm 表面より1cm下 表面より1cm下 32cm Z軸 中心 中心 材質にはPMMA および水とした Y軸 40cm 検出器はZ軸方向に線束の中心から1, 5, 9, 13, 17cmの点に配置
JIS胸・腹部用ファントム形 線源-回転中心間距離は60cm 20cm 6点 Z軸方向 40cm 30cm X軸 中心 6点 Z軸方向 Y軸 40cm 30cm 検出器はZ軸方向に線束の中心から1, 5, 9, 13, 17cmの点に配置
線源1 ⇒そこで、次のような方法(三つのスペクトルを作成) により、シミュレーションを行った。 管球 Filter X線CT装置には体厚の補正のために左図のような、Beam-Shaping(bow-tie)Filterを装備している。これによりビームが透過するFilterの位置(厚み)によってエネルギーが変化してしまう。(→と→) 被写体 しかし、このFilterの形状は基本的に社外秘かつ、 複雑な形状である ⇒そこで、次のような方法(三つのスペクトルを作成) により、シミュレーションを行った。
線源2 ビーム幅は10mmに設定 Aのスペクトルは線束中心よりX軸上で±5cm Bのスペクトルは線束中心よりX軸上で +5~+10cm, -5~-10cm Cのスペクトルは線束中心よりX軸上で +10~+約20.6cm,-10~-約20.6cm※ C B A A B C X軸 Y軸 ※ 線源-回転中心距離60cmでファン角:38度とした時に60×tan(38×0.5×π÷180)より与えられる数 10cm ビーム幅は10mmに設定
入射スペクトルの比較 光子数比 エネルギー(keV) スペクトルA:Emax120keV・Eeff 52.5keV スペクトルB:Emax120keV・Eeff 58.8keV スペクトルC:Emax120keV・Eeff 74.3keV 光子数比 エネルギー(keV) 入射スペクトルの比較 作成したスペクトルは東芝TCT300の実測の実効エネルギーに基づき、 Birchの式※より作成した。
円筒形ファントムの分析結果 (エネルギー) 実効エネルギー(keV) 線束中心の実効エネルギー52.5keV 線束中心よりZ方向への距離
結果の取り扱い 得られた実効エネルギーより、各検出器に対する補正値(感度)を読み取る 入射X線の実効エネルギー(52.5keV)での補正値(N52.5)を基準として、その値と各ポイントの補正値(Np)との比較を行う (N52.5-Np)÷ (Np)×100 補正値の比較として算出される値(%)
素子(CaSO4)における 補正値の比較(%):円筒形 線束中心での補正値との比較(%) 線束中心よりZ方向への距離
素子(Mg2SiO4)における 補正値の比較(%):円筒形 線束中心での補正値との比較(%) 線束中心よりZ方向への距離
半導体検出器における 補正値の比較(%):円筒形 線束中心での補正値との比較(%) 線束中心よりZ方向への距離
JISファントムの分析結果 (実効エネルギーの結果) 線束中心の実効エネルギー52.5keV 実効エネルギー(keV) 線束中心よりZ方向への距離
素子(Mg2SiO4)における 補正値の比較(%):JISファントム 線束中心での補正値との比較(%) Nは算出された補正値を示している。N52.5は実効エネルギーが52.5keV(回転中心部の入射X線の実効エネルギー)の場合の補正値である。 N各点は算出された各点の実効エネルギーからの補正値である。 線束中心よりZ方向への距離
素子(CaSO4)における 補正値の比較(%) :JISファントム 線束中心での補正値との比較(%) 線束中心よりZ方向への距離
半導体検出器における 補正値の比較(%) :JISファントム 線束中心での補正値との比較(%) 線束中心よりZ方向への距離(cm)
結果のまとめ TLD素子(Mg2SiO4・CaSO4)の補正値には回転中心部の入射X線エネルギーによる補正値を用いることで位置によって(特にZ方向に離れた点)は10%以上の差異が生じる可能性がある 半導体検出器については、5%程度の差異が生じる可能性がある
考察1 TLD素子の補正値に10%以上の差異が生じる可能性がある →今回のエネルギー分析の結果より、人体型のファントムなどZ軸方向に長さのあるものに、TLDなどを配置して測定を行う場合、スキャン範囲から外れた点では、回転中心での入射X線のエネルギーによる補正値を用いた吸収線量では、過小評価となる可能性があり、素子によっては注意が必要であると考えられる。ただし、実際のCT検査のように、スキャン範囲を大きくとれば、多少影響は小さくなると考えられる
考察2 半導体検出器の補正値については、円筒型および、JIS胸腹部ファントムにおいて、軸方向に離れた点で約5%程度の差異の生じる可能性がある →今回のシミュレーションの結果より、軸方向に離れた点において、線量は非常に小さくその中で、実際の測定において生じる誤差と比べ大きな影響を与えるものではないと考えられる
今後の検討項目 今回のように、1回転におけるエネルギー変化だけでなく、人体型ファントムを想定し、適切なスキャン範囲(回転数)でのシミュレーションをして、エネルギーを解析する必要がある この時に、線量も含めて補正係数がどのように影響するのかを検討する必要がある