2012/09/21 日本行動療法学会 第38回大会 WS12 「明日から使える 臨床的有意性の指標:行動療法研究に求められる統計学」

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第4章 何のための評価? 道案内 (4) 何のための評価? ♢なぜ教育心理学を勉強するか? (0) イントロダクション ♢効果的な授業をするために (1) 記憶のしくみを知る (2) 学習のしくみを知る (3) 「やる気」の心理学 ♢生徒を正しく評価するために ♢生徒の心を理解するために (5)
1 章 データの整理 1.1 データの代表値. ■ 母集団と標本 観測個数 n ( または 標本の大きさ、標本サイズ、 Sample Size) n が母集団サイズに等しい時 … 全標本 または 全数調査 (census) 母集団 (population) 知りたい全体 標本 (sample) 入手した情報.
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2012/09/21 日本行動療法学会 第38回大会 WS12 「明日から使える 臨床的有意性の指標:行動療法研究に求められる統計学」 事例 (Jacobsonの方法) 論文名 「通常診療における不安と抑うつへの心理学的治療の実践:2年前向きコホート研究」 土屋政雄

本日の内容 とりあげた理由 論文紹介 JCCPのInstructions to Authors 行動療法の伝統 Jacobson, NSは行動活性化の研究でも有名 論文紹介 Richards & Borglin. Implementation of psychological therapies for anxiety and depression in routine practice: two year prospective cohort study. J Affect Disord. 2011;133(1-2):51-60.

とりあげた理由 Journal of Consulting and Clinical Psychology (JCCP) Instructions to Authors http://www.apa.org/pubs/journals/ccp/index.aspx Statistical Reporting of Clinical Significance 連続量変数すべての平均値と標準偏差を示し,主要な結果には 効果量を書くべき(もし効果量が利用できないのなら,そのことをカバーレターで説明せよ) 主要な結果の効果量にはすべて信頼区間を報告すべき 介入研究の報告には,臨床的に有意な変化の指標を示すべき。 様々な指標が考えられるが,reliable change index(Jacobson et al., 1999)や,非機能的であった個人が機能的な分布へ移行した程度 (Jacobson & Truax, 1991 )や,他の規範的な比較(Kendall et al., 1999) などを推奨する。

論文紹介

Common mental health disordersガイドラインの表紙 背景 NICE Common mental health disordersガイドラインの表紙 Stepped care model NICEガイドラインで採用 Improving Access to Psychological Therapies (IAPT) 英国政府が推進 目的 不安と抑うつについて,エビデンスに基づいた心理学的治療を受けた患者コホートへの臨床的効果を測定する Ctrl+Shift+ +で右回転 RCTの結果が日常診療に必ずしもつながるわけではない

方法 デザイン 対象者 セッティング 介入 前向き縦断観察研究 2006年7月1日~2008年8月31日の24ヶ月間に紹介されてきて,2009年8月31日までに治療を終えた,継続患者7859名 セッティング イングランド北部の290,000名が住む,脱工業化した 都市 介入 ステップドケアによる臨床ケアシステム white British (97%), 裕福な地域もあるが,住民の41%は英国の最も貧しい五分位の状態 住民のがん,喫煙,心疾患,脳卒中の罹病率は英国の平均より有意に高い

測定指標 抑うつ Patient Health Questionnaire (PHQ-9) (Kroenke et al., 2001) 9項目 得点範囲:0-27 Cronbach's α : 0.89 (Kroenke et al., 2001) カットオフ: 10点 (Gilbody et al., 2007; Kroenke et al., 2001) 「臨床的に○○症状が重度」というのは,スクリーニング精度の高さのこと。ROCの結果によるカットオフ推奨点 項目

測定指標 不安 General Anxiety Disorder Questionnaire (GAD-7) (Spitzer et al., 2006) 7項目 得点範囲:0-21 英国では妥当性未検討 Cronbach's α : 0.92 (Kroenke et al., 2007) カットオフ: 8点 (Kroenke et al., 2007) 全般性不安障害用の症状尺度として作られているが,PTSD,パニック障害,社交不安障害にも使用できる

統計解析 治療前後の変化* pre-postにおける,PHQ-9とGAD-7カットオフによる 抑うつと不安該当率 pre-postの効果量((pre平均-post平均)/post標準偏差) 相対リスク(postの不安または抑うつ該当率/preの該当率) 「IAPT Recovery Rates」 recovery=(pre PHQ-9>9 or pre GAD-7>7) and (post PHQ-9<10 or post GAD-7<8) reliable and clinically significant change * pre:治療前,post:治療後

reliable and clinically significant change Richards & Borglin (2011, p55) We calculated these criteria using estimates from clinical and and non-clinical population distributions (means and standard deviations) for the PHQ-9 from the clinical pre treatment scores of the current study and the non-clinical distribution and estimate of internal reliability from the original PHQ-9 validation study (Kroenke et al., 2001) clinically significant change pre 9 or above post 8 or below reliable improvement improvement of 6 or more GAD-7は同様の方法のため省略

確認(この部分は論文には書かれていません) reliable change index (RC; Jacobson & Truax, 1991) Table 2 より,PHQ-9 のTotal pre 標準偏差=6.15 Kroenke et al. (2001)よりCronbach's α = 0.89 RC>1.96の変化 が必要 ちなみに,再検査信頼性=0.84(Kroenke et al., 2001)で計算すると,6.818772<x2-x1となり,点数が変わってくる GAD-7のpre SD=5.11 Cronbach's α=0.92 1.96*Sdiff=4.00624 計算 x1: pre得点, x2: post得点, Sdiff: pre-postの変化の標準誤差, SE: 指標の標準誤差, つまりこの値(5.655)を初めて越える整数値は6点 s1: preの標準偏差, rxx: 信頼性

確認(この部分は論文には書かれていません) clinically significant change (Jacobson & Truax, 1991) Table 2 より,PHQ-9 のTotal pre 平均=16.21, 標準偏差=6.15 Kroenke et al. (2001, p608)よりPHQ-9 のうつ病でない患者の平均=3.3, 標準偏差=3.8 GAD-7のpre mean=14.06, sd=5.11 control mean=4.9, sd=4.8 c=9.336731 計算 s0: 非臨床群標準偏差, s1: pre標準偏差, M0: 非臨床群平均値 M1: pre平均値 c = 8.23 つまりこの値(8.23)を境に整数値として9点以上が臨床群域,8点以下が非臨床群域

Richards & Borglin(2011)のFig1:患者のフロー図 結果 Richards & Borglin(2011)のFig1:患者のフロー図 Fig1. 患者の経過と状態のフロー図

Table3. 2回以上コンタクトがあった患者の相対リスク,reliable and clinical change,回復率 Richards & Borglin(2011)のTable3:reliable and clinical changeなどのメインアウトカムの表 ESはTable2

考察 ステップドケアのサービスを利用した患者における不安や抑うつの回復率は,指標によるが40~55%の範囲 紹介されてきた患者で治療を受けるに至った者は半数のみ いくつかの限界 uncontrolled 標準化された診断面接なし 指標の収集が独立評価者でない

主要引用文献 Jacobson NS, Truax P. Clinical significance: a statistical approach to defining meaningful change in psychotherapy research. J Consult Clin Psychol. 1991 ;59(1):12-9 Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. The PHQ-9: validity of a brief depression severity measure. J Gen Intern Med. 2001;16(9):606-13 Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, Löwe B. A brief measure for assessing generalized anxiety disorder: the GAD-7. Arch Intern Med. 2006 22;166(10):1092-7