ソリッドイマージョン蛍光顕微計測法とそのナノ光物性計測への応用 東京大学物性研究所、CREST(JST) OJ2004 シンポジウム 「ナノオプティクス:ナノスケール分光学を目指して」 5aBS2 @大阪大学 (2004.11.4,5) ソリッドイマージョン蛍光顕微計測法とそのナノ光物性計測への応用 吉田正裕、秋山英文 東京大学物性研究所、CREST(JST)
ソリッドイマージョン蛍光顕微計測法とそのナノ光物性計測への応用 1.背景 --- ナノ光物性計測 2.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)とソリッド イマージョン顕微計測法 3.SIL顕微計測法の性能検討 a) 空間分解能と許容加工誤差 b) 集光効率 4.SIL顕微計測法のナノ光物性計測への適用 5.まとめと課題
ソリッドイマージョン顕微計測法 (分解能:100nm ~sub. μm) 研究背景 ナノ光物性計測 ● ナノ構造 ---- 半導体量子構造、ナノ微粒子、etc. ・ 空間分布、均一性 ・ 局所電子状態 ・ 単一構造分光 高空間分解能 ● 単一分子、単一ナノ構造 ---- 化学、生体分子、単一ドットetc. 高検出効率 高分解能、高効率計測法として、 顕微計測法(micro-PL、micro-Raman分光、共焦点法etc.) 顕微計測法+試料加工(マスク、エッチングetc.) ソリッドイマージョン顕微計測法 (分解能:100nm ~sub. μm) 走査型近接場顕微鏡(NSOM) (数nm ~ 100nm)
光学顕微鏡の空間分解能 空間分解能 SIL = nSIL = noil solid Immersion Dr ~ l / nSIL oil Immersion Dr ~ l / noil = noil
ソリッドイマージョンレンズ(SIL)の形状と特性 a : SILの半径 n : 屈折率 SILの形状とその特性をここにまとめます。 SILには半球型と超半球型の2種類があり、どちらも試料表面上において、顕微計測と組み合わせて使用します。 対物レンズからの光がSILに入射すると、SIL内部では光の波長が屈折率倍短くなるため、その分分解能が向上します。 超半球の場合には、SIL表面での屈折の効果とあわせて屈折率の2乗倍良くなります。 この高分解能を活かして、 スタンフォード大のMansfieldとKinoにより高密度optical data storageなどへの応用として提案されました。 SILの特性 半球型SIL 超半球型SIL 倍率 n 倍 n2 倍 分解能向上 1/n 1/n2 対物レンズ動作距離 > a > (1+ n) a 色収差 なし あり
ソリッドイマージョンレンズ(SIL)の特徴 (+ ソリッドイマージョンミラー(SIM)) Advantages Application of the SILs ● 高い空間分解能 (光の回折限界を超えた) ソリッドイマージョン顕微鏡の提案 S. M. Mansfield and G. S. Kino APL 57, 2615 (1990). 近接場光記録 (1994~ ) B. D. Terris et al. (IBM) APL 65, 388 (1994). ● 高い集光効率 ● 低温使用可 ● 不純物汚染がない ● 顕微計測法との組合せ容易 ● 2次元画像計測 このSILの特徴をまとめてみると、 高分解能、高検出効率、固体であるので低温でも使用可能である、これまでの顕微計測と容易に組み合わせることができ、また画像計測も可能である。 これらの特徴は、ナノ構造の光物性計測にも適していると考えられる。 そこで、本研究ではSILの物性計測への適用を試みた。 詳細は省きますが、論文中ではSILを用いる上での加工誤差、収差の影響を評価しました。また、高い検出効率についても検証しました。 そして、実際に半導体ナノ構造の低温での顕微計測にはじめて適用しました。 これまではNSOMしかなかったのですが、 確かに分解能ではNSOMには劣りますが、それでも光の回折限界を超える高い分解能を有し、 簡便性の点や、光検出効率の面で非常に有用な新しい計測方法を確立しました。 ここでは、実際に低温でのナノ構造計測に適用した結果部分について発表します。 光物性計測 (1997 ~ ) -- 顕微発光計測 T. Sasaki et al. (U-Tokyo) JJAP 36, L962 (1997).
近接場光記録への適用 (Near-Field Recording) Recording density > 50 Gbits/in2 HDDの制御技術 Mizuno et al. Jpn. J. Appl. Phys. 43, 1403 (2004).
1.背景 --- ナノ光物性計測 2.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)とソリッド イマージョン顕微法 3.SIL顕微計測法の性能検討 a) 空間分解能と許容加工誤差 b) 集光効率 4.SIL顕微計測法のナノ光物性計測への適用 5.まとめと課題
ソリッドイマージョンレンズ(SIL)の形状と特性 Optical data storage Confocal microscopy, proposed by Mansfield and Kino (1990). a : SILの半径 n : 屈折率 SILの形状とその特性をここにまとめます。 SILには半球型と超半球型の2種類があり、どちらも試料表面上において、顕微計測と組み合わせて使用します。 対物レンズからの光がSILに入射すると、SIL内部では光の波長が屈折率倍短くなるため、その分分解能が向上します。 超半球の場合には、SIL表面での屈折の効果とあわせて屈折率の2乗倍良くなります。 この高分解能を活かして、 スタンフォード大のMansfieldとKinoにより高密度optical data storageなどへの応用として提案されました。 SILの特性 半球型SIL 超半球型SIL 倍率 n 倍 n2 倍 分解能向上 1/n 1/n2 対物レンズ動作距離 > a > (1+ n) a 色収差 なし あり
SILの許容加工誤差、有効視野 半球型SIL 超半球型SIL l/ 3 l/4波長評価法(W<l/4 or F<p/2)により許容誤差を評価。 半球型SIL 1/2 超半球型SIL 超半球型SILでの典型値: (l=0.6 mm, a=1 mm, n=1.845) l/ 3 M. Baba et al., JAP 85, 6923 (1999). M. Yoshita et al., JJAP 41 L858 (2002).
SIL-試料間空隙の分解能への影響 M. Baba et al., JAP 85, 6923 (1999).
1.背景 --- ナノ光物性計測 2.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)とソリッド イマージョン顕微法 3.SIL顕微計測法の性能検討 a) 空間分解能と許容加工誤差 b) 集光(検出)効率 i) SIL蛍光顕微鏡 ii) SIL発光顕微鏡 --- 半導体ナノ構造 4.SIL顕微計測法のナノ光物性計測への適用 5.まとめと課題
電気双極子の放射パターン(1) SIL-air界面から距離zに置いた 電気双極子からの放射パターン (双極子の向きはランダムとして平均化) に大きく偏っている。 SIL側への放射を検出 高集光効率!! ref: Hellen and Axelrod, J Opt. Soc. Am. B4, 337 (1987).
蛍光フーリエイメージ 対物レンズの後側焦点面での フーリエ像を観察 色素ドープ微小球( 0.22mm )の蛍光 空気側: ほぼ一様に分布 対物レンズの後焦点面でのフーリエ像を観測した結果 SIL側: リング状の蛍光フーリエ像 臨界角近傍での放射ピークに対応 放射パターン計算結果(a)と良く一致。
SIL蛍光顕微計測における検出効率 対物レンズによる検出 開口数NAの立体角中に = 放射された蛍光量 SIL n=1.845
SIL蛍光顕微計測における検出効率 ー SIL屈折率依存性 ー 100%に近い 高い検出効率 SIL屈折率 (n) 集光角 (NA) z = 0 mm SIL屈折率 (n) 集光角 (NA) 距離 (z) 大 小 100%に近い 高い検出効率
顕微蛍光像の強度相関プロット(実験) 半球型SIL 集光強度比 7.7 倍 Obj. NA=0.8 色素ドープポリスチレン微小球 (球径0.11mm) 蛍光強度:21.9倍 励起強度補正:2.83 集光強度比 7.7 倍
62 % SIL蛍光顕微計測における検出効率 全放射量の8 % SIL顕微計測 通常顕微法での集光 SIL n=1.845 双極子の置かれた位置
顕微蛍光像の強度相関プロット (超半球型SILの場合) 超半球型SIL 集光強度比 21.1 倍 色素ドープポリスチレン微小球 (球径0.11mm) 蛍光強度:203.3倍 励起強度補正:9.63 集光強度比 21.1 倍
SIL蛍光顕微計測における検出効率 (超半球型SILの場合) 検出効率 通常顕微法 全放射量の 3.7 % SIL顕微計測 76 %
1.背景 --- ナノ光物性計測 2.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)とソリッド イマージョン顕微法 3.SIL顕微計測法の性能検討 a) 空間分解能と許容加工誤差 b) 集光(検出)効率 i) SIL蛍光顕微鏡 ii) SIL発光顕微鏡 --- 半導体ナノ構造 4.SIL顕微計測法のナノ光物性計測への適用 5.まとめと課題
半導体ナノ構造からの発光検出 通常の顕微法 SIL顕微法 半導体 高屈折率材料 臨界角が小さい(sinqc = 1/nsemi) Obj. Obj. air n=1.0 SIL n=1.5 ~ 2 Semicond. QW n > 3 半導体 高屈折率材料 臨界角が小さい(sinqc = 1/nsemi) 取り出し可能な発光量が少ない(1%以下)
電気双極子の放射パターン(2) 半導体表面(z=0)に置いた電気双極子からの放射パターン (双極子の向きは界面に平行とし、面内方向で平均化) l = 750 nm SILを用いることで、検出側への放射量が増大
SIL顕微発光計測における検出効率 SIL顕微計測 従来の顕微計測 検出効率の向上 (NA=0.5, nSIL=2.0) 13 % 3.3% 検出効率の向上 (NA=0.5, nSIL=2.0) 半球型SIL 3.3%/0.8% = 4.1 倍 超半球型SIL 13%/0.8% = 16 倍
2.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)とソリッド イマージョン顕微法 3.SIL顕微計測法の性能検討 a) 空間分解能と許容加工誤差 1.背景 --- ナノ光物性計測 2.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)とソリッド イマージョン顕微法 3.SIL顕微計測法の性能検討 a) 空間分解能と許容加工誤差 b) 集光効率 4.SIL顕微計測法のナノ光物性計測への適用 5.まとめと課題 a) 発光、蛍光画像、分光測定(4K ~ 室温)、 b) 発光励起スペクトル測定(PLE)、 c) ラマン散乱測定、 d) ポンプ・プローブ時間分解測定(~130fs)、など (Our group)
SIL顕微蛍光(発光)計測系 setup 超半球SIL 半径(a): 375 mm 屈折率(n): 1.8 or Ti:Sa etc. 計測系の模式図と実際の様子です。 計測系は光学系については先ほどお見せした顕微発光計測と同じです。 ただ、試料上の観測したい位置に、SILを置いています。 SILには超半球型SILを使用し、その直径は750ミクロンです。 超半球SIL 半径(a): 375 mm 屈折率(n): 1.8
SIL顕微計測系の分解能評価 (メタルマスクエッジの反射像) SIL有無による分解能比較(室温) SIL顕微系分解能の温度特性 T= 5, 300 K Obj. lens NA=0.5 まず、この測定系の空間分解能をメタルマスクエッジの反射像から評価しました。 左は、室温において、SILを使用した場合と使用しない場合とでの分解能の比較です。 SILを用いることでエッジは急峻になっており、分解能が向上していることがわかります。 計算によりフィッティングを行うと、NA=1.25と光の回折限界を超えた分解能が実現されています。 右はクライオスタット中で低温での分解能を調べた結果です。 5Kと300Kとでほとんど分解能に変化の無いことが確認でき、広い温度範囲範囲で使用であることがわかりました。 次に実際に半導体ナノ構造の発光測定を行ってみました。 1.光の回折限界を超える高分解能の実現 NA ≥ 1.0 2.低温から室温までの広い温度範囲で使用可能 M. Yoshita et al. APL 73, 635 (1998).
半導体ナノ構造の光物性 計測への適用 光励起キャリアの発光空間分布計測 観察試料: MBEファセット成長GaAs量子井戸構造 反射像(top) 光励起キャリアの発光空間分布計測 観察試料: MBEファセット成長GaAs量子井戸構造 発光像 点Aの断面強度分布 倍率は補正済み 3.39倍 理論値3.24倍 ほぼOK SIL有り無しでの集光強度 6倍 佐々木論文では 8 - 12 倍 分解能が高くない理由:空隙の存在 150~200nm 空間分解能 ≤ 0.4 µm (NA ≥ 1.0) M. Yoshita et al. APL 73, 635 (1998).
光励起キャリアのマイグレーション観測 半導体ナノ構造中での 異方的な光キャリアのドリフト・拡散現象 光点励起位置 発光像(点励起) 発光像強度分布の半値全幅 サブµm分解能で計測することに成功 M. Yoshita et al. APL 73, 2965 (1998).
量子井戸中の局在電子状態の発光分光 5 nm (110) GaAs/AlAs SQW grown on a cleaved edge of a GaAs wafer ●○:局在励起子発光 ▼▽:励起子分子発光
1.背景 --- ナノ光物性計測 2.ソリッドイマージョンレンズ(SIL)とソリッド イマージョン顕微法 3.SIL顕微計測法の性能検討 a) 空間分解能と許容加工誤差 b) 集光(検出)効率 4. SIL顕微計測法のナノ光物性計測への適用 5.まとめと課題
SILの分解能限界と課題 空間分解能 ∝ l/ 2nNA (l/ 2n2NA) ・ ZrO2 (n=2.16) NA=sinq 空間分解能 ∝ l/ 2nNA (l/ 2n2NA) ( ただし、max: l/2n ) ● 高屈折率SILの利用 ・ ZrO2 (n=2.16) ・ GaP (n=3.1~3.4) ~ l/6 SIL-試料間空隙の制御 ● マッチングオイルの使用(液浸レンズ) ● 空隙制御法の開発 ー ・ 近接場光記録技術の流用 ・ 低温対策 (断熱真空中、冷媒雰囲気中)
SIL-試料空隙の制御方法 flying head 方式 AFMカンチレバー方式 Ghislain et al. Appl. Phys. Lett. 74, 501 (1999). Mizuno et al. Jpn. J. Appl. Phys. 43, 1403 (2004).
Summary 1. SILを用いたソリッドイマージョン蛍光顕微計測法について検討 1) 光の回折限界を超える高い空間分解能の実現 2) 全発光量の62%(76%)の高い集光効率の実現 3) SILの許容誤差、有効視野についての検討 4) 広い温度範囲での適用可能(4K ~ RT) ナノ光物性計測の有力な計測法であることを実証。 2. 半導体ナノ構造の顕微発光計測に適用 1) 励起キャリアの空間分布 2) キャリアのマイグレーション 3)局所電子状態の分光計測 を高い空間分解能で測定 従来の顕微計測法の資産をそのまま利用できる。
共同研究者: ・ SILの収差計算、集光効率計算 馬場基芳 博士(東大物性研) 小山和子 氏(東大物性研) ・ SIL分光実験 佐々木岳昭 氏(東大物性研、現:旭化成) 謝辞: ・ 半導体ナノ試料 榊裕之 教授(東大生産研)
電気双極子の放射パターン 半導体表面からの 距離z依存性 (双極子の向きは界面に平行と 仮定し、面内方向に平均化)