オルソポジトロニウムの寿命測定 による束縛系QEDの精密検証

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オルソポジトロニウムの寿命測定による 束縛系QEDの実験的検証 東大素粒子センター 片岡洋介,浅井祥二,小林富雄
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オルソポジトロニウムの寿命測定 による束縛系QEDの精密検証 東大素粒子センター 片岡洋介 2006.6.12 岡山大学

contents I. イントロダクション II. セットアップ III. 解析 オルソポジトロニウム(o-Ps)について 現在進行中の実験について III. 解析 寿命測定の詳細 systematic error 現状と今後

I. イントロダクション table-topの小さい実験です 原理的にも簡単で学生実験にもなります 精度を上げるとQEDの高次輻射補正が見られます

束縛系QEDの精密検証 positronium (e+e-の束縛系)を扱う利点 束縛系QED 質量が小さく、強い力、弱い力の影響は無視できる 純粋にレプトンの系、束縛系QEDで完全に記述される 実験的にも、生成しやすい、寿命が長い 束縛系QEDのテスト(寿命、HFS)や 新しい物理の探索(exotic decay、CP)に使用されてきた 束縛系QED 非常にシンプルな系であるが、理論的にはたいへん難しい 自由粒子と異なり基本的に非摂動論的  高次輻射補正の計算が困難 水素原子とも違う (annihilation processなど) NRQED (Nonrelativistic quantum electrodynamics) 計算手法の発達。高次輻射補正の計算が可能になった relativistic part(~m)、nonrelativistic part(~mα)を分離して計算 2000年、o-Ps崩壊率 O(α2) by Adkins et al

オルソポジトロニウムの性質 positronium ~ 電子・陽電子の束縛系 C変換性と崩壊 Psの寿命  スピン1重項(S=0) … p-Ps (parapositronium)  スピン3重項(S=1) … o-Ps (orthopositronium)  違いは明瞭、崩壊するγの個数が違う C変換性と崩壊 p-Ps (C=even)  2γ、4γ、、、(偶数個) o-Ps (C=odd)  3γ、5γ、、、(奇数個) Psの寿命 p-Ps  2γ 125ps  短い。o-Psと容易に分離される                磁場をかけて間接的に測定                (200ppm程度で測られています) o-Ps  3γ 142ns  長い。直接測定が可能 log scale 崩壊時間 p-Ps o-Ps 観測されるスペクトラム 数百ns 今回、こっちを測ります

オルソポジトロニウムの崩壊率 o-Ps崩壊率(計算値) λo-Ps = 7.039979μs -1 O(α)補正項 約2.4%は実験的にもestablished 長い間不明であったO(α2)、2000年に計算完了(by G.S.Adkins et. al.) B = 44.52.  240ppmの補正   ~ 現在の実験精度と同程度 O(α3)の計算はまだだが、実験精度と2桁の差   λo-Ps = 7.039979μs -1 次の実験: 50~100ppmを目指して

o-Ps寿命測定の歴史 70、80年代 オルソポジトロニウムの寿命問題 exotic decay ? large O(α2) ? systematic error ? Phys.Lett 572 117(2001) ミシガン大 QED O(α2) 東大 東大の測定では一致 鍵は測定手法の差 (あとで説明) 現在では解決 o-Psの熱化過程の扱いに関する systematicなエラー 最近は2グループ、 東大    λexp=7.0396(12)stat(11)syst ミシガン大 λexp=7.0404(10)stat(8)syst 実験精度 ~ 200ppm

o-Psの生成から崩壊 オルソポジトロニウムの一生 e+ pick-off ~物質との相互作用による対消滅 陽電子の供給 測定手法の前に 3. e+ γ o-Ps SiO2powder 10nm オルソポジトロニウムの一生 陽電子の供給 β+線源(22Na,68Ge) or 陽電子ビーム ターゲット(SiO2、MgO)中でPs生成 o-Ps:p-Ps = 3:1 p-Psは速やかに2γ崩壊 ターゲット物質中を拡散 一部は物質中で対消滅 τSiO2~2ns フリースペースへ放出~eV ここで寿命を過ごす 物質と衝突しながら熱化~0.03eV 3γに崩壊 問題は、 pick-off ~物質との相互作用による対消滅 観測される崩壊率は必ず大きくなる λobs=λ3γ+λpick 1. 2. 5. 4. この間で γ o-Ps pick-off この見積もりが実験の要点 ほとんどやることの全てです

外挿によるpick-offの補正 pick-offの寄与 λpick= dσv(t) ミシガンの手法 Ps生成に物質が必要なのでpick-offをなくすことは不可能  物質の密度などを変えて真空の値まで外挿~自然な発想 gas …ガス密度 ρ(mol/l) cavity(MgO表面) …cavityの大きさ S/V(cm-1) 問題は、単純に密度に対してlinearか?   pick-offの寄与 λpick= dσv(t) d: density σ: annihilation cross sectoin v: o-Ps velocity Gas ’89 michigan fitting start time依存性     (単純なexpでfit) 熱化すれば一定。 熱化時間のとり方に不定性 o-Psの熱化過程を反映 熱化しきらないと一定でない 物質密度に強く依存  (低密度で熱化が遅い) 実際、熱化時間を 小さく取り過ぎていた

pick-offの直接測定 λpick(t)を時間依存性を含めて直接評価できないだろうか? Ge検出器を用いたγ線エネルギーの精密測定 東大の手法 λpick(t)を時間依存性を含めて直接評価できないだろうか? γ崩壊のトポロジーの違いを利用してpick-offを分離する pick-off  2γ(monochromatic) Eγ=511keV o-Ps崩壊  3γ(continuous) Ge検出器を用いたγ線エネルギーの精密測定 シンチレータ検出器による時間スペクトラムの測定 エネルギースペクトラム E 511keV pick-off 2γ o-Ps 3γ ~2keV ε(efficiency) 2γ、3γの数を時間毎にカウント o-Ps 個数: 測定値 真空での崩壊率

これまでの東大の測定 ’95、’00、2度の測定 Ge半導体を用いたpick-offの直接測定 シンチはそれぞれCsI、NaI prompt (p-Ps,1275keV) o-Ps decay curve accidental 0.05g/cm3 0.03g/cm3 fitting o-Ps崩壊率(’00測定) QED λ3γ(RUN1)=7.0399±0.0017(stat)±0.0011(sys) λ3γ(RUN2)=7.0396±0.0017(stat)±0.0011(sys) 結果 QED計算とコンシステント 物質(シリカパウダー)の密度にもよらない 問題点 崩壊時間の小さい所(<100ns)でunknownなエラー O(α2)補正をみるには、統計(170ppm)が足りない

II. セットアップ 東大で3度目の実験立ち上げ 100ppmを目指して

セットアップ概要 今回のセットアップ 測定手法: pick-offの直接測定 陽電子: β+線源 68Ge 減速材: SiO2パウダー 2種類のγ線検出器:   Ge検出器 (pick off測定用)   YAPシンチレータ (寿命測定用) YAPシンチレータ(4台) Ge検出器(3台) 真空容器 (線源、減速材) 検出器は立体角のみ考慮(γ線1本) Ge約20%、YAP約30%

線源周りのセットアップ β+線源 22Na(Eendpoint=0.5MeV)はトリガープラシン中で9割が対消滅 68Ge (Eendpoint=1.9MeV)に変更    線源強度 約0.2μCi 半減期 288日    同時γ線 1077keV (3%) トリガー 時間軸の基準 薄いプラシン(200μm厚)で線源を挟む アルミナイズドマイラー(50μm)のコーンで光収集 アンチトリガーを導入 68Geの採用で約半数のe+がシリカを抜ける  DAQレートを圧迫 円筒形プラシン(1mm厚)で陽電子を捕捉 トリガーをveto トリガーレート 約4kHz シリカパウダー ライトガイド ½インチPMT(トリガー用) 68Ge e+ 65mm プラシン (1mm) 105mm 1インチPMT  (アンチトリガー用) 要求:陽電子を止めずに、     確実にトリガー 真空 6×10-2Torr 空気によるpick-off は小さい

減速材 シリカパウダー シリカエアロジェル シリカパウダー、シリカエアロジェル pick-offの割合 ~ 補正巾 o-Ps生成効率 o-Ps生成効率、pick-offを決める重要な要素 AEROSIL R972CF (日本アエロジル) 密度 0.03g/cm3 一次粒子平均径 16nm 比表面積 110±20 m2/g 疎水処理 pick-offの割合 ~ 補正巾 直接測定では原理的に問題とならないが、 エラーが伝播するのでなるべく小さく 平均自由行程(L~300nm)で決まる R972CFで1%、エアロジェル(0.03g/cm3) 3% o-Ps生成効率 粒子径が大きすぎると、フリースペースに   放出される前に対消滅 ρ0=2.2g/cm3  サンプルを変えてpick-off補正の性能をみる

γ線検出器 (シンチレータ) 高統計な測定に適したYAPシンチレータを導入 NaI(減衰時間230ns)と比べて YAP (YAlO3)シンチレータ (チェコ製) 減衰時間 30ns 光量 40% (NaI比) 少し青い 370nm Z=39 物性: 潮解性がなく、硬くきれいな結晶 光の減衰長 ~ 20cm NaI(減衰時間230ns)と比べて pile up が大幅に減少  高統計化 優れた時間分解能(~400ps)  低エネルギーの時間測定にはbest solution 今回使用したYAPの結晶 5cm×5cm×3.3cm 400ps@511keV 時間分解能

γ線検出器 (Ge検出器) エネルギーを正確に測定し pick-offの寄与を直接評価 時間依存性をみるために時間分解能も必要 2γ同時hitを抑える Pbシールド(2mm) エネルギーを正確に測定し pick-offの寄与を直接評価 円筒同軸型HPGe (Ortec GEM38195) 直径6cm×長さ7cm HV=2600V エネルギー分解能  σ= 0.5~0.6keV @0.5MeV 時間依存性をみるために時間分解能も必要 遅い立ち上がり~200ns  大きなtime walk 電場が複雑で立ち上がりが一様でない (キャップ部) 立ち上がりの時間を測定してtime walk補正 時間分解能 σ=5ns pick-off 511keV σ=1keV(ドップラー効果) エネルギー分解能

III. 解析  長期ラン開始  現在、2ヶ月のデータ収集  systematic errorの評価はこれから

Event selection (pile up除去) 解析の前に Event selection (pile up除去) エネルギースペクトラム、time walkを歪めるpile upイベントを除く  (ヒットレート Ge: 500Hz YAP: 1kHz) 基本的にaccidentalはトリガーと相関がないので問題ない Pile upのないきれいなイベントを選別  3つのADC情報 (Base, Narrow, Wide) YAP Ge Base gate 50ns 100ns Narrow gate 150ns 1.5μs Wide gate 500ns 55μs case1 Ge Wide-Narrow 5%cut YAP Wide-Narrow 0.1%cut Ge Base YAP Base 前に乗る case2 後ろに乗る

Time walkの補正 YAPのtime walk補正 Geのtime walk補正 速い立ち上がり promptのイベント エネルギー promptのイベント  (p-Ps, pick-off) YAPのtime walk補正 速い立ち上がり γ線のエネルギーで補正 promptイベント(t~0のp-Ps、pick-off)  σ=1ns Geのtime walk補正 遅い立ち上がり(~200ns) 立ち上がりの時間で補正 遅い立ち上がり成分をカット(約3割)  σ= 3~5ns 立ち上がり時間 cut o-Ps3γ prompt Thr1(~50keV) Thr2(~150keV) ΔT 立ち上がり時間

SRT cut efficiency  実際の3γのデータから求める cut SRT(slow risetime)はカットする(約3割) モンテカルロで作る3γのスペクトラム pick-offの割合の算出(efficiency) SRT cut efficiencyの評価 エネルギー (波高)依存性、 Ge位置(電場)依存性などで複雑  実際の3γのデータから求める cut 立ち上がり時間(50-150keV) 電場の弱い部分で SRTが発生 cut 前 cut 後 prompt 2γのなだれ込み used region SRT cut efficiency 使用する エネルギー領域 なだれ込みを避けるため なかなか統計がとれない 時間スペクトラム SRT cut 前後 ほぼ3γ

Ge spectrum pick-off算出のstrategy ここまでで得られた Ge 時間スペクトラム Ge エネルギースペクトラム delayed領域 (o-Ps,pick-off) prompt (p-Ps,pick-off,1077) Accidental領域 (Ps,1077,BG) Ge 時間スペクトラム Ge エネルギースペクトラム pick-off+accidental 2γ o-Ps 3γ σ1.1keV pick-off算出のstrategy accidentalの差引き 3γスペクトラム(MC)を連続部で規格化 2γ数、3γ数をカウント efficiencyを掛けてλpick/λ3γ 1~4を時間区分毎に

o-Ps 3γspectrum Simulation(Geant4)で形を決める 陽電子(68Ge) Ge 陽電子 YAP 3γ 真空容器 3γ 陽電子 Simulation(Geant4)で形を決める 陽電子(68Ge) トリガーを鳴らす アンチトリガーは鳴らさない シリカパウダーで止まったイベント 3γ 陽電子が止まった位置で崩壊 O(α)のMatrix Element  established 検出器の応答 分解能は測定値 SRT cut efficiencyも測定データから 3γエネルギースペクトラム Ge検出器の応答

2γ、3γの分離 3γ+pick-off 3γspectrum 3γ規格化領域 pick-off accidental delayed領域 Accidental領域(2000ns~3600ns)を  delayed領域(t1~t2)に規格化して差引き 3γの差引き 480keV~505keVで3γspectrumを規格化 (pick-offのコンプトンは約3%) 3γspectrumを差引きしてpick-offを出す pick-off(2γ)、3γ数のカウント factor: Npick: 507keV~515keV N3γ: 480keV~505keV Rstop: 約500Hz

Pick-offの評価 pick-off時間依存性 熱化過程を反映した減衰曲線 (シリカパウダー0.03g/cm3) 熱化時間~600ns 測定データのカウント数 simulation(Geant4)で評価 ~0.14 ε3γ: 3γefficiency (480keV~505keV) εpick: 2γefficiency (507keV~515keV) pick-off時間依存性 (シリカパウダー0.03g/cm3) 熱化過程を反映した減衰曲線 熱化時間~600ns Pick-offの割合は約1% ちなみに、同じ密度のエアロジェル pick-off 約3倍 一次粒子径の差? シリカエアロジェル 0.03g/cm3 外挿法より 直接測定が安全

YAP spectrum YAPエネルギースペクトラム YAP時間スペクトラム prompt(2γ) prompt delayed accidental YAP時間スペクトラム weak source(0.2μCi)  Decay curve~5τ 2γ/3γ比の小さなエネルギー領域を選択 360keV~450keV   ε2γ/ε3γ~0.4 (simulationで評価)

o-Ps崩壊率 Fitting function: pick-offの割合(測定値) Rstop~1000Hz εpick/ε3γ~0.4 free parameters: N0, λ3γ, C まだ2ヶ月 統計誤差160ppm@60ns  一年で65ppm 急激な値の上昇 95’,00’の測定でもみられた。 unknownなsystematic error? O(α2) 3600ns start time scan fitting region

systematic error pick-off 2γ = delayed領域-3γスペクトラム(MC) 赤 -1.0% 緑 0.0% 青 +1.0% Pick-off pick-off 2γ = delayed領域-3γスペクトラム(MC) 3γスペクトラムのnormalizationを変化 pick-off 光電ピークの対称性が変化 ξparameter ξparameterの感度 0.0047  130ppm prompt 0.995 統計エラー1σ(0.018) ±0.0047

MC Ge検出器 Geant4 (with G4LECS) systematic error 基本的に良く合う 光電ピーク周辺を微調整 Pb-X Sr 514keV 赤線 Geant4 黒線 Sr測定 Geant4 (with G4LECS) 基本的に良く合う 光電ピーク周辺を微調整 電荷収集の不足 pile up systematic error pick-offの割合を経由して伝播 480keV以下は効かない ピークとコンプトンフリーの比が重要 G4 G4(補正) pile up 電荷収集のもれ 511keV peak 1%  100ppm

MC YAPシンチレータ Geant4 Sr 514keV 分解能 σ=30~40keV@511keV 分解能以上に形が合わない Pb-X  光収集が悪い? 減衰長約20cm Optical photonのシミュレーション(Geant4) PMT YAP 光電面の死角で約3割のロス 光収集を考慮 2%  20ppm程度

Stark shift Stark Shift 物質の電場による崩壊率の変化 λ3γ ∝ Flux Factor ∝ |ψ(r=0)|2 摂動 ψ=ψ0+Eψ1+E2ψ2+… e- e+ Ps 電場の2乗 e- e+ 電場E Charge up シリカエアロジェル 400~500μC/g  2×10-2ppm 2. dipole moment (Si-OH)  20ppm

systematic error(’00) まとまってないので、前回の結果を引用 3γの差引き SRT cut efficiencyなど KEK TDC 2GHz clock type good Integral Linearity まとまってないので、前回の結果を引用 3γの差引き SRT cut efficiencyなど パウダーの密度(±10%)に対して efficiencyの変化 Excited state n=2: 3×10-4 低い崩壊率 λo-Ps/8

まとめ o-Ps寿命測定は200ppmのレベルに達している 新しく実験を立ち上げて、現在データ収集中 統計は格段に向上 prompt付近、unknownなズレの解明が必要 系統誤差の洗い出しと詰めはこれから