アインシュタインの光電効果と ド・ブロイの物質波 人間はどのように物質を理解したか 量子論の世界 多元研量子プロセス解析分野 上田 潔
目次 1.古典論と量子論以前の世界観 2.古典論の破綻・量子論の誕生・前期量子論 3.量子力学の完成・量子論的世界観 プランク・アインシュタインによる「量子仮説」 ボーア模型・パウリの排他律・ド・ブロイの物質波 3.量子力学の完成・量子論的世界観 ハイゼンベルグ・シュレディンガー・ディラックの量子力学 確率解釈・重ね合わせの原理 4.量子コンピューティング 現代科学・現代のマテリアルサイエンスは量子論に 立脚して成り立っている!
量子論以前 - 古典論 古典力学 - ニュートン 古典電磁気学 - マックスウェル 古典統計力学 - ボルツマン
古典力学 - ニュートン 運動方程式: F=ma F:力、 m:質量、a :加速度 a = dv/dt=d2x/dt2 古典力学 - ニュートン 運動方程式: F=ma F:力、 m:質量、a :加速度 a = dv/dt=d2x/dt2 v:速度、x:位置(距離) すべての運動には原因がある。物体が運動するならば、その運動を生み出したもの(力)を特定することができる。 因果律 運動の状態(速度と場所)が任意の時点で定まるなら、過去・未来のいかなる時点の運動をも決定できる。 決定論、確定性
古典電磁気学 - マックスウェル 光の性質はマックスウェルの電磁波理論によって完全に記述できる。 ヤングの干渉実験
古典統計力学 - ボルツマン ボルツマン分布 互いに独立に運動し、ランダムに作用しあう粒子の運動量 古典統計力学 - ボルツマン ボルツマン分布 互いに独立に運動し、ランダムに作用しあう粒子の運動量 または座標位置がとる分布は正規分布となる。 エネルギー等分配則 物理系が熱平衡に達したとき、 エネルギーはすべての系に 等しく分配される。
黒体放射のパラドックス 黒体放射 黒体放射のスペクトル 放射=電磁波(マックスウェル) 電磁場=振動数νを持った無限個の振動子 黒体放射のスペクトル 放射=電磁波(マックスウェル) 電磁場=振動数νを持った無限個の振動子 すべての振動子にエネルギー kT が等しく分配される = エネルギー等分配則(ボルツマン) ここで k はボルツマン定数、T は黒体の絶対温度 黒体放射=無限個の振動子=エネルギーが無限大? 古典論の破綻・・・
プランクの量子仮説 振動子がnの振動数のもつエネルギーの値は 振動数nに比例する量hnの整数倍に限られる 振動数の高い振動子(hn >> kT )にはエネルギーが分配されない。 実測と完全に一致する 黒体放射の分布則 h=6.6256x10-34 Js = プランク定数 古典論:h→0 1900年クリスマス講演会 1918年:ノーベル物理学賞
光電効果とは 光電効果:物質に光を当てるとその表面から電子が飛び出す現象 電子が飛び出すためには、あてる光の振動数nがある限界の値n 0よりも大きくなければならない。 飛び出す電子の運動エネルギーの最大値は光の強さには無関係で光の振動数だけで決まる。 単位時間に飛び出す電子の数は光の強度に比例する。
アインシュタインによる光電効果の説明 振動数nの光はエネルギーがhnの粒子(光子)の集まりと考え、電子は光子1個を吸収するときにエネルギーhnを得ると考える。 物質内の電子は束縛されている。この束縛力をふり切って飛び出るためには、一定量(W)以上のエネルギーをもらうことが必要。 飛び出した電子の運動エネルギー:KE = hn-W W :仕事関数、束縛エネルギー 1905年:奇跡の年 特殊相対性理論 光電効果 ブラウン運動 1921年、光電子効果の理論的研究でノーベル物理学賞
ここまでのまとめ 光は波として振る舞う(Youngの干渉実験)とともに粒子との性質 (プランク・アインシュタインの光量子)をもつ。
光電子分光 光電効果で放出される電子の運動エネルギーの精密測定
ラザフォードのアルファー線散乱実験 アルファー線 原子核 ラザフォードの原子模型 原子が重くて小さい一個の核とその周りを回るいくつかの電子からできていることを確認 核の周りを運動する電子を古典論で扱うと、電子は電磁波を放出しながらエネルギーを失い、次第に核に近づき、ついには核と合体するはず! 古典論の破綻・・・
バルマーとリュードベリ公式 バルマー: 水素原子のスペクトル線の中に美しい規則性を発見 リュードベリの公式: バルマー: 水素原子のスペクトル線の中に美しい規則性を発見 リュードベリの公式: c : 光速、lは波長、R : リュードベリ定数 (R=109737.309 cm-1)、 nとn’は自然数 (n < n’)
ボーアの原子模型 電子の軌道は古典的に求められるものの中で量子条件を満足するものだけが安定な定常状態の軌道として存在すると仮定。 ボーアの量子条件: は回転角、p= me r2d/dtは角運動量、rは軌道半径、meは電子質量 電子のエネルギー En= -hcR/n2 とびとびの値をとる。
ボーア原子の光学遷移 光子を吸ったり吐いたりして、突然、別の状態に移り変わる。 このときの光の振動数はリュードベリの公式 1913年に提案(28歳) 1922年にノーベル物理学賞 を満たす。
ゾンマーフェルトによるボーアの原子模型の拡張 原子中の電子の軌道は、一般的に、軌道の大きさn、軌道の形l、軌道の向きmの3つの量子数(n > l ≥ |m|)を用いて記述できる。
電子のスピン パウリは第4の量子数を導入し、その量子数を電子の自転によるスピン角運動量 s に帰属した。スピンは上向き(s = 1/2)または下向き( s =-1/2)のいずれかの値しかとらない。 このようにして拡張された4個の量子数を用いると、磁場中で分裂する原子のスペクトル線を説明することができる。
パウリの排他律 すべての原子について、3個の量子数(n, l, m)で記述されるすべての軌道には、上向きスピンの電子と下向きスピンの電子が対になって入ることができるが、それ以上は入ることができない。 複数の電子が同じ量子状態をとることはできない。 量子状態 : (n, l, m, s) (n > l ≥ |m|, s = -1/2, 1/2) l, =0 : s軌道 (m =0), l, =1 :p軌道 (m =-1,0,1) 1s軌道 (1,0,0,-1/2) (1,0,0,1/2) 計2個 2s軌道 (2,0,0,-1/2) (2,0,0,1/2)計2個 2p軌道 (2,1,0 ,±1/2) (2,1, ±1, ±1/2)計6個
元素の周期律表 H: (1s)1 He: (1s)2 N: (1s)2 (2s)2(2p)3 Li: (1s)2 (2s)1 O: (1s)2 (2s)2(2p)4 Be: (1s)2 (2s)2 F: (1s)2 (2s)2(2p)5 B: (1s)2 (2s)2(2p)1 Ne: (1s)2 (2s)2(2p)6 Na: (1s)2 (2s)2(2p)6 (3s)1 C: (1s)2 (2s)2(2p)2
ド・ブロイの物質波 h/p=l : ド・ブロイ波長 E=hn:フランク・アインシュタインの光量子(光子) p=E/ln:アインシュタインの特殊相対性理論 から E=mc2 光子について p=mc=E/c c=ln E = pln h/p=l : ド・ブロイ波長 この関係は光子だけでなく電子等のすべての粒子について成り立つと考える。 1923年 に提唱(31歳) 1929年にノーベル物理学賞
ド・ブロイ定在波とボーアの量子条件 量子条件: l =h/p 2prn = nl = nh/p = nh/mv
電子波の回折・干渉 電子:波の性質を併せ持つ量子として振る舞う 干渉 回折
トンネル効果 トンネル効果を用いたトランジスタ 1973年ノーベル 物理学賞
量子力学の完成 ハイゼンベルク 行列力学 (1925年、24歳、1932年ノーベル物理学賞) シュレディンガー 波動力学 ハイゼンベルク 行列力学 (1925年、24歳、1932年ノーベル物理学賞) シュレディンガー 波動力学 (1926年、38歳、1933年ノーベル物理学賞) ディラック 相対論的量子力学 (1928年、26歳、1933年ノーベル物理学賞) ファインマン・シュヴィンガー・朝永 量子電磁力学 (1965年ノーベル物理学賞)
シュレディンガー方程式
波動関数 波動関数の二乗は電子の観測される確率分布を与える。
量子化学 ProteinDFで計算したd6-low-spin ferrocytochrome c のHOMOの三次元グラフィックス。等値面の値は±0.05 (左上A), ±0.005 (右上), ±0.0005 (左下), ±0.00005 (右下)。(A)はスケールを倍にして描いている。
シュレディンガー方程式と波動関数 シュレディンガー方程式で計算できる波動関数には観測できるすべての物理量の情報が含まれる。 シュレディンガー方程式は時間によって変化して行くので、状態も時間変化をしていく。
重ね合わせの原理 波動関数ψであらわされる系に対して、ある物理量 f の測定をすると、その固有値fnのうちの一つが得られる。観測される値 fnに対応する固有関数をψnと表すと、波動関数ψはその適当な線形結合で表されなければならない。したがって、関数ψは次の形に表すことができる。 ψ=Σanψn ただし、anはある定係数である。
観測・波の収縮・確率解釈 観測 ある系を観測すると、重ね合わせの状態ではなく、その固有値の一つだけが観測される。 波の収縮 観測することで、重ね合わせの状態はある状態へと収縮してしまう。 ボルンの確率解釈 どの固有値が観測されるかという確率は、それに対応する固有関数ψnの定係数anの絶対値の二乗に比例する。
重ね合わせ状態と確率解釈 量子力学:重ね合わせ状態を観測すると“|0>”が観測されることもあるし、“|1>”が観測されることもある。 観測する前にあらかじめ粒子がどちらの方向に進んでいるか予測することはできない。 |0>と|1>が観測される確率はα、βそれぞれの絶対値の二乗。 量子力学から確実に分かる唯一の情報は、確率だけ!
量子コンピューターとは 実現すると、インターネットなどで利用されている重要な暗号システムはすべて崩壊してしまう... 従来のものが宇宙誕生からの歴史ほどかかっても解けないような問題を数分か数秒足らずで解いてしまう... 「量子力学的な振る舞い」を計算に利用する 1959年 ファインマン 量子コンピュータの概念の誕生 1980年 ベニオフ
量子ビット=キュービット 古典ビット: 0か1 電荷の有無で表される 量子ビット: 0と1の重ね合わせ スピン等の量子的な振る舞い 3ビットの場合: 古典ビット 000, 001, 010, 011, 100, 101, 110, 111 : 8通り 量子ビット (|0>+|1>)(|0>+|1>)(|0>+|1>) : 3ビットの8通りの情報を一度に示すことが可能
量子コンピューティング 量子的な重ね合わせの状態を保ったまま演算処理を行う。 3ビットの場合、8通りの計算を1度の処理で行える。(8:3) 20古典ビットの場合、220=100万通りの計算 量子コンピューターなら重ね合わせを利用して1回で処理。 100万:20!
量子コンピューターの例:イオントラップ 振動モードを量子ビットの|0>,|1>に対応させている。これらのイオン一つ一つに狙いを定めて光子をぶつけることで、振動モードを重ね合わせの状態にしている。
量子コンピューターの例:NMR 反平行の状態は平行の状態よりもエネルギーが高い。このエネルギー差を考慮して、最適の周波数の電磁場を、強さを周期的に変えながらかけることで、核スピンの重ね合わせの状態を実現する 。