三極管型熱陰極高周波電子銃のための 同軸共振空胴の製作と性能評価 髙﨑 将人、増田 開、石田 啓一、 木村 尚樹、上田 智史、吉田 恭平、M. Omer、 金城 良太、 Y. W. Choi、 M. A. Bakr、 園部 太郎、紀井 俊輝、長﨑 百伸、大垣 英明 京都大学 エネルギー理工学研究所 三極管型熱陰極高周波電子銃のための同軸共振空胴の製作と性能評価と題しまして、京都大学エネルギー理工学研究所 の髙﨑将人が発表させていただきます。 よろしくおねがいします。 高周波電子銃研究会 2011/01/12
発表内容 背景と目的 三極管型熱陰極高周波電子銃 原理と特長 追加の同軸共振空胴の設計 プロトタイプの実験 今後の予定 まとめ 原理と特長 追加の同軸共振空胴の設計 プロトタイプの実験 今後の予定 まとめ まず今回の発表内容についてです。 最初に本研究の背景、目的について説明させていただきます。 その後、三極管型熱陰極高周波電子銃の原理と特長、追加の同軸共振空胴の設計について説明します。 そして、今回行った実験について述べ、今後の予定、まとめと続けていきます。
Kyoto University Free Electron Laser (KU-FEL) 熱陰極 高周波電子銃 加速管 大出力 波長可変 高効率 中赤外領域 FEL 熱陰極高周波電子銃の特徴 アンジュレータ 長所 短所 ターゲット波長:5-20μm 達成している波長:12-14μm 静電型電子銃との比較 高い加速電界 バンチャー不要 光陰極高周波電子銃との比較 ドライブレーザが不要 半導体陰極よりも低い真空度で良い Back-bombardment 現象 それでは、まず研究背景について説明します。 われわれの研究グループでは京都大学自由電子レーザ通称KU-FELの発振のために熱陰極高周波電子銃を用いています。 ここで、熱陰極高周波電子銃を用いている理由といたしましては、長所として、静電型電子銃と比較すると高い加速電界が得られること、バンチャーが不要であること、また、光陰極高周波電子銃と比較して、高価なレーザが不要であることが挙げられことからコンパクトで経済的であり産業用加速器として適しているためです。しかし、この唯一の短所としてバックボンバードメント現象が挙げられます。このバックボンバードメント現象のために、FELの特徴である出力と波長が制限され、我々のターゲット波長が5-20μmであるのに対し、達成している波長が12-14μmとなっております。 このバックボンバードメント現象を解決することができれば、さらなるFELの普及、産業利用が期待できます。 我々はこの解決のために、電子銃に高周波三極管構造を採用することを提案しています。 FELの出力、波長の制限 解決策として 「高周波三極管構造」を採用
高周波三極管構造の特長と課題 特長 Back-bombardmentを90%以上抑制可能 同軸共振空胴を、既設陰極と交換、設置することで実現可能(電子銃本体の改造不要、追加電源不要) 熱陰極 従来型 1st cell 2nd cell 課 題 同軸共振空胴と高周波カップラの設計・製作 三極管型 熱陰極 共振空胴 1st cell 2nd cell 高周波三極管構造の特徴といたしましては、熱陰極付近に追加の同軸共振空胴を設けていることです。この共振空胴の位相を、1st cell 以降の空胴と独立して制御することにより、従来型に比べてback-bombardmentを90%以上抑制することが可能という計算結果を得ております。 また、この構造を実現するために電子銃本体の改造、共振空胴用の追加電源は不要で既設陰極と交換・設置することで実現させますので、我々の電子銃だけでなく、他の熱陰極高周波電子銃にもそのままインストールすることができます。 これを実現するための課題といたしまして、この共振空胴と、そこに電力を供給するための高周波カップラが必要となります。 そのため、現在プロトタイプを製作し、その性能を評価することで問題点を洗い出しております。 新型RFカップラ 4
目的 同軸共振空胴と高周波カップラの設計 そのために・・・ プロトタイプの性能評価 空胴パラメータ(Q0,カップリング係数β) 陰極加熱時のf0の変化 よって、私の研究目的はこの同軸共振空胴と高周波カップラの設計です。 そのために、実際にプロトタイプを製作し、その性能評価の具体的な項目として共振空胴の空胴パラメータ、陰極加熱時のf0の変化を測定しました。
従来型でのback-bombardment現象 1st cell 2nd cell 3rd cell 4th cell 5th cell Accelerating Field Decelerating Back - bombardment 2 4 6 8 50 100 150 200 Phase [ p rad ] Axial Distance Z [mm] Accelerating Field Decelerating 5th cell 200 200 4th cell 150 150 Axial Distance Z [mm] z [mm] 3rd cell Accelerating 100 100 Field Back - bombardment Decelerating 50 2nd cell Field 50 まず、従来型でのback-bombardment現象について説明します。 右側の図は2次元計算による加速空胴内の電子の移動をあらわしたものです。この赤い点は速度が正の電子を表しております。黄緑色の点は速度が負の電子を表しております。 また、左側のグラフは1次元計算による空胴内の電子の軌道です。 縦軸が電子銃の加速空胴を表しており、右側の加速空胴とリンクしており、縦軸の0地点は陰極の表面を表しております。横軸は時間を表しています。 この、ピンク色の部分は加速位相、水色の部分は逆加速位相を表しており、図中の曲線が電子の軌道です。うまく加速位相に乗った電子は順調に加速され電子ビームとして空胴から出ていきます。 また、赤い曲線は逆加速位相によって陰極にもどる電子を表しています。実際には2次元計算の結果のように陰極以外の部分にあたる電子も存在しますが、陰極からでた電子のうち半数程度が加速されないことがわかっていただけるかと思います。 1st cell 0.5 1 2 3 4 2 4 6 8 rf phase [2prad] Phase [ p rad ] 熱陰極
三極管型でのback-bombardment現象 追加の 共振空胴 次に、三極管型でのback-bombardment現象についてです。 三極管型は陰極付近に高周波波長に比べて十分短い追加の同軸共振空胴をもっています。 この共振空胴を1st cell以降の加速空胴とは独立して制御することで従来型より約90%以上back-bombardmentを抑制することができるという計算結果を得ております。 この共振空胴は短ければ短いほどバックボンバードメントを抑制することができ、さらに共振空胴に必要な高周波電力も低く済みます。
三極管構造への電力供給 short-gap rf cavity klystron 0-20dB 10 MW variable coupler 100 kW <40 kW 0-20dB variable attenuator phase shifter WG/COAX converter rf window coaxial cable 10 MW そのために、電子銃本体の改造・電源の追加を行わず、従来のクライストロンから電力を分岐させます。そのため、このように供給回路を改造しました。まずクライストロンから出力された10MWの高周波電力を、この20dBカップラで100kW取り出し、0-20dBバリアブルアテネータで最大40kWにします。その後、共振空胴に供給される高周波電力の位相をフェイズシフターで制御し、同軸ケーブルを通して共振空胴に供給します。 rf window e-beam short-gap rf cavity rf gun
共振空胴パラメータ 共振周波数f0はKU-FELの2856 MHzに設定 陰極温度、供給する高周波電力により変化 共振空胴と高周波カップラは、現在の電子銃にセットするためコンパクトにする f0を連続的に調節するチューナーを取り付けるのが困難 QL=Q0/(1+β)を小さく設定することで周波数帯域幅Δfを大きくする Δfは空胴電圧Vc > 30 kVとなる周波数帯域幅 供給する高周波電力は40 kW Vcのピークを高く設定したい → Q0を大きくとる カップリング係数βを、ベストマッチ3程度であるところをover coupleとする 次に三極管型における共振空胴パラメータについて説明します。 まず、共振周波数f0に関しては、現在のKU-FELの共振周波数である2856MHzとする必要がありますが、f0は陰極温度、供給する高周波電力といった運転条件によって変化することが知られています。しかし、共振空胴と高周波カップラは現在の電子銃にセットするためコンパクトにする必要があり、共振周波数を調節する機構を取り付けることは困難です。そこで、ローデッドQの値を小さく設定することで周波数帯域幅Δfを大きくし、f0の変化に対応することとしました。このΔfは、空胴電圧Vcが30kV以上となる幅としており、入力電力は40kWを想定しています。このとき、Vcのピークをできるだけ大きくするため、Q0値はできるだけ大きくとることにし、カップリング係数βは3程度でベストマッチなところをオーバーカップルとすることでローデッドQの値を小さくすることにしました。 この各パラメータを決定するにはプロトタイプを使った実験で次のことを調べる必要があります。 この各パラメータを決定するためにプロトタイプでの実験を行う
プロトタイプの必要性 計算で正確に求めることが困難な 表皮効果で大きく変化するQ0 陰極の加熱によるf0の変化 空胴温度によるf0の変化 共振空胴長Lに影響 それは計算でせいかくに求めることが困難なこの3つです。 Q0は表皮効果で大きく変化し、Δfに影響します。 また、陰極加熱によるf0の変化と現在のKU-FELにおける電子銃の温度60℃でのf0の変化は共振空胴長Lの決定に必要です。 これらはプロトタイプを設計・製作・評価することで調べる必要があります。 Q0は表皮効果によって大きく変化することが知られており正確な値を計算するのは難しい。 Δfに関係するため、周波数帯域幅の設計を行うために必要 共振空胴の形状が複雑であることから、陰極を加熱したときのf0の変化を計算するのは難しい。 Lを決定するために、陰極加熱によるf0の変化を求める必要がある。 通常、Q0値を正確に計算することは難しいことが知られています。 チューナーを取り付けられないことからΔfの値を大きくとっているのに、 Q0は表皮効果によって大きく変化するパラメータであり、計算で正確に求めることは困難 陰極加熱時の共振周波数の変化についても陰極付近の形状が複雑になるため計算で求めるのは困難 プロトタイプを設計・製作し評価することでどの程度になるかを調べる プロトタイプを設計・製作・評価することで調べる必要がある。
プロトタイプ共振空胴&高周波カップラのデザイン 熱陰極 カップリングホール ウェーネルト構造 ヒーター リード線 テーパー導波管 同軸共振空胴 L w カソードマウントプレート Φ = 25 mm t カソードカバー こちらが設計したプロトタイプ共振空胴と高周波カップラデザインの断面図です。 全体は同軸構造となっており、左の図が共振空胴と高周波カップラを横から見た図、右側が熱陰極背面側から見た高周波カップラの図です。 この青い部分が空胴を表しており、高周波電力はこの部分からテーパー導波管を通してこのカップリングホールより共振空胴に供給されます。 この共振空胴の幅φは現在の電子銃にインストールすることから25 mmと決定しました。 陰極付近に関しては2次元粒子シミュレーション(ビームオプティクス)を行うことでこのような形に決定しました。 共振空胴長Lはf0を決めるパラメータであり、共振空胴を軸対象と考え、2次元計算により2856MHzとなるLを求め、19.62mmと設定しました。 また、この赤い部分が熱陰極、黄緑色の部分はウェーネルト構造を持たせるためのカソードカバーです。この陰極を固定しているのがカソードマウントプレートで、この形状によってカップリング係数βが決定します。陰極を通電するためのヒータリード線は陰極からカソードマウントプレート内部を通して外部へ通じる構造としたため、tとwは陰極やリード線を支えるのに最低限必要な値とし、3次元計算によるとカップリング係数は20程度となりました。 また、この共振空胴の材質はQ0値に影響し、無酸素銅を用いると想定した2次元計算では4000程度になると予想され、そのときのΔfはその時のβとQ0 で20程度になることがわかりました。 Design parameters prototype L 共振空胴長 L = 19.62 mm t カソードマウントプレート厚み t = 08 mm w カソードマウントプレート幅 w =0 8 mm f0 (2856MHz) b (20) Q0 (共振空胴材質:無酸素銅) (4000)
プロトタイプの構造 gun body こちらが実際に製作したプロトタイプの構造です。今まで説明してきた共振空胴や陰極はこの部分です。 先ほどのカップリングホールはこちらに当たります 共振空胴への電力はこちらから、この同軸導波管を通って供給されます。この同軸導波管には、共振空胴、同軸導波管内部の真空引きを行うためにこちらのようなスリットを設けております。 また、外側は真空チャンバーで、陰極にはこのフィードスルーを通じて通電します。 gun body
コールドテスト結果 設計値との差 -420 MHz Δf [MHz] = 10 MHz 予想される空胴電圧 (ビームローディングを想定) コールドテスト結果 予想される空胴電圧 (ビームローディングを想定) コールドテスト結果 空胴パラメータ こちらが、バックグラウンドである同軸導波管での反射率を補正した共振空胴のコールドテスト結果です。 このグラフより空胴パラメータを求めるとf0 = 2437 MHzとなり、設計値との差は約420 MHzであることがわかりました。 また、Q0は2次元計算で得られた値よりも小さな2600となっていることがわかりました。また、カップリング係数βは20と設計した値と大幅に異なる3となっていることがわかりました。これに関しては、3次元計算に何かのミスがあったと考えられるため、計算をやり直すひつようがあると考えております。 今回得られた空胴パラメータQ0、βを用いて、周波数に対するビームローディングを想定した空胴電圧の関係は右のグラフのようになります。このグラフから、Vcが30kV以上となる周波数帯域幅Δfは10 MHzとなることがわかります。 f0 = 2437 MHz Q0 = 2600 β = 3 設計値との差 -420 MHz Δf [MHz] = 10 MHz 電子銃の等価回路 13 3次元計算をやりなおす必要がある
陰極加熱実験結果 20 cm ヒーター電流値に対する陰極表面温度 放射温度計 陰極の直径 2 mm 放射温度計のスポットの直径 Temperature of cathode surface (℃) 20 cm ▲ HEAT WAVEのデータ ■ 測定値 陰極の直径 放射温度計のスポットの直径 2 mm Current (A) 次に陰極加熱実験の結果にうつります。 これは陰極に与えた電流値に対する陰極表面温度の変化を表したものです。赤い点が陰極の製作会社HEAT WAVEのデータで、黒い点は今回の実験結果を表しています。 この結果から、HEAT WAVEのデータとの差は、測定条件の違いである温度計のアライメントによるものが考えられます。陰極の直径は2mmであり放射温度計も20cm先で2mm となるものを使用しました。 エラーバーは、放射温度計のスポット面積が陰極から8%ずれていると仮定したときの値を記載しています。 また、今回実験で用いた陰極は、ウェーネルト構造を持たせるために陰極の付近にカソードカバーを取り付けていることから、カソードカバーからの放熱が影響していると考えております。 エラーバーは放射温度計のスポット面積が陰極から8%ずれているとした時の値 HEAT WAVEのデータとの測定条件の違い ミスアライメント カソードカバーからの放熱
陰極表面温度に対するf0の変化 運転温度(約1000℃)にした時、11MHz程度共振周波数が低い方へシフトした。 電流密度 (A/cm2) 陰極温度(℃) 1.64 1000 12.4 1180 Resonance frequency (MHz) ΔJ = 10.76 ΔT = 180 次に陰極表面温度に対するf0の変化を示します。 このグラフの青い点は室温での共振周波数を示しており、黒い点は陰極加熱実験で得られた値です。 このグラフより、運転温度である約1000℃の時、f0が11MHz程度低いほうへシフトすることがわかりました。 また、1000℃付近で電流密度を約10挙げるためには180℃の加熱が必要となりこれによって、f0は約3~4MHz変化すると考えられます。 (この2MHzはコールドテストで得たΔfがおよそ10MHzであったことからカバーできると考えられます。) Temperature of cathode surface (℃) 運転温度(約1000℃)にした時、11MHz程度共振周波数が低い方へシフトした。 1000℃付近で電流密度を約11(A/cm2)あげるためには、180℃の温度変化 →f0は約3~4 MHz変化する →コールドテストで得たΔfでカバーできることがわかった
陰極加熱実験考察 本来の位置 動いた位置 共振空胴全体の温度変化 Δf0 = 0.04 ΔT 陰極の温度変化 Δf0 = 0.01 ΔT これにより、まだ、この原因についてはわかっていませんが、カソードカバーが伸びることで陰極の位置を変えていると考えており、これに関しては今後計算することで確認する予定です。 陰極加熱による不等変形が与えるf0の変化は大きいと考えられる
実効的な反射面 実際の反射面はカソードマウントプレートの真ん中あたり この差によってコールドテストでのf0のずれが発生 実際の反射面 19.62 これは2次元計算結果より求めた共振空胴長に対するf0の変化をあらわしたグラフです。このグラフの0は右の図のこの部分に対応し、この部分(19.62)はこちらに対応しており、ここはここです。 このグラフより、実験で得たf0となる共振空胴長Leffはカソードマウントプレートのまんなかあたりにあると考えられます。 当初はカソードマウントプレートの共振空胴側の表面で反射すると考えていたので、この差によってf0のずれが発生したと考えられます。 これの対処といたしましては共振空胴の長さ変えてを作り替えることで対処する予定です。 実際の反射面はカソードマウントプレートの真ん中あたり この差によってコールドテストでのf0のずれが発生
今後の予定 共振空胴長の設計 コールドテストで判明した - 420 MHz 陰極加熱実験による - 11 MHz 共振空胴の温度による変化 → 今後の実験課題 以上のことを考慮して、共振空胴を短くする 次に、共振空胴長の設計についてです。 これまでの実験によって、コールドテストによって判明したもともとずれていた分 -420 MHz 陰極加熱によって判明した -11 MHz この他に、現在KU-FELの発振に用いている熱陰極高周波電子銃は、電子銃本体の共振空胴を2856MHzとするために、約60℃に加熱して使用しているので、この加熱によるf0の変化も含めて実機を設計する必要があります。 これに関しては今後の実験によって、f0の変化を調べる予定です。 (三極管型の真空チャンバーを120℃に加熱し、反射率を求めたとき、f0が6.6MHz低いほうへシフトしたことから、60℃では3.3MHz程度低いほうへシフトすることが予想される。) よって、真空チャンバーの温度による共振周波数の変化をA MHzとすると Δfはこちらのようになります。 よって、この値分、共振空胴長を短く設計する必要があります。 よって、共振空胴長は、現在の値から433.3MHz分短くする必要があります。
まとめ 三極管型熱陰極高周波電子銃のための同軸共振空胴のプロトタイプを製作した。 コールドテストを行い、共振空胴パラメータを測定した結果、Δfは10 MHz程度であることがわかった。 陰極加熱実験を行い、運転温度(約1000℃)ではf0が11 MHz程度変化することがわかった。 今後、共振空胴を加熱したときのf0の変化を調べ、共振空胴長を決定する。