高エネルギー天体理論 ~特に宇宙線陽電子について~

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Presentation transcript:

高エネルギー天体理論 ~特に宇宙線陽電子について~ 高エネルギー加速器研究機構 川中 宣太 総研大スクール「銀河系とダークマター」@軽井沢 2009/10/02

目次 高エネルギー天体現象について 銀河系内宇宙線とその生成 宇宙線電子・陽電子超過(復習) 天体起源の宇宙線陽電子 4-1 パルサー 4-2 超新星残骸 4-3 ガンマ線バースト 4-4 伝播中の効果 5. まとめ

1. 高エネルギー天体現象について

高エネルギー天体現象とは? 物質の流れが高エネルギー (or相対論的) 粒子が高エネルギー (E~109-20eV) 放射が高エネルギー 超新星爆発 (~1051erg) ガンマ線バースト(GRB)(~1051erg) 活動銀河核 系内ブラックホール(BH) etc. 粒子が高エネルギー (E~109-20eV) 超新星爆発(残骸: SNR) パルサー 活動銀河核 宇宙線etc. 放射が高エネルギー (X線・g線) 活動銀河核 系内ブラックホール ガンマ線バースト パルサー 宇宙線etc. 扱う場が高エネルギー (or強い) ブラックホール(強重力場) パルサー(強磁場) 超新星爆発(高密度・核力)

一部はGRBも付随?

宇宙線 宇宙から降り注ぐ陽子・原子核・電子などの粒子 エネルギーeが108eVから1020eVにまで広範囲にわたる e<1015eV (knee以下)は系内起源の陽子が殆どとされる 系内成分は超新星残骸の衝撃波でn(e)∝e-2のように加速されたと思われている(後述) エネルギー密度: p ~1eV/cm3 e- ~10-2eV/cm3

今回のメインテーマ 天体からどうやって宇宙線を出すの? 本当に陽電子超過を説明できるの? ダークマター説とどういう所が違うの? どうすればそれを確かめられるの?

2. 銀河系内の宇宙線とその生成

系内宇宙線の起源は何か? エネルギー密度: p ~1eV/cm3 銀河系の体積~p×(14kpc)2×600pc ~1067cm3 系内宇宙線の全エネルギー~1055erg GeV(=109eV)の宇宙線が系内磁場にトラップされる時間は107yr程度 ということは、1年につき1048ergの宇宙線を作らなければならない 昨日の柴田さんの講義を思い出してください

超新星残骸(supernova remnant: SNR) 左は高電離酸素からのX線、右は非熱的電子からの連続X線 超新星爆発後、高速(~3000km s-1)で膨張する高温ガス 星間物質と衝突して衝撃波を形成 系内の宇宙線源の最有力候補 (E~1051erg, 100年に1発として10%宇宙線につぎ込めばよい) 加速された電子からのX線がとらえられている 2006/5/1 京大宇宙線研究室にて(写真は出身学生から拝借)

衝撃波による宇宙線加速(1) V1 V2 衝撃波:超音速の流れが流体中に作る物理量の不連続面 Rankine-Hugoniotの関係式 密度r1, 圧力p1,  内部エネルギーu1 r2, p2, u2 (練習問題) 単原子分子気体(u=(3/2)p)の場合、 上流のマッハ数M1=V1/(p1/r1)1/2が無限大の極限では圧縮比r=r2/r1 は4となることを示せ。 2日目の堂谷さんの講義を思い出してください 衝撃波面(静止)

衝撃波による宇宙線加速(2) 上流の速度の大きな散乱体と正面衝突する 下流に飛ぶ 下流の速度の小さな散乱体に追突する 上流に飛ぶ 衝撃波静止系から見た粒子加速の様子 ・・・

衝撃波による宇宙線加速(3) log e log n(>e) log e log (dn/de) 1回の往復での粒子のエネルギー増分は速度差に比例 DE/E=4(V1-V2)/3c 下流は衝撃波面から速度V2で遠ざかっていく 粒子が波面を往復できずに流される確率P=4V2/c n(>e)のべきは dn/deのべきはこれに+1 となり、V1/V2=r2/r1=rで決まる r=4のときa=2 1+DE/E倍

この章のまとめ 銀河系内の宇宙線は、超新星残骸の衝撃波で加速されたと考えると、エネルギー的にもスペクトル(べき)についても説明がつく 超新星残骸のX線観測により、電子の加速が行われていることが確かめられている 同じく陽子もおそらく加速されているだろう  参考) ガスとの相互作用で生成されるパイオン起源のガンマ線と見られるものが見つかっている

3. 宇宙線電子・陽電子超過(復習)

陽電子超過: PAMELAによる発見 ~1-100GeV 観測: e+/(e++e-) は10GeV付近から増大し、標準モデルを超過 p, e-は超新星残骸で加速され、e+はpの伝播において二次的に生成されると考えれば、e+ fractionは右下がりになるはず(次頁) 何か別の陽電子源がある? ~1-100GeV (Adriani et al. 2008)

陽電子比が右下がりになる”はず”な理由 標準生成モデル 超新星残骸で加速された陽子が星間物質と相互作用することにより二次的に生成される     p+p  p+  m+  e+ or p+p  p0  gg  e± 高エネルギーの陽子ほど磁場により曲げられにくい  e+が銀河内で沢山できにくい 一方、電子は一次粒子として加速を受け、脱出・冷却によるべきの変化を受けるのみ 注入粒子 ① 陽電子生成時のスペクトル ② 陽電子の観測スペクトル ① 高エネルギーの粒子ほど銀河系から脱出しやすいべきが急になる ② 高エネルギーの陽電子ほど脱出・冷却しやすいべきがさらに急になる

Electron+Positron Flux ATIC/PPB-BETS ee~100-600GeV bumpと鋭いcutoff(~600GeV)が見えた (Chang et al. 2008) H.E.S.S. ee ~1-5TeV steepに落ちているhigh energyでの上限 (H.E.S.S. collaboration 2008)

dark matter annihilationの兆候??

Recent Observations H.E.S.S. (340GeV~) Fermi LAT Abdo et al. (arXiv:0905.0025) Aharonian et al. (arXiv:0905.0105)

PAMELA results of anti-proton flux 宇宙線陽子と星間物質との相互作用では反陽子も生成される こちらは標準モデルからの超過は見られない Adriani+ (2009)

電子・陽電子超過の起源は何か? 暗黒物質起源説 対消滅・崩壊により生成 天体起源説  対消滅・崩壊により生成  ATICの~600GeVのカットオフはDM粒子の質量で決まる  数多くの研究(文献数~200)、本当なら超大発見  しかし、対消滅断面積(<sv>)が桁で足りなさそう、反陽子を出してはいけない、などの困難あり 天体起源説  高エネルギー天体により生成 ATICカットオフは電子・陽電子の冷却時間で決まる(後述) まだ論文数は少ない(~数10)ものの、今も増え続けている 天体の特定・陽電子生成効率・加速効率は決められない(観測と合わせるしかない)

4. 天体起源の宇宙線陽電子

観測からの要請 Energetics 宇宙線中の 陽子(p) ~ 1 eV/cm3←超新星残骸における加速で賄える 電子(e-) ~ 10-2 eV/cm3 陽電子(e+) ~10%×e- ~ 10-3 eV/cm3 超新星の陽子に与えるエネルギーの0.1%がe+につぎこまれている? 1000個のうち1個の特別な超新星に伴う現象が主に寄与している?

宇宙線陽電子の天体起源説 パルサー 超新星残骸 マイクロクエーサー(系内BH) ガンマ線バースト Ioka 08 伝播過程における効果  パルサー Shen 70; Aharonian+ 95; Atoyan et al. 95; Chi+ 96; Zhang & Cheng 01; Grimani 07; Yuksel+ 08; Buesching+ 08; Hooper+ 08; Profumo 08; Malyshev+ 09; Grasso+ 09 NK+ 09  超新星残骸 Shen & Berkey 68; Pohl & Esposito 98; Kobayashi+ 04; Shaviv+ 09; Hu+ 09; Fujita+09; Blasi 09; Blasi & Serpico 09; Mertsch & Sarkar 09; Biermann+ 09  マイクロクエーサー(系内BH) Heinz & Sunyaev 02  ガンマ線バースト Ioka 08  伝播過程における効果 Delahaye+ 08; Cowsik & Burch 09; Stawarz+09; Schlickeiser & Ruppel 2009

? 電子・陽電子の伝播過程 e± 伝播に影響する効果 1.星間磁場により方向をランダムに曲げられながら伝播 2.星間磁場によるシンクロトロン放射+星間輻射場の逆コンプトン散乱でエネルギー損失 e± ?

観測される電子・陽電子スペクトルは? diffusion equation injection energy loss (synchrotron, inverse Compton scattering) B/C ratioや背景輻射(星光+CMB)から point-like sourceから瞬間的にe±を注入したとき、観測されるスペクトルは (Atoyan+ 1995) ee~1/btにおいてピーク・カットオフをもつスペクトル :diffusion length

スペクトルの例(陽電子比) カットオフの位置は放射源の年齢で決まる d=1kpc (a) E=0.9x1050erg age=2x105yr (b) E=0.8x1050erg age=5.6x105yr a=1.8 (c) E=3x1050erg age=3x106yr

スペクトルの例(電子+陽電子フラックス) カットオフの位置は放射源の年齢で決まる d=1kpc (a) E=0.9x1050erg age=2x105yr a=2.5 (b) E=0.8x1050erg age=5.6x105yr a=1.8 (c) E=3x1050erg age=3x106yr

4-1. パルサー パルサー = 回転する中性子星 回転はだんだん遅くなっている  磁気双極子放射モデル 放射強度を時間の関数で表すと (パルサー星雲のenergeticsは説明できる) 放射強度を時間の関数で表すと

Crab nebula

パルサーからのe±放射 回転する磁気双極子が誘導する電場により、中性子星の周囲はプラズマで満たされ(Goldreich & Julian 1969)、その中でe± pair cascadeが起こる 磁力線に沿った電場により電子が加速 curvature radiationg線 Bと反応してe±生成 星表面からのX線と反応してe±生成 電場またはパルサー風が作る衝撃波によって加速できるはず? パラメーター: 全エネルギーE, 年齢tage, 距離d, べきa Leptonic (Zhang & Cheng 1997)

パルサー説での陽電子比 (Hooper+ 2008) 単独のパルサーのみで合わせた場合 Geminga 一定birth rateで生まれる複数のパルサーで合わせた場合 Monogem

Profumo 2008 既知のパルサー/SNRからのe±のエネルギーやべきを適当に仮定してe±フラックス及び陽電子比を計算し、PAMELA及びATICと合わせる

Grasso+ 2009 既知のパルサーそれぞれからのe±のエネルギー、べき、放射開始時期などのパラメーターを様々な値にとってプロットし、Fermiと合わせる

連続的な電子・陽電子の注入 Case 1: pulsar-type decay Case 2: exponential decay 一般にパルサー等の放射源は有限時間輝きつづける スペクトルのカットオフは垂直ではなく、幅を持つはず Case 1: pulsar-type decay cf.) Case 2: exponential decay

連続的な注入の効果 (e++e-) exponential decay, t0~105yr t=5.6x105yr r=1kpc background t=5.6x105yr r=1kpc Ee+ ~Ee-~1050erg a=1.7 Emax=5TeV Burst-like event (e.g. GRB) Epeak~1/bt~600GeV NK+ 2009 天体のみからのフラックス

パルサーからの平均/分散スペクトル birth rate ~1個/1.5x105 yr/kpc2 Ee+=Ee-~1048erg a~1.8 実線:average spectrum 点線:average±s e+ fraction birth rate ~1個/1.5x105 yr/kpc2 Ee+=Ee-~1048erg a~1.8 平均フラックスはFermi/H.E.S.S.とよく一致 (ATIC/PPB BETS peak flux) ~ 予測される平均フラックスから10sのずれ e±spectrum 異常にenergeticなパルサーを考えない限り、ATIC/PPB-BETSを説明するのは不可能 NK+ 2009

検証法 単独の強いソースが寄与しているとすると、フラックスの非等方性が予言される DM clumpによっても生成可能

2. 超新星残骸(SNR) Hadronic 衝撃波面の往復により粒子が加速できる 銀河系内の宇宙線陽子・原子核の主な生成源 陽電子生成     p+p  p+  m+  e+ or p+p  p0  gg  e± SNRのschematic picture Hadronic ただし、標準的な二次生成モデルとは以下の点で異なる SNRの分布が非一様 (Shaviv+2009) 加速中にpp反応を起こし、衝撃波でe+を加速 (Blasi 2009) 平均密度より高い領域で超新星爆発が起こる (Fujita+2009)

大昔、近傍で超新星爆発が起こっていたかもしれない Local bubble Loop I 太陽近傍の低密度領域 ~107yr前に20-40発の超新星爆発が起こったせい? NaIからの放射を見ている

例:高密度領域での超新星爆発 衝撃波加速されたpがlocalな領域でpp反応を多く起こし、e±を生成 R~40pc, n~50cm-3, Fujita+ 2009 衝撃波加速されたpがlocalな領域でpp反応を多く起こし、e±を生成 R~40pc, n~50cm-3, d=200pc a=1.75 tpp=2x105yr Ep=3x1050erg

検証法 反陽子のスペクトルを見る pp反応では陽電子だけではなく反陽子も生成  宇宙線源中or近傍での反応による標準モデルからの超過 Fujita+ 2009 pp反応では陽電子だけではなく反陽子も生成  宇宙線源中or近傍での反応による標準モデルからの超過 2. 原子核成分の比を見る 陽子だけでなく原子核も加速を受けているはず  Spallationによるsecondary-to-primary比(B/C, Ti/Feなど)の超過 Mertsch & Sarkar 2009

4-3. ガンマ線バースト(GRB) 系外で見つかる、宇宙で最も明るい爆発現象(L~1051erg/s) 1日に1発程度観測されている Ioka 2008 系外で見つかる、宇宙で最も明るい爆発現象(L~1051erg/s) 1日に1発程度観測されている 超相対論的ジェット中の内部衝撃波により電子を加速し、ガンマ線を放出するとされている(ファイアーボールモデル) 少なくとも一部は超新星が付随している大質量星の最期? 全エネルギー~1051erg Event rate~1つの銀河あたり105年に1発 その昔、我々の銀河で起こっていたとしても不思議ではない

Standard model G>100 ? SN? 残光 GRB 内部衝撃波 外部衝撃波 Central Engine 星間物質 (井岡さんに借りたアニメ) optically thick gg→e+e- 内部衝撃波 SN? ? 星間物質 G>100 外部衝撃波 Central Engine Luminosity 残光 Kinetic energy ↓ Shock dissipation GRB Time

Leptonic ~TeV GRBからのガンマ線光子(~TeV)と周囲のダストからの低エネルギー光子(~eV)で対生成 eV光子:GRBからの可視光をダストで散乱 (cf: GRB080319B/ Naked-eye GRB) Leptonic 生成した電子・陽電子(>~TeV)は伝播中に残光の光子を逆コンプトン散乱 冷却 & 低エネルギーのe±を生成 時間とともに残光は暗くなるので、電子の冷却は~TeV程度で止まる ~TeV

4-4. 伝播過程における効果 Delahaye+ 2008 標準モデルに含まれる不確定性は1桁程度  星間での二次生成で陽電子比を説明できる可能性も十分ある Cowsik & Burch 2009 拡散係数K(ee)がソース周辺と星間空間(エネルギーについてほぼ一定)とで異なる B/C ratioの観測とも無矛盾

~TeVではKlein-Nishina suppressionが効く  Fermi/HESSの緩やかな超過が再現できる Stawarz+ 2009 ~TeVではKlein-Nishina suppressionが効く  Fermi/HESSの緩やかな超過が再現できる PAMELAまで合わせるためには、星光のエネルギー密度と星間ガスの密度を高め(~300eV cm-3, 80cm-3)にする必要がある 加速源(SNR)の近傍ならありうる?

ガンマ線背景放射との関係 パルサー(GRB)起源のe ±の逆コンプトン散乱によるガンマ線背景放射への寄与は、標準モデル(ppp0gg)に比べ無視できる ただし、ゆらぎや点源としてパルサーやGRBの分布が見える可能性もある  ダークマターと区別? パルサー Bargar+ 2009

天体現象起源の宇宙線陽電子 Leptonic model Hadronic model 超新星残骸 パルサー ガンマ線バースト 系内BH 高密度領域 衝撃波中で生成・加速 非一様分布 パルサー ガンマ線バースト 系内BH 伝播中の効果 拡散係数K(e)の不定性 ICのKN効果 etc. 陽子の見間違い? (Fazely+ 2009など)

5. まとめ

候補:パルサー・SNR・GRB・伝播中の効果… 宇宙線電子・陽電子超過は天体起源か?   候補:パルサー・SNR・GRB・伝播中の効果…    ATICで得られた~500GeVのカットオフはDM説以外にも伝播中のエネルギー損失で説明可能 検証するためには何を見ればよいか?    非等方性1(単独ソース)、ピークの幅2(継続時間)、反陽子3or二次生成核4のスペクトル(ハドロン起源)、ガンマ線背景放射とその分布5 PAMELA3, Fermi1,5, AMS-021,3, CALET2,4により決着に近づくか?

補助資料

Polar Cap Model

Outer Gap Model