氷XI相の安定性 理化学研究所 飯高敏晃 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

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金属微細構造体製作のための 二相ステンレスの析出相生成場所制 御 田畑研究室 B4 田中 伸 治.
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4・6 相境界の位置 ◎ 2相が平衡: 化学ポテンシャルが等しい     ⇒ 2相が共存できる圧力と温度を精密に規定     ・相 α と β が平衡
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
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第2回:電荷と電流(1) ・電荷 ・静電気力 ・電場 今日の目標 1.摩擦電気が起こる現象を物質の構造から想像できる。
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固体の圧電性.
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◎熱力学の最も単純な化学への応用   純物質の相転移
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Ⅲ 結晶中の磁性イオン 1.結晶場によるエネルギー準位の分裂 2.スピン・ハミルトニアン
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埼玉大学大学院理工学研究科 物理機能系専攻 物理学コース 06MP111 吉竹 利織
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第11課 ダストの光学 講義のファイルは 平成17年 1月 17日
誘電性とは? 電場をかけても電気は流れず、                 +電極側に負電荷粒子が、                   -電極側には正電荷粒子が移動(分極)する現象            (荷電粒子は移動するだけであり、電気は流れない) 誘電性には                            電場を取り去っても分極が保持される場合と、      電場を取り去ると分極が消滅する場合の                            二通りがある  
●ソフトマター:液晶・高分子・ゲル・エマルジョン
電磁気学C Electromagnetics C 5/28講義分 電磁波の反射と透過 山田 博仁.
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Ⅴ 古典スピン系の秩序状態と分子場理論 1.古典スピン系の秩序状態 2.ハイゼンベルグ・モデルの分子場理論 3.異方的交換相互作用.
前回の講義で水素原子からのスペクトルは飛び飛びの「線スペクトル」
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半導体の歴史的経緯 1833年 ファラデー AgSの負の抵抗温度係数の発見
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
課題演習B1 「相転移」 相転移とは? 相転移の例 担当 不規則系物理学研究室 松田和博 (准教授) 永谷清信 (助教)
G Knebel et al J. Phys,: Condens. Matter 16 (2004)
Bruciteの(001)面における真の接触面での摩擦特性
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
サーマルプローブを用いたイオン温度計測の新しいアプローチ
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第6回講義 前回の復習 ☆三次元井戸型ポテンシャル c a b 直交座標→極座標 運動エネルギーの演算子.
◎熱力学の最も単純な化学への応用   純物質の相転移
課題演習B1 「相転移」 相転移とは? 相転移の例 担当 不規則系物理学研究室 八尾 誠 (教授) 松田和博 (准教授) 永谷清信 (助教)
Marco Ruggieri 、大西 明(京大基研)
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
強結合プラズマ 四方山話 − 水素とクォーク、高密核融合、 クーロンクラスター、そして粘性 −
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超流動デモ実験 低温物質科学研究センター 松原 明 超流動4Heが見せる不思議な世界 ・超流動4He ・スーパーリーク ・噴水効果
B-Ti-Ru準結晶の発見 ・ 従来の準結晶と異なり、非金属元素であるボロンを含む ・ 従来の準結晶と比較して、
振動分光・電気インピーダンス 基礎セミナー 神戸大学大学院農学研究科 農産食品プロセス工学教育研究分野 豊田淨彦.
課題演習B1 「相転移」 相転移とは? 相転移の例 担当 不規則系物理学研究室 松田和博 (准教授) 永谷清信 (助教)
第29回応用物理学科セミナー 日時: 11月10日(木) 16:10 – 17:10 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
セラミックス 第3回目 4月 30日(水)  担当教員:永山 勝久.
パリでも有名なABE.
複合アニオンに起因した多軌道性と低次元性からうまれる 強相関電子物性の研究
6.8.4 Cordierite 我々がこの章で議論する最後のフレイムワークケイ酸塩はcordierite (Fe,Mg)2Al4Si5O18である。 それは変成岩中で重要な鉱物であるとともに、ひとつの構造中でのAl,Si orderingを研究する方法と熱力学に関するこのorderingの効果の良い例を与える。このことは言い換えるとcordieriteの出現が、変成度の重要な尺度である変成作用に関係するcordierite中のAl,Si.
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氷XI相の安定性 理化学研究所 飯高敏晃 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

結論 氷XI相(Cmc21構造)は、 氷Ih相の秩序相ではない。 強誘電氷は、この世に存在しない。 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

水分子と水素結合 電荷の分布 水素結合 + ー + ー + 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

氷(水の結晶) 水素結合で水分子がつながって氷ができる Ice Rules: 酸素の4本の結合のうち2本は水素が近くにあり、2本は遠くにある。 氷Ih相:Ice Rulesの条件下で ランダムな水素結合ネットワーク 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

不純氷(KOHの添加) 秩序氷を求めて氷Ih相を冷却するも 低温での水素の動きが遅く相転移しない Kawada1972, Tajima1982, KOHを触媒として添加し水素の動きを活性化、相転移を実現。不純氷の活用。 中性子回折実験:Cmc21構造を支持 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

Ih相とXI相の結晶構造 Koji Abe(2006) Ordered (Ferro) Disordered Liquid T[K] 72 Orthorhombic. C2v12 72 Hexagonal D6h4 273 現在、氷は圧力と温度によって10以上の相が確認されています。常圧相では72Kでプロトンの配置がdisorderな6方晶Ih相からプロトンがorderした斜方晶 XI相へ相転移します。(構造の話) 氷中の水分子のプロトンはアイスルールによって非常に強い束縛を受けていて、Ih相ではプロトンは酸素酸素間の2極小ポテンシャルのどちらかに存在しています。この規則のために転移点に達してもIh-XI相相転移は起こりません。しかしKOHをドープし、プロトンの易動度が増した氷を72K以下での核形成、アニールの熱処理を行うと72Kで相転移する事が、田島らによる比熱の異常で確認されています。 Ice XI ( C2v12 , Cmc21) Ice Ih ( D6h4, P63/mmc ) 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

水素結合配置によるエネルギー (第一原理計算) No.1: Cmc21構造(強誘電) No.2: Pna21構造(反強誘電) Hirsh & Ojamae (2004) 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

水分子の双極子による 表面電荷と巨視的電場 従来の第一原理計算は周期的境界条件を使う。 ⇒無限に続く結晶を仮定 ⇒表面電荷や巨視的電場を無視 本研究では、強誘電氷における表面電荷や巨視的電場の効果を考察する。 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

純氷XI相の微結晶 + L Ice -

不純氷XI相の微結晶 + + + + + - - - - - + + + + + L Ice - - - - -

不純物による氷XI相の安定化 純氷と不純氷の違いは、表面電荷のみ。 エネルギー差は、帯電による静電エネルギー。 ⇒平行平板コンデンサーの帯電エネルギー KOHは、触媒としてだけでなく 安定化剤としても働いている。 第一原理計算は、ε=0の不純氷の結果。 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

結晶構造のエネルギー 全エネルギーの比較 静電エネルギー>> 水素結合のエネルギー差 強誘電氷は存在できない。 Eks:第一原理計算によるエネルギー 2πP2Ω:静電エネルギー P: 電気分極 Ω:単位胞の体積 静電エネルギー>> 水素結合のエネルギー差 強誘電氷は存在できない。 純氷Ih相の秩序相は、 P=0の非強誘電体であるべき 真の構造の発見は、今後の実験的、理論的課題 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)

結論 氷XI相(Cmc21構造)は、 純氷Ih相の秩序相ではない。 強誘電体の純氷は存在しない。 これまで研究して来たのは、 実験も理論も不純氷であったのだ。 1972年以来の大転換。 2010年5月24日 日本地球惑星科学連合2010年大会(飯高敏晃)