信川 正順、福岡 亮輔、 劉 周強、小山 勝二(京大理) 天文学会 2009年春季年会 大阪府立大学 Q20a 銀河中心からの 中性輝線放射の謎 信川 正順、福岡 亮輔、 劉 周強、小山 勝二(京大理) Good morning, everyone!! I am ryosuke Fukuoka. Nice to meet you.
目次 1.X線で見た銀河中心領域 2.S, Ar, Caの中性輝線の発見 中性鉄輝線とX線反射星雲 中性輝線の放射原理 私たちはすざく衛星を用いて銀河中心領域を観測しています。 この絵は銀河中心4度×2度のX線疑似カラーイメージです。 赤、緑、青の順に高エネルギーX線の分布を示しています。 本講演の流れですが、簡単にX線で見た銀河中心について スペクトルとバンドイメージから紹介したいと思います。 その中で、特に中性鉄原子からの特性X線とX線反射星雲についてお話します。 次に今回の研究成果である鉄以外の硫黄、アルゴン、カルシウムの中性原子 からの輝線の初めてとなる発見、およびその起源について議論したいと思います。 すざくによる銀河中心X線イメージ 大きさは 4度×2度
1-1.銀河中心のバンドイメージ 特徴的な輝線バンドのイメージ Fe I (neutral) Ka – 冷たいガス(T~100 K)からのX線 localな構造=分子雲と相関 起源はX線?電子? 特徴的な輝線バンドのイメージ SXV (He-like) Ka – ~1000万度のプラズマ localな構造=超新星残骸など Fe I (neutral) Ka – 冷たいガス(T~100 K)からのX線 FeXXV (He-like) Ka – ~1億度のプラズマ GC高温プラズマ、超新星残骸 S XV Ka 1°= 150 pc Fe I Ka Sgr A* Sgr C Sgr B X線バンドのスペクトルは連続X線と特性X線からなります。 特性X線は放射体の温度などの物理状態を反映していますので、 その特定のX線バンドでイメージを作ればそのバンドに特徴的な天体が 浮かんできます。 この3つのイメージは次に述べますが、特徴的な3つのバンドのX線強度分布を示しています。 一番上は、He状に電離した硫黄からのX線のマップです。典型的に1千万度の光学的に 薄いプラズマから放射されます。このようにローカルな構造がたくさんあることがわかります。 これらの多くは超新星残骸です。 一番下は、He状に電離した鉄からのX線のマップです。典型的に数1千万度から1億度の 光学的に薄いプラズマの分布を表しています。硫黄バンドとは異なり、全体的に広がっている 高温プラズマが支配的であることがわかります。 さて、中段が本講演のメインとなるバンドで、中性状態の鉄原子からの特性X線の分布を 表しています。せいぜい数100KのガスがX線を出していることは非常に驚くべきことです。 強度が強いところは巨大な分子雲と相関していることが分かっています。 高エネルギーの電子かX線によってガスが励起されていると考えられます。 FeXXV Ka 1E 1740.7 -2842 1A 1742-294
1-2.銀河中心のX線スペクトル すざく Fe, Ni以外の中性輝線は? 中性輝線の起源は? 鉄の3本輝線 鉄輝線バンドでのスペクトル Si S Ar Ca Fe Fe, Ni以外の中性輝線は? 中性輝線の起源は? 5 10 Energy (keV) 鉄の3本輝線 Ni I Ka Fe I Ka Fe I Kb これは銀河中心に典型的なX線スペクトルです。 Si, S, Ar, Ca, Fe, Niからの輝線がとてもきれいに検出できています。 先ほどの3つのイメージはこれらの輝線からのものです。 右下は鉄輝線バンド以上のスペクトルです。私たちはこのスペクトルを精密に 解析した結果、銀河中心領域が7000万度の高温プラズマと中性輝線、 非熱的放射を示唆するハードテイルからなることを解明してきました。 中性輝線に限ると、Fe, Niからは検出しましたが、それ以外の元素からのものも 存在するはずです。それぞれの輝線中心エネルギーから中性輝線はここに 現れると思われます。やはりプラズマからの輝線が強いために、ぱっと見では わかりませんが、4keV弱のところにわずかに盛り上がりが見えます。 これは中性カルシウム輝線の兆候です。 鉄輝線バンドでのスペクトル 7000万度プラズマ +中性輝線 (Fe, Ni) +ハードテイル(非熱的放射)
1-3.中性輝線の放射原理 L殻の電子がK殻に落ち込んだときに特性X線を放射 同時に、トムソン散乱/制動放射から連続X線も放射 ①光電離(光子起源) 7keV以上のX線が中性鉄原子を電離 ②衝突電離(電子起源) 高エネルギー電子が中性鉄原子を電離 電子 +26 +26 電子 鉄原子 電子 X線 L殻の電子がK殻に落ち込んだときに特性X線を放射 同時に、トムソン散乱/制動放射から連続X線も放射 中性原子から特性X線が放射されるには、外部からX線あるいは電子によって 内核電離されなければなりません。そして、空いたK殻にL殻電子が落ちることで Ka輝線が放射されます。 さらにX線の場合は入射したX線をトムソン散乱することで、 電子の場合は制動放射により、連続X線も生成します。 X線と電子ではK殻電離の反応断面積のZ依存性が異なります。 すなわち複数の原子の中性輝線からいずれの起源かがわかるのです。 X線と電子では反応断面積のZ (原子番号)依存性が異なる 複数の中性原子の輝線強度から起源に制限がつけられる 等価幅 (単位はeV) S Ar Ca Fe X-ray 410 110 60 1200 Electron 22 17 290
2-1.低エネルギー側のスペクトル Ar Si S Ca Sgr B Sgr A* Sgr C 2005, 2006, 2007年に観測 5 keV以下のスペクトル (Si, S, Ar, Ca) ・プラズマからの輝線 He-like Ka, b, H-like Ka, b ・中性輝線を追加 S, Ar, Ca 有意に検出 鉄輝線が強いところが相対的に他の原子の中性輝線も強いと考えられるので、 Sgr Aの東側の領域のスペクトルを見ることにします。 プラズマからの輝線が支配的なので、まずHe状、H状のKa, Kb輝線でフィットしました。 その結果、3keVと3.7keVに残差がありました。これはちょうどアルゴンとカルシウムの 中性輝線に対応します。 そこでアルゴン、カルシウムにシリコン、硫黄の中性輝線を加えてフィットしました。 その結果、シリコン以外の硫黄、アルゴン、カルシウムの輝線を有意に検出することができました。 その有意度は4.5, 10, 7.4シグマでした。 輝線中心値から、それぞれ中性状態の原子からの特性X線であると考えられます。 プラズマからの輝線は他にもあるので、プラズマモデルを用いたフィットも行いました。 観測値 (eV) (90% err) 中性 (eV) 有意度 S 2307 (2289—2336) 2307 4.5 s Ar 2972 (2958—2980) 2956 10.0 s Ca 3706 (3680—3719) 3690 7.4 s プラズマの輝線は他にもあるので、 「プラズマ+中性輝線」でフィット
Complex Modelでフィット 直前の劉講演(Q19a)のモデルと同じ このモデルは私の直前の劉講演のものと同じですので、詳細説明は割愛します。 直前の劉講演(Q19a)のモデルと同じ
2-2.各元素の輝線強度 ・バックグラウンドからもS, Caを検出 ・S, Ca強度はバックグラウンドの方が高い →密度/吸収の違いを反映 ・S, Ar, Caの検出自体がX線反射起源であることの示唆 (輝線が強く出やすい) 中性輝線雲 バックグラウンド Feに対する輝線強度比 黒:中性輝線雲 赤:バックグラウンド Fe Ni 中性輝線が強い領域の他に、比較のために中性輝線が弱い領域も調べました。 それぞれ、「中性輝線雲」、「バックグラウンド」と呼びます。 この表は、鉄輝線で規格化した輝線強度分布です。横軸は原子番号で、 左からSi, S, Ar, Ca, Fe, Niとなります。 バックグラウンドからも硫黄とカルシウムの輝線を有意に検出できました。 バックグラウンドの方が強度が高くなっています。 このバンドのX線は低エネルギーほど吸収されるので、 バックグラウンドの方がガスの密度が低いことを反映しているものと考えられます。 この輝線強度分布を計算によって求めた、X線、電子起源のものと比較してみます。 輝線は電子かX線によって中性原子が電離されることに由来します。 その入射粒子の分布はパワーローであるとします。 その形状はスペクトルの連続成分の形状からわかります。 これらの仮定を元に、Geant4を用いて計算しました。 まずX線起源の場合は、分子雲の水素柱密度が10E22, 23, 24の場合 黒、赤、緑のようになります。 これからこの中性輝線雲の密度はおおよそ10E23程度であることがわかります。 Si S Ar Ca
Tsuboi et al. 1999
2-2.各元素の輝線強度 ・バックグラウンドからもS, Caを検出 ・S, Ca強度はバックグラウンドの方が高い →密度/吸収の違いを反映 ・S, Ar, Caの検出自体がX線反射起源であることの示唆 (輝線が強く出やすい) 中性輝線雲 バックグラウンド Feに対する輝線強度比 黒:中性輝線雲 赤:バックグラウンド Fe Ni ・今後の課題 起源となる粒子(X線、電子)のエネルギー分布、分子ガスの密度に依存。 Geant 4などによる数値計算を行い、その結果と比較して定量的な検定を行う 中性輝線が強い領域の他に、比較のために中性輝線が弱い領域も調べました。 それぞれ、「中性輝線雲」、「バックグラウンド」と呼びます。 この表は、鉄輝線で規格化した輝線強度分布です。横軸は原子番号で、 左からSi, S, Ar, Ca, Fe, Niとなります。 バックグラウンドからも硫黄とカルシウムの輝線を有意に検出できました。 バックグラウンドの方が強度が高くなっています。 このバンドのX線は低エネルギーほど吸収されるので、 バックグラウンドの方がガスの密度が低いことを反映しているものと考えられます。 この輝線強度分布を計算によって求めた、X線、電子起源のものと比較してみます。 輝線は電子かX線によって中性原子が電離されることに由来します。 その入射粒子の分布はパワーローであるとします。 その形状はスペクトルの連続成分の形状からわかります。 これらの仮定を元に、Geant4を用いて計算しました。 まずX線起源の場合は、分子雲の水素柱密度が10E22, 23, 24の場合 黒、赤、緑のようになります。 これからこの中性輝線雲の密度はおおよそ10E23程度であることがわかります。 Si S Ar Ca
まとめ すざく衛星による銀河中心のスペクトルから S, Ar, Caの中性輝線を発見した 中性輝線の起源としては電子衝突説よりもX線反射説の方が有力 定量的な検定のためにGeant4を用いた数値計算を行う