神経細胞とシナプスの数学モデル ー基礎と応用ー 北野勝則 日本学術振興会特別研究員PD (玉川大学工学部)
内容 【基礎】 神経細胞の数理モデル シナプスの数理モデル 【応用】 線条体投射細胞の膜電位分布推定 kineticモデル 減衰・増強シナプス のモデル 【応用】 線条体投射細胞の膜電位分布推定
神経細胞の数理モデル 活動電位生成の 数学的表現 活動電位 しきい値 静止電位
V:膜電位、m, h:Naチャンネル、n:Kチャンネルの開確率 Hodgkin-Huxley方程式 V:膜電位、m, h:Naチャンネル、n:Kチャンネルの開確率
Hodgkin-Huxley方程式(膜電位) 細胞壁の「穴」から常に流れるリーク電流 特定のイオンを選択的に透過させるイオンチャンネルを通じたイオン電流
Hodgkin-Huxley方程式(ゲート変数) イオンチャンネルのイオン透過性(コンダクタンス)は電位依存のゲート変数により決定される
各ゲート変数の活性化関数
活動電位とコンダクタンス変化
活性化関数の求め方(電位固定実験) I1 =gNa(V1, t1)(V1 -ENa) I2 =gNa(V2, t1*)(V2 -ENa) ( gNa(V1, t1)=gNa(V2, t1*) ) I2 -I1 =gNa(V1, t1)(V2 -V1) ∴ gNa(V1, t1)=(I2 -I1)/(V2 -V1)
活性化関数の求め方(電位固定実験)
活性化関数の求め方 但し
Hodgkin-Huxleyモデル Naチャンネル 独立した3つのmゲート、hゲートの状態によってNaイオンの透過性が決定 Kチャンネル 独立した4つのnゲートの状態によってKイオンの透過性が決定
シナプスの数理モデル 何段階もの化学反応の連鎖を経てシナプスが活性化される →忠実な定式化は「高価」
kinetic model (2-state model) ゲートは「開(O)」状態と「閉(C)」状態の2状態 閉→開、開→閉の反応速度はそれぞれα、β
実験と kineticモデルの比較 実験: シナプス後細胞の電位を固定して、コンダクタンスの変化を観測 IAMPA=gAMPA r (V - EAMPA) IGABA=gGABA r (V - EGABA) 実験: シナプス後細胞の電位を固定して、コンダクタンスの変化を観測
連続的な入力に対する応答
減衰シナプスのモデル (3-state model) シナプスは次の3つの状態をとる E (Effective): 開状態 I (Inactive):不応状態 R (Recovered):閉状態 R状態から活性化され得るのは割合USEのみ(リソース有限の為)
trec~数百ミリ秒、tinact~数ミリ秒、0.1<USE<0.95 減衰シナプスモデルの定式化 trec~数百ミリ秒、tinact~数ミリ秒、0.1<USE<0.95
実験と減衰シナプスモデルの比較 時間間隔の短い入力に対してはリソースが十分に回復していないため振幅が減衰する
モデルからの予測 周期的な入力(f Hz)の場合 シナプス後電流の漸化式: 定常状態での振幅: シナプス後電流発生の限界発火頻度:
実験結果1 A:様々な入力発火率に対するEPSPのプロファイル B:入力発火率と定常EPSPの関係 C:入力発火率と平均シナプス後電位の関係
実験結果2 A:1つのシナプスの入力に対する応答 B:ポピュレーション入力に対する応答 B1:large U B2:small U
シナプス増強(facilitation)の定式化 リソース利用率uも変化 活動電位発生直後 u → u+U(1-u) それ以外 tfacilでUへ減衰
減衰・増強シナプスの分類 trec, tfacil, U はGuputa et al, 2000中のテーブルの値を使用
線条体投射細胞の膜電位分布推定 一般論として・・・ 細胞外からの視点で、出力として意味があるのは活動電位のみ 閾値下の状態を知ることの利点 →膜電位の振舞いからその細胞への入力を推定
線条体投射細胞の状態遷移 麻酔下での in vivo 細胞内記録実験により、 閾値直下(up)と静止電位付近(down)に2つの安定な電位が存在 膜電位はこの2状態間(up/down)を同期的に遷移
up/down状態遷移は、(ウレタン)麻酔下で観測された現象であり、覚醒下で同様の現象が存在するかは自明でない 閾値下の状態遷移を観測するには細胞内記録が必要となるが、覚醒下で行うのは非常に困難である モデルと実験(細胞外記録)による相補的研究により、覚醒下での神経細胞の内部状態を推定
線条体投射細胞のモデル 3種類のK+イオンチャンネルによる外向き整流 A, KS, slowly noninactivating
電流注入による膜特性の再現 左上:control 左下:+TTX (INa blocked) 右上:+TTX +4AP (INa, IA, IKS blocked)
モデルによる予測 膜電位が閾値下で二峰性を示す →強い入力に誘発されるスパイクの潜時も二峰性を示す スパイク潜時は up/down に対応する2つのピークを持つことが示された
実験による検証 覚醒下のサルの一次運動野、補足運動野を電気刺激し、線条体でのスパイク活動を記録 強い刺激の時、スパイク潜時が二峰性になることを確認
参考文献 Methods in neuronal modeling Eds: Koch C, Segev I (1998) MIT Press Foundations of cellular neurophysiology Johnston D, Wu SM (1997) MIT Press The neural code between neocortical pyramidal neurons … Tsodyks MV, Markram H (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. 94: 719-723 Differential signaling via the same axon of … Markram H, Wang Y, Tsodyks MV (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. 95: 5323-5328 Membrane potential synchrony of … Stern EA, Jaeger D, Wilson CJ (1997) Nature 394: 475-478