系外惑星探査の現在 2003年天文・天体若手夏の学校 成田 憲保

Slides:



Advertisements
Similar presentations
第 21 章 私たちはひとりぼっち か? 宇宙の生存可能性についての疑 問
Advertisements

系外惑星系 TrES-1 における Rossiter 効果の検出可能性と その観測意義 東京大学大学院 理学系研究科 成田憲保 共同研究者 太田泰弘、樽家篤史、須藤靖 (東京大学) Joshua N. Winn ( Harvard-Smithsonian Center ) Edwin L. Turner.
口径合成によるメーザー源の 時間変動の観測 SKA に向けて 岐阜大学 高羽 浩. 東アジア VLBI 網の 22GHz 日本 野辺山 45m 、鹿島 34m 、 高萩、日立、つくば、山口 32m 、 VERA20m× 4 北大、岐阜大 11m 、水沢 10m 韓国 KVN20m× 3+測地 20m.
太陽系外地球型惑星の 発見に向けたロードマップ 成田 憲保. 目次: 地球型惑星の発見に向けて 1. これまでに何がわかったか? 2. 今何をやろうとしているのか? 3. 将来何がどこまでわかるのか?
系外惑星系セミナー速報 Balmer line features of HD 東京大学大学院 理学系研究科宇宙理論研究室(須藤研)修士1年 成田憲保.
国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
日本トランジット観測ネットワークによる Transit Timing Variationの探索
TMT可視分光観測のサイエンス <太陽系外惑星の光と影の観測>
Spectroscopic Studies of Transiting Planetary Systems
すばる望遠鏡・高分散分光器を用いた系外惑星HD209458bの大気吸収探索
国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
Adaptive Optics(AO) “宇宙をより鮮明にうつし出す” ~補償光学~ 補償光学系:これまでの成果!
WISH 太陽系天体・系外惑星の場合 WISH to Investigate Solar system History
プロポーザル準備/観測準備 ダストをたくさん持つ銀河 の赤外線分光観測の例 国立天文台 今西昌俊.
AOによる 重力レンズクェーサー吸収線系の観測 濱野 哲史(東京大学) 共同研究者 小林尚人(東大)、近藤荘平(京産大)、他
みさと8m電波望遠鏡の性能評価 8m (野辺山太陽電波観測所より) (New Earより) 和歌山大学教育学部 天文ゼミ  宮﨑 恵 1.
ガンマ線連星LS 5039におけるTeVガンマ線放射とCTA
「Constraining the neutron star equation of state using XMM-Newton」
小惑星を探れ! 村仲 渉 (木曽高校)  杉本 寛 (上宮高校)  佐藤 駿 (オイスカ高校)  鈴木 寿弥 (磐田南高校) 池内 苑子 (大宮高校)  吉川 優衣 (広島国泰寺高校)  斎藤 杏奈 (洗足学園高校)  §1.はじめに ②太陽から小惑星までの距離 小惑星の軌道は円と仮定する。小惑星の軌道半径をaA、周期をTA、地球の軌道半径をaE、周期をTEとすると、時間tでの小惑星の移動距離dA、地球の移動距離dEは、
国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
流体のラグランジアンカオスとカオス混合 1.ラグランジアンカオス 定常流や時間周期流のような層流の下での流体の微小部分のカオス的運動
謎の惑星スーパーアースを探れ! 国立天文台・成田憲保.
トランジット法による低温度星まわりの地球型惑星探索と大気調査
岡山188cm望遠鏡ISLEによる 系外惑星トランジット観測の性能評価 成田憲保 (国立天文台).
みさと8m電波望遠鏡の 性能評価 富田ゼミ 宮﨑 恵.
東京大学大学院 宇宙理論研究室 成田 憲保(なりた のりお)
北海道大学 理学部 地球科学科 惑星宇宙グループ 高橋康人
宇宙物理II(9) Planetary Formation
Astro-E2衛星搭載 XISの データ処理方法の最適化
物理学セミナー 2004 May20 林田 清 ・ 常深 博.
京大極限補償光学 点回折干渉を用いた 波面センサの開発
すばる望遠鏡を用いた 太陽系外惑星系の観測的研究
I:銀河系 I: 銀河系.
系外惑星系セミナー速報 Balmer line features of HD209458
銀河物理学特論 I: 講義1-4:銀河の力学構造 銀河の速度構造、サイズ、明るさの間の関係。 Spiral – Tully-Fisher 関係 Elliptical – Fundamental Plane 2009/06/08.
成田 憲保 国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室
国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
MOAデータベースを用いた 超長周期変光星の解析
太陽系外惑星の トランジット観測 和歌山大学  教育学部  自然環境教育課程   地球環境プログラム  天文学ゼミ   玉置 順大.
系外惑星系TrES-1におけるRossiter効果の検出可能性と その観測意義
トランジット惑星系TrES-1での Rossiter-McLaughlin効果の観測結果
S3: 恒星とブラックホール (上田、野上、加藤)
大離心率トランジット惑星HD17156bの ロシター効果の観測結果
大離心率トランジット惑星HD17156bの 公転軌道傾斜角の測定
実習課題B 金属欠乏星の視線速度・組成の推定
星形成時間の観測的測定 東大天文センター M2 江草芙実 第4回 銀河shop 2004/10/19.
ANIRによるM型星まわりの トランジット地球型惑星の観測 国立天文台 成田憲保.
COSMOS天域における ライマンブレーク銀河の形態
東邦大学理学部物理学科 宇宙・素粒子教室 上村 洸太
小型JASMINE計画の状況       矢野太平(国立天文台)       丹羽佳人(京大).
S1 装置開発と観測 長田哲也 教授 栗田光樹夫 准教授 木野勝 助教 望遠鏡および可視光と赤外線の観測装置の開発を行います。
COE外国出張報告会 C0167 宇宙物理学教室 D2 木内 学 ascps
1:Weak lensing 2:shear 3:高次展開 4:利点 5:問題点
国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
スターバースト銀河NGC253の 電波スーパーバブルとX線放射の関係
ALMAへの期待 -埋れたAGNの探査から-
MOAデータベースを使った セファイド変光星の周期光度関係と 距離測定
すばる /HDSによる系外惑星 HD209458bの精密分光観測
トランジット惑星系TrES-1における 初めてのRossiter効果の観測結果
すばる/HDSによる系外惑星HD209458bの精密分光観測
トランジット惑星系におけるRossiter効果 I. HD209458での観測結果
地上分光観測による金星下層大気におけるH2Oの半球分布の導出
すばる&マグナム望遠鏡による 系外惑星トランジットの 同時分光・測光観測
観測的宇宙論ジャーナルクラブ 2006年5月22日 成田 憲保 1
教育学部 自然環境教育課程 天文ゼミ 菊池かおり
すばるFMOSでの系外惑星大気観測 成田 憲保.
(FMOS戦略枠観測で余ったファイバーによる) M型星まわりのトランジット地球型惑星探し
科学概論 2005年1月27日
中性子星/ブラックホール連星の光度曲線の類似性
Presentation transcript:

系外惑星探査の現在 2003年天文・天体若手夏の学校 成田 憲保 成田 憲保 http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~narita/SECOND/

発表内容 系外惑星探査の歴史的背景 系外惑星探査の方法と特徴 これからの観測の目標と戦略 新しい宇宙物理のテーマとして 系外惑星を全国の若手に伝える

その後、Radial velocity法による系外惑星探査の発展 歴史の流れ ●~90年代 惑星形成理論としては林モデルなど太陽系の形成を説明するシナリオが惑星形成の標準理論とされていた。 ●1995年 Radial velocity法により51 Peg.に系外惑星の発見。 公転周期 P = 4.23日 軌道長半径 a = 0.051AU 質量 Mp sin i = 0.46MJup → 標準理論とかけ離れた姿! その後、Radial velocity法による系外惑星探査の発展 この方法で100個以上の惑星系が発見された

Transit法が新しい系外惑星探査法として確立 歴史の流れ ●2000年 HD209458において、初めてTransitが確認された。 公転周期 P = 3,52日 軌道長半径 a = 0.045AU 質量 Mp = 0.69MJup 半径 Rp = 1.43RJup ●2003年 Transit法により候補にあげられたOGLE-TR-56が、 Radial velocity法の追試により系外惑星と確認された。 Transit法が新しい系外惑星探査法として確立

以上のように発見されてきた系外惑星 太陽系とは大きく異なる姿 主星近傍に木星型巨大惑星が発見され、従来の標準理論を修正する新しい惑星形成理論が必要になった。 Formation Migration Tidal evolution 大気モデル(組成、albedo、phase law)

そのためには数多くの系外惑星系の発見が不可欠 新しい惑星形成理論を作るには? 太陽系以外の多くの惑星系の姿を知ることにより、universalな惑星形成モデルや、恒星が惑星を持つ割合など統計的な議論の展開が必要。 そのためには数多くの系外惑星系の発見が不可欠 では系外惑星系をどうやって探すか?

惑星からの光を直接観測すればいいのではないか? 天体観測の方法 直接観測 間接観測 Spectroscopic Photometric 惑星からの光を直接観測すればいいのではないか? 地上からの分解能では不可能 宇宙からでも困難 → 非常に近くに9桁明るい主星がある 現在の主流は地上からの間接的な観測法 ● Spectroscopic ● Photometric ● Spectrophotometric ● Radial velocity法 ● Transit法   Microlensing法 ● Scattered light法

Radial velocity法 (117個中 116個発見 1個確認) 主星のまわりを公転する惑星の存在により、主星はその共通重心のまわりを楕円運動する。それにより観測される主星のスペクトルには視線速度(Radial velocity)の周期的なドップラーシフトが現れる。このドップラーシフトにより惑星の存在を検出する方法。 現在のシフトの観測限界 1σ= 3 m/s → I2cell の限界 4σ→1AUにある0.5MJupの惑星くらい までなら検出できる 鏡 I2cell CCD 光 ヨウ素気体の箱を通して、スペクトルに波長のものさしとなる吸収線を焼き付ける

Radial velocity法 (117個中 116個発見 1個確認) 直接観測量は視線速度の時間変化 フィッティングによって求まる物理量 公転周期 P 質量の下限値 Mp sin i 離心率 e 軌道長半径 a 特徴 現在最も普及している、精度が高く検出可能領域が広い方法。 しかし、惑星からの光は全く見ていないなど物理的価値は低い。 惑星のpopulationを調べるのに適している。

Transit法 (117個中 1個発見 1個確認) 惑星の公転面のinclinationが90度付近の場合、惑星が主星の前面を通過する際に「食」が起きる。これにより周期的に主星の光度が下がることから惑星の存在を検出する方法。 惑星の影を見る 地上からの減光の観測限界 1%程度 主な誤差はMs、Rsの仮定 → 10%程度 宇宙(HST)では約20倍の精度 またRsの縮退が解けるため、誤差は数%

Transit法 (117個中 1個発見 1個確認) 直接観測量は光度の時間変化 フィッティングによって求まる物理量 見かけの大きさ Rp/Rs inclination i  特徴 地上からの観測では一度に~105個程度の星の光度変化を見る。宇宙からの観測では高精度の物理量測定が可能。 Radial velocity法と合わせると、惑星の質量、半径、密度などまで求めることができる。 Transit中と外でのスペクトルの比較から、惑星の大気の情報が得られる。

Microlensing法 (成功例なし) Microlensingのイベントにおいて、惑星を持つ主星がlens天体となってsource天体の光度を増光し、かつ惑星の摂動により光度曲線に新たなピークができることで惑星の存在を検出する方法。 d source lens planet Earth 直接観測量は光度の時間変化 フィッティングによって求まる物理量 公転距離の射影成分 d 質量比 q ≡ Mp / Ms  特徴 バルジ方向の遠方(~kpc)にある惑星探し 再現性がなく追試はできない 主星から離れた惑星に感度があり、小さな質量比まで可 惑星の性質はわからないのでpopulationを知ることが目的

pλ、Φ(α) は惑星の大気モデルを反映した量 Scattered light法 (成功例なし、競争中) 主星の光の中に埋もれた惑星の反射光を検出する方法。 主星、惑星、観測者のなす角をαとすると、ある波長λにおける主星と惑星のflux ratio f は、 f (λ) ~ (Rp / a) 2 pλ Φ(α)  と書ける。 pλ : geometric albedo Φ(α) : phase law αは公転の位相と i によって決まる geometric albedoは大気や地表による反射率のようなもの。 phase lawはαによって惑星が観測者からどう見えるかを表す量で、Φ( 0 ) ≡ 1、Φ(π) ≡ 0 pλ、Φ(α) は惑星の大気モデルを反映した量

Scattered light法 (成功例なし、競争中) 観測される量 定常的な主星のスペクトル+時間変化する惑星のスペクトル 解析する上で2つの困難 1.観測量が縮退している 2.最大でも f ~ 10-4 という微小な信号 ただしRadial velocityとTransitが成功している場合、縮退は解くことが可能 ∵ Radial velocity → a がわかる Transit → Rp 、 i がわかる Scattered light → α~0 と近似できる位相での f では Φ( 0 ) ≡ 1 より、直接 pλ がわかる a 、 Rp 、 pλ から時間変化と共にΦ(α)がわかる

微小な信号を検出するためにはどうしたらいいか? Scattered light法 (成功例なし、競争中) 微小な信号を検出するためにはどうしたらいいか? 高い波長分解能でフォトン数を稼ぎ 長時間積分して SN ~ 105 を目指す Scattered light法は困難な目標ではあるが、 惑星からの直接光を分離することにより、惑星の大気の性質を反映した物理量を求めることができ、より詳しい惑星の情報を得ることができる。それと同時に既に提唱されているさまざまな大気モデルの検証などもでき、新しい惑星形成理論に必要な物理的価値の高い手法であると言える。 修士論文の目標

これまで → Radial velocity法で近傍のG型星をしらみつぶし これからの系外惑星探査 これまで → Radial velocity法で近傍のG型星をしらみつぶし Radial velocity法の弱点 一度に一つの星しか見れない 公転周期以上のサンプリングが必要 populationは近傍のG型星で5%程度 非効率的 inclination i がわからない 密度、半径、大気組成など惑星に関する情報がほとんど得られない 価値が低い

Transit + Radial velocity + Scattered light の組み合わせ これからの系外惑星探査 そこでTransit法 ~ 105個の星を同時観測 → Transitの候補を探す → Radial velocity法で追試 Transit + Radial velocity で Rp と i がわかる → 惑星の質量と密度がわかる Transit中と外の比較で惑星の大気組成の情報が得られる Transitが見える星はScattered lightも見える可能性が高い → 惑星のより詳しい情報へつながる Transit + Radial velocity + Scattered light の組み合わせ これからの主流?

Radial velocity法は検出可能領域が広い これからの系外惑星探査 Radial velocity法の利点 Radial velocity法は検出可能領域が広い 非効率ではあるものの、公転周期が長い比較的小さな惑星も見つけることができる。 干渉型の電波望遠鏡などの完成でさらに広がる。地球型惑星の候補発見への期待。 Brown dwarf desertの検証 感度としては確実に見つかるはずの褐色矮星領域の星はなぜ極端に少ないのか? 星の形成についての新しい知見が得られる。

Transit + Radial velocity + Scattered light これからの系外惑星探査 目標による住み分け Close-in planetsの性質をより詳しく調べていく Transit + Radial velocity + Scattered light 主星から離れた惑星のpopulationを調べていく Radial velocity (~100 pc) Microlensing (~ kpc) 地球型惑星の探査(候補の発見) Radial velocity法による高精度長期観測 地球型惑星の探査(直接観測) コロナグラフなどによる宇宙からの観測

目標はScattered lightの確認。 解析はこれからの夏休みをかけて行います。 2003年7月観測報告 すばる望遠鏡で3日間の観測 Suprime-Camによる広域観測 Transit法による候補探し HDSによるOGLE-TR-135の観測 Radial velocity法による追試 HDSによるHD209458の観測 Scattered light法への挑戦 目標はScattered lightの確認。 解析はこれからの夏休みをかけて行います。

reference さまざまな系外惑星のデータ http://www.obspm.fr/encycl/catalog.html   http://www.obspm.fr/encycl/catalog.html 宇宙理論研究室(UTAP)のゼミで用いた論文とレジュメ   http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~narita/seminar/narita_seminar.html 51 Peg.の視線速度曲線   http://exoplanets.org/esp/51peg/51peg.shtml HD209458bのイメージ図   http://www2.iap.fr/exoplanetes/ HD209458の光度曲線   http://www.obspm.fr/encycl/papers/HST-HD209458.pdf   すばる望遠鏡の写真は自分で撮影したものです。 このポスター製作においては、UTAPの稲田さん、大栗さん、太田さんに助言をいただきました。みなさんにこの場を借りてお礼を申し上げます。