食中毒と疫学調査の統計 ~2×2表~ 岡山理科大学 山本英二 2002/02/20
食中毒発生時… 収集した情報 どのように情報を分析し、 評価するか? 分析 評価
リスクの因果について共通認識を得ることができる 食べて 発症 個人 因果関係? 食べた人たち 食べなかった人たち 集合 集合体になると,対照群があると リスクの因果について共通認識を得ることができる
結果 結果 疫学とは 原因 原因 この原理を この原理を 「共通の約束ごと」 「共通の約束ごと」 として として 明記したのが 明記したのが この過程で 「共通の認識」 を得る 原理 があるはず。 この原理を この原理を 「共通の約束ごと」 「共通の約束ごと」 として として 明記したのが 明記したのが 疫学 疫学 疫学 疫学
疫学調査のいろいろ 1 全数調査 1 全数調査 ・通常の食中毒調査はこれに該当 ・調査対象の全数を調査する 2 コホート調査 1 全数調査 1 全数調査 ・通常の食中毒調査はこれに該当 ・調査対象の全数を調査する 2 コホート調査 2 コホート調査 (コホートとは「共通の性格をもつ集団の意味) ・ 「食べた」人 と 「食べない」人 を選んで調査する (例) ある講演会に出席した集団から、懇親会まで出席 した人(食べた人)と出席しなかった人(食べなかっ た 人)を同じ数選び、発症の有無を調査する。
サルモネラ・オラニエンブルグによる散発の患者群か ら聴取調査により「いか菓子」の喫食が浮かんできた。 3 症例対照調査(ケースコントロール調査) 3 症例対照調査(ケースコントロール調査) (ケース :症例(患者の意味) コントロール:対照(健康な人の意味)) ・ 「患者」 と 「健康な人」 を選んで調査する (例) サルモネラ・オラニエンブルグによる散発の患者群か ら聴取調査により「いか菓子」の喫食が浮かんできた。 そこで、「健康な人」をランダムに選び、過去に「いか菓 子」を食べたことがあるか調査し、発症の有無と「いか 菓子」の関係を究明する。
2×2表 (疾病の有無) 発症 食べない 食べた 無症 a c b d (曝露の有無)
①分析に使用する指標 1 相対危険度(Relative Risk) 2 オッズ比(Odds Ratio) 3 リスク差 4 寄与割合
相対危険度(Relative Risk:リスク比) 「食べた人」たちと「食べない人」たちが それぞれ どのくらい発症しているか(発症割合)を比べたもの 「食べた人」の 発症割合 a/a+b RR= 「食べない人」の 発症割合 c/c+d
相対危険度(Relative Risk:リスク比) ◆RR=1の場合 食べた人と食べない人の発症割合は同じ →両群に差はない ◆RR>1の場合 食べた人の発症割合の方が大きい →食べた人の方がより発症している ◆RR<1の場合 食べない人の発症割合の方が大きい →食べない人の方がより発症している
オッズ比(Odds Ratio) 食べた群の発症オッズ 食べない群の発症オッズ a c b d a/a+b b/a+b c/c+d 無症 a c b d a/a+b b/a+b 食べない群の発症オッズ c/c+d d/c+d
オッズ比とは… 喫食群の発症オッズと 非喫食群の発症オッズの比 a/a+b ad 発症 オッズ比= b/a+b c/c+d = bc d/c+d = ad bc 発症 オッズ比=
a c b d 有症群の暴露オッズ a/a+c 有症 無症 c/a+c 食べた 健康群の暴露オッズ 食べ ない b/b+d d/b+d = ad bc 暴露 オッズ比=
オッズ比(Odds Ratio) ◆OR=1の場合 喫食者と非喫食者の発症割合は同じ 喫食者と非喫食者の発症割合は同じ 有症者と無症者の喫食割合は同じ ◆OR>1の場合 喫食者の発症割合の方が大きい 有症者の喫食割合の方が大きい ◆OR<1の場合 非喫食者の発症割合の方が大きい 無症者の喫食割合の方が大きい
精度とバイアス 正確度 = 精度 + 妥当性 誤差 =偶然誤差 + 系統的な誤差 (バイアス)
:的 :射撃の跡 妥当性 ライフル銃の 銃身が正しい 銃身が右に ずれている 優秀な 狙撃手 精度 普通の 狙撃手
誤差=偶然誤差+系統的な誤差 偶然誤差:必然的に起こる誤差 系統的な誤差(バイアス) ・標本の抽出時に起こるゆがみ ・標本抽出誤差 ・個体差 ・標本抽出誤差 ・個体差 ・測定誤差 系統的な誤差(バイアス) ・標本の抽出時に起こるゆがみ ・情報を取るときに生じるゆがみ ・第3因子の介在により生じるゆがみ
記述統計 と 推測統計
偶然 と 可能性
客観確率 と 主観確率
集団 と 個人
繰り返し試行 と 単独試行
②精度:偶然誤差 推定と検定
「Aさんの先週の晩酌は (1合,2合,2合,1合,3合,3合,0合) であった.」 1年前は 平均1.5合/日 であった.最近は酒量が増えたかこのデータで判定したい. このデータから最近の平均酒量を知りたい. 推定 検定
相対リスク・オッズ比の 「点推定」と「区間推定」 点推定 区間推定 (信頼区間)
95%信頼区間とは… 「信頼区間の中に真の値が入っていることが 95%信頼できる」という意味 信頼率95%とは 100回信頼区間を計算すると95回は真の値を含む信頼区間の計算法を1回行ったときの確率の解釈.
リスク比 オッズ比
数値の見方(オッズ比と信頼区間)
χ2検定 喫食の有無 と 発症の有無 が互いに関連があるか どうかを判定するもの 喫食の有無 と 発症の有無 が互いに関連があるか どうかを判定するもの ◆食中毒の場合は、通常「食品と発症に関連がある」という結 論を導くために、まず「食品と発症には関連がない」という帰 無仮説 を設定する。 ◆得られたデータからχ2値を計算し、有意水準αの棄却点c と比べ、χ2値が大きければ帰無仮説が捨てられ、対立仮説 「食品と発症に関連がある」を採択する。
χ2値 χ2= χ2= (ad-bc)2n (a+b)(c+d)(a+c)(b+d) ※a,b,c,d の帰無仮説のもとでの期待値 のいずれかが5以下の値を取るとき (|ad-bc|-n/2)2n χ2= (a+b)(c+d)(a+c)(b+d) (Yatesの補正値) (n=a+b+c+d)
χ2検定の考え方(有意水準) 検定のルール : χ2>C → 関連がある P < α → 関連がある χ2 χ2 検定のルール : χ2>C → 関連がある P < α → 関連がある 検定において関連がないのに,あると誤りを犯す確率が「α」,このときにχ2がとり得る棄却限界値が「c」 この面積が有意水準α (例) α=0.05のとき C=3.84となり χ2=4.0なら5%有意 χ2 χ2 C
χ2検定の考え方(P値) 検定のルール : χ2>C → 関連がある P < α → 関連がある 検定のルール : χ2>C → 関連がある P < α → 関連がある (例) χ2=4.0のとき P=0.0455となり このとき5%有意 この面積がP値 χ2 χ2 C
オッズ比とχ2値の違い χ2=3.26(P=0.07) χ2=19.55(P=0.0000098) リスク比=3.11 オッズ比=10.5 信頼区間 [0.43, 537.21] リスク比=3.11 オッズ比=10.5 χ2=19.55(P=0.0000098) 信頼区間 [3.03, 38.37]
リスク比 オッズ比 信頼区間 χ2 値 P値 データ 多 狭い 大きい 小さい ほぼ 変わら ない データ 少 広い 小さい 大きい
③バイアス:系統的な誤差 選択バイアス 情報バイアス 交絡バイアス
選択バイアス(自己選択バイアス) 食中毒の報道がされた後に、 「自分もその店を利用し、調子が悪い」 などの電話が増える事例 食中毒の報道がされた後に、 「自分もその店を利用し、調子が悪い」 などの電話が増える事例 その情報を鵜呑みにすると 「食べた」「有症」の人のみが増えて (2×2表のaの数値が増え)オッズ比が高くなる
情報バイアス(「質問者バイアス」) 原因物質が「腸炎ビブリオ」で メニューに刺身が入っている場合 有症者に対して「刺身は食べましたね?」 原因物質が「腸炎ビブリオ」で メニューに刺身が入っている場合 有症者に対して「刺身は食べましたね?」 と質問し関連づけようとしてしまう事例 有症者であれば「食べた」、 健康であれば「食べていない」、 と見なしがちになり、 2×2表のa、dの数値が増え)オッズ比が高くなる
情報バイアス(「回答者バイアス)」 実際には食べていなかったが記憶していない ため「食べた」としたり、食べたのに「食べなかっ た」とする場合 実際には食べていなかったが記憶していない ため「食べた」としたり、食べたのに「食べなかっ た」とする場合 食べていないのに「食べた」 →a,bが増える 食べたのに「食べていない」 →c、dが増える これらが混ざると 結局オッズ比は低くなる
「ケーキ」と「コーヒー」の2つのオッズ比が 高いことが判明 交絡バイアス ランチバイキングで食中毒が発生 →オッズ比を計算すると… 「ケーキ」と「コーヒー」の2つのオッズ比が 高いことが判明 喫食(コーヒー)と発症との関係に影響を与える別の曝露因子(ケーキ)により,見かけ上オッズ比が上昇することを「交絡バイアス」という。
ケーキ 食中毒 コーヒー 実際には原因食品はケーキであるにもかかわらず ケーキを食べたほとんどの人がコーヒーも飲んだので 実際には原因食品はケーキであるにもかかわらず ケーキを食べたほとんどの人がコーヒーも飲んだので 見かけ上コーヒーのオッズ比が上昇してしまう 「層別分析」により影響の程度を分析できる