磁気特異星(CP2星)の 元素成層構造について

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磁気特異星(CP2星)の 元素成層構造について 京都府立洛東高校 西村昌能

化学特異星とは 早期型主系列星で、化学組成が太陽と大きく異なるもの。 表面温度が7000K~15000K 温度が低い方から              磁場が弱いグループに Am星、HgMn星、強ヘリウム星                 磁場が強いグループに CP2星、Si星、 弱ヘリウム星がある。 本日話題にするのは、CP2星である。             

CP2星 特徴 表面温度 7000Kから12000K 自転速度が小さい。 特徴 表面温度 7000Kから12000K 自転速度が小さい。 強い磁場がある(~数kG)。そのため、多くの吸収線でゼーマン分岐がみられる。 化学組成は太陽値に比べて特定の元素の過剰もしくは不足がみられ、その大きさは4桁の違いに達することもある。 過剰元素:希土類、Cr、Fe、Si 不足元素:He、C、N、O、Mg 磁場に伴うスペクトル変光がある。(斜回転モデル)

CP2星理解への道 二つの道筋 元素の表面分布:斜回転モデル      双極子、4重極子、8重極子に伴う元素大陸が自転により見え隠れする。そのため、スペクトルの変化がある。         元素の垂直分布(成層構造)        ミショー氏らが研究している拡散理論          

α2CVnの表面元素分布図Teff=11500K (Kochukhov et al. 2002)

53Camの 元素表面分布図 Teff=8200K Kochukhov et al. 2004

拡散理論 最初は1970年 Michaud氏の提案。 静穏な恒星大気では、内部からの輻射を受ける強い吸収線がある元素は光圧を得て、重力に打ち勝ち大気上層に持ち上げられる。 上昇した元素は恒星風に伴って恒星の外に飛び出し、恒星磁気トーラスに捕まる。 適当な吸収線を持たない元素は沈んでいく。

元素垂直分布 拡散理論によれば、元素は恒星大気内で層構造(Stratification)を形成する。 >垂直分布をみせる。 実際に、そのようなことがあるのか?

今までの研究 Babel & Lanz(1992): IUEを利用53Cam Babel(1994):Ca 40星 Wade et al. (2001):βCrB Ryabchikova et al. (2002):roAp星γEqu         Savanov & Hubrig (2003):HgMn星12星バルマーライン中のCr線 

元素垂直分布の観測的証拠 CaII K線、SiII線などの飽和した強い吸収線は線中央のコアと線周辺のウイングで元素組成比が合わない(図1) 高励起線から求めた元素組成比は平均値と合わない。(弱い線と強い線で値が異なる。) 微視的乱流速度が元素ごとで異なる。 電離平衡からずれた元素組成比。

図1 HD 221568(V436 CAS)

元素垂直分布を探る。 ポテンシャルが同じで等価幅の異なるラインで、アバンダンスを求める。 バルマーラインのウイング上にあるライン群からアバンダンスを求める。 バルマー端の両側(連続吸収係数が大きく異なる。)のライン群からアバンダンスを求める。>ESO VLT UVES、IUEのデータ

OAOでの観測 Four Cool CP2 Stars 表面温度7500K~8700Kの4星でCr、Fe、Caの光学的深さと元素組成比の関係。 観測はOAO188cm+HIDES、        2003年4月、加藤、西村、大西、定金   分解能60000,SN比300程度     波長域 5500から6700Å βCrB(7447K, 3.74, 5.5kG, 18.5d) HR7575(8110K, 3.79, 3.7kG, 224d) 53Cam(8241K, 3.94, 8kG, 8d) HR4816(8730K, 3.74, 4.1kG、4900d)

解析 恒星の物理量は文献から ξt=0km/sとし、磁場強度はFeII6149線で見積もる。Vsiniも吸収線から見積もる。 利用したツールは竹田洋一さん制作のSPTOOL。 線データはVALDデータベース。 光学的深さは吸収線の等価幅からWIDTH9を利用して求めた。

観測の例 HR4816 観測の例 HR4816 観測の例 HR4816

-1 -0.5 5.5 6 6.5 7 log τ abundance CaI (○) β CrB 2 2.5 3 χ (eV) 50 100 150 8 abundance 7 6 -1 -0.8 -0.6 -0.4 log τ 8 7 6 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 χ (eV) 8 7 6 20 40 60 80 100 W λ (m Å ) W λ (m Å ) 6 5 vsini(km/s) 4 3 -1 -0.8 -0.6 -0.4 log τ HR7575CaI

53Cam HR4816 4/16 CaI 4/17 CaI -0.7 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 6 6.5 7 7.5 abundance 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 10 20 30 40 50 -1 -0.5 6 7 abundance log τ 50 100 150 W λ (m Å ) 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 χ (eV) 10 12 14 16 18 20 log τ χ (eV) W λ (m Å ) vsini (km/s) log τ

HR7575 -0.5 0.5 7 8 log τ abundance CrI (●) & CrII (○) for β CrB χ 0.5 7 8 log τ abundance CrI (●) & CrII (○) for β CrB χ (eV) 2 3 4 5 6 20 40 60 80 100 -1.5 -1 -0.5 7 8 9 abundance log τ χ (eV) 2 4 6 10 12 50 100 9 8 8 7 W λ (m Å ) Wλ(mÅ) 10 (km/s) 8 6 4 2 vsini -1.5 -1 -0.5 log τ HR7575

53Cam 416 CrI(brown) CrII(white) HR4816 -1.5 -1 -0.5 7 8 9 abundance log τ 4 6 10 12 χ (eV) 53Cam 416 CrI(brown) CrII(white) 50 100 150 -1.5 -1 -0.5 7 8 9 log τ abundance χ (eV) W λ (m Å ) HR4816 4-17 CrI(brown) CrII (white) 5 10 9 8 7 50 100 150 W λ (m Å )

FeI CrB HR7575 FeI (brown) FeII (white) 9 5 10 7.5 8 8.5 9 χ (eV) -1 5 10 7.5 8 8.5 9 χ (eV) W λ (m Å ) HR7575 FeI (brown) FeII (white) -1 -0.5 abundance log τ 50 100 abundance 8 7 -1 log τ 9 8 7 5 10 χ (eV) 9 9 8.5 8 8 7 7.5 100 200 150 W λ (m Å) FeI (●) FeII (○) β CrB

GamGem FeI(brown) FeII(white) -1 -0.8 -0.6 -0.4 7 7.5 8 8.5 abundance log τ 3 4 5 6 9 10 20 30 40 50 60 χ (eV) W λ (m Å )

roAp星での元素垂直 分布の例 γEqu (7700K, logg=4.2) Ryabchikova et al (2002) ほぼ、今回の我々の 観測と整合する結果 γEqu  (7700K,logg=4.2m) roAp星 Ryabchikova et al (2002)

HR5049の場合 表面温度10300K、logg=3.81 磁場強度=4.7kG Co、Clが太陽値の数千倍及び千倍 Heが太陽値の100分の一以下 この星でも垂直元素分布が見られる。 Nishimura et al.(2004, A&A 420, 673)

元素素直分布のまとめ 4つのcool CP2星、一つのhot CP2星、 2つの標準星でCa、Cr、Feについて調べた。 標準星では元素の成層構造は見いだせなかった。 CP2星ではCaでは光学的深さが-0.5を境に、FeやCrでは、-0.5から-1を境にして下層の方が元素組成比が高いことが示された。

OAO 2003.4.15.-21. 2004.4.28-5.3 ---------------------------------------------------- No Name   HR   SPtype mv Teff logg <H> 1 53 Cam   3109  A2SrCrEu 6.0 8500 4.0 8.0kG 2 ν Cnc   3595  A0pSi 5.5 10530 3.6 1.5kG 3 17ComA  4752  A0pCrSrEu   5.3 10800 4.25 2.5kG 4 HR 4816  4816  A0SrCrEu 6.3 8730 3.74 4.1kG 5 ε Uma   4905  A0Cr       1.8 9500 3.6 12.0kG 6 α2CVn   4915  A0SiEuHg    2.9 11500 4.0 1.5kG 7 78 Vir    5105  A1SrCrEu 4.9 9750 4.0 2.5kG 8 HR 5355  5355  A0pCrEu     5.9 9400 4.2 4.0kG 9 HR 5597A 5597A A0p SiCr 3.2 11000 3.9 5.5 kG 10 βCrB    5747  F0p       3.7 8300 4.5 5.5kG 11 HR 7575 7575 A5p      5.7 8500 3.5 3.5kG ------------------------------------------------------- 12 HR 5049 5049 A0p SrCrEuCO 6.0  10300  3.8  4.7kG (ESO)

今後の研究方向 元素の垂直分布と表面分布の関係は? 数日で自転するCP2星のフェーズごとの元素垂直分布を高分散解析で>ネタはある!(たとえばα2CVn) 今回は表面温度8000Kの星で解析の紹介をしたが、この5月に10000K程度の表面温度のCP2星の観測を行った。これらの元素成層構造を調べる。