原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.

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原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布

原子核の電荷密度 原子核の基底状態の電荷密度 についての情報は,どのような実験によって得られるか? 原子核の波動関数を乱さないプローブ レプトンが最適 強い相互作用をしない,電磁相互作用はよく知られている 電子 ミュー粒子 (電子とよく似た粒子,質量は約200倍) 電荷密度の規格化 原子核の基底状態の電荷密度     についての情報は,どのような実験によって得られるか?

原子核による電子の散乱 散乱断面積 1つのフォトンの交換 電子は相対論的に扱う q :運動量移行 Mott 散乱断面積 電子がスピンをもつ効果(右辺第2因子の分子) 原子核の反跳(右辺第2因子の分母) 静止していた標的核は、散乱後は運動量をもつ 形状因子(Form Factor)

電子散乱の特徴・利点 横波成分が寄与 横波成分 : 電気的遷移、磁気的遷移 縦波成分 : Coulomb 遷移 仮想光子の交換 仮想光子は E = pc の制約を受けない   (不確定性関係:時間とエネルギーは共役) 原子核へのエネルギー移行を一定に保ったまま、 運動量移行を変化させられる 形状因子(原子核の構造)の測定可能 弾性散乱の形状因子から 電荷密度分布(形状因子の Fourier 変換)   電荷密度の平均2乗半径

形状因子 運動量移行 形状因子は電荷密度の Fourier 変換 形状因子は原子核が内部構造をもつことに起因する 原子核が点状であれば 形状因子は原子核が内部構造をもつことに起因する 原子核が点状であれば  電荷密度は形状因子の Fourier 変換として得られる

平均2乗半径 形状因子と電荷密度との関係 0 次の球 Bessel 関数の展開 電荷密度は原子核の範囲に限られるので,q が小さいときは qr についての展開が可能 形状因子の式に代入して 第1項は原子核の電荷を与えるに過ぎない 第2項は原子核の電荷分布の平均2乗半径を与える

電荷密度の詳細 波長の短い,高いエネルギーの電子を用いる必要がある エネルギー E の電子の de Broglie 波長 E = 200 MeV の電子が散乱角 60度に散乱されたとき,運動量移行は 散乱実験等から得られた原子核の電荷密度 “Nuclear Charge and Moment Distributions” Atomic Data and Nuclear Data Tables 14 (1974) 497-665 C.W. De Jager, H. De Vries and C. De Vries Nuclear charge- and magnetization- density- distribution parameters from elastic electron scattering (pp. 479-508)

原子核中心部の電荷密度の不定性 r が小さい中心部の電荷密度を求めるには,大きな運動量移行 q での実験データが必要 原子核内部の電荷密度分布の違いは,電子散乱の形状因子の小さな違いとしてしか現れない 電子散乱以外の手段は?

ミュー原子 Bohr 半径 原子軌道にある質量 m の粒子の広がりの尺度(Z は原子番号) ミュー粒子の質量は電子の質量の約 200 倍 原子軌道にあるミュー粒子の波動関数は,原子核の少し外側まで広がる程度であり,原子核の電荷密度の違いに敏感である

Fermi 密度関数 電子散乱,及び,ミュー原子から得られた原子核の電荷密度分布 質量数の小さい原子核を除いて,次の Fermi 密度関数でよく表される

密度の飽和性 電荷密度分布の特徴 表面が比較的明瞭 原子核の半径 R を中心にして 1.5 fm 程度の範囲で密度が変化 原子核の表面を除いて,密度はほぼ一定 : 密度の飽和性   質量の密度にすると 飽和の密度は,原子核にもよらない