民法(財産法)の体系と 法的推論の基礎 明治学院大学法学部教授 加賀山 茂 2016/6/7

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民法(財産法)の体系と 法的推論の基礎 明治学院大学法学部教授 加賀山 茂 2016/6/7 ■このプレゼンテーションは,民法(財産法)の体系と法的推論の基礎を学ぶためのものです。 ★民法を始めて学習する人とか,一応民法を学習したが,身についていないので,民法を最初から学び直したいと思っている人とかに対して,民法(財産法)の体系を説明しています。 ■このプレゼンテーションでは,大切な概念の前で,アニメーションがストップします。 ■(なお,ビデオの場合は,ストップしないので,自分で中止ボタンを押してください)。 ■まず,自分の力で,概念の名を答えてください。答えた後で,クリックすると正解が表れます。 ■答えが間違っていた場合には,Ctr+Pなどで,一つ前に戻って,やり直してください。 ■答えがあっていた場合には,クリックして,次に進んでください。 ■全部の概念について,正解できるようになれば,民法(財産法)の基礎をマスターしたことになります。 ■民法(家族法)については,続編として,用意する予定です。 明治学院大学法学部教授 加賀山 茂 KAGAYAMA Shigeru, 2016

目次 憲法と民法との関係 刑法と民法との違い 民法条文適用頻度ベスト20 民法典の構成 民法通則の現状・改革・未来 民法総則の構成 2016/6/7 目次 憲法と民法との関係 刑法と民法との違い 民法条文適用頻度ベスト20 民法典の構成 民法通則の現状・改革・未来 民法総則の構成 法律行為 意思表示 代理 無効・取消し1,2,3,4 条件・期限 物権の構成 不動産所有権の二重譲渡と対抗問題 物権と債権と担保物権との関係 人的担保・物的担保物権の構成 債権の構成 債権総論の構成 債務不履行の過去,現在,未来 因果関係とは何か❓ ベイズの定理を用いた部分的因果関係の計算方法 損害とは何か❓ 債権各論の構成 契約の流れ図 契約の類型(典型契約) 事務管理 不当利得 不当利得法の構造 不当利得と支出不当裏の組み合わせとしての民法707条 不法行為 不法行為の流れ図 一般不法行為の成立,障害要件 特別不法行為,消滅要件 家族法の展望 家制度(中央集権・家父長制)の幻影と残滓 新しい家族制度(分散型ネットワーク社会)の展望 法的推論 判決三段論法とその破綻 アイラック(IRAC) 事実とルールとの関係 タール事件の事実とルール トゥールミン図式 原型,完成型,発展 解釈方法論1,2 ヴェン図による解釈論の明確化と発展 民法770条の条文,離婚原因の統計,解釈,改正案 民法612条の条文,解釈1,2,3,4,背景 民法612条の改正案 ■「民法(財産法)の体系と法的推論の基礎」の目次です。 ★プレゼンテーションでは,どの画面からも,下にある左から二つ目のボタンを押すと,この画面に戻ります。■ ★そして,見たい項目があれば,その項目をクリックさえすれば,その項目に飛んでいくことができます。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

憲法と民法との関係 民法1条1項 ①私権は,公共の福祉に適合しなければならない。 2016/6/7 憲法と民法との関係 憲 法  憲法29条 ②財産権の内容は,公共の福祉に適合するやうに,法律でこれを定める。 財 産 法 民法1条1項 ①私権は,公共の福祉に適合しなければならない。  憲法24条 ①婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。 ②配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。 家 族 法 民法742条(婚姻の無効) 婚姻は,次に掲げる場合に限り,無効とする。  二 当事者が婚姻の届出をしないとき。 第733条(再婚禁止期間) ①女は,前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ,再婚をすることができない。 ★憲法と民法とは密接に関連しています。■ ★憲法第29条第2項は,「財産権の内容は,公共の福祉に適合するように,法律でこれを定める。」と規定しています。■ ★これに対応するように,民法1条1項は,「私権は,公共の福祉に適合しなければならない。」と規定しています。 ■憲法29条第2項の「財産権」が,民法1条1項では,「私権」となり,「公共の福祉に適合する」は,完全に一致しています。■ ★これに対して,憲法第24条は,「婚姻は両性の合意のみで成立する」と宣言し,「両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。」と規定しています。■ ★それにもかかわらず,民法742条は,婚姻は,届け出をしなければ,両性の合意だけでは成立しないとしており,しかも,民法733条は,「女は,前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ,再婚をすることができない。」として,女性だけに再婚禁止期期間を定めており,両性の本質的平等に反しています。 ■民法改正を含めて,今後の課題となると思います。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

刑法と民法との対比 刑法(罪刑法定主義) 民法(被害の救済) 人権擁護のために類型論を保持 被害者救済のために一般法を承認 犯罪類型 暴行 2016/6/7 刑法と民法との対比 刑法(罪刑法定主義) 民法(被害の救済) 犯罪類型 暴行 特別類型 暴行 一般不法行為 その他類型外 無罪 刑罰 その他の類型 救済 刑法と民法は,法律の中でも,憲法についで,重要な法律ですが,二つの法律には,重要な違いがあります。■ ★刑法の場合には,えん罪の恐れがあり,人権を擁護するために,厳格な類型論を採用しています。■ つまり,暴行とか傷害とか,厳格な犯罪類型を事前に定め,その類型に該当する罪だけを罰することにしています。これを「罪刑法定主義」と呼んでいます。■ ★しがたって,刑法が予め定めた犯罪類型にあたらないその他の類型の場合には,■ ★無罪となります。■ このように,刑法においては,国家権力の行き過ぎから人権を擁護するために,類型論が保持されています。■ これに対して,民法の場合には,被害者を救済するために,類型論だけでなく,類型から漏れた加害行為の場合でも,被害者を救済する仕組みを発達させています。それが,一般法による救済システムです。 ★もちろん,民法においても,不法行為の類型は重視されていますが,問題は,そのような類型に該当しない不法行為が発生した場合の被害者の救済です。■ ★刑法の場合には,犯罪類型に該当しない場合には,無罪判決が下りますが,民法の場合には,不法行為の特別類型に該当しない場合でも,被害者を救済します。■ ★その方法として,民法は,不法行為の成立要件を著しく緩和して一般不法行為という概念を創設し,特別の類型に該当しない場合であっても,加害者に故意または過失があり,被害者に損害が発生しており,加害者の行為と損害の発生との間に因果関係があれば,被害者を救済するために,一般不法行為法が適用されます。■ ★このように,民法は,不法行為,いわば民事の犯罪について,その成立について類型論を捨て,一般不法行為法(民法709条)によって,あらゆる侵害行為に対して救済を用意している点で,類型論を採用している刑法との違いが生じています。■ 犯罪類型 傷害 特別類型 傷害 人権擁護のために類型論を保持 被害者救済のために一般法を承認 KAGAYAMA Shigeru, 2016

2016/6/7 民法条文の適用頻度ベスト20 ■戦後,わが国の裁判所で適用された民法の条文のうち,最も適用頻度が高い条文を上から20番までを選定して,円グラフにしたものです。■ ★民法適用ベスト20は,以下の通りです。■ ■第 1位 709条(不法行為による損害賠償) ■第 2位 710条(財産以外の損害の賠償) ■第 3位 722条(損害賠償の方法及び過失相殺) ■第 4位 715条(使用者等の責任) ■第 5位 415条(債務不履行による損害賠償) ■第 6位 1条(基本原則) ■第 7位 719条(共同不法行為者の責任) ■第 8位 90条(公序良俗) ■第 9位 177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) ■第 10位 612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) ■第 11位 703条(不当利得の返還義務) ■第 12位 541条(履行遅滞等による解除権) ■第 13位 601条(賃貸借) ■第 14位 95条(錯誤) ■第 15位 110条(権限外の行為の表見代理) ■第 16位 711条(近親者に対する損害の賠償) ■第 17位 416条(損害賠償の範囲) ■第 18位 723条(名誉毀(き)損における原状回復) ■第 19位 656条(準委任) ■第 20位 770条(裁判上の離婚) KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法典の編成 第1編 総則 財産法 第2編 物権 第3編 債権 民法 第4編 親族 家族法 第5編 相続 2016/6/7 第1編 総則 第2編 物権 第3編 債権 家族法 第4編 親族 第5編 相続 ★民法典は,5編から構成されています。■ ■民法典の用語ではないのですが,講義では,第1編から第3編までを,財産法と呼び, ■第4編と第5編とを家族法と呼んでいます。■ ■ここからは,重要なポイントごとに画面がストップしますので, ■民法の五つ編の名前がいえるかどうか,クイズだと思って,正解が表れる前に,答えてみてください。 ■正解の場合は,そのまま次に進み,答えが間違っていた場合には,前に戻ってやり直しましょう。■ ★第1編は,総則です。■ ★第2編は,物権です。■ ★第3編は,債権です。■ ★第4編は,親族です。■ ★第5編は,相続です。 ■全部正解でしたか? 全部正解なら,次に進みましょう。 ■間違いがあったら,もとに戻って,やり直しましょう。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法典の編別と総則の位置づけ(1) 第2編 物権 財産法 第3編 債権 民法 第1編 総則 第4編 親族 家族法 第5編 相続 2016/6/7 民法典の編別と総則の位置づけ(1) 民法 第1編 総則 財産法 第2編 物権 第3編 債権 家族法 第4編 親族 第5編 相続 ★先に述べたように,民法典は,5編から構成されています。■ 従来の考え方は,第1編から第3編までを財産法,第4編と第5編とを併せて家族法としてきました。 ■しかし,民法総則は,財産法だけでなく,家族法の総則でもあるのではないかとの考え方も有力です。■ ★この考え方によれば,第1編の総則は,民法のすべての共通部分となります。■ ★そして,財産法は,第2編の物権と ★債権の二つになります。■ ★家族法は,従来通り,親族と ★相続の二つになります。■ ■この考え方については,以下のような批判があります。 ■たとえば,第1に,総則の取消しは,はじめに遡って無効となりますが, 親族編の婚姻の取消しは,将来に向かってのみ生じます。 ■第2に,総則の取消しの消滅時効は,民法124条によって,短期5年,長期20年のところ,民法747条2項によると,詐欺による婚姻の取消しの消滅時効は,3か月となっています。 ■このような問題点があるため,この考え方は,現在の通説とはなっていません。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法典の編別と総則の位置づけ(2) 第1編 総則 財産法 第2編 物権 民法 第3編 債権 通則 第4編 親族 家族法 第5編 相続 2016/6/7 民法典の編別と総則の位置づけ(2) 民法 通則 財産法 第1編 総則 第2編 物権 第3編 債権 家族法 第4編 親族 第5編 相続 ★総則の位置づけについては,先に述べたように,民法全体の総則か,それとも,財産法だけの総則かについて争いがあります。■ ★しかし,2005年に実現した民法の現代語化に際して,民法の中の第1条と第2条が総則の中で,「通則」という章が設定され,民法全体の「通則」として,特別の地位が与えられたため,民法総則の位置づけに関する問題の解決が近づいたように思われます。■ ★民法全体の共通部分は,民法総則の中の通則(第1条,第2条)のみと考えます。 そして,その他の総則は,通説通り,財産法,すなわち, ★主として,物権,および, ★債権の総則と考えます。■ ★家族法は,従来通り,親族と ★相続とで構成されることになります。 ■このように,民法の最初(第1編第1章(第1条,第2条))に「通則」という規定ができたため, ■民法の体系は,すべてを制御する通則, ■財産法としての総則,物権,債権 ■家族法としての親族,相続というように分類され, ■すっきりとした体系が完成したと思われます。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法通則(現行法) 私権の 公共の福祉適合性 第1条 (基本原則) 契約自由の 信義則による制限 民 法 第1編 第1章 通則 2016/6/7 民法通則(現行法) 民 法 第1編 第1章 通則 第1条 (基本原則) 私権の 公共の福祉適合性 契約自由の 信義則による制限 権利濫用の禁止 第2条 (解釈の基準) 個人の尊厳 両性の本質的平等 ★民法の全体の共通部分として,民法全体を制御するのが,■ ★民法第1編(総則)の最初の章である「通則」です。■ ★通則は,第1条(基本原則)と■ ★第2条(解釈の基準)のわずか2か条で構成されています。■ ■さて,第1条(基本原則)は,次の三つの項からなります。 ★第1項が,私権の公共福祉適合性,すなわち,「私権は,公共の福祉に適合しなければならない。」です。■ ★第2項が,契約自由の信義則による制限,すなわち,「権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。」です。■ ★第3項が,権利濫用の禁止,すなわち,「権利の濫用は,これを許さない。」です。■ ■次に,★第2条(解釈の基準)は,■ ★個人の尊厳と■ ★両性の本質的平等に即した解釈の要請,すなわち,「この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈しなければならない。」です。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法通則(改正案1) 私権の 公共の福祉適合性 第1条 (私権の制限) 契約自由の 信義則による制限 民 法 第1編 第1章 通則 2016/6/7 民法通則(改正案1) 民 法 第1編 第1章 通則 第1条 (私権の制限) 私権の 公共の福祉適合性 契約自由の 信義則による制限 権利濫用の禁止 第2条 (私権の目的) 個人の尊厳 両性の本質的平等 通常,多くの法律の第1条は,その法律の目的であり,第2条は,定義規定というのが普通です。 ■つまり,民法に,民法の目的規定がないのは,不自然です。 ■そこで,民法の目的規定に近い条文を探索すると,「個人の尊厳と両性の本質的平等」を謳っており,民法第2条がこれに近いものであると思われます。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

第1条 (民法の目的並びに 私権の行使及び その制限) 2016/6/7 民法通則(改正案2) 民 法 第1編 第1章 通則 第1条 (民法の目的並びに 私権の行使及び その制限) 民法の目的 個人の尊厳と平等の実現 私権の 公共の福祉適合性 契約の自由及び 信義則による制限 権利濫用の禁止 第2条 (解釈の基準) 個人の尊厳と 両性の本質的平等 ★ほとんどすべての法律が,その第1条で,「目的」規定を置いていることを考慮するならば,■ ★民法を改正するに際しては,民法の「通則」に目的規定を追加するのがよいと思います。■ ★したがって,第1条のタイトルは,民法の目的,並びに,私権の行使,および,その制限とするのがよいでしょう。■ ★そうすれば,第2条は,従来通り,解釈基準とすることでよいことになります。■ ★そして,第1条の第1項は,「民法の目的」として,「この法律は,私権の主体及び客体,並びに,私権の発生,変更及び消滅を規定することを通じて,個人の尊厳と両性の本質的平等を実現することを目的とする。」と規定するのがよいと思われます。■ ★第1条第1項の2は,従来の第1条第1項(私権の公共の福祉適合性)と同じとするのでよいでしょう。■ ★第1条第2項も,従来の第1条第2項(契約自由の信義則による制限)と同じとするのでよいでしょう。■ ★第1条第3項も,従来の第1条第3項(権利濫用の禁止)と同じとするのでよいでしょう。■ ★第2条も,先に述べたように,第1条の第1項に民法の目的を追加することによって,従来の第2条(解釈の基準)と同じとすることでよいことになるでしょう。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法総則の編成 第2章 人(自然人) 権利の主体 第3章 法人 第1編 総則 権利の客体 第4章 物 第5章 法律行為 権利の変動 Lecture on Obligation, 2015 2016/6/7 民法総則の編成 第1編 総則 権利の主体 第2章 人(自然人) 第3章 法人 権利の客体 第4章 物 権利の変動 第5章 法律行為 第6章 期間の計算 第7章 時効 ★民法第1編(総則)は,どのような構造をしているのでしょうか?■ ■民法総則は,先に述べた第1章通則と, ★第2章,第3章の「権利の主体」と■ ★第4章の「権利のキャクタイ」と,■ ★第5章から第7章の「権利の変動」の七つの章から構成されています。■ ■第1編(総則)の2章から7章までは,以下のような構造を有しています。 ■第1に,権利の主体を規定する  ★第2章(自然人)■  ★第3章(法人)■ ■第2に,権利のキャクタイを規定する  ★第4章(物)■ ■第3に,権利の変動を規定する  ★第5章(法律行為)■  ★第6章(期間)■  ★第7章(時効)です。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法総則 第5章 法律行為 の編成 法律行為と 法規定との関係 第1節 総則 第2節 意思表示 第5章 法律行為 第3節 代理 Lecture on Obligation, 2015 2016/6/7 民法総則 第5章 法律行為 の編成 第5章 法律行為  法律行為と 法規定との関係 第1節 総則 法律行為の 構成要素 第2節 意思表示 法律行為の 三面関係 第3節 代理 法律行為の 無効 第4節 無効及び取消し 法律行為の 付款 第5節 条件及び期限 ★権利変動を生じさせる中核的な概念としての法律行為を規定する▲第5章(法律行為)は,どのような構造になっているのでしょうか?■ ■第5章(法律行為)は,五つの節から成り立っています。■ ★第1節は,法律行為と法規定との優先関係を規定しています。 ★すなわち,第1節は,法律行為の総則として,強行規定,法律行為,事実たる慣習,任意規定という法規定と法律行為との間の優先関係を規定しています。■ ★第2節は,法律行為の構成要素について規定しています。■ ★すなわち,法律行為の構成要素である意思表示について規定しています。■ ★第3節は,法律行為のうち,三面関係を生じさせる代表例について規定しています。■ ★すなわち,本人,代理人,相手方という三面関係を生じさせる代理について,規定しています。■ ★第4節は,法律行為を無効とするもの,および,無効の効果について規定しています。■ ★すなわち,法律行為の「無効,および,取消し」について,規定しています。■ ★第5節は,法律行為のフカンについてて規定しています。■ ★すなわち,法律行為の付款である「条件および期限」について規定しています。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法総則 第5章 法律行為 第1節 総則 の編成 第1節 総則 公序に関する法律行為 (民法90条) 公序良俗違反 第2節 意思表示 Lecture on Obligation, 2015 2016/6/7 民法総則 第5章 法律行為 第1節 総則 の編成 第5章 法律 行為 第1節 総則 公序に関する法律行為 (民法90条) 公序良俗違反 公序に関しない法律行為(民法91条,92条) 1. 当事者の合意 2. 事実たる慣習 3. 任意規定 第2節 意思表示 第3節 代理 第4節 無効及び取消し 第5節 条件及び期限 ★権利変動を生じさせる中核的な概念としての法律行為を規定する▲第5章(法律行為)は,五つの節から成り立っています。■ ★第1節は,総則です。今回は,この総則について解説します。■ ★第2節は,法律行為の構成要素としての意思表示です。■ ★第3節は,法律行為において,本人,代理人,相手方という三面関係を形成する代理です。■ ★第4節は,無効,並びに,取消しの主体及び効果について規定しています。■ ★第5節は,法律行為の付款と呼ばれている条件及期限について規定しています。■ ■さて,法律行為の第1節(総則)は,何を規定しているのでしょうか?■ ■第1節の総則は,売買契約のような法律行為と,売買に関する法規定がどのような関係にあるのか?について規定しています。■ ★第1は,公の秩序,すなわち,公序に関する法律行為についての規定です。公序の関する法規定は,強行規定と呼ばれています。■ ★第2は,公の秩序,すなわち,公序に関しない法律行為についての規定です。この場合には,契約自由の原則が妥当しますので,これに関する法律の規定は,任意規定と呼ばれています。■ ★第1の公序に関する問題については,法律行為よりも,法律の規定が優先します。民法90条が,「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。」と規定しています。■ ★第2の公序に関しない問題については,私的自治の尊重,契約自由の原則が適用され,民法1条の公共の福祉に適合しない場合とか,信義則に反する場合とか,権利の濫用に当たる場合は,別として,公序に関しない法律の規定よりも,法律行為が優先します。 ■このことを,民法91条は,「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは,その意思に従う。」と,明確に規定しています。■ ★また,法律行為の中で,取引慣行とか慣習▲(これを事実たる慣習といいます)▲に従うことを明確にしている場合,さらには,事実たる慣習に従うという意思が明確でない場合においても,公序に関しない法律の規定よりも,事実たる慣習が優先します。 ■そのことを,民法92条は,「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において,法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは,その慣習に従う。」と規定しています。■ ★したがって,公序に関しない法律の規定,すなわち,任意規定は,当事者の合意(法律行為)も事実たる慣習もない場合にのみ,適用されるにすぎないことになります。■ ■以上をまとめると,法律行為と法律の規定の関係については,問題が公の秩序,すなわち,公序に関する場合には,公序に関する規定が優先し,それに反する法律行為は無効となります。 ■しかし,問題が公序に関しない場合には,そのような問題に関する法律の規定,すなわち,任意規定は,法律行為,または,事実たる慣習が存在しない場合にのみ適用されます。 ■そうだとすると,任意規定の役割は,非常に小さいように思われますが,法律行為の典型である契約を作成する場合において,すべてのことが合意されるわけではなく,また,すべてのことが契約書に書き込まれるわけではないので,合意されず,取引慣行もない問題については,すべて,任意規定によって問題が解決されるのですから,任意規定の役割は,決してちいさなものではありません。 ■しかも,最近では,消費者契約に関しては,法律行為(契約条項)と任意規定を比較し,法律行為を適用した結果が,任意規定を適用した結果よりも,消費者を一方的に不利にする場合には,法律行為が無効となるとの規定が制定されています(消費者契約法第10条)。 ■この場合には,任意規定が,法律行為よりも優先して適用される結果となるのですから,任意規定の強行規定化という現象が,様々な場面で生じつつあるといえます。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

契約自由の下での 任意規定の位置づけ(1/5) 2016/6/7 契約自由の下での 任意規定の位置づけ(1/5) 公序に関しない事項 当事者意思 あり 当事者意思不明・意思なし (1)? 事実たる慣習あり 事実たる慣習なし (2)? (3)?  公序に関する事項については,民法90条に規定があり,たとえ,当事者が行為していても,その合意(契約)は無効となります。つまり,公序に関する事項については,強行法規によることになります。■ ★それでは,公序に関しない事項については,何がヒトの行為をコントロールするのでしょうか? ■公序に関しない事項については,以下の順序に従って考察するとその答えがわかります。 ■第1に,当事者に合意があるかどうかです。 ■第2に,当事者の合意があるかどうか不明の場合,又は,合意がない場合です。 ■合意が不明または不存在の場合には,第3に,じじつたる慣習,すなわち,商慣習とか,実務慣行とかがあるかどうかです。 ■以上の順序に従って,疑問符のある箇所に,答えを埋めていきましょう。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

契約自由の下での 任意規定の位置づけ(2/5) 2016/6/7 契約自由の下での 任意規定の位置づけ(2/5) 公序に関しない事項 当事者意思 あり 当事者意思不明・意思なし 当事者の意思と 民法の条文(任意規定)とで,どちらが優先されるのか?  第1の問題は,公序に関しない事項について,当事者間に合意がある場合です。 ■この場合は,当事者の合意と,民法の条文のうち,強行法規ではない,任意規定とで,どちらが優先して適用されるかが問題となります。 ■当事者の合意と任意規定のどちらが優先的に適用されるのでしょうか? ■答えてください。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

契約自由の下での 任意規定の位置づけ(3/5) 2016/6/7 契約自由の下での 任意規定の位置づけ(3/5) 公序に関しない事項 当事者意思 あり 当事者意思不明・意思なし 当事者意思に従う (民法91条) 事実たる慣習 あり 慣習と民法の規定とどちらが優先?  民法91条によって,任意規定よりも,当事者の合意が優先的に適用されます。 これが,契約自由の原則の一つの答えとなります。 ■それでは当事者の合意があるかどうか不明の場合,又は,当事者に合意がない場合には,何が適用されるのでしょうか。 ■その場合には,商慣習とか,取引慣行があるかどうか,すなわち,じじつたる慣習があるかどうかが問題となります。 ■もしも,じじつたる慣習がある場合には,何が適用されるのでしょうか? ■じじつたる慣習が適用されるのでしょうか,それとも,任意規定が適用されるのでしょうか? ■どちらが優先するか答えてください。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

契約自由の下での 任意規定の位置づけ(4/5) 2016/6/7 契約自由の下での 任意規定の位置づけ(4/5) 公序に関しない事項 当事者意思 あり 当事者意思不明・意思なし 当事者意思に従う (民法91条) 事実たる慣習 あり 事実たる慣習 なし 事実たる慣習に従う(民法92条) 何が適用されるのか?  じじつたる慣習が任意規定に優先して適用されます。 ■それでは,最後に,当事者の合意も,じじつたる慣習もあるかどうかわからないか,どちらも存在しないという場合には,何が適用されるのでしょうか? ■答えてください。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

契約自由の下での 任意規定の位置づけ(5/5) 2016/6/7 契約自由の下での 任意規定の位置づけ(5/5) 公序に関しない事項 当事者意思あり 当事者意思不明・意思なし 当事者意思に従う (民法91条) 事実たる慣習 あり 事実たる慣習 なし 事実たる慣習に従う(民法92条) 任意規定が適用される  当事者の合意も,じじつたる慣習もないか,それらが不明の場合には,任意規定が適用されます。 ■以上を総合的に考えると, ■公序に関しない事項に関して,当事者の合意があり,じじつたる慣習があり,任意規定もあるという場合,最初に適用されるのは,当事者の合意だということになります。 ■すなわち,民法91条と92条とが合わさって,契約自由の原則が表現されていることになります。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法総則第5章法律行為第2節 意思表示の編成 心裡留保 表意者悪意 意思の 不存在 通謀虚偽表示 第1節 総則 表意者善意 錯誤 2016/6/7 民法総則第5章法律行為第2節 意思表示の編成 第5章 法律 行為 第1節 総則 第2節 意思表示 意思の 不存在 表意者悪意 心裡留保 通謀虚偽表示 表意者善意 錯誤 瑕疵ある 意思表示 詐欺 強迫 意思表示 の効力発生 所在あり 表示の到達時 所在不明 公示送達の時 第3節 代理 第4節 無効及び取消し 第5節 条件及び期限 ★民法総則第5章(法律行為)のうち,第2節の意思表示について説明します。■ ★法律行為の第1節は,法律行為の総則です。強行規定と任意規定について規定しています。■ ★第2節が,ここで取り上げる,意思表示の規定です。■ ★第3節は,代理です。■ ★第4節は,無効,および,取消しです。■ ★第5節は,条件,および,期限です。■ ■さて,意思表示は,その効力について,以下の三つの類型に分かれます。■ ★第1は,意思の不存在の場合,この場合,意思表示は,無効となります。■ ★第2は,瑕疵ある意思表示です。この場合,表意者は,意思表示を取り消すことができます。■ ★第3は,意思表示の効力の発生時期の問題です。■ ■意思の不存在の場合は,さらに, ★表意者が悪意の場合(意思と表示との間の食い違いを知っている場合)と, ★表意者が善意の場合(意思と表示との食い違いを知らない場合)とに分かれます。■ ■瑕疵ある意思表示は,二つに分かれます。■ ★一つは,詐欺による意思表示(民法96条)です。■ ★もう一つは,強迫による意思表示(民法96条)です。■ ■意思表示の効力の発生時期については,二つに分かれます。■ ★一つは,意思表示の相手方の所在が明らかな場合です。■ ★もう一つは,意思表示の愛田形の所在が不明の場合です。■ ■意思の不存在の場合において,表意者が悪意の場合は,さらに二つに分かれます。 ★第1は,表意者が一人の場合であり,心裡留保(民法93条)です。冗談による意思表示がその例です。■ ★第2は,複数の表意者が通謀している場合であり,虚偽表示(民法94条)です。税金逃れのために,財産名義を他人に移すというのがその例です。■ ★意思の不存在の中で,表意者が善意の場合が錯誤(民法95条)です。■ ■意思表示の効力の発生の時期とされる意思表示の到達は,二つに分かれます。■ ★相手方の所在が明らかな場合には,意思表示は到達によって効力が発生します(民法97条)。■ ★相手方の所在が不明の場合には,公示送達がなされたときに,効力が発生します(民法98条)。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法総則 第5章 法律行為 第3節 代理 の編成 第1節 総則 第2節 意思表示 第5章 法律 行為 第3節 代理 第4節 無効及び 取消し 2016/6/7 民法総則 第5章 法律行為 第3節 代理 の編成 第5章 法律 行為 第1節 総則 第2節 意思表示 第3節 代理 顕名代理 復代理 表見代理 代理権授与行為 権限外の行為 代理権消滅後 無権代理 第4節 無効及び 取消し 第5節 条件及び 期限 ★民法第1編(総則)第5章(法律行為)のうち,第3節の代理について解説します。■ ★法律行為の第1節は,総則です。強行規定と任意規定について規定しています。■ ★第2節は,意思表示です。■ ★第3節は,代理です。今回,この代理について,解説します。■ ★第4節は,無効及び取消しです。次回,この点について,詳しく解説します。■ ★第5節は,条件及び期限です。これは,法律行為の付款と呼ばれています。■ ■さて,代理には,様々な種類がありますが,ここでは,代表的なものを挙げるにとどめます。■ ★第1は,顕名代理と日顕名代理との区別です。わが国の民法は,本人のために代理人として行為をする顕名代理を原則としています(民法99条)。 ■したがって,本人のためすることを示さないで代理行為をすると,自己のためにしたものと扱われますが(民法100条1項),相手方が,実は,本人のためにする代理行為であることを知ることができた場合には,有効な代理行為と認められます(民法100条2項)。■ ★代理人がさらに代理人を選任することを復代理といいます(民法104条~106条)。 ■復代理人は,代理人とともに,本人を代理します(107条)。■ ★代理でよく問題となるのが,表見代理です。■ ★表見代理は,無権代理の一種なのですが, ■相手方が,代理人が無権代理であることについて,善意かつ無過失の場合には,本人は,愛手柄との間の法律行為を無効であると主張できなくなります。 ■表見代理には,以下の三つの類型があります。■ ★第1は,代理権授与の表示による表見代理(民法109条)です。■ ★第2は,権限外の行為の表見代理(民法110条)です。■ ★第3は,代理権消滅後の表見代理(民法112条)です。■ ■これらの表見代理は,権利外観法理という法原理によって統一的に説明されています。 ■権利外観法理とは,「真実に反する外観を作出した者は,その外観を信頼してある行為をなした者に対し外観に基づく責任を負うべきであるという理論」のことです。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

法律行為 第4節 無効・取消し 構造(1/4) 契約の 無効・ 取消 原因 意思無能力 (条文なし) 制限行為能力 (民法5条~21条) 2016/6/7 法律行為 第4節 無効・取消し 構造(1/4) 契約の 無効・ 取消 原因 意思無能力 (条文なし) 制限行為能力 (民法5条~21条) 未成年 成年被後見人 被保佐人 被補助人 公序良俗違反 (民法90条) 意思の不存在 (民法93条~95条) 表意者悪意 心裡留保 通謀虚偽表示 表意者善意 要素の錯誤 瑕疵ある意思表示 (民法96条) 動機の錯誤 詐欺 強迫 代理権の不存在 (民法99条~118条) 無権代理 ★法律行為の無効と取消しは,非常に重要な概念なので,4回に分けて,詳しく解説します。■ ■第1回は,「条文の順序」にしたがって,無効と取消しをピックアップしていきます。■ ★無効・取消原因の第1は,条文にないのですが,学説・判例によって広く認めており,民法改正案では,民法3条の2として規定されることになっているため,ここでも取り上げることにする「意思無能力」です。 ■意思能力とは,意思表示の結果として生じる権利や義務を認識するに十分な知能とされており,具体的には,小学校入学前の児童(6歳未満)や泥酔者は意思能力がないと考えられています。 ■意思能力がない者がした意思表示は,表意者だけが無効を主張できる無効であると考えられていますので,取消しできる法律行為と同じと考えることができます。■ ★無効・取消原因の第2は,制限行為能力者がした法律行為であり,これは,取り消すことができる法律行為であるとされています(民法5条~民法21条)。■ ■無効・取消原因の第2は,制限行為能力者の法律行為です。制限行為能力者には,以下の4つのタイプがあります。■ ★制限行為能力者の第1タイプは,未成年者であり,20歳未満の人です。■ ★制限行為能力者の第2タイプは,成年被後見人であり,「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」です。■ ★制限行為能力者の第3タイプは,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」としての被保佐人です。■ ★制限行為能力者の第4タイプは,「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」としての被補助人です。■ ★無効・取消原因の第3は,公序良俗に違反する法律行為です。すでに述べたように,公序良俗に違反する法律行為は,無効です(民法90条)。■ ★無効・取消原因の第4は,意思の不存在です。意思の不存在とは,実は,意思が全くないのではなく,意思は存在するのですが,表示に対応する意思が存在しない,つまり,表示と意思とが食い違っていることを意味します。■ ■意思の不存在は,表意者が悪意か,表意者が悪意かで二つに分かれます。■ ★意思の不存在のうち,表意者が悪意の場合は,表意者が一人の場合の心裡留保(民法93条)と■ ★表意者が複数で互いに通謀している虚偽表示(民法94条)があります。 ★これに対して,表意者が善意の場合,すなわち,意思と表示が食い違っているのを気づいていない場合は, ★錯誤であり,特に,法律行為の要素に錯誤がある場合には,契約は無効となります(民法95条)。■ ★無効・取消原因の第5は,瑕疵ある意思表示です。意思の不存在と瑕疵ある意思表示の違いは,意思の不存在が,表示と意思とが食い違っているため,その効力が無効に向かうのに対して, ■瑕疵ある意思表示は,表示と意思とは一致しているのですが,意思を形成する途中で,不当な介入があり,本心とは異なる意思が形成されており,その効力が,無効ではなく,取消しに向かう点に違いがあります。■ ★瑕疵ある意思表示は,表意者が善意の場合であり, ★動機の錯誤があるに過ぎない場合には,無効ではなく,第三者による詐欺(民法96条2項)に代表されるように,その意思表示を取り消すことができます。■ ★瑕疵ある意思表示には,第2に,相手方の欺罔行為によって,表意者が動機の錯誤に陥る詐欺による意思表示があります(民法96条1項)。■ ★瑕疵ある意思表示には,第3に,相手方に他人に害悪を示して恐怖心を生じさせて表意者が真意でない意思表示をする強迫による意思表示があります(民法96条1項)。■ ★無効・取消原因の第6は,代理権の不存在です。■ ★その効果は無権代理ですが(民法99条~118条),相手方が代理権があると無過失で信じた場合には,表見代理として,本人が無権代理を主張できないこともあります(民法109条,民法110条,民法112条の表見代理の場合です)。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

法律行為 第4節 無効・取消し 構造(2/4) 契約の 無効・ 取消 原因 当事者 の能力 意思無能力 制限行為能力 未成年 成年被後見人 2016/6/7 法律行為 第4節 無効・取消し 構造(2/4) 契約の 無効・ 取消 原因 当事者 の能力 意思無能力 制限行為能力 未成年 成年被後見人 被保佐人 被補助人 代理権の不存在 無権代理 当事者 の意思 意思の不存在 表意者悪意 心裡留保 通謀虚偽表示 表意者善意 要素の錯誤 瑕疵ある意思表示 動機の錯誤 詐欺 強迫 契約の方法・ 内容 公序良俗違反 ★法律行為の無効・取消原因の分類の第2回目です。 ■今回は,当事者と法律行為の「成立の方法・内容」に注目して分類を行います。■ ★第1は,当事者の能力に着目するものです。すなわち,意思能力があるか,行為能力が十分か,代理権が存在するかどうか,という視点です。■ ★第2は,当事者の意思に着目するものです。すなわち,意思と表示とが食い違っていないか。食い違っていないとしても,意思の形成過程で不当な干渉がなされていないかどうかという視点です。■ ★第3は,法律行為の成立の方法,または,法律行為の内容に着目するものです。■ ★法律行為の当事者の能力に着目した場合の第1の無効・取消原因は,条文にないのですが,学説・判例によって広く認めており,民法改正案では,民法3条の2として規定されることになっているため,ここでも取り上げることにする「意思無能力」です。■ ■意思能力とは,意思表示の結果として生じる権利や義務を認識するに十分な知能とされており,具体的には,小学校入学前の児童(6歳未満)や泥酔者は意思能力がないと考えられています。 ■意思能力がない者がした意思表示は,表意者だけが無効を主張できる無効であると考えられていますので,取消しできる法律行為と同じと考えることができます。■ ★法律行為の当事者の能力に着目した場合の第2の無効・取消原因は,制限行為能力者がした法律行為であり,これは,取り消すことができる法律行為であるとされています(民法5条~民法21条)。■ ★法律行為の当事者の能力に着目した場合の第3の無効・取消原因は,代理権の不存在です。 ■その効果は無権代理ですが(民法99条~118条),相手方が代理権があると無過失で信じた場合には,表見代理として,本人が無権代理を主張できないこともあります(民法109条,民法110条,民法112条の表見代理の場合です)。■ ★法律行為の当事者の意思に着目した場合の第1の無効・取消原因は,「意思の不存在」,すなわち,表示に対応する意思が存在しているか,言い換えると,意思と表示とが食い違っていないかどうかという問題です。■ ★法律行為の当事者の意思に着目した場合の第2の無効・取消原因は,「瑕疵ある意思表示」です。 ■意思の不存在と瑕疵ある意思表示の違いは,意思の不存在が,表示と意思とが食い違っているため,その効力は,無効へと向かいます。 ■これに対して,瑕疵ある意思表示は,表示と意思とは一致しているのですが,意思を形成する途中で不当な介入があり,本心とは異なる意思が形成されており,その効力が,無効ではなく,取消しに向かう点に違いがあります。■ ★法律行為の成立の方法,その内容に着目した場合の法律行為の無効・取消原因は,公序良俗に違反する法律行為です。公序良俗に違反する法律行為は,無効です(民法90条)。■ ■ここで,法律行為の当事者の能力に着目した場合の第2の無効・取消原因に戻って,それをさらに分類します。 ■制限行為能力者には,以下の四つのタイプがあります。■ ★制限行為能力者の第1タイプは,未成年者であり,20歳未満の人です。■ ★制限行為能力者の第2タイプは,成年被後見人であり,「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」です。■ ★制限行為能力者の第3タイプは,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」としての被保佐人です。■ ★制限行為能力者の第4タイプは,「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」としての被補助人です。■ ★法律行為の無効・取消原因のうち,代理権の不存在を理由とするのは,無権代理です(民法99条~118条)。 ■ただし,相手方が代理権があると無過失で信じた場合には,表見代理として,本人が無権代理を主張できないこともあります(民法109条,民法110条,民法112条の表見代理の場合です)。■ ★法律行為の無効・取消原因のうち,意思の不存在については,表意者が悪意の場合と表意者が善意の場合で,場合を分けて考える必要があります。■ ★法律行為の無効・取消原因のうち,瑕疵ある意思表示については,表意者は善意ですので,この場合について考察します。■ ■ここで,意思の不存在について,表意者が悪意の場合を考えます。■ ★表意者が悪意の場合は,表意者が一人の場合の心裡留保です(民法93条)。■ ★表意者が悪意の場合で,複数の表意者が互いに通謀しているばあいが,虚偽表示です(民法94条)。■ ★意思の不存在について,表意者が善意の場合は,錯誤です。錯誤のうち,法律行為に要素の錯誤がある場合には,契約は無効となります。■ ■法律行為の無効・取消原因の最後に,瑕疵ある意思表示について考えます。■ ★瑕疵ある意思表示のうち,動機の錯誤があるに過ぎない場合には,無効ではなく,第1に,第三者による詐欺(民法96条2項)に代表されるように,その意思表示を取り消すことができます。■ ★第2に,相手方の欺罔行為によって,表意者が動機の錯誤に陥る場合が,詐欺による意思表示です(民法96条1項)。■ ★第3に,相手方に他人に害悪を示して恐怖心を生じさせて表意者が真意でない意思表示をした場合が,強迫による意思表示です(民法96条1項)。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

法律行為 第4節 無効・取消し 構造(3/4) 絶対的無効 (誰でも何時までも) 公序良俗違反 第三者に 対抗できる 意思無能力 2016/6/7 法律行為 第4節 無効・取消し 構造(3/4) 無効・ 取消 原因 第三者に 対抗できる 絶対的無効 (誰でも何時までも) 公序良俗違反 相対的無効 (特定者のみ一定期間) 意思無能力 制限能力者の取消し 要素の錯誤 強迫の取消し 第三者に 対抗できない 場合がある 善意・無過失の 第三者に対抗できない 心裡留保 動機の錯誤 無権代理→表見代理 善意の 第三者に対抗できない 通謀虚偽表示 詐欺の取消し ★法律行為の無効・取消原因の分類の第3回目です。■ 今回は,法律行為の無効・取消原因が「第三者に対抗できるかどうか」に着目して,分類を行います。■ 第三者に対抗できる無効・取消原因のうち,誰にでも,しかも,いつまでも無効を主張できる,絶対無効は,何でしょうか?■ ★第三者に対抗できる無効のうち,絶対的無効となるのは,「公序良俗違反の無効」(民法90条)です。■ 表意者のみが無効を主張できる,相対的無効には,どのような種類があるでしょうか?■ ★第三者に対抗できる無効・取消のうち,相対的無効とされる第1のものは,現行条文にないのですが,学説・判例によって広く認めており,民法改正案では,民法3条の2として規定されることになっているため,ここでも取り上げることにする「意思無能力による意思表示の無効」です。■ ★第三者に対抗できる無効・取消のうち,相対的無効とされる第2のものは,「制限行為能力者による法律行為の取消し」です(民法5条~民法21条)。■ なお,制限行為能力者とは,未成年,成年被後見人,被保佐人,被補助人のことをいいます。■ ★第三者に対抗できる無効・取消のうち,相対的無効とされる第3のものは,「要素の錯誤による無効」です(民法95条)。■ ★第三者に対抗できる無効・取消のうち,相対的無効とされる第4のものは,「強迫による意思表示の取消し」です(民法96条)。■ 同じく民法96条に規定されていますが,詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗できないのに対して,強迫による意思表示の取消しは,すべての第三者に対抗できます。■ このような区別は,頭脳的な不正行為については,善意の第三者を保護するが,暴力的な行為については,善意の第三者に犠牲においても被害者を保護するというものであり,暴力装置を国家が独占しつつ,平和憲法を有する日本の特色であるといえるでしょう。■ 次は,無効・取消原因のうち,その結果が,第三者に対抗できない場合があるものについて考察します。■ 第三者に対抗できない無効・取消は,善意・無過失の第三者に対抗できないものと,より広く,善意の第三者に対抗できないものに分類されます。■ ★善意・無過失の第三者に対抗できなくなる無効・取消のうちの第1のものは,心裡留保です(民法93条)。■ ★善意・無過失の第三者に対抗できなくなる無効・取消のうちの第2のものは,動機の錯誤です。民法96条2項が,その代表例である「第三者の詐欺による意思表示」を挙げています。この例は,相手方は,詐欺を行っているわけではないため,民法の立法者は,この例は,本来の詐欺ではなく,動機の錯誤の問題であると考えていました。■ ★善意・無過失の第三者に対抗できなくなる無効・取消のうちの第3のものは,無権代理です(民法108条~民法118条)。無権代理は,相手方が善意・無過失の場合には,無効を主張できなくなります。これが,表見代理といわれているものです。■ 最後に,広く善意の第三者に対抗できなくなる無効・取消原因について考察します。■ ★善意の第三者に対抗できなくなる無効・取消原因の第1のものは,虚偽表示です(民法94条)。善意・無過失の第三者ではなく,広く善意の第三者に対抗できないとされているのは,表意者の意思が,心裡留保等に比較して,より悪質であると考えられているからです。■ ★善意の第三者に対抗できなくなる無効・取消原因の第2のものは,詐欺による意思表示です(民法96条)。■ 同じく民法96条に規定されているにもかかわらず,強迫による意思表示はすべての第三者に対抗できるのに対して,詐欺による意思表示は,善意の第三者に対抗できないのは,バランス的によくないと考える学説もあります。■ しかし,両者を区別しつつも,だまされた表意者を本当に保護しなければならない場合というのは,公序良俗に違反する法律行為である場合でもあるので,公序良俗に違反することを主張・立証することによって,強迫の意思表示と同様の効果を生じさせることができます。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

法律行為 第4節 無効・取消し 構造(4/4) 権利外観法理 の適用除外 (公序の問題) 民法90条(公序良俗違反) 意思無能力 2016/6/7 法律行為 第4節 無効・取消し 構造(4/4) 権利外観法理 の適用除外 (公序の問題) 民法90条(公序良俗違反) 意思無能力 民法5条以下(制限行為能力による取消し) 民法95条(要素の錯誤),96条(強迫取消し) 権利外観法理 の適用 (取引の安全) 本人が相手方の悪意又は有過失を立証 民法93条(心裡留保) 民法109条の表見代理 相手方が善意,本人が有過失を立証 民法94条(虚偽表示) 民法96条(詐欺取消) 民法112条の表見代理 相手方が善意・無過失を立証 民法110条の表見代理 ★法律行為の無効・取消原因の分類の第4回目,最終回です。■ 今回は,法律行為の無効・取消原因が「権利外観法理」の枠内にあるのか,枠外にあるのかに着目して,分類を行います。■ どうして,このような分類を行うかというと,民法総則を一言でいえば,権利外観法理に服する規定と,権利外観法理には服さない規定とに二分することができるからです。■ まず,権利外観法理に服さない規定について概観します。この問題は,結局,公序の問題に帰着します。■ ★権利外観法理が適用できない第1の規定は,民法90条の公序良俗違反です。■ ★権利外観法理が適用できない第1の規定は,意思無能力の法律行為です。現在のところ民法には直接の規定はありませんが,民法改正案では,民法3条の2として,規定されることになっています。■ ★権利外観法理が適用できない第3の規定は,民法5条~21条の制限行為能力者がした法律行為の取消しです。■ ★権利外観法理が適用できない第4の規定は,民法95条の要素の錯誤,および,民法96条の強迫による意思表示です。■ 次に,権利外観法理に服する規定について概観します。この問題は,取引の安全による第三者の保護の問題です。■ 権利外観法理に服する規定は,数がおおいので,これらを立証責任の観点から整理して概観します。■ 第1の類型は,本人が相手方の悪意又は有過失を立証する必要がある場合です。第三者からいえば,もっとも権利外観法理が適用されやすい場合です。■ ★この第1類型に該当する第1のものは,民法93条の心裡留保です。■ ★この第1類型に該当する第2のものは,民法109条の代理権授与表示による表見代理です。■ 第2の類型は,相手方が善意,本人が有過失を立証する場合です。■ ★この第2類型に該当する第1のものは,民法94条の虚偽表示です。■ ★この第2類型に該当する第2のものは,民法96条の詐欺による意思表示です。■ ★この第2類型に該当する第3のものは,民法112条の代理権消滅後の表見代理です。■ 第3の類型は,相手方が自らの善意・無過失を立証する必要がある場合です。第三者からいえば,権利外観法理がもっとも適用されにくい場合です。■ ★この第3の類型に該当するのは,民法110条の権限外の行為の表見代理です。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法総則 第5章 法律行為 第5節 付款 の編成 第1節 総則 第2節 意思表示 第5章 法律 行為 停止条件 第3節 代理 条件 2016/6/7 民法総則 第5章 法律行為 第5節 付款 の編成 第5章 法律 行為 第1節 総則 第2節 意思表示 第3節 代理 第4節 無効及び 取消し 第5節 条件及び 期限 条件 停止条件 解除条件 期限 不確定期限 確定期限 ★民法第1編(総則)の第5章(法律行為)の最後の節(条件及び期限)の説明をします。■ ★法律行為の第1節は,総則です。■ ★法律行為の第2節は,意思表示です。■ ★法律行為の第3節は,代理です。■ ★法律行為の第4節は,無効及び取消しです。■ ★法律行為の最後の節,すなわち,第5節は,条件及び期限です。これは,法律行為の付款と呼ばれています。■ ★法律行為の付款は,二つに分かれます。 ■法律行為の付款のうちの一つは,生じるか生じないかがわからない「条件」です。■ ★法律行為の付款のうちのもう一つは,生じるか生じないかがはっきりしているが,その時期が問題となる「期限」です。■ ★条件も,二つに分かれます。 ■条件が成就するまで,効力が停止しているのが,「停止条件」です。■ ★条件が成就すると,効力が失われるのが,「解除条件」です。■ ★期限も,二つに分かれます。 ■期限がいつ到来するか,わからないのが,不確定条件です。■ ★期限がいつ到来するか,わかっているのが,確定条件です。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法 第2編 物権 の編成 第2編 物権 第1章 総則 第2章 占有権 本権 第3章 所有権 制限物権 用益 物権 第4章 地上権 Lecture on Obligation, 2015 2016/6/7 民法 第2編 物権 の編成 第2編 物権 第1章 総則 第2章 占有権 本権 第3章 所有権 制限物権 用益 物権 第4章 地上権 第5章 永小作権 第6章 地役権 担保 物権 第7章 留置権 第8章 先取特権 第9章 質権 第10章 抵当権 ★財産法の最初は物権編です。■物権編は,どのような構造をしているのでしょうか?■ ★物権編においても,第1章は,物権法の総則です。総則に続く各論は,占有権から始まります。 ★占有権が物権かどうかについては議論があります。なぜなら,占有権は,物権というよりは,債権を含めて本権(例えば,物権ホンケンである所有権や債権ホンケンである賃借権)を取得したり,本権を証明できるというように,物権と債権の両方に係わる権利かで議論があるからです。 ★占有権に対応する本権は,完全な物権としての所有権と,それを制限する制限物権とに分かれます。 ★制限物権は,さらに,使用・収益に関する用益物権と,換価・処分に関する担保物権とに分かれます。 ★用益物権は,地上権,永小作権,地役権で構成されます。そのほかに,章のタイトルにはなっていませんが,共有の性質を有するイリアイ権が民法263条に,地役の性質を有するイリアイ権が民法294条に規定されています。 ★担保物権は,リュウチ権,サキドリ特権,シチ権,抵当権で構成されています。民法では規定されていませんが,譲渡担保権が,判例によって,担保物権として認められており,重要な役割を果たしています。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

不動産所有権の二重譲渡における対抗問題 物権 第1買主 第一売買 売主 登記 所有権移転の否認 第二売買 第176条(物権の設定及び移転) 2016/6/7 不動産所有権の二重譲渡における対抗問題 物権 第1買主 第一売買 売主 登記 所有権移転の否認 第二売買 第176条(物権の設定及び移転) 物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって,その効力を生ずる。 所有権を学習する際に,誰もが躓くのが,不動産物権変動の対抗要件の問題です。■ ★所有権を有する不動産(例えば,土地・建物)の売主がすでに所有権の登記を有しているとします。■ ★この不動産を買主(第1買主といいます)が手に入れたいと思い,不動産売主と交渉して,■ ★この不動産を3,000万円で購入するという売買契約を締結したとします。■ ★そうすると,民法176条によって,第1買主は,契約に定められた時期,通常は,売買代金の支払いをした時点で,たとえ,まだ登記を得ていないとしても,民法176条にしたがって,当該不動産の所有権を取得します。■ このことについては,争いがありません。■ ★ところが,第1売買について,登記手続きが終了していない間に,別の買主(第2買主といいます)が現れて,もっと高い金額,例えば,4,000万円で当該不動産を購入したいといってきたとします。■ ★売主としては,第1買主に3,000万円を返還し,多少の損害賠償をしても,第2買主と契約した方が利益が上がると考えたとしましょう。■ ★そして,登記を第1買主ではなく,第2買主に移転したとします。■ そうすると,この時点で,民法176条を覆す民法177条が適用されることになります。 ★民法177条が,登記をしないと第三者に対抗できないと規定している意味は,登記を得た第三者である第2買主は,第1買主の得ていた所有権の移転をはじめに遡って否認することができるということです。■ ★登記を得た第2買主によって,第1売買自体は有効なまま,売買契約の物権移転の効果が否定されるため,不動産の所有権は,はじめに遡って売主に移転しますので,■ ★登記を伴う第2売買によって,完全な所有権が第2買主に移転することになるのです。■ 以上は,不動産物権変動に関する否認説という,民法176条と民法177譲渡を矛盾なく説明できる優れた学説に従って不動産物権変動のメカニズムを説明してみました。■ ほかにも,いろいろな学説が,不動産の二重譲渡のメカニズムを説明しようとしていますが,■ 不完全物権変動説という学説は,もっともらしい説明をしていますが,学問的には,いったい何が不完全なのか不明です。■ また,公信力説は,動産の物権変動と不動産の物権変動との違いを無視しています。■ このように様々な学説を見てみると,現在のところ,不動産物権変動のメカニズムを矛盾なく説明できているのは,先に述べた,否認説だけのように思われます。■ 第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)  不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。 第2買主 KAGAYAMA Shigeru, 2016

物権と債権と担保物権との関係 物権 債権 担保物権 人 債権者 債務者 請求 請求 担保 債権者 支配 支配 掴取力 優先弁済権 使用・収益 2016/6/7 物権と債権と担保物権との関係 物権 債権 担保物権 人 債権者 債務者 請求 請求 担保 債権者 支配 支配 掴取力 優先弁済権 使用・収益 換価・処分 掴取力(強制執行) ★財産法に分類されている物権と債権という二つの権利の違いについて説明します。 ■物権と債権とはどのような違いがあるのでしょうか?■さらには,債権と担保物権とは,どこが似ており,どこが違うのでしょうか。■ ★物権とは,ヒトが物を支配する権利であり,具体的には,モノを使用,収益,換価,処分のすべて,または,いずれかを行うことのできる権利です。 ★債権とは,ある人(債権者)が他の人(債務者)に対して,あることをすること(作為),または,あることをしないこと(不作為)を要求する権利です。  なお,作為または不作為を含めて,「給付」といいますので,債権とは,「ある人(債権者)が他の人(債務者)に対して,給付を要求する権利である」と簡潔に言い換えることができます。 ★債権は,ヒトと人とに関する権利ですが,人には財産として物が帰属しています。★したがって,債務者が債務を任意に履行しないという場合,例えば,金銭債務を支払わない場合には,債権者は,債務者のすべての財産に対して強制執行をして,財産を処分し,売却代金から債権額を回収することができます。 ★このように考えると,債権も担保物権と同様に,債務者の財産を換価処分することができることになり,債権と担保物権との区別は微妙になります。すなわち,担保物権は,その他の物権とは異なり,債権に近い性質を有していることがわかります。 ★つまり,担保物権と債権との違いは,債権が他の債権者と平等の権利を有する,すなわち,弁済はすべての債権の債権額に基づいて按分比例されるのに対して,担保物権の場合には,他の債権者に先立って,優先弁済を受ける点が異なるということになります。 有体物 財産 KAGAYAMA Shigeru, 2016

担保法(人的担保・物的担保)の体系 担保法: 掴取力の強化 量的強化 (人的 担保) 責任主体を 増やす 保証 債務と保証 との結合 Lecture on Obligation, 2015 2016/6/7 担保法(人的担保・物的担保)の体系 担保法: 掴取力の強化 量的強化 (人的 担保) 責任主体を 増やす 保証 債務と保証 との結合 連帯債務 質的強化 (物的 担保) 事実上の 優先弁済権 履行拒絶の 抗弁権 留置権 法律上の 優先弁済権 優先弁済権 先取特権 優先弁済権 +留置効 質権 優先弁済権 +追及効 抵当権 ★担保物権と債権との類似点に気づくと,「人的担保」である保証と連帯債務と,物的担保である担保物権とを連続的に理解することができるようになります。  では,どのように考えると,担保法を統一的に理解することができるのでしょうか?■ ★担保法とは,ひとことで言うと,債権者のカクシュリョクを強化するものであるということができます。 ★第1は,責任財産を量的に拡大・強化する,すなわち,債務を負担する人の数を増やすというものです。これを「人的担保」といいます。 ★第2は,責任財産を質的に拡大・強化する,すなわち,他の債権者に先立って弁済を受けることができるようにするものです。これを「物的担保」といいます。 ★人的担保には,保証と連帯債務の二つがあります。保証は,債務者以外の人に責任を負わせるものです。連帯債務は,債務者同士に債務全額の責任を負わせるものであり,債務と保証とを結合するものです。 ★物的担保には,四つの権利があります。第1は,履行拒絶の抗弁権(債務の弁済を受けるまで物の返還を拒む権利)を強化した▲リュウチ権です。第2は,優先弁済権そのものとしての▲サキドリ特権です。第3は,優先弁済権に留置的効力(債務の弁済を受けるまで債務者の物を返還しない権利)をプラスした▲シチ権です。第4は,優先弁済権に追及効(財産が第三者に譲渡されても,債権者としての抵当権者が,第三者に対して目的物を換価処分できる権利)がプラスされた▲抵当権です。  このほかに,民法には明文の規定がありませんが,判例によって認められた担保物権として,譲渡担保があります。この譲渡担保は,実務では非常によく利用されており,重要な意義を有しています。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法第3編 債権の編成(債権の発生原因) 第5編 相続 第1編 総則 第2編 物権 第2章 契 約 民法 第3章 事務管理 第3編 債権 2016/6/7 民法第3編 債権の編成(債権の発生原因) 民法 第1編 総則 第2編 物権 第3編 債権 第1章 総則(債権総論) 第2章 契   約 第3章 事務管理 第4章 不当利得 第5章 不法行為 第4編 親族 第5編 相続 民法第3編(債権)の構造を概観します。■ ★民法は,5編で構成されています。その5編について復習しましょう。■ ★民法 第1編は,総則です。■ ★民法 第2編は,物権です。■ ★民法 第3編は,ここで取り上げる,債権です。■ ★民法 第4編は,親族です。■ ★民法 第5編は,相続です。■ それでは,民法第3編(債権)の章立てについて,概観しましょう。■ ★第1章は,総則です。総則というと,「民法総則」と紛らわしいので,講義では,この章を「債権総論」と呼んでいます。■ 第2章から第5章が,いわゆる債権の発生原因です。■ ★第2章は,契約です。■ ★第3章は,事務管理です。■ ★第4章は,不当利得です。■ ★第5章は,不法行為です。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

債権総論の構成 履行強制 債権の目的 対内的効力 損害賠償 対外的効力 債権の効力 債権者代位権 可分・不可分の 債権・債務 詐害行為取消権 Lecture on Obligation, 2015 2016/6/7 債権総論の構成 債 権 総 論 債権の目的 債権の効力 対内的効力 履行強制 損害賠償 対外的効力 債権者代位権 詐害行為取消権 多数当事者関係 可分・不可分の 債権・債務 連帯債務 保証 債権の譲渡 債権の消滅 弁済 相殺 更改 免除 混同 ★この講義の中心的なテーマである,債権総論は,どのような構造をしているのでしょうか?■  債権総論は,以下の五つの項目から成り立っています。 ★第1は,債権の対象としての「債権の目的」です。 ★第2は,債権の対内的効力(履行強制,債務不履行に基づく損害賠償),および,対外的効力(債権者代位権,サガイ行為取消権)に関する「債権の効力」です。 ★第3は,債権の主体の複数に関する「多数当事者の債権・債務関係」です。これには,可分・不可分の債権債務,連帯債務,保証が含まれます。 ★第4は,債権の主体の変更に関する「債権の譲渡」です。ここには,判例によって,債務者の変更に関する「債務引受」が含まれます。 ★第5は,債権の終了原因としての「債権の消滅」です。これには,弁済,ソウサイ,更改,免除,混同が含まれます。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

債務不履行の現在(三分類説とその破綻) 債務不履行 通常の場合 催告解除 Ⅰ履行遅滞 履行期に履行がないこと 定期行為 無催告解除 2016/6/7 債務不履行の現在(三分類説とその破綻) 債務不履行 債務の本旨に従った履行がないこと 履行期に履行がないこと Ⅰ履行遅滞 通常の場合 催告解除 定期行為 無催告解除 Ⅱ履行不能 帰責事由 あり 帰責事由 なし 危険負担 原則:債務者主義(解除と同じ) 例外:債権者主義(解除不可) 履行期に履行があるが瑕疵があること Ⅲ不完全履行 (瑕疵担保責任) 契約目的を達成できない 解除可能 契約目的を達成できる 解除不可 損害賠償のみ ★債務不履行とは何でしょうか?■ ★債務不履行とは,債務の本誌に従った履行がないかことです(民法415条)。■ 債務不履行は,具体的には,これを以下の二つの基準に従って,3分類します。■ ★第1は,履行期に履行があるかどうかという基準です。■ ★第2は,履行期に履行があるとすれば,その履行は債務の本誌に従った完全なものかどうかという基準です。■ そして,履行期に履行がない場合をさらに二つに分類します。■ ★債務不履行の第1類型は,履行遅滞です。■ ★債務不履行の第2類型は,履行不能です。■ そして,最後に履行期に履行があるが,目的物に瑕疵があるなど,不完全な履行である場合を加えます。■ ★債務不履行の第3類型は,不完全履行です。これは,瑕疵担保責任とも呼ばれています。■ 債務不履行に関するこれらの三類型のそれぞれについて,契約解除ができるかどうかでさらに分類を進めていきます。■ 第1類型の履行遅滞については,履行期の意味が通常の場合と,履行期が重大で,履行期が遅れると,契約をした目的を達することができないほど重大な場合,すなわち,定期行為とに二分します。■ 第2類型の履行不能については,債務者に帰責事由がある場合と,帰責事由がない場合とに二分します。■ 第3類型の不完全履行については,不完全な履行によって,契約をした目的を達することができない場合と,契約目的を達することができる場合とに二分します。■ ★第1類型の履行遅滞の場合であって,履行期が通常の意味を持つ場合には,履行遅滞があったからといってすぐに解除ができるわけではなく,相当の期間を定めて催告し,それでもなお,履行がない場合にのみ,契約を解除することができます(民法541条)。■ ★これに対して,履行期を過ぎると,契約をした目的を達することができないほどに履行期が重要な意味を持つ場合,すなわち,定期行為の場合には,履行期を過ぎた場合には,催告なしに直ちに契約を解除することができます。■ ★第2類型の履行不能の場合には,債務者に帰責事由がある場合には,債権者は,債務者に催告することなく,直ちに解除することができます(民法543条本文)。■ ★しかし,債務者に帰責事由がない場合には,債権者は,契約解除をすることができません(民法543条但し書き)。なぜなら,この場合には,債務不履行の問題として処理するのではなく,民法534条~536条に規定されている危険負担の問題として,処理が行われるからです。■ ★第三類型の不完全履行の場合には,契約をした目的を達することができないときは,債権者が契約を解除することができます(民法566条,民法570条など)。■ ★しかし,履行が不完全であったとしても,それによって,なお,契約をした目的を達することができる場合には,債権者は,契約を解除することはできません。損害賠償とか,場合によって,修補とかを請求できるにとどまります。■第2類型の履行不能の場合に戻って,債務者に帰責事由がない場合には,債務不履行の問題ではなく,危険負担の問題となるのですが,この場合について,最終的な結果がどうなるかを考えます。■ ★債務者にも,債権者にも帰責事由がない場合には,債務者の物の引き渡し義務が履行不能によって消滅し,それとともに,反対給付である債権者の代金支払義務も消滅します。■ これを危険負担の債務者主義といいます。■ この結果は,債権者が契約を解除したのと同じです。■ ★債務者に帰責事由がなく,債権者だけに帰責事由がある場合には,債務者の物の引き渡し義務は,履行不能によって消滅しますが,債権者の代金支払い義務は存続します。■ これを危険負担の債権者主義といいます。■ この結果は,債権者が契約を解除できないのと同じです。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

債務不履行の近未来(履行拒絶の追加) 債務不履行 通常の場合 催告解除 Ⅰ履行遅滞 定期行為 無催告解除 履行期に履行がないこと 2016/6/7 債務不履行の近未来(履行拒絶の追加) 債務不履行 債務の本旨に従った履行がないこと 履行期に履行がないこと Ⅰ履行遅滞 通常の場合 催告解除 定期行為 無催告解除 Ⅱ-1 履行不能 帰責事由 あり 帰責事由 なし 危険負担 原則:債務者主義(解除と同じ) 例外:債権者主義(解除不可) Ⅱ-2 履行拒絶 履行期に履行があるが瑕疵があること Ⅲ不完全履行 (瑕疵担保責任) 契約目的を達成できない 解除可能 代品請求も可能 契約目的を達成できる 解除不可 損害賠償,修補 ★債務不履行とは何でしょうか?■ ★債務不履行とは,債務の本誌に従った履行がないかことです(民法415条)。■ 債務不履行は,具体的には,これを以下の二つの基準に従って,二つに分類します。■ ★第1は,履行期に履行があるかどうかという基準です。■ 第2は,履行期に履行があるとすれば,その履行は債務の本誌に従った完全なものかどうかという基準です。■ 第2の基準については,のちに検討します。ここでは,履行期に履行がない場合に集中して考えます。■ ★債務不履行の第1類型は,履行遅滞です。■ ★通常の場合,すなわち,履行期が過ぎると契約をした目的を達することができないほどに,履行期が重要ではない場合には,■ ★債権者は,相当期間を定めて催告をし,その付加期間を過ぎても,なお,履行がない場合に限って,契約を解除することができます。すなわち,通常の場合には,解除をするには,債務不履行だけでは足りず,催告が必要です。これを催告解除といいます(民法541条)。■ ★これに対して,定期行為の場合,すなわち,履行期が過ぎると契約をした目的を達することができないほどに,履行期が重要な場合には,■ ★催告は無意味ですので,債権者は,催告なしに,履行期を過ぎた時点で,直ちに契約を解除することができます。これを無催告解除といいます(民法542条)。■ ★債務不履行の第2類型は,履行不能です。■ ★履行不能の場合には,債務者に帰責事由があるかどうかが重要な意味を持ちます。債務者に帰責事由がある場合には,■ ★債権者は,無催告で解除ができます。履行不能の場合には,すでに,契約をした目的を達することができないのですから,催告は無意味だからです(民法543条)。■ ★履行不能が債務者の責めに帰すべきでない事由によって生じた場合には,■ ★債務不履行の問題ではなく,危険負担の問題となります(民法536条)。■ ★危険負担の原則は,債務者主義です(民法536条1項)。すなわち,債務者にも,債権者にも帰責事由がない場合には,契約目的物が滅失又は損傷によって履行不能となった場合には,目的物の引渡義務も,反対給付である代金支払義務もともに消滅します。その結果は,解除ができるのと同じです。■ ★危険負担の原則に対する例外は,債務者には帰責事由がなく,債権者だけに帰責事由がある場合,例えば,受領遅滞のような場合です(民法413条)。■ この場合には,履行不能によって目的物の引渡義務は消滅しますが,債権者の反対給付義務,すなわち,代金支払い義務だけは存続します。その結果は,契約解除ができないのと同じです。■ ★債務不履行の第3類型は,民法改正案によって新たに追加された類型,すなわち,履行拒絶です。■ 履行拒絶が債務不履行の新しい類型として追加された理由は,従来の債務不履行の3類型に該当しない類型,すなわち,第1の遅滞でも,第2の不能でも,第3の不完全でもない類型が正式に承認されたからです。■ もっとも,履行拒絶は,債務不履行の3分類説の不完全さを批判する学説によって古くから主張されてきたのですが,通説は,長らく,これを無視してきました。■ 今回の民法改正案によって,やっと債務不履行の類型として,正式に追加されることになりました。■ その理由は,履行拒絶は,履行可能であるにもかかわらず,いつまでも履行を拒むという問題なので,従来の3類型には該当しないが,独立の債務不履行の類型であることが理解されるようなになったからです。 ★履行拒絶の場合には,履行不能と同様,催告は無意味ですから,債権者は,無催告で解除することができます。■ ★たとえ,履行期に履行があったとしても,履行の内容に瑕疵のある場合には,やはり,債務不履行となります。■ ★これが,従来からの債務不履行の第3類型としての不完全履行です。不完全履行は,瑕疵ある履行とも呼ばれています。■ ★不完全履行の場合には,それによって,契約をした目的を達することができない場合には,■ ★契約の解除ができます(民法566条,民法570条)。■ なお,民法改正案によると,この場合には,代替品の引渡請求も認められます。■ ★不完全履行の場合でも,それによって,契約をした目的を達することができる場合には,■ ★解除はできません(民法566条,民法570条)。損害賠償のみが請求可能です。■ もっとも,民法改正案によれば,一定の場合には,債権者に,損害賠償だけでなく,修補請求も認められます。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

債務不履行の未来(不能概念の遅滞・拒絶への吸収) 2016/6/7 債務不履行の未来(不能概念の遅滞・拒絶への吸収) 債務不履行 債務の本旨に従った履行がないこと 履行期に履行がないこと Ⅰ履行遅滞 (履行の意思あり) 通常の場合 催告解除 定期行為 無催告解除 Ⅱ履行拒絶 (履行の意思なし) 履行期に履行があるが瑕疵があること Ⅲ不完全履行 (瑕疵担保責任) 契約目的を 達成できない 解除可能, 代品請求も可能 契約目的を 達成できる 解除不可 損害賠償,修補のみ ★債務不履行に関する最も新しい考え方です。■ この新しい考え方の特色は,履行拒絶が債務不履行の独立の類型として認められた以上,履行不能という概念は,履行遅滞と履行拒絶にすべて吸収され,消滅するという画期的な考え方です。■ 履行不能というあいまいな概念を駆逐すると,危険負担というこれまで債務不履行理論を混乱させてきた概念も不要となるため,債務不履行の類型が,以下に述べるように,明確で,すっきりしたものとなります。■ ★債務不履行とは,債務の本旨に従った履行がないことである(民法415条)という,債務不履行の一元説は,ここでも維持されます。■ ★債務不履行の類型は,まず,履行期に履行がないものと,履行期に履行があっても,履行の目的物に瑕疵がある場合との二つに分類されます。■ ★債務不履行の第1類型は,従来通りに,履行遅滞です。■ ★履行遅滞の通常の場合には,■ ★債権者は,相当期間を定めて催告をし,その付加期間を過ぎても履行がない場合に,はじめて契約を解除することができます。■ ★これに対して,履行期が非常に重大な意味を持つ場合,すなわち,履行期に履行がない場合には,契約をした目的を達することができないほどに,履行期が重大な場合には,■ ★債権者は,催告なしに契約を解除することができます。なぜなら,その場合には,催告をすることが無意味だからです。■ ★債務不履行の第2類型は,履行不能に代わる履行拒絶です。■ ★債務者が履行を拒絶している場合には,付加期間を定めて催告をしたとしても,履行される可能性はないので,債権者は,無催告で契約を解除することができます。■ 以上の債務不履行の2類型の中に,履行不能は吸収されることになります。■ なぜなら,これまで,履行不能とされてきた場合というのは,履行の意思があるがいつまでも履行ができない場合(無限の履行遅滞)と,履行の意思がない場合(不能なものは履行できない)とに明確に分類できるからです。■ ★たとえ,履行期に履行があっても,履行の目的物に瑕疵がある場合も債務不履行の一種です。■ ★これが,債務不履行の第3類型としての,不完全履行です。■ ★不完全履行の場合には,それによって,契約をした目的を達することができない場合には,■ ★債権者は,契約の解除をすることができます。■ もっとも,債務者は,代替品を交付すること,または,適時に目的物の修補をするによって,契約解除をまぬかれることができます。■ ★これに対して,契約の目的物に瑕疵はあるが,それによって,契約をした目的を達することができる場合には,■ ★債権者は,契約解除をすることができません。債権者が請求できるのは,損害賠償か,修補請求に限られます。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

因果関係とは何か❓ 事実的因果関係と相当因果関係 2016/6/7 因果関係とは何か❓ 事実的因果関係と相当因果関係 Y1 共 同 行 為 不 真 正 連 帯 一 つ の 結 果 前提 Y1∩Y2∩Y3→R cine qua non Y1∪Y2∪Y3→R 関 連 共 同 事実的因果関係 Y2 Y3 Y1 部分的因果関係(相当因果関係) Y1 連帯債務 一 つ の 結 果 債務不履行や加害行為と損害発生との間の因果関係の存否については,法律上は,これまで,「あれなければこれなし」で判断される事実的因果関係と,行為が結果の発生を確率的に相当程度高めているかどうかで判断される相当因果関係の二つが考えられてきました。■ ここでは,行為者が三人以上の場合いる場合の因果関係の判定について,事実的因果関係の破綻と,それを克服するために考え出された相当因果関係の進化系としての「部分的因果関係」の考え方について説明します。 ★三人の加害行為者(債務不履行者を起こした複数の債務者でも同じ)が共同して被害者(債権者)に対して,損害を発生させたとします。■ 問題を鮮明にするために,致死量が10mgの毒を三人の加害者がそれぞれ,4mg,5mg,10mg入れて,被害者が死亡した例を考えます。■ ★事実的因果関係の理論をこの場合に適用すると,すべての場合に,この理論が破たんすることが分かります。■ 第1に,三人が毒をそれぞれ4mgずつ入れた場合には,一人を除いてみると,死亡という結果が発生しないため,一人が結果すべてについて因果関係を有することになります。しかし,この結果は,一人では,結果が生じず,三人が合わさって初めて死亡という結果が生じるという前提に反しています。■ 第2に,三人が毒をそれぞれ5mgずつ入れた場合には,一人を除いてみても,死亡という結果が生じるため,一人ひとりは,結果に対して事実的因果関係がないことが分かります。この結果は,4mgしか入れていないときは,因果関係があるのに,さらに毒の量を増やすと因果関係がなくなるという点で,理論が破綻しています。■ 第3に,三人が合毒をそれぞれ10mgずつ入れた場合には,一人でも結果を生じさせることができるのに,事実的因果関係の理論に従うと,一人を除いても結果が起こることから,すべての加害者について,因果関係がないことになり,この場合も,理論が破たんしています。■ このように,事実的因果関係は,複数の原因がある場合には,破綻する理論なので,それを免れるために,通説は,すべての行為を関連共同という便利な言葉をつかって,一つの行為にまとめ上げます。 ★三人の行為を一つの共同行為としてまとめ上げると,■ ★事実的因果関係の理論は,一つの原因しかないときには,矛盾が生じないため,複数の加害者と結果との間の因果関係を何とか切り抜けることができます。■ そして,複数の加害者は,全体に対して因果関係を有しているので,■ ★それぞれが,不真正連帯責任を有すると考えて,■ ★結果に対して,それぞれが損害の全部について責任を負うことを正当化しています。■ しかし,加害者のうち,一人が全額について損害賠償をした場合,他の加害者に対して求償ができるのですが,その求償割合は,はじめに遡って,それぞれの加害者の寄与割合を求めるほかありません。■ 矛盾を回避するために,共同行為という架空の行為を作り上げたものの,求償の段階でhあ,それが,虚構であることが明確となり,理論全体が崩壊せざるを得ません。■ このように,事実的因果関係は,どのような虚構を作り上げたとしても,複数の加害原因の場合に破綻することは明らかであり,このような破綻を回避するためには,因果関係を「あるかないか」でなく,量的に考える,すなわち,どの程度の寄与をしたのかを考慮した因果関係理論を構築する必要があります。■ このような要請にこたえるために,相当因果関係をさらに徹底した,部分的因果関係の理論です。■ ★複数の加害者が共同して一つの結果を生じた場合にも,一人ひとりの損害に対する寄与度を考えて,部分的な因果関係を算定します。■ ★部分的な因果関係の算定に際しては,例えば,実際実験,または,シミュレーション実験によって,その行為によってどの程度の確率で結果が生じるかを計算します。■ ★その計算は,ベイズの定理に基づいて求められる事後確率によって定量的に算定されます。■ ★その他の加害者についても,同様にして,部分的な確率を計算します。■ ★同様にして,すべての加害者に対して,部分的な因果関係をベイズの定理の事後確率として求め,その数値を寄与割合として算定します。■ ★各人の寄与割合は,求償の際に大きな意味を持ちます。この点が,事実的因果関係の理論が,はじめに遡って考え押す必要が生じ,結局のところ,関連共同に基づく一つの共同行為とみなす点に破綻が生じているのとは異なり,部分的因果関係の場合には,部分的な因果関係という定量的な概念が,最初から最後まで,一貫して意味を持つことになります。■ ★被害者に対しては,各加害者が,被害者に対して,いったんは,全額について連帯責任を負います。■ しかし,各加害者は,最終的には,各加害者間の求償を通じて,部分的因果関係に相応した責任だけを負担することになります。■ Y2 部分的因果関係(相当因果関係) Y2 Y3 Y3 部分的因果関係(相当因果関係) KAGAYAMA Shigeru, 2016

ベイズの定理を用いた 部分的因果関係の計算方法 2016/6/7 ベイズの定理を用いた 部分的因果関係の計算方法 事前確率 p(Cn) 条件付確率 p(R|Cn) 事後確率 p(Cn|R) 原因(C1) 0.5 p(C1|R) ≒0.86 0.6 R (結果) 原因(C2) 0.5 0.1  事実的因果関係の「あれなければ,これなし」という判断基準は,「もしも原因と考えられる事象がなかったとすると,結果は生じただろうか?」という仮説を立て,もしも,原因と考えられているものを除去すれば,結果が生じないようだったら,それが,結果の原因と考えるという思考方法でした。 ■この思考方法の第1の問題点は,さきにのべたように,原因が複数の場合には破綻するというものでした。 ■この思考方法の第2の問題点は,科学的な実験にはなじまないという点です。 ■これに反して,科学的な実験の結果を取り入れて,確率的な因果関係を明らかにすることができるのが,ベイズの定理です。 ★例えば,結果を生じさせる原因としてC1と ★C2とが考えられるとします。■ ★実験の結果,C1からは,0.6の確率で,結果Rが生じるとします。■ ★同様にして,C2からは,0.1の確率で,結果Rが生じるとします。 ■ベイズの定理によれば,その結果を逆向きに計算して,結果Rが,C1から生じた確率,および,C2から生じた確率を計算することができます。 ★ベイズの定理の計算によれば,結果RがC1から生じた確率は,0.86であり, ★結果RがC2から生じた確率は,0.14であることがわかります。 ■この結果をもとにして,二つの方法を選択することができます。 ■第1は,自由心証主義の前提のもとに,裁判官に対して,結果Rの原因は,C1であることを説得する方法です。 ■第2は,C1とC2とが,ともに,原因を作出したヒトである場合において,結果Rに対して,C1とC2とは,結果Rに対して,連帯責任を負い,その負担部分は,それぞれ,C1は,100分の86,C2は,100分の14であると主張することです。 p(C2|R) ≒0.14 KAGAYAMA Shigeru, 2016

2016/6/7 損害とは何か(差額説) 差額 = 仮定的(事故前の)財産状態 - 現実(事故後)の財産状態 差額=事故前の財産状態(収入)-(事故後の収入-支出(費用)) 差額=(事故前の収入-事故後の収入(逸失利益))+支出(費用) (差額=消 極 的 損 害 + 積 極 的 損 害)…法律家は足し算がお好き) 損害とは何でしょうか?■ 損害とは,差額説によって,仮定的な(すなわち,事故前の)財産状態 マイナス 現実の(すなわち,事故後の)財産状態であると定義されています。■ ★実際の例で示してみましょう。事故前の被害者の収入は月額30万円だったとします。それが,事故後,4か月間について,仕事ができなくなって,収入が20万円,10万円,5万円と減少し,治療の甲斐があって,少しずつ持ち直し,10万円になったとします。■ その間,事故によって被った傷害の治療費が,毎月,20万円,15万円,10万円,5万円,必要となったとします。この場合の損害額は,差額説によって,毎月,30万円,35万円,35万円,25万円と算定されます。 ★1か月目の損害は,差額説によれば,30-(20-20)=30万円となります。■ ★2か月目の損害は,差額説によれば,30-(10-15)=35万円となります。■ ★3か月目の損害は,差額説を変形して,先に収入の変化(すなわち,消極損害),次に費用(すなわち積極損害)をプラスするという方法でも計算できます。■ つまり,差額説の30-(5-10)=35は,(30-5)+10=35と計算することもできるわけです。 ★4か月目も,同様にして,差額説で計算する代わりに,消極損害20万円+積極損害5万円=25万円というように,足し算に変形することができます。■ 法律家は,算数が苦手な人が多いため,差額説における,マイナスのマイナスはプラスになるということが理解できない人がいるようで,損害とは,消極損害プラス積極損害であるとして理解している人の方が多いようです。■ しかし,実は,消極損害を求めるには,引き算が必要であり,結局のところ,引き算と足し算をすることになるのですから,マイナスだけで計算ができる差額説の方が,定義にも忠実だし,数学的にhあ,単純でわかりやすいといえそうです。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

債権各論 第2章 契約 第1節 総論の構成 成立 契約 総論 効力 債権 総論 Ⅲ 債 権 契約 解除 契約 各論 事務管理 債権 各論 Lecture on Obligation, 2015 2016/6/7 債権各論 第2章 契約 第1節 総論の構成 Ⅲ 債 権 債権 総論 債権 各論 契約 契約 総論 成立 効力 解除 契約 各論 事務管理 不当利得 不法行為 ★第3編(債権)は,どのような構造をしているのでしょうか?■ ★第3編(債権)は,債権総論としての債権総則と,それに続く債権各論とに分かれます。 ★債権各論は,債権の発生原因であり,契約,事務管理,不当利得,不法行為の四つに分かれます。 ★契約は,さらに,契約総論としての契約総則と,それに続く契約各論があり,13の典型契約が規定されています。 ★契約総論は,契約の成立,契約の効力,契約の解除に分かれています。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

契約の流れ図 Start End 成立 不当利得 有効 効力発生 未発生 履行強制 履行 免責 契約解除 損害賠償 No(不成立) Yes 2016/6/7 Start 契約の流れ図 No(不成立) 成立 不当利得 Yes No(取消し・無効) 有効 (停止条件・始期が未到来) Yes No(条件・期限) (解除条件・終期が到来) 効力発生 未発生 Yes 履行強制 No(不履行) No(救済) ★これから契約の流れについて説明します。どんな契約を考える場合でも,この順序で考えると,必ず,問題の解決の核心をつかむことができます。■ ★第1の問題は,契約は成立しているかどうかです。通常は,申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致しているかどうかで判断されます。詳しくは,次の「契約成立流れ図」で説明します。■ ★申込みと承諾が一致していないなどの場合には,契約不成立となります。■ ★契約が不成立にもかかわらず,契約が成立していると信じて当事者の一方が履行をしていたとすると,その問題は,不当利得の問題として処理されます。不当利得については,のちに詳しく説明します。■ ★契約が成立している場合には,次の問題に移ります。■ ★第2の問題は,契約が有効かどうかという問題です。■ ★契約が無効,または,取消しによって無効となると,契約の不成立の場合と同様,不当利得の問題となります。■ ★契約が有効である場合には,次の問題に移ります。■ ★第3の問題は,有効な契約の効力がいつ発生するかどうかです。■ ★契約に停止条件とか,始期とかが付されている場合には,■ ★停止条件が成就しているかどうか,始期が到来しているかどうかが問題となります。■ ★停止条件が成就していないか,始期が到来していない場合には,効力が発生するまで,その判断を繰り返す必要があります。■ ★契約に解除条件とか,終期とが付されている場合には,■ ★解除条件,または,終期が到来すると,契約は,特別の事情がない限り,終了します。■ ★有効な契約の効力が発生すると,第4の問題として,履行があるかどうかが問題となります。■ ★履行期に履行がない,または,履行はあっても不完全な場合には,■ ★債務者が免責されるかどうかが問題となります。■ ★債務者が免責される場合には,契約問題は,それで終了します。■ ★債務が履行されず,かつ,免責がない場合には,債務不履行として,■ ★債権者の救済が図られなければなりません。■ ★債権者の救済手段の第1は,履行の強制です(民法414条)■ ★債権者の救済手段の第2は,契約をした目的を達することができないときに限って認められる■ ★契約の解除です。■ ★債権者の救済手段の第3は,債務者に帰責事由がある場合に認められる■ ★損害賠償請求です。■ ★以上の問題が解決されると,契約問題は,すべて終了します。■ 履行 免責 契約解除 損害賠償 Yes End KAGAYAMA Shigeru, 2016

契約成立の流れ図 START 契約成立 申込発信 申込到達 承諾期間の定めなし 申込撤回 承諾発信 承諾発信 承諾延着 承諾到達 2016/6/7 START 申込発信 契約成立の流れ図 能力喪失 能力 不喪失 反対の 意思なし 能力喪失不知 申込到達 承諾期間の定めなし 申込撤回 承諾期間 定めあり 申込 撤回なし 撤回到達前 承諾発信 承諾発信 承諾発信 撤回 延着なし 撤回延着通知あり さきに,契約全体の流れ図の解説をしました。今回は,契約全体の流れのうちの,第1の契約の成立についての流れ図の解説をします。 ★契約の成立は,申込みと承諾の合致によって成立しますので,その通常の場合である,申込みと承諾が合致して,契約が成立する,通常の流れを説明します。■ ★第1は,申込みの発信です。■ ★第2は,申込者が申し込みが到達するまでに行為能力を失わないことです。それまでの間に能力を失った場合については,のちに検討します。■ ★第3は,申込みが被申込者に到達することです。■ ★第4は,申込みに承諾期間があるのが通常ですので,その場合について検討します。■ 申込みに承諾期間が定められていない場合については,のちに検討します。 6★第5は,申込みに応じて,被申込者が承諾を発信することです。■ 7★第6に,承諾期間が定められている場合には,承諾は,承諾期間内に申込者に到達しなければなりません。■ 8★第7に,承諾が申込期間内に申込者に到達すると,申込みの発信時点に遡って,契約が成立します。■ 承諾期間内に申込みが到達しない場合でも,郵便の遅配などが原因である場合の例外については,のちに検討します。■ 以上が,契約の成立に関する通常の流れです。■ しかし,以上の通常の場合に外れる場合であっても,以下に述べる場合には,契約が成立します。■ 9★第2の場合の例外として,申込者が申込みの発信後に行為能力を失った場合であっても,■ 10★申込の到達までに行為能力を失ったら,契約は成立しないとの約束がある場合を除いて,■ 11★申込者が行為能力を失ったことを知らずに,被申込者が,申込みを受領した場合には,契約の成立の可能性があります。■ 12★第4の例外として,申込みに承諾期間の定めがない場合について考察します。■ 13★承諾期間の定めがない場合には,申込みが被申込者に到達してから相当期間が経過しても,被申込者が承諾をしない場合には,申込者は申込みを撤回することができます。■ しかし,申込みを撤回しないこともできます。■ 14★申込者が申込を撤回しないうちに承諾を発信すれば,申込みの撤回の効力が生じないので,契約が成立する方向に向かいます。■ 15★申込者がたとえ申込を撤回しても,その撤回通知が被申込者に到達する前に,被申込者が承諾を発信した場合には,申込みの撤回は効力を失います。■ 16★そして,撤回通知に延着がない場合,および,■ 17★撤回通知が延着した場合であっても,そのことを被申込者が申込者に対して,遅滞なく通知すると,やはり申込みの撤回は効力を生じないため,契約の成立に向かいます。■ 18★このように,申込みの撤回が効力を生じない場合に,被申込者の承諾が申込者に到達すると,■ 19★契約が成立します。■ 20★申込みに承諾期間が定められている場合に,承諾が承諾期間内に到達しない場合,すなわち,承諾が延着した場合であっても,■ 21★申込者が,承諾が延着したことを被申込者に対して,遅滞なく通知をするのを怠った場合には,契約は成立します。■ 期間 内到達 承諾延着 承諾到達 延着 通知なし 契約成立 KAGAYAMA Shigeru, 2016

典型契約(契約類型)の体系 典 型 契 約 財産権を 移転する (返還不要) 無償 1. 贈与 有償 対価が金銭 2. 売買 対価が物 2016/6/7 典型契約(契約類型)の体系 典 型 契 約 財産権を 移転する (返還不要) 無償 1. 贈与 有償 対価が金銭 2. 売買 対価が物 3. 交換 返還必要 4. 消費貸借 移転しない 返還必要 物の利用 5. 使用貸借 6. 賃貸借 役務の提供 従属的 (時間決めで) 7. 雇用 独立的 仕事の完成 8. 請負 事務の処理 9. 委任 物を預かる 10. 寄託 事業を営む 団体形成 11. 組合 年金事業 12. 終身定期金 紛争の解決 13. 和解 ★民法は,13の契約について,詳しい規定を置いています。これらの13の契約を典型契約と呼んでいます。■ 13の典型契約以外にも,世の中には様々な契約が存在しており,民法にも,そのほかの法律にも規定がない契約,例えば,ファイナンス・リース契約などについても,裁判になれば,契約通りの拘束力が認められています。■ 民法に13の契約が典型契約として規定されている理由は,これれが,代表的な契約であり,これら契約を変形したり(売買契約の変形としての制作物供給契約など),組み合わせたり(売買と消費貸借を組みあせた割賦販売,請負と寄託の組み合わせとしてのクリーニング契約など)することによって,社会的に有用な契約が生成できるからです。■ ★典型契約は,財産権を移転する契約と,財産権を移転しない契約とに二分されます。■ ★財産権を移転する契約は,一度移転した財産権を返還する必要のない契約と,いったんは財産権が移転しますが,最終的には,それを返還しなければならない契約とに二分されます。■ ★財産権を移転したら,返還を要しない契約は,さらに,無償で財産権を移転しない契約と有償で財産権を移転する契約とに二分されます。■ 無償で財産権を移転する契約は何でしょうか? ★無償で財産権を移転する契約とは,贈与です。■ ★有償で財産権を移転する契約は,対価が何かで,さらに二分されます。■ ★有償で財産権を移転する契約のうち,対価が金銭による契約とは何でしょうか?■ ★それは,売買契約です。■ ★対価が物である契約は何でしょうか?■ ★それは,交換契約です。■ ★一旦は財産権を移転したのち,最終的には,返還が必要な契約は何でしょうか?■ ★それは,消費貸借契約です。■ ★最初に戻って,財産権を移転しない契約について分類を続けます。■ ★目的物の返還を必要とする契約のうち,物の利用(すなわち,使用と収益)を目的とする契約は,二つに分類されます。■ ★物を無償で利用する契約は何でしょうか?■ ★それは,使用貸借です。言葉は使用だけですが,実質は,使用と収益とができます。■ ★物を有償で利用する契約は何でしょうか?■ ★それは,賃貸借契約です。■ ★財産権を移転しない契約のうち,役務の提供契約,すなわち,サービス契約も二つに分類されます。■ ★役務提供契約のうち,もっとも典型的な契約は,役務を時間決めで提供する契約ですが,それは何契約でしょうか?■ ★それは,雇用契約です。■ ★役務の提供契約のうち,専門家に仕事や事務を依頼する契約は,仕事の完成まで依頼する契約,結果は問わないが,最大の注意をして事務の処理を行うことを依頼する契約,物を預かってもらう契約の三つに分かれます。■ ★仕事の完成を依頼する契約は何でしょうか?■ ★それは,請負契約です。■ ★結果は問わないが,最大の注意をして事務の処理を行うことを依頼する契約は,何でしょうか?■ ★それは,委任契約です。■ ★物を預かってもらう契約は,何でしょうか?■ ★それは,寄託契約です。■ ★事業を営むためにする契約は,団体を形成する契約と,年金事業を扱う契約の二つに分かれます。■ ★事業を営む契約のうち,団体の形成を行ったうえで,事業を営む契約はなんでしょうか?■ ★それは,組合契約です。■ ★事業を営む契約のうち,年金事業を扱う契約は何でしょうか?■ ★それは,終身定期金契約です。■ ★最後に,紛争を解決するために,当事者間で締結する契約は何でしょうか?■ ★それは,和解契約です。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

不当利得法(債権の受け皿)の構造 不 当 利 得 一般 不当利得 民法703条,704条 特別 不当利得 給付 不当利得 肯定 2016/6/7 不当利得法(債権の受け皿)の構造 不 当 利 得 一般 不当利得 民法703条,704条 特別 不当利得 給付 不当利得 肯定 民法703条,704条,121条但し書き 否定 民法705条,706条,707条1項,708条 侵害 不当利得 民法189~191条, 民法248条 支出 不当利得 民法707条2項 ★不当利得についてその構造を説明します。■ 従来は,不当利得は,民法の債権発生原因のうち,最も謙虚な性質(すなわち,補助性)を持つ規定であり,他の発生原因がない場合にのみ生じる規定であると考えられてきました。 ★特に,一般不当利得とされる■ ★民法703条,民法704条は,他の債権の発生原因が成立しない場合,さらに言えば,契約が不成立とか無効となった場合,すなわち,契約になり損ねた場合とか,他人の事務管理をしているが,他人のためにする意思を欠いているため事務管理になり損ねた場合とか,故意又は過失がないため,不法行為になり損ねた場合とか,要するに,他の債権の発生原因になり損ねた法律関係を最後にまとめて処理する,「最後の受け皿」と考えられてきました。■ ★しかし,不当利得を,他の債権の発生原因の受け皿であると考えるのであれば,それぞれの場合の受け皿にそれぞれ名前を付けることができることが分かります。そして,それらを,特別不当利得ということができます。 ■ 不当利得を二分し,最後の手段としての一般不当利得(民法703条,民法704条)と,その他の不当利得(民法705条~708条,及び,各編に散らばって規定されている条文,例えば,民法121条但し書き,民法189条~191条の占有不当利得,民法248条の添付(すなわち,付合,混和,加工)による不当利得)を特別不法行為として,区別することができます。■ つまり,不当利得を類型化し,特別不法行為を,契約になり損ねた「給付不当利得」,事務管理になり損ねた「支出不当利得」,不法行為になり損ねた「侵害不当利得」というように,債権の発生原因に即しして三つに分類すると,不当利得を一律に「公平の観点から考察する」のではなく,各類型ごとの特色を尊重しながら,しかも,体系的に考察することができるようになります。 ★特別不法行為の最初の類型は,給付不当利得です。これは,契約になり損ねた不当利得です。■ ★給付不当利得については,それが肯定される規定としては,■ ★一般不法行為と共通の民法703条,704条のほか,民法121条但し書き(取消の場合の制限行為能力者の返還義務)に規定があります。■ ★給付不当利得について,それが否定される形で規定されているものとしては,■ ★民法705条(非債弁済),民法706条(期限前弁済),民法701条第1項(錯誤弁済)の規定があります。■ ★給付不当利得については,■ ★民法189条~民法191条の占有不当利得が不法行為になり損ねた不当利得として,不法行為の要件を満たしている場合であっても,あえて,善意の場合と悪意の場合とを区別し,民法703条と民法704条に類する規定を用意する(民法191条)など,一般不当利得の補充性に対する例外規定を設けています。■ また,民法248条は,法律上の原因があって添付が生じるにもかかわらず,それによって損失を受けた場合には,一般不当利得の規定を適用するというのですから,「法律上の原因がないこと」という,不当利得の最も重要な要件を覆すものです。このように,侵害不当利得は,不当利得の中でも,特に際立った特色を有しています。■ ★支出不当利得は,事務管理になり損ねた不当利得ですが,これについては,■ ★民法707条第2項が規定をしています。つまり,民法707条は,第1項で,債権者を保護するために,錯誤弁済者の給付不当利得を否定しつつ,錯誤弁済者に支出不当利得を認めた規定であるということができます。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法707条(錯誤弁済)の構造 債権者 債務者 債権 債権(行使不能) ×給付不当利得 錯誤による弁済 第三者 2016/6/7 民法707条(錯誤弁済)の構造 第707条(他人の債務の弁済) ①債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において, 債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し,担保を放棄し,又は時効によってその債権を失ったときは, その弁済をした者は,返還の請求をすることができない。 証書滅失・損傷,担保放棄,時効消滅 債権者 債務者 債権 債権(行使不能) ×給付不当利得 支出不当利得 錯誤による弁済 不当利得の類型論のうち,支出不当利得については,民法の概説書では,あまり取り扱われていませんが,事務管理になり損ねた不当利得として,重要な機能を果たしているので,ここで解説しておきます。■ 1★債権者が■ 2★債務者に対して■ 3★債権を有している場合において,■ 4★第三者が,自分が債権者だと思ったり,保証人だと勘違いして,すなわち,錯誤によって弁済したとします。■ この場合に,第三者が債務者だとは思わず,第三者として弁済するのであれば,事務管理の規定によって,問題が解決されるのですが,第三者が自分が債務者だと思って弁済した場合には,事務管理は成立しません。■ つまり,この場合こそが,まさに,事務管理になり損ねた不当利得の類型に該当するわけです。■ 5★民法707条は,この意味で,支出不当利得の規定であることが分かります。■ 6★弁済を受けた債権者は,債務者を名乗る者から弁済を受けたのですから,安心して,債務者に対する証書を破いて捨てたりしたり,担保は不要と考えて放棄したり,請求をしないまま,時効期間が経過したりして,その債権を失ったり,事実上行使できなくなるという事態が生じます。■ 7★この場合に,錯誤の場合の原則通りに,第三者による弁済を無効として,第三者に給付不当利得を認めると,債権者は,債務者には債務を請求できないばかりか,第三者には,弁済として受領した物を返還しなければならいとしたら,踏んだり蹴ったりということになりかねません。■ 元はといえば,第三者が錯誤に陥ったのが原因なのですから,民法707条1項は,第三者の給付不当利得請求権を否定しています。 8★そして,民法707条2項は,第三者は,債権者ではなく,債務を免れて利得を受けた債務者に対して,利得の返還を求めること,すなわち,債務者に求償することを認めています。■ 民法707条2項の「求償権の行使を妨げない」という文言は,事務管理における費用償還請求権を思い出させる文言であり,結局のところは,民法707条は,錯誤弁済について,本人のためにする意思がないために事務管理の成立を否定しつつ,支出不当利得の法理を通じて,民法702条1項の事務管理に準じる効果を与えたことになります。■ 第三者 ②前項の規定は,弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

不法行為法の構成 単独不法行為(709条) 一般不法行為 共同不法行為(719条) 監督者責任(714条) 第5章 不法行為 2016/6/7 不法行為法の構成 第5章 不法行為 一般不法行為 単独不法行為(709条) 共同不法行為(719条) 特別不法行為 監督者責任(714条) 使用者責任(715条) 注文者責任(716条) 土地工作物責任(717条) 動物占有者責任(718条) 名誉毀損(723条) 不法行為には,一般不法行為のほか,一般不法行為を基礎としつつ,一般不法行為の要件よりも証明が容易な一定の事由(例えば,故意又は過失に代えて瑕疵等)を証明した場合には,故意又は過失,または,因果関係の立証責任の転換を行い,被害者の救済を容易にする特別不法行為という二つの類型があります。 ★不法行為には,一般不法行為と特別不法行為の二つの類型から成り立っています。■ ★一般不法行為は,従来は,民法709条だけと考えられてきましたが,これは,加害者が一人の場合の一般不法行為であり,加害者が複数の場合の一般不法行為は共同不法行為に関する民法719条なので,ここでは,民法719条も一般不法行為として取り扱うことにします。■ ★特別不法行為とは,一般不法行為を基礎としつつ,一般不法行為の要件よりも証明が容易な一定の事由(例えば,故意又は過失に代えて瑕疵等)を証明した場合には,故意又は過失,または,因果関係の立証責任の転換を行い,被害者の救済を容易にするという不法行為類型です。■ ★一般不幸行為の典型は,民法709条です。一般不法行為は,刑法と同様に類型論にこだわるローマ法には存在せず,17・18世紀における自然法思想(特にドマ(1625~1696年)の考え方)によって生じた考え方であり,これが法文化されたのは,フランス民法典(1804年)が初めてです。■ したがって,ローマ法の伝統を受けつぐ,ドイツ民法(1900年)には,一般不法行為法は存在せず,個別的な権利の侵害が要件となっており,絶対権と相対権とでは,救済方法も異なります。■ ★単独の加害者に関する一般不法行為法が民法709条であるのに対して,複数の加害者に関する一般不法行為法は,民法719条です。■ 民法709条が,不法行為の個別類型から離れて,すべての不法行為について被害者の救済を確報するものであったのと同様,民法719条の場合には,複数の加害者に連帯責任を課すことによって,被害者の救済を容易にしています。■ もちろん,複数の被害者のうちのいずれかがその寄与割合を超えて被害者に弁済した場合には,弁済した加害者は,連帯債務の規定に従って,他の加害者に対して,寄与部分に応じて求償することができ,最終的には,それぞれの加害者は,寄与部分に応じた責任のみを負担することになります。■ ★特別不法行為のうちの第1は,民法712条,713条によって責任を免れる責任無能力者に代わって,責任無能力者の監督者が民法714条によって責任を負うというものです。民法709条の特別法です。■ ★特別不法行為のうちの第2は,民法715条の使用者責任です。被用者が起こした事故について,使用者も責任を負うものであり,民法719条の特別法です。この規定は,近年,適用頻度が高まっており,「利益のある所に損失も帰属する」という,報償責任の一つと考えられています。■ ★特別不法行為のうちの第3は,民法716条の注文者責任です。請負人が起こした不法行為について,注文者の責任を負うという,民法719条の特別法です。■ ★特別不法行為のうちの第4は,民法717条の土地工作物責任です。土地工作物の設置又は管理に瑕疵があった場合に,土地工作物の占有者,所有者,瑕疵を作出した原因者の責任を規定している,民法719条の特別法です。■ 土地工作物の設置又は保存に瑕疵があって,事故が生じた場合,最初に責任を負うのは,土地工作物の占有者です(民法717条1項本文)。■ 占有者が相当の注意をはらったことを証明した場合には,占有者は免責され,所有者のみが責任を負います(民法717条1項但し書き)。■ もっとも,土地工作物の瑕疵が第三者の故意または過失によって生じた場合には,損害賠償をした占有者又は所有者のその原因を作出した第三者に求償することができます(民法717条3項)。■ ★特別不法行為のうちの第5は,民法718条の動物占有者の責任です。動物が事故を起こした場合に,その占有者が責任を負うという,民法709条の特別法です。■ 特別法であるという理由は,故意又は過失について,証明責任が転換されているからです。すなわち,被害者は,加害者の故意または過失を証明する責任を負いません。反対に,占有者が,動物の管理について,その種類および性質に応じて当の注意を払ったことを証明しない限り,責任を免れることができません。■ ★特別不法行為のうちの第6は,民法723条の名誉棄損に関する民法709条の特別法です。■ 名誉棄損の加害者は,損害賠償に代えて,または,損害賠償とともに,被害者の名誉を回復するに必要な措置を講じる責任,すなわち,原状回復までも負担しなければなりません。■ なお,名誉棄損の意味は,刑法第230条,および,刑法230条の2と同じく,「公然と事実を摘示し、人の名誉,すなわち,社会的評価を低下させること」をいいます。この場合に,加害者の行為が,「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは」,不法行為責任を負いません。■ 真実であるとの証明ができない場合でも,「真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由が あるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しない」ため,加害者は責任を負いません(最高裁昭和41年6月23日判決 最高裁民事判例集20巻5号1118頁)。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

不法行為の流れ図 Start End 責任能力 故意 過失 因果関係 損害発生 時効期間内 損害賠償 Yes No Yes 2016/6/7 ★契約の流れ図と同様にして,一般不法行為の流れ図を作成してみました。■ ★不法行為責任を問うためには,第1に,加害者に責任能力があることが必要です。責任能力がない場合には,加害者は責任を負いません(民法712条,713条)。■ その場合には,責任無能力者の監督者が肩代わり責任を負うことになります(民法714条)。■ この場合には,監督者の不法行為責任が問題となり,Startに戻って,監督者について,不法行為の流れ図で責任を判断することになります。■ もっとも,このような特別不法行為責任については,次に紹介する電気回路図によって判断する方が,証明責任の転換などがわかりやすく表示されるため,使い勝手がよいと思います。■ ★不法行為責任を問うためには,第2に,加害者に故意,または,■ ★過失があることが必要です。■ 民法では,刑法とは異なり,故意と過失とは同等に扱われます。故意だからといって損害賠償額が多くなったり,過失だからといって,損害賠償額が少なくなるわけではありません。■ 過失は,伝統的には,「ボーっとしている」など,加害者の心理的な緊張感のゆるみと考えられてきましたが,近年では,予見できる損害を回避する義務を怠ったこと,すなわち,注意義務違反又は結果回避義務違反というように,行為のレベルで考えるのが通説となり,故意とは異なり,証明が容易になりつつあります。 ★不法行為責任を問うためには,第3に,加害者の行為と被害者に発生した損害との間に,因果関係があることが必要です。■ ★不法行為責任を問うためには,第4に,被害者に損害が発生することが必要です。■ ■もっとも,損害が発生することが予見でき,いったん損害が発生するとその回復が困難である場合には,損害が生じる前に,差止請求ができるというのが,最近の新しい考え方です。その実現方法は,民法414条3項の不作為義務の強制履行の方法によるのが適切であると,私は考えています。■ なぜなら,すべての人は,民法709条の趣旨に基づいて,他人に対して,回復困難な損害を生じさせないようにする不作為義務を負っていると考えるからです。そのように考えると,差止請求は,民法414条3項の不作為債務の強制履行として実現できることになります。■ ★不法行為責任を問うためには,第5に,消滅時効の期間内に請求する必要があります。■ すなわち,被害者が権利を行使できるときから,具体的には,加害者を知ってから3年,不法行為の発生の時から20年を経過すると,不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅してしまいますので,その期間までに請求する必要があります。■ ★以上の五つの要件を満たした場合には,被害者は加害者に対して,不法行為に基づく損害賠償を請求できます。■ 損害賠償 End KAGAYAMA Shigeru, 2016

一般不法行為法の電気回路図による表現(1/4) 2016/6/7 一般不法行為法の電気回路図による表現(1/4) 故意又は 過失 因果関係 損害発生 責任無能力 免責事由 過失相殺 加害者を知って から3年経過 事故から20年経過 一般不法行為の要件と効果とを電気回路図で表現してみます。■ このような表現方法は,(1) 被害者が証明責任を負う不法行為の成立要件,(2) 加害者が証明責任を負う不法行為の成立障害要件,いったん効果が発生したのちの問題であり,加害者に立証責任がある,(3)不法行為の消滅要件をきちんと区別することができる点で有益だと思います。■ 1★第1は,不法行為の成立要件です。■ 被害者である原告が,(1)故意又は過失,(2)加害者の行為と被害者に発生した損害との間の因果関係,(3)被害者に損害が発生していることを証明しなければなりません(民法709条)。■ 2★第2は,不法行為の成立障害要件です。 ■上記の成立要件が証明された場合には,加害者である被告が,(4)加害者に責任能力がないこと(民法712条,713条),または,正当防衛や緊急避難などの免責事由(民法720条)があることを証明しなければなりません。■ 3★以上の成立要件が証明され,成立障害要件が証明されない場合には,被害者側にも過失がある場合には(正確には,被害者自身が損害の発生に寄与した場合には),損害賠償額が減額されることはありますが(民法722条),損害賠償請求が認められます。■ これが,不法行為の効果です。■ 4★第3は,不法行為の消滅要件です。■ 被害者が,加害者を知ってから3年,または,事故から20年を経過してしまうと,不法行為に基づく損害賠償請求権は,消滅時効によって消滅してしまいます。■ 損害賠償 消滅時効 KAGAYAMA Shigeru, 2016

一般不法行為法の電気回路図による表現(2/4) 2016/6/7 一般不法行為法の電気回路図による表現(2/4) 故意又は 過失 因果関係 損害発生 責任無能力 免責事由 過失相殺 これから,2枚の図を使って,一般不法行為と特別不法行為との関係を説明します。■ ★まず,不法行為の成立要件を被害者である原告がすべて証明すると損害賠償請求権が認められます。■ ★しかし,加害者である被告が,不法行為の成立障害事由,ここでは,責任無能力を証明すると,不法行為の効果である損害賠償請求権は発生ません。■ しかし,このままでは,被害者は泣き寝入りをしなければならなくなります。■ このような場合に,被害者を救済するのが,特別不法行為である民法714条の監督者責任の規定です。■ この規定についは,次の図で説明します。■ 損害賠償 KAGAYAMA Shigeru, 2016

一般不法行為法の電気回路図による表現(3/4) 2016/6/7 一般不法行為法の電気回路図による表現(3/4) 故意又は 過失 因果関係 損害発生 責任無能力 無過失 ★前の図では,加害者に責任能力がないため,民法712条,713条に従って,被害者には,不法行為に基づく損害賠償請求権は発生しないところまで説明しました。■ ★しかし,被害者を救済するために,民法714条は,責任無能力者に代わって,監督責任者が責任を負うべき場合について規定しています。■ 責任無能力者の監督者,例えば,未成年者の法定代理人は,民法714条本文によって,責任能力がない未成年者に代わって不法行為に基づく損害賠償責任を負うのですが,■ その場合の,不法行為責任の成立要件は,被害者の救済を厚くするため,民法714条但し書きによって,過失についての証明責任を転換しています。■ つまり,監督義務者は,監督義務者として,その義務を怠らなかったこと,すなわち,無過失であることを証明した場合に限って責任を免れることにしています。■ ★このことを電気回路図では,故意又は過失の箇所に新たに作成したバイパスによって表現することができます。■ このように,電気回路図によれば,被害者である原告が,責任無能力者に代わって責任を負うべき監督義務者を被告として訴える場合には,原告は過失について証明責任を負わず,反対に,被告が無過失について証明責任を負うことを,わかりやすく表現することができるのです。■ 特別不法行為のすべての類型も,同様にして,一般不法行為に関する電気回路図にバイバスを設けるだけですべてを説明できるので,この点でも,不法行為法を電気回路図で表現することは,大きな意味を持つと,私は考えています。■ 免責事由 過失相殺 損害賠償 KAGAYAMA Shigeru, 2016

一般不法行為法の電気回路図による表現(4/4) 2016/6/7 一般不法行為法の電気回路図による表現(4/4) 故意又は 過失 因果関係 損害 責任無能力 免責 過失相殺 ★不法行為の電気回路図による表現の最後に,いったん発生した不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅する場合を表現することにします。■ すなわち,今回は,成立要件がすべて証明され,反対に,成立障害要件は,すべて証明されなかったため,不法行為に基づく損害賠償請求が発生している状態にあります。 ★この状態において,被告が,原告が被告を知ってから,すでに3年が経過している,または,事故からすでに20年を経過していることを証明すると,どうなるでしょうか?■ ★消滅時効の要件が満たされて,コイルに電気が流れ,損害賠償請求権につながるスイッチが遮断されるため,損害賠償請求権を示す電灯は,消えてしまいます。すなわち,損害賠償請求権は,時効によって消滅します。■ 3年経過 20年経過 損害賠償 消滅時効 KAGAYAMA Shigeru, 2016

幻影・残滓としての中央集権的な家制度 (民法旧規定) 2016/6/7 幻影・残滓としての中央集権的な家制度 (民法旧規定) 氏 戸主 (家長) 家族 父(母) 後継者:長男 スペア(その他の子) 家の名を氏といい,戸主および家族は,すべて 同一の氏を称する(旧746条)。 家は,戸主(家長)とその家族によって構成され る(旧732条) 婚姻は,家と家との契約であった。したがって, 婚姻には,常に,家長である戸主の同意が必 要とされた(旧750条)。 婚姻によって妻は夫の家に入る(旧788条)。そ の結果,妻は氏を夫の家の氏に変更し,戸主と 夫の支配と庇護の下に入る(嫁の意味,妻の無 能力)。 戸主の地位は,家督相続によって,後継ぎ(長 男)に継承される(旧970条)。 民法の財産法(第1編,第2編,第3編)と異なり,日本の家族法(第4編,第5編)は,重大な問題を抱えています。■ それは,親族の定義はあるものの,肝心の家族の定義ができないままに,放置されているからです。■ 1★これに対して,中央集権的な家制度を持っていた民法旧規定は,家族の定義を有していました。■ 家制度においては,家の名が氏であり,「氏」は,家にはためく旗,すなわち,家のIDでした(民法旧規定746条)。 2★家は,家長である戸主とその家族によって構成されていました(旧規定732条)。■ 3★したがって,家族の定義は,実に簡単でした。氏を同じくし,家長に従う構成員が家族だったのです。■ もちろん,家長である戸主は,家族には含まれません。天皇が臣民(国民)ではないのと同じです。 4★家制度の下では,婚姻は,家と家との契約でした。したがって,婚姻には,常に,家長である戸主の同意が必要でした(旧規定750条)。■ 家制度が廃止されたにもかかわらず,いまでも,結婚を決めた男女が,それぞれの両親に婚姻の同意を求める慣習が残されており,結婚式には,ご両家の結婚式という言葉が使われているのは,不思議なことですが,制度は変わっても,人々の心には,家制度が,今なお,根強く生き残っていることが分かります。■ 5★家制度の下では,婚姻によって妻は氏を変更し,夫の家に入るとされていました(旧規定788条)。嫁という字が女偏に家となっているのは,このことに即していました。そして,妻は,戸主と夫の支配と庇護の下に置かれ,行為能力を奪われて,行為無能力者とされたのです。■ 6★家制度の下では,家族の役割も,家を中心に家父長的に定められており,戸主の地位は,家督相続によって,後継ぎとなる長男へと承継されてきました(旧規定970条)。その他の子供たちは,長男に不幸があった場合に必要となるスペアに過ぎず,家の存続を何よりも優先するという「お家大事」の下で,個人の尊厳も,両性の本質的平等も,無視されてきたのです。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

新しい家族法への展望 (分散型ネットワークとしての横の社会) 2016/6/7 新しい家族法への展望 (分散型ネットワークとしての横の社会) 夫婦財産 A B 配偶者 A B 財産 財産 家族会議 C1 財産 Cn 財産 家制度が,明治時代の中央集権的な縦社会を反映した制度であったのに対して,将来の家族法は,分散型ネットワーク社会を反映して,家族も平等な個人のネットワークを前提として構成されるべきであると,私は考えています。■ ★家族の始まりは,夫婦であり,■ ★夫婦財産が基盤となります。■ ★夫婦財産は,出資の額とは無関係に,憲法24条に従って,夫婦の持分は平等です。■ ★夫婦の間に子供が生まれた場合には,夫婦と子供との間でネットワークが生じ,■ ★夫婦財産を吸収して,家族財産が構成されます。■ ★家族財産は,夫婦の平等な持分を基礎にしていますが,■ ★子供の持分も平等に扱いますので,■ ★夫と妻が3分の1ずつ,平等な子の持分が,合計で3分の1という構成となります。■ この結果は,逆相続を除いた場合の相続分の割合と一致しています。 家族 家族財産 A C1...n B KAGAYAMA Shigeru, 2016

法的推論の基礎 明治学院大学法学部教授 加賀山茂 2016/6/7 ■このプレゼンテーションは,法的推論の基礎を学ぶためのものです。  加賀山茂 ■このプレゼンテーションは,法的推論の基礎を学ぶためのものです。 ★法律を始めて学習する人とか,一応法律を学習したが,身についていないので,法律を最初から学び直したいと思っている人とかに対して,法的推論の方法論を説明しています。 ■全部の概念について,正解できるようになれば,法的推論基礎をマスターしたことになります。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

判決三段論法 大前提 小前提 結論 実体法 事実認定 実体法の適用 2016/6/7 法的推論は,三段論法に従っているので正しい推論だといわれることがあります。三段論法とは,演繹推論のことです。■ ★例えば,「すべての人間は死ぬ」という命題を大前提として認め,■ 「ソクラテスは人間である」という小前提が明らかであるときには,■ 「ソクラテスは死ぬ」という結論は,常に正しい命題であることが,学問的にも証明されています。■ この三段論法を利用して,判決の正しさを正当化しようとする試みのことを,判決三段論法と呼んでいます。■ もっとも,大前提となる実体法のルールは,大前提として使えるような単純な命題とは異なり,そのほとんどが,原則と但し書きの複雑な組み合わせとして書かれているため,厳密にいうと,判決を三段論法で正当化することはできません。■ しかし,法律家の多くは,判決は,判決三段論法によって正当化されていると信じており,いわば,通説となっていますので,その思考方法を簡単に説明しておくことにしましょう。■ ★判決三段論法は,実体法のルール,例えば,民法709条を大前提とし,■ 訴訟における事実認定で明らかとなった事実,■ すなわち,乗用車を運転していた被告は,故意又は過失(例えば,被告は,前方を十分に確認することなく(過失),急にハンドルを左に切ってしまったこと)によって,■ 原告の自転車に衝突して,原告に全治3か月の傷害(損害額100万円)を負わせたという事実を小前提とし,■ 小前提としての認定事実に,実体法のルール(民法709条)を適用して,結論を導き,「被告は,原告に対して,100万円を支払え」という判決を下すことは,三段論法によって正当化されるというものです。■ 事実認定 実体法の適用 KAGAYAMA Shigeru, 2016

2016/6/7 不法行為法が適用される典型例 上記の交通事故の場合を含めて,不法行為が問題となる事件の原告と被告の攻防を図式化してみます。■ このような法廷弁論を図式化するのに適しているのが,のちに詳しく説明するトゥールミン図式です。 ★トゥールミン図式によれば,原告は,データ(主要事実)を示し,論拠(請求原因)を示して,請求を主張します。■ これに対して,被告は,データ(主要事実)を否認することもできますし,データを認めつつ,論拠に対して反論(抗弁)を行うことによって,原告の主張を覆滅することができます。■ 裁判官は,両者の言い分をよく聞き,論拠と反論を裏付ける原理を考慮しつつ,憲法と法律の条文に基づいて,結論を下します。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

法律家の思考方法としてのアイラック(IRAC) 2016/6/7 法律家の思考方法としてのアイラック(IRAC) IRAC(アイラック)で考え,論証する 法的分析 能力 Issue 論点・事実の発見 Rules ルールの発見 A Application ルールの適用 法的議論 の能力 Argument 原告・被告の議論 Conclusion 具体的な結論 法律専門家(裁判官,検事,弁護士ら)の思考方法は,アイラックという思考方法であると考えられています。■ ★アイラックというのは,以下に示すように,紛争事件を解決するための思考方法とその順序(事案の分析,仮説と仮の結論,反対説との間の議論,結論)を示すものです。■  I(Issue)とは,争点,すなわち,争いになっている事実関係は何かを明らかにする作業です。■  R(Rule)は,争いとなっている事実に適用すべきルールを発見する作業です。ただし,発見した事実によって適用すべきルールが発見される,逆に,発見されたルールから見ると,重要な事実が再発見されるというように,IとRとは,相互に密接な関係にあります。■  A(Application/Argument)とは,原告が主張する事実と被告が主張する事実に相違があるのが普通であり,したがって,それぞれの事実に適用すべきルールも異なることになるため,法の適用の結果は,分裂することになります。そこで,事実と適用すべきルールの適切性について,議論をすることになります。そのような議論を通じて,「真実」と「正しい法」の適用に接近する道が開かれることになります。■  C(Conclusion)とは,このような厳しい議論を通じて得られる結論,すなわち,判決です。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

2016/6/7 事実とルールとの相互関係 ★アイラック(IRAC)は,弁論や論文の作成においては,その順序で書くのがわかりやすいのですが,実際の作業においては,I(争点となる事実)の発見とR(事実に適用されるルール)の発見とは,「行きつ,戻りつ」を繰り返しながら,同時に発見されます。■ なぜなら,ルールが適用される事実を発見するためには,ルール1の構成要素である要件があるかどうかという観点から事実を眺めることによって,重要な事実(事実1,事実2)が浮かびあがってきます。■ ★逆に,重要な事実2が明らかになると,今度は,それに適用されるべき新しいルール2が浮かび上がってきます。■ このように,I(争点の発見)のためには,R(ルールの発見)が重要な役割を果たしていますし,R(ルールの発見)には,適用されるべき事実が明確となっている必要があるのですから,両者を切り離して考えることはできないのです。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

漁網用タール事件(最三判昭30・10・18 ) 差戻審(否定) 少数説 債権法改正 調査官解説 最高裁判決 控訴審判決(肯定) 2016/6/7 漁網用タール事件(最三判昭30・10・18 ) 差戻審(否定) 少数説 債権法改正 調査官解説 最高裁判決 控訴審判決(肯定) 543条 (解除) 536条1項(債務者主義) 536条2項(債権者主義) ここでは,漁網用タールの売買事件という有名な判決を通じて,事実の発見とルールの発見の相互作用について,説明します。■ ★民法のルールでは,売買の目的物であるタールの引渡しに関する債務者である売主にキセキ事由がある場合には,■ ★民法543条が適用され,債権者である買主は契約を解除することができます。■ タール事件の原審判決はこの立場をとっていました。■ これに対して,差し戻し後の高裁判決は,債務者である売主に過失がないとして,債権者である買主の解除権を否定しました。■ 事実認定によっては,そのような判断はありうるのですが,債務者の過失なしに履行不能となった場合には,つぎに,危険負担の問題に移らなければなりません。■ 差し戻し後の高裁判決が,危険負担の問題を無視して,「本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。」としたのは,理論的には,致命的な誤りです。■ ★債務者(売主)に過失がない場合には,問題は,二つに分岐します。■ 第1は,債務者である売主ばかりでなく,債権者である買主にも過失がない場合です。■ 第2は,債権者である買主だけにキセキ事由がある場合です。■ 第1に,債務者にも,また,債権者にも過失がない場合には,■ ★危険負担の債務者主義の原則規定である民法536条1項が適用され,反対債権である代金債権は消滅します。■ その結果,債権者である買主は,代金の支払をまぬかれますので,買主が勝訴します。■ 本件では,どの裁判所も,この判断を下していませんが,理論的には,実は,これが,原則です。■ 民法(債権関係)の改正がなされた場合には,履行が不能になった場合には,契約目的が達成できないので,売主にキセキ事由がない場合でも,買主は契約を解除することが認められることになります。■ つまり,民法(債権関係)の改正後に本件が生じた場合には,つぎの第2の場合を除いて,買主が勝訴します。■ ★第2に,債務者には,キセキ事由がなく,債権者だけにキセキ事由がある場合,例えば,債権者である買主に受領遅滞がある場合には,■ ★民法536条2項が適用され,債権者である買主は,目的物が滅失したにもかかわらず,反対債権が残るため,買主は,代金債権を履行しなければなりません。■ つまり,最高裁の調査官解説が明らかにしていたように,この場合には,買主が敗訴します。■ 以上の考察をまとめることにしましょう。■ 漁網用タール事件において問題とすべきなのは,以下の点です。■ ★本判決は,履行不能が生じた本件において,債務者にキセキ事由がないとすれば,危険負担の問題へと移行するはずであり,債権者にキセキ事由があるかどうかを判断しなければならないにもかかわらず,その判断をしないまま,債権者敗訴の判決を下しています。■ ★民法(債権関係)の改正がなされた場合には,本件のような,買主の受領期間中に目的物の滅失が生じた事件については,反対の結論が出ることが予想されます。■ 債権者だけに 帰責事由あり 債務者に 帰責事由あり 債務者に帰責事由なし 履行不能 KAGAYAMA Shigeru, 2016

トゥールミン図式(1/3)原型 2016/6/7 ★トゥールミン図式の原型は,演繹推論としての三段論法を図式化したものです。■ トゥールミンの図式の原型には,議論をする場合の心構えとして,以下の三つの点を明らかにすべきことが明確に示されています。■ 第1に,議論を始める場合には,(Data:根拠)を示して,現状には問題があることを示さなければなりません。言いたいことだけをいっても,事実に基づかない主張では,聞き流されるだけでしょう。■ 第2に,データから生じている問題を解決するためには,どうすべきなのか,自分の言いたいこと(Claim:主張)を明確に示すことが必要です。結論が示されないのでは,議論になりません。■ 第3に,データから提起される問題から,結論としての主張が導かれるのは,なぜなのか,相手方が一応なりとも納得できるような理由(Warrant:推論保証,すなわち,論拠)を示すべきです。■ 以上の三つの要素が揃ってこそ,建設的な議論が可能となるのです[トゥールミン・議論の技法(2011)147頁]。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

2016/6/7 トゥールミン図式(2/3)完成型 さきに示したトゥールミン図式の原型は,単に三段論法を図式化したものであり,汎用的ではありません。■ ★それに対して,トゥールミン図式の完成型は,その原型に,以下の三つの枠を追加しています。■ 第1は,「主張(Claim)」の様相を限定する「十中八九」とか「おそらく」という「様相限定詞(Qualifier)」の枠です。■ 第2は,(Data)を根拠づける論拠(Warrant)について,それをさらに強化する裏付け(Backing)の枠です。■ もっとも,「W:推論保証(論拠)」と「B:裏づけ」との区別は,わかりにくいかもしれません。■ トゥールミン自身の記述[トゥールミン・議論の技法(2011)154 頁]によれば,「W:論拠」は反駁可能な「仮言的言明(A ならばB である)」とされていますので,要件と効果で書かれた法律の条文も「W:論拠」に含まれることになります。■ これに対して,「B:裏づけ」は「定言的事実命題(A である)」とされていますので,反駁を予定していない定義や公理がこれに含まれることになると,私は考えています。■ 第3は,相手方に「反論(Rebuttal)」を許すための反論枠です。■ この三つの枠を付け加えることによって,トゥールミン図式は,三段論法では扱うことができなかった,例外を含む命題を含めて,あらゆる議論を分析する強力な道具とすることができるようになりました。[トゥールミン・議論の技法(2011)153頁]■ なぜなら,トゥールミンの図式の完成型によれば,必ずしも従来の論理学や法律を根拠とせずに,「常識」を論拠としても,説得的な議論を展開することが可能となるばかりでなく,あらゆる議論のプロセスを図の中に正確に位置づけることができるようになったからです。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

トゥールミン図式(3/3)法的議論の図式 2016/6/7 ★トゥールミン図式を法的議論に応用してみると,事実に基づいた主張の論拠(Warrant)と反論(Rebuttal)とを融合する方法として,裏づけ(Backing)をうまく利用する方法が見えてきます。■ トゥールミン図式を見て不思議に思うのは,論拠には,それを強化する裏付け(Backing)があるのに,反論(Rebuttal)には,その裏付けが用意されていないことです。■ そこで,私は,反論にも裏付けを与える図式を考えてみることにしました。■ そして,法律の条文に即して考えると,反論(Rebuttal)は,本文の但し書きにあたる部分であるため,本文と但し書きをひとつにまとめる原理を示すと,それが,当事者双方が納得して紛争を解決するための共通の裏付け(Backing)であることに気づきました。■ したがって,私は,トゥールミン図式を少し変形して,交渉を通じて当事者が合意(和解)に達するための議論の図式(トゥールミン図式の応用型)として示すことにしています。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

「車馬通行止め」の解釈(1/2) 拡大解釈 縮小解釈 類推解釈 反対解釈 牛 車 馬 車 馬 人間 飛行船 車 馬 車 馬 おもちゃ 木馬 2016/6/7 「車馬通行止め」の解釈(1/2) 拡大解釈 縮小解釈 牛 車 馬 車 馬 おもちゃ 木馬 類推解釈 反対解釈 法の解釈の種類について,「車馬通行止め」という伝統的な例を挙げて説明することにします。■ もしも,公園の入り口に「車馬通行止め」というルールが掲示されており,これ以外にはルールが存在しないとして,具体的な例をこのルールのみによって解決することができるかどうかを議論しようというものです。■ ★第1は,公園に牛を連れて入ろうとした人がいた場合です。この場合,ルールには,牛は出てきませんが,ルールに出てくる馬という概念を大型動物という概念にまで拡大すると,牛の入園を禁止できます。このような解釈を拡大解釈といいます。■ ★第2の例は,車や馬を連れて入園しようとした人がいた場合です。この場合,入園を禁止するのが,文理解釈です。■ しかし,車と馬をよく見ると,実は,子どもが持ってきたおもちゃのトラックと,木馬だったとします。この場合は,入園を許可しても問題がないので,車馬でも,おもちゃは例外だと解釈することができます。車馬の概念をおもちゃについて縮小するので,この解釈を縮小解釈といいます。■ ★第3は,飛行船が公園に着陸しようとした場合です。この飛行船を公園に着陸させるには,危険が大きすぎると判断されたとします。しかし,ルールでは,入園を禁止できるのは,車と馬だけです。拡大解釈しても,せいぜいが,大型動物どまりです。■ そこで,類推解釈に助けを求めます。■ 類推解釈とは,「似ているものは同じように扱うべし」という法格言から導かれる解釈であり,普通は似ていない男と女でも,兄弟だと似ているという経験則を活用します。■ つまり,類推解釈とは,問題となっている概念について,上位の親概念へと飛躍し,その上で,その下位概念のうち,似ている兄弟姉妹に戻って同じように扱うべきだとする方法です。■ 飛行船の場合には,まず,その車馬の上位概念として,乗り物を考えます。乗り物には車馬のほか飛行機を加えることができます。■ 車馬の場合には,飛行船に近い乗り物は,動物である馬ではない,車に似ていると考えます。そして,飛行船は乗物の中では,馬よりも車に似ているから,車の類推解釈によって,飛行船の入園を禁止することができることになります。■ ★第4は,人間が単独で入園しようとした場合です。■ 驚くべきことに,人間については,ルールがありません。ルールに出ているのは,車馬だけです。■ ルールに書かれている概念の補集合を考え,その補集合については,反対の結果が導かれると考えるのが反対解釈です。■ 反対解釈によれば,車馬通行止めには,人間が含まれておらず,車馬の補集合,反対概念には,反対の結果として,入園を許可するという結果となります。■ 反対解釈は,AならばBであるというルールに対して,¬Aならば¬Bと考えるという推論なので,厳密には,AならばBかつBならばAということが成り立っている時だけに使える推論です。■ ある概念の補集合というのは,非常に広い概念なので,反対解釈は非常に危険な解釈といえます。特に車馬通行止めというルールは,非常にプリミティブなルールなので,銃器を持ち込もうとしている人間を止めることができません。■ 私の経験上も,通説が誤りに陥っている場合の大半は,安易な反対解釈に陥っている場合が多いと考えています。■ たとえば,事実的因果関係として通説的地位を有している「あれなければ,これなし(conditio cine qua non)」という法理も,実は,非常に危険な推論であって,特に複数原因がある場合の因果関係の判定には利用できないことに注意しなければならないと,私は考えています。 人間 飛行船 車 馬 車 馬 KAGAYAMA Shigeru, 2016

「車馬通行止め」の解釈(2/2)車椅子の事例 2016/6/7 「車馬通行止め」の解釈(2/2)車椅子の事例 「車馬通行止め」のルールの解釈で,最も困難な場合として,問題となっている対象が,「車馬」に明確に該当するにも関わらず,解釈として反対の結論を導くという例,すなわち,「例文解釈」の例を考えてみて,次の議論の橋渡しをすることにしましょう。 ★「車馬通行止め」というルールだけが存在する公園に,電動車イスに乗った子供が入園の許可を求めたとしましょう。■ 電動車イスは,明らかに車です。しかし,この場合には,障害者の保護のためにも,入園を許可すべきだと判断したとします。その場合に,ルールに例外規定を設けるのではなく,電動車イスは入園を許可するということを解釈によって導くことができるのでしょうか。■ その方法を実現するのが,「例文解釈」という方法です。 まず,「車馬通行止め」のルールにおける「車馬」は,制限列挙ではなく,例示だと考えます。そして,入園が禁止される真の要件とは,公園で遊ぶ子供たちにとって「危険な大型乗り物又は危険な動物」であり,「車馬」は,真の要件を象徴する単なる例示だと考えるのです。■ そうすると,車馬以外にも,ライオンやトラ,飛行機等の入園禁止とすることができますし,反対に,小動物である猫や子犬の入園を許可する可能性も出てきます。さらに,車でも,自転車も乗らずに押して入るのなら入園を許可するとか,車イスも入園を許可することができます。■ 以上の考え方を使って,民法の中でも,最も解釈が困難といわれている民法770条とか民法612条の解釈に対して,トゥールミン図式とヴェン図を使う方法で挑戦してみましょう。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

裁判上の離婚原因(現行法) 第770条(裁判上の離婚) ①夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起す ることができる。 2016/6/7 裁判上の離婚原因(現行法) 第770条(裁判上の離婚) ①夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起す ることができる。  一 配偶者に不貞な行為があったとき。  二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。  三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。  四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。  五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 ②裁判所は,前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合 であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めると きは,離婚の請求を棄却することができる。 ★民法770条(裁判上の離婚)は,以下のように規定しています。■ ★第1項▲夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。■  ★第一号 配偶者に不貞な行為があったとき。■  ★第二号 配偶者から悪意で遺棄されたとき。■  ★第三号 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。■  ★第四号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。■  ★第五号 その他 婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。■ ★第2項▲裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

離婚申し立ての原因 司法統計年報:離婚の申し立ての動機別割合 -平成10年- 2016/6/7 離婚申し立ての原因 司法統計年報:離婚の申し立ての動機別割合 -平成10年- 夫の言い分 妻の言い分 順位 夫からの離婚申立て 当てはめ 妻からの離婚申立て 1 性格の不一致 - 2 親族との折り合いが悪い 暴力をふるう 3 異性関係 1号 4 浪費 生活費を渡さない 5 異常性格 精神的虐待 6 同居に応じない 7 家族を捨てて省みない 2号 8 性的不満 9 酒を飲みすぎる 10 ★司法統計年報(平成10年度)によると,離婚の申し立ての動機別割合をみると,現実の社会では,何が,離婚原因となっているかがよくわかります。■ 表の右の欄の「当てはめ」を見てみると,民法770条の裁判上の離婚原因に該当する場合というのは,わずかな例に過ぎないことが分かります。■ 民法770条の裁判上の離婚原因の最大の欠陥は,夫が妻に,まれに,妻が夫に「暴力をふるう」ことが離婚原因として,明示されていない点でしょう。■ そのほかにも,民法752条(同居,協力及び扶助の義務)の違反が離婚原因として明示されていない点も問題でしょう。■ もちろん,これらの例は,民法770条1項▲5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」抽象的な規定に該当することになるのですが,1号から4号までの規定のように,明確に例示すべきだと,私は考えています。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法770条(裁判上の離婚原因)の分析 ・不貞行為 ・悪意の遺棄 ・生死不明 ・強度の精神病 (民法770条1項1~4号) 2016/6/7 民法770条(裁判上の離婚原因)の分析 真の離婚原因 真の離婚原因 離婚原因ではない (推定の前提) 婚姻を継続しがたい重大な事由 (民法770条1項5号) ・不貞行為 ・悪意の遺棄 ・生死不明 ・強度の精神病 (民法770条1項1~4号) 法律の解釈で最も困難な場合と言うのは,条文に書かれた要件が正確でない場合です。■ ★例えば,先に見たように,民法770条1項の要件のうち,1号から4号までの要件は,5号の要件を推定する要件に過ぎません。■ ★したがって,1号から4号までの要件が証明されたとしても,■ ★2項によって,それが,「婚姻を継続しがたい重大な事由」があると認められない場合には,■ ★離婚が認められないのです。■ 民法770条(裁判上の離婚) ②裁判所は,前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

裁判上の離婚原因(改正私案) 民法第770条の改正私案(構造化) ①:要件,②:例示(推定の前提) 2016/6/7 裁判上の離婚原因(改正私案) 民法第770条の改正私案(構造化) ①:要件,②:例示(推定の前提) ①夫婦の一方は,婚姻を継続し難い重大な事由があるときに限り,離婚の 訴えを提起することができる。 ②以下の各号に該当する場合には,婚姻を継続し難い重大な事由がある ものと推定する。 一 配偶者に不貞な行為があつたとき。 一の二 配偶者から虐待を受けたとき。 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 二の二 配偶者が,第752条の規定に違反して,協力義務を履行しないとき。 二の三 配偶者が,第760条の規定に違反して,婚姻費用の分担義務を履行しないと き。 三 配偶者の生死が3年以上明かでないとき。 三の二 夫婦が5年以上別居しているとき。(←民法改正要綱案参照) 四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込がないとき。 以上の議論を踏まえて,民法770条を市民にとってわかりやすくするための改正案を作成してみましょう。 ★民法770条(裁判上の離婚)の改正案をについて,第1項を真の要件,第2項を真の要件を法律上推定する例示するものとして構造化し,以下のように提案することができます。■ ★民法770条(改正案)▲第1項■夫婦の一方は,婚姻を継続し難い重大な事由があるときに限り,離婚の訴えを提起することができる。■ ★民法770条(改正案)▲第2項■以下の各号に該当する場合には,婚姻を継続し難い重大な事由があるものと推定する。■  ★第一号 配偶者に不貞な行為があったとき。■  ★第一号の二 配偶者から虐待を受けたとき。■  ★第二号 配偶者から悪意で遺棄されたとき。■  ★第二号の二 配偶者が,第752条の規定に違反して,協力義務を履行しないとき。■  ★第二号の三 配偶者が,第760条の規定に違反して,婚姻費用の分担義務を履行しないとき。■  ★第三号 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。■  ★第三号の二 夫婦が5年以上別居しているとき。(←民法改正要綱案参照)■  ★第四号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法612条(無断譲渡・転貸と契約解除) 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) 2016/6/7 民法612条(無断譲渡・転貸と契約解除) 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) ①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃 借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することがで きない。 ②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借 物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契 約の解除をすることができる。 ★民法612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)は,以下のように規定しています。■ ★民法612条▲第1項▲賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。■ ★民法612条▲第2項▲賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。■ KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法612条のトゥールミン図式 データ 蓋然性 蓋然性 主張 論拠 反論 裏づけ 賃借人が無断で 賃借物を転貸した。 2016/6/7 民法612条のトゥールミン図式 賃借人が無断で 賃借物を転貸した。 賃貸人は,賃貸借契約を解除する。 誤り おそらく データ 蓋然性 蓋然性 主張 論拠 反論 背信行為と認めるに足りない特段の事由がある。 賃借人は,民法612条1項に違反しており,2項に基づいて契約を解除できる。 裏づけ 裁判での議論をトゥールミンの議論の図式で表現すると図のようになります。■ ★(データ)■賃借人は,賃貸人に無断で賃借目的物を第三者に転貸した。 ★(主張)■賃貸人は賃貸借契約を解除する。転借人は,建物を収去して土地を明け渡せ。 ★(論拠)■民法612条2項は,賃借人が賃貸人に無断で賃貸目的物を譲渡したり,転貸した場合には,賃貸人は賃貸借契約を解除できると規定している。 ★(反論)■賃貸人は,賃貸人と転借人とが夫婦であり,転借人が建物を所有していることを知りながら賃貸借契約を締結した。たとえ賃貸人の同意を得ていないとしても,離婚に際して,夫が財産分与として,妻に賃借権を譲渡したり転貸したりすることは,背信行為と認めるに足りない特段の事由がある。 ★(裏づけ)は,以下のようになります。■ ★①原則:賃借人との間の信頼関係が破壊されるに至ったときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ★②法律上の推定:賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸したときは,信頼関係が破壊されたものと推定する。 ★③例外:賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸人は,契約の解除をすることができない。 無断譲渡・転貸の場合に賃貸借契約を解除できるかどうか: 継続的契約関係の当事者が,信頼関係を破壊したときは,契約を解除できる(原則)。 賃借人が無断譲渡・転貸を行ったときは,信頼関係の破壊が推定される(推定規定)。 信頼関係を破壊したと認められない事由があるときは,契約は解除できない(例外)。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法612条(無断転貸)の分析 ・無断譲渡 ・無断転貸 (民法612条) 信頼関係破壊 (法理) 真の解除原因 真の解除原因 解除原因でない 2016/6/7 民法612条(無断転貸)の分析 真の解除原因 真の解除原因 解除原因でない (推定の前提) 信頼関係破壊 (法理) ・無断譲渡 ・無断転貸 (民法612条) 裁判での議論をトゥールミンの議論の図式で表現すると図のようになります。■ ★(データ)■賃借人は,賃貸人に無断で賃借目的物を第三者に転貸した。 ★(主張)■賃貸人は賃貸借契約を解除する。転借人は,建物を収去して土地を明け渡せ。 ★(論拠)■民法612条2項は,賃借人が賃貸人に無断で賃貸目的物を譲渡したり,転貸した場合には,賃貸人は賃貸借契約を解除できると規定している。 ★(反論)■賃貸人は,賃貸人と転借人とが夫婦であり,転借人が建物を所有していることを知りながら賃貸借契約を締結した。たとえ賃貸人の同意を得ていないとしても,離婚に際して,夫が財産分与として,妻に賃借権を譲渡したり転貸したりすることは,背信行為と認めるに足りない特段の事由がある。 ★(裏づけ)は,以下のようになります。■ ★①原則:賃借人との間の信頼関係が破壊されるに至ったときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ★②法律上の推定:賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸したときは,信頼関係が破壊されたものと推定する。 ★③例外:賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸人は,契約の解除をすることができない。 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) ①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。 ②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法612条(無断転貸)の分析 ・無断譲渡 ・無断転貸 (民法612条) 信頼関係破壊 (法理) 真の解除原因 真の解除原因 解除原因でない 2016/6/7 民法612条(無断転貸)の分析 真の解除原因 真の解除原因 解除原因でない (推定の前提) 信頼関係破壊 (法理) ・無断譲渡 ・無断転貸 (民法612条) リーディングケースとされる,最高裁判所第一法廷 昭和41年1月27日判決 最高裁民事判例集20巻1号136頁の要旨は,以下の通りです。■ 土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく,★その賃借地を他に転貸した場合においても,■ 賃借人の右行為を ★賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,■ 賃貸人は民法612条2項による解除権を行使し得ない。■ この判決を通じて,民法612条2項には,例外が存在すること,継続的な契約関係においては,解除原因は,信頼関係が破壊されたとき,すなわち,契約を継続する利益が失われ,契約目的が達成できないことが,唯一の解除原因となることが明らかにされたのです。■ 最一判昭41・1・27民集20巻1号136頁 土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸した場合においても,賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は民法612条2項による解除権を行使し得ない。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

「信頼関係破壊の法理」はいかにして発見されたのか 2016/6/7 「信頼関係破壊の法理」はいかにして発見されたのか 社会的背景 住宅事情 の悪化 賃借人保護の 必要性 判例 信義則・権利濫用 の活用 事実認定の工夫 背信行為に当たらない場合に解除を制限 学説 解雇権濫用禁止の 法理の類推 末弘・川島・戒能 「信頼関係破壊 の法理」の確立 ★民法612条の解釈のように,一見,条文とは異なる解釈が生じたのには,それなりの理由があります。■ ★第1に,社会的背景としては,住宅事情の悪化を受けて,賃借人の保護を図る必要がありました。■ ★第2に,判例は,具体的な事例を通じて,賃貸人による解除が不当と思われる場合には,民法1条の信義則とか権利濫用の法理と使って,解除を制限したり,事実認定において,無断転貸とは言えないというような工夫をして,賃貸人の解除を抑制し,次第に,背信的行為に当たらないという特段の事情が認められる場合には,一般的に解除はできないとの法理を定立するようになります。■ ★学説も,末広,川島,戒能等の先進的な学説が,判例と協調しながら,解雇権濫用禁止の法理を類推等を活用し,最終的には,継続的な契約関係における「信頼関係破壊の法理」を確立していきます。 広中俊雄『債権各論講義』有斐閣(1979)173-180頁参照。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法612条(改正私案) 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)(民法改正私案) 2016/6/7 民法612条(改正私案) 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)(民法改正私案) ①賃借人が契約の目的に違反して使用又は収益をしたため,賃 貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されるに至ったときは, 賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ②賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し, 又は賃借物を転貸したときは,信頼関係が破壊されたものと推 定し,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ただし,賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為と認めるに 足りない特段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸 人は,契約の解除をすることができない。 契約当事者間の信頼関係が破壊されないような特別の場合には,条文の文言にもかかわらず,判例は,賃貸借契約を解除することはできないと判断しています。 ★このことを条文にも反映させるため,民法612条の改正案を作成してみましょう。■ ★第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)(民法改正私案) ★①賃借人が契約の目的に違反して使用又は収益をしたため,★賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されるに至ったときは,★賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ★②賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸したときは,信頼関係が破壊されたものと推定し,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ★ただし,賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸人は,契約の解除をすることができない。 KAGAYAMA Shigeru, 2016

民法の体系と推論の基礎 明治学院大学法学部教授 加賀山 茂 2016/6/7 民法適用頻度 Best20 これで,法的推論の基礎の講義を終わります。■ 最後までご覧いただき,ありがとうございました。■ 民法の体系と推論の基礎 明治学院大学法学部教授 加賀山 茂 最後までご覧いただき ありがとうございました。 KAGAYAMA Shigeru, 2016