長崎半島周辺における 停滞性降雨帯(諫早ライン)の 構造と発達過程に関する研究

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長崎半島周辺における 停滞性降雨帯(諫早ライン)の 構造と発達過程に関する研究 金田幸恵、耿驃、間瀬剛史 (名古屋大学地球水循環研究センター、観測フロンティア、ウェザーニューズ) ○1997年7月某日の九州付近の降水分布(諫早ラインとは)。   暖候期に九州付近で、南西から北東の走向を持つ降雨帯がいかに多いか。 ○諫早ライン出現時に共通する環境場の特徴。   これまでの研究からわかっていることも含めて。 ○1997年7月11~12日に見られた諫早ラインの事例解析。  ・諫早ラインの構造とその時間変化。   ・ほぼ一列に並ぶ対流性エコー。   ・平均してみたときの二箇所の強化ポイント。   ・ラインシステムの周期性と対流性エコーの構造の変化。  ・諫早ラインの変動と気流場。   ・ラインの強弱とラインに平行・直交する風成分の変化。   →諫早ラインの形成・強化のメカニズム。 ※以上を元に、他日に見られた諫早ライン(他ライン)について若干の考察を行う。

1997年7月11日の 九州付近の降水分布 バンド状レーダエコーとは: 1)1時間以上観測されること。 2)1mm/hr以上の降水域の、   幅30km以下   長さ40km以上 諫早ラインとは: 上記の条件を満たすバンド状 レーダエコーの中で、 長崎半島の付け根から諫早湾上 に伸びるもの。

1997年7月1~12日にみられた3本の諫早ラインと天気図 Case1 2日8-13時 (持続時間5時間) Case2 5日10-16時 (持続時間6時間) Case3 11日10時-12日3時 (持続時間18時間)

諫早ラインの出現と前後の風プロファイル (RANALより)

一般風の西南西-東北東 の走向を持つラインに直交する成分(天草ゾンデより) ×:Case1前、×:Case1、×:Case1後 ○:Case2前、●:Case2、○:Case2後 □:Case3前、■:Case3、□:Case3後 諫早ラインの形成条件(一般風): ・下層南風で中層に強い南西風。 ※高度が高くなるにつれて時計回りに回転するが Case2のみ400hPa以上で反時計回りに。 ・南南東風(ラインに直交成分): 2 m/s以上(高度1km以下) 0 m/s以上(高度2km) ※但し、高度3km付近に15 m/s以上 の西北西風(ラインに平行な成分)が 見られる時。

ここまでのまとめ 今回の研究は・・・: ・諫早ラインの形成、発達、維持のメカニズムを解明するために、 これまでの研究では・・・ 長崎ラインの形成条件(Yoshizaki et al.2000): ・下層に湿潤で対流不安定な大気 ・地表付近で南寄りの風、  900-500hPaまでは15-20m/sの南西風 今回は、諫早ラインの形成条件(一般風): ・下層南風で中層に強い南西風。 ※高度が高くなるにつれて時計回りに回転するが、   Case2のみ400hPa以上で反時計回りに。 ・高度1km以下で2 m/s以上の南南東風。  0 m/s以上(高度2km) ※但し、高度3km付近に15 m/s以上の西北西風が見られる時。 今回の研究は・・・: ・諫早ラインの形成、発達、維持のメカニズムを解明するために、 おもにレーダデータを用い、1997年7月11日の事例解析を行って、 諫早ラインの3次元的な構造と形成・強化の過程を調べる。 ・それに基づき、暖候期に九州付近で頻繁に見られる他のラインシステムの形成、発達、維持の条件やメカニズムを知りたい。

Dataと解析時間 Data: 解析時間: 4)名古屋大学の2台のドップラーレーダ 1)RANAL 2)地上天気図 3)レーダアメダス合成データ 4)名古屋大学の2台のドップラーレーダ 反射強度分布は2台のレーダで取得された データの大きい方を選んで合成。 解析時間: 1997年7月11日1648LST-12日0230LST 本日は、 11日1648-1922LSTの解析中心。

1997年7月11~12日に見られた諫早ラインの事例解析。 諫早ラインの構造とその時間変化。 1997年7月11~12日に見られた諫早ラインの事例解析。  諫早ラインの構造とその時間変化。 諫早ラインの特徴: ・ほぼ1列に並ぶ10数個の対流エコーによって構成。 ・期間中、3回の強弱を繰り返した。 その結果: ・極めて狭い領域に強い降水を集中させた。 長崎半島の付け根と諫早湾の2ヶ所でエコー強化が見られる。 高度1.5kmにおける平均反射強度の水平分布図 Line-1 1648-1922LST Line-2 1922-2252LST Line-3 2252-0112LST

Line-1 1648-1922LST 1812-1819LST 最盛期: エコー面積で定義した その前の1648-1812LST: 最盛期前 その後の1819-1922LST: 最盛期後 と命名。

1819LST(最盛期)のレーダエコーの水平分布図(名大赤、青レーダ) ●ラインは、 ・直径5-10km、高さ6km前後、 ・主に長崎半島の付け根で  形成され、 ・東北東に約17m/sで移動する ・複数のセル状エコーで  構成されている。 ○Line1は、合計72個のセル状 エコーによって構成されていた。 ※セル状エコーの定義: 高度1kmの水平断面図で、 一度でも25dBz以上の閉じた 領域をもったもの。(但し15dBz以下で消失とみなす) 各セル状エコーにつ いて、詳しく見る。

バンド1を構成する72個のセル状エコーの発生時刻と寿命 時間→ バンド1を構成する72個のセル状エコーの発生時刻と寿命 1700LST 1800 1900 最盛 :セル状エコーの継続時間 :最大エコー強度が30dBZを超えたもの :最大エコー強度が35dBZを超えたもの 最盛期のラインを構成する セル状エコーは、とりわけ、 ・エコー強度が強く ・長寿命(42分以上) かつ ・頻繁に発生 セル状エコーの名前

バンド1を構成する 72個のセル状エコーの 発生、発達、消失場所 最盛期前: 発生地点:南東寄り、風上寄り ※但し諫早市付近で発生する場合は、ラインの北西部。 最強地点:長崎半島の付け根と諫早湾の2ヶ所 消失地点:ラインの南東端 最盛期後: 発生地点:北西寄り。 最強地点:諫早湾(北西寄り)。

バンド1を構成する72個のセル状エコーの発生時刻と寿命 時間→ バンド1を構成する72個のセル状エコーの発生時刻と寿命 1700LST 1800 1900 最盛 :セル状エコーの継続時間 :最大エコー強度が30dBZを超えたもの :最大エコー強度が35dBZを超えたもの セル状エコーの名前 ←最盛期のラインを構成するセル ←最盛期後のラインを構成するセル

最盛期のラインを構成するセル状エコーの時間変化 高度1kmのエコー強度分布(コンター)+収束発散(彩色部)+絶対風 ・長崎半島付け根で発生したセル状エコーが、ラインに沿って東北東進。 ・収束域(北西部)発散域(南東部)がラインに沿って形成。 諫早市南部 1805LST 長崎半島の付け根南端 諫早湾 1744LST 1751LST

最盛期のラインを構成するセル状エコーの時間変化 高度1kmのエコー強度分布(コンター)+収束発散(彩色部)+相対風 諫早市南部 1751LST 1805LST 長崎半島の付け根南端 諫早湾 1744LST

1812LST(最盛期)の収束・発散の水平分布図(名大赤、青レーダ) 収束域(北西部)発散域(南東部)がラインに沿って形成。 ※いくつものセル状エコーにまたがって分布しているので、個々のセル状エコーの活動の結果ではなく、もっと大規模な現象(たとえば地形など)によって形成されたと考えられる。

最盛期後のラインを構成するセル状エコーの時間変化 高度1kmのエコー強度分布(コンター)+収束発散(彩色部)+相対風 諫早市南部 1833LST 1840LST 長崎半島の付け根南端 1826LST 諫早市 ラインに沿って形成されていた、収束域(北西部)発散域(南東部)がなくなっている。 相対的に南寄りの風が、より北側まで入り込んでいる。

各セル状エコーのラインと直交方向の構造の変化 最盛期のラインを構成するセル状エコー 最盛期後のラインを構成するセル状エコー 北北西 長崎半島の付け根南端 南南東 北北西 南南東 長崎半島上 諫早湾 セル状エコーの傾きが違う。 その原因は、地表付近の風向が、最盛期前は北より→後は南よりになっていること。 ※ライン最盛期は下層北より→南よりの入れ替わりと同時期。 有明海

諫早ラインの変動と気流場(ラインの強弱とラインに平行・直交する風成分の変化) エコー強度の経度ー時間断面図 と南風成分の強化 直交成分 長崎半島 諫早湾 有明海 最盛期をはさんで、 南よりの風成分が増加。 ライン1の強化と衰弱のメカニズム ・セル状エコーの形成には、 南よりの風成分が必要。 ※但し南よりの風成分が強すぎると ・新しいセル状エコーが長崎半島 北より(つまりより内陸)を北東進 するため、南からの水蒸気の供給 を受けにくくなってしまう。 ・ラインに対して北から入る風 がライン北西部の収束形成、 (特に諫早市~諫早湾にかけて) すなわちラインの延長に 重要な役割を果たしている。 ※地表付近で南よりの風成分が入り込み すぎると、この収束形成に不利。 最盛期 ライン1

エコー強度の経度ー時間断面図 と直交風成分の変化 直交成分 ライン3 ライン2 ライン1 -4 0 3 風の直交成分(m/s)

7月11日に見られた三本の諫早ラインと気流場などの関係 西南西風 ↓ ラインの南から南西風 ※入れ替わりときに、 ラインのエコー面積が最大に。 南西~南南西風が強まる中 ↓ ライン北部から西南西風 ※エコーを伴ったほかの 降水システムの通過も見られた。 南西風 ↓ ライン北部から西南西風 ・セル状エコーの形成には、南よりの風成分が必要。 ・ラインに対して北から入る風が、ライン北西部の収束形成(特に諫早市~諫早湾にかけて)、すなわちラインの延長に重要な役割を果たしている。

他日に見られた諫早ライン について若干の考察 ・セル状エコーの形成には、南よりの風成分が必要。 ・ラインに対して北から入る風が、ライン北西部の収束形成(特に諫早市~諫早湾にかけて)と、ラインの直交断面の鉛直シアを強め、 ラインの伸張に重要な役割を果たしている。 Case1(2日8-13時) Case2(5日10-16時) Case3(11日10時-12日3時)

まとめ 1)下層付近の南風: 長崎半島の南側で上昇気流を作る=対流雲の形成に重要。 2)下層付近の西北西~北西風: 暖候期に九州付近の頻繁に見られる南西から北東の走向を持つ降水帯の一つとして、1997年7月11~12日に見られた諫早ラインの事例解析を、おもにレーダデータを用いて行った。解析の結果、諫早ラインの形成には以下の要素が重要性とそれらの働きかけのメカニズムが示唆された。 1)下層付近の南風:  長崎半島の南側で上昇気流を作る=対流雲の形成に重要。 ※但し、南風が強すぎると対流雲がより内陸を移動することになり発達が妨げられる。 2)下層付近の西北西~北西風:  諫早~諫早湾で収束を形成する=ラインの伸張に重要。 ※上層の西北西風は、ライン直交断面の鉛直シアを増大させ、ラインの発達を助ける。 3)その他、高度7kmにエコーとして現れるシステム(Line1前半)、あるいは他降水システム(Line2)の通過によって諫早ラインが強まる現象もみられた。 →下層の条件が整ったままであれば、他システムが通過しようが諫早ラインは維持。 他のラインとの関係: i)長崎ラインとの違いは?:長崎ラインは「まとめの1)+多良岳の効果」 ii)他にもっと高い山がある中で、なぜ五島列島であり長崎であり天草であり甑島なのか?: 暖候期の九州付近は下層が非常に湿潤でLCLも低いので、500m級の地形でも十分。 むしろ、南風が水蒸気を供給→なるべく風上がいい。 iii)1997年7月上旬の3事例の中で、Case1とCase2でのみ五島の風下にラインが見えている。

諫早ラインの出現と 風プロファイルの関係

風プロファイルと 混合比(RANAL)