Arm-Stem電流注入型T型 量子細線レーザーの発振特性

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T-型量子細線レーザーにおける発振および発光の温度特性
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Arm-Stem電流注入型T型 量子細線レーザーの発振特性 24aXL-12 Arm-Stem電流注入型T型 量子細線レーザーの発振特性 東大物性研、CREST(JST)、ルーセント・ベル研A 岡野真人、劉舒曼、井原章之、吉田正裕、秋山英文 Loren N. Pfeiffer A、Ken W. West A 、Oana Malis A 背景・目的 試料構造 アウトライン まとめ・展開 「タイトル」について東大物性研の岡野が発表させていただきます。 本発表のアウトラインはこのようになっております。 まず、本研究の背景及び目的と合わせて、前回の発表と今回の発表の要点を述べます。 そして、試料構造をしめした後、実験結果と考察を述べていきます。 そして最後にまとめと今後の展開を述べます。 IV、ILの温度依存性 利得吸収スペクトル 実験結果

研究の背景・目的 背景 Arm-Stem電流注入型T型量子細線では4.2Kにおけるマルチモード発振が、1994年にW.Wegscheiderらによって報告されている。(Ith = 0.4~0.6mA) 目的 均一性の高い一次元状態を実現可能なT型量子細線を用いて電流注入型T型量子細線レーザーを作製、測定し、量子細線レーザーの物理の解明を目指す。 ・W. Wegsheider et al. APL, 65 2510 (1994) ・M. Yoshita et al. JJAP part2, 40 L252 (2001) まず本研究の背景と目的を述べます。 我々がArm-Stem電流注入型T型量子細線と呼んでいる構造では 4.2Kにおけるマルチモード発振が、1994年にW.Wegscheiderらによって報告されています。 このときの閾値電流は0.4~0.6mAでしたが、後の研究によって試料の均一性は高くなかったことがわかっています。 その後、我々の研究によって均一性の高いT型量子細線が作製可能になったので、 均一性の高い一次元状態を実現可能なT型量子細線を用いて電流注入型T型量子細線レーザー を作製、測定し、評価を行い、量子細線レーザーの物理の解明を目指すことが本研究の目的です。

前回及び今回の発表の要点 前回の発表(’06 Mar. JPS) 今回 ・Arm-Stem電流注入型T型量子細線レーザーの作製した ・劈開面をそのまま共振器として用いたレーザー試料(as cleaved)を5K  にして実験を行ったが、0~2.0mAの範囲では発振しなかった。 ・EL Image測定より0~2.0mAの範囲では活性領域へのキャリア注入が  アンバランスであることがわかった 今回 ・前回と同じ構造の試料の共振器端面をHRコーティングした。 ・HRコートした試料で、5~120Kの温度領域で電流を0~7mA流して実  験を行った ・5~110Kの範囲においてシングルモードでの発振を観測し、その発振  特性を得た 次に前回の発表と今回の発表の要点を述べます。 今年の春の物理学会では、 Arm-Stem電流注入型T型量子細線レーザーの作製方法についてのべました。 また、劈開面をそのまま共振器として用いたレーザーを5Kに冷やして実験を行いましたが 0~2.0mAの範囲では発振しませんでした。 また、合わせて行ったEL Image測定によってこの電流範囲では活性領域へのキャリア注入がアンバランスであることがわかりました。 そこで、今回は同じ構造の試料の共振器端面にHRコーティングをし、その試料において5~120Kの温度領域で 電流を0~7mA流して実験を行ったところ、5~110Kの範囲においてシングルモードでの発振を観測し、 その発振特性を得ました。 今回は主にこの発振特性について話させていただきたいと思います。

Arm-Stem電流注入型T型量子細線レーザー 試料構造 電子はArm wellを、正孔はStem wellを通って、細線に注入される。 Arm-Stem電流注入型T型量子細線レーザー 次に、今回作製した電流注入型T型量子細線の試料構造について説明します。 こちらにStem井戸が15本あり、それとArm井戸との交点に量子細線が15本形成されています。 そして屈折率変化によって青い線で囲われた部分が光導波路を形成しています。 この青く塗られた部分にSiが、ピンクに塗られた部分にCがドーピングされており、細線部を拡大するとこのようになっています。 (クリック) こちらがArm井戸、こちらがStem井戸に対応しています。 電子はarm井戸を通って、正孔はstem井戸を通って細線に注入されます。 そこで、我々はこの構造をArm-Stem電流注入型量子細線と呼んでいます。 次に電流・電圧特性の温度依存性を示したいとおもいます。

温度上昇に伴った抵抗上昇 Stem wellの正孔の移動度減少に起因 電流・電圧特性の温度依存性 T=5K 15K 30K 40K 50K 70K 110K 100K 60K 80K 90K 左上はプロセス後の試料の模式図で、P側電極はこのように、 N側電極はこのようにドーピング層とコンタクトをとっています。 IV曲線を見てみると、全ての温度において細線がフラットバンドになる1.5V付近から 電流が流れ始めており、それ以下の電圧ではほとんど電流は流れていません。 これからしっかりコンタクトが取れていることがわかります。 また、1.5V以上ではほぼ直線で温度上昇と共に抵抗も大きくなっていきます。 これは、Stem Wellにおける正孔の移動度減少に起因していると考えられ、 主にStem Wellのこの部分がシリーズ抵抗として働いていることがわかります。 次に100Kでの発振スペクトル及び電流・光出力特性を示します。 温度上昇に伴った抵抗上昇  Stem wellの正孔の移動度減少に起因

導波路放出光,電流・光出力特性 at 100K T=100K x4x10-2 I=2.35mA x3x10-1 I=1.50mA 左のグラフが各電流における導波路放出光スペクトルです。 このピークが細線からの発光に対応しています。 また、こちらのグラフは横軸に電流を縦軸に光出力をプロットしたものです。 このIL曲線に対してフィッティングしたものがこの点線で、 この点線から、閾値電流及び微分量子効率が求められます。 微分量子効率とは、注入したキャリア数に対する デバイスの外に出てきたフォトン数の割合です。 100Kでは、それぞれ2.1mA,0.9%になります。 次に、この二つの値の温度依存性を示します。 閾値電流:2.1mA 微分量子効率:0.9%

110Kが発振温度限界→ノンドープ試料とほぼ同じ 閾値電流・微分量子効率の温度依存性 青線が閾値電流を、赤線が微分量子効率の温度依存性を表しています。 閾値電流は温度に対してだんだんと減少し100Kで最小値をとります。 また、微分量子効率は逆にだんだんと増加し100Kで最大値をとります。 110Kでは閾値の増加と微分量子効率の減少が観測され 120Kでは発振しませんでした。 この発振温度限界はノンドープの試料とほぼ一致しており 試料構造によってきまるものだと考えられます。 さて、この閾値電流はIL曲線から求めたものですが、 次に、導波路放出光スペクトルから利得吸収スペクトルを導出し、 利得ピーク値変化からも閾値電流を見積もってみました。 110Kが発振温度限界→ノンドープ試料とほぼ同じ

利得吸収スペクトルの導出 Cassidyの方法を用いて F-P振動から利得吸収 スペクトルを導出 ピーク値を電流に対してプロット まず利得吸収スペクトルの導出方法を説明します。 左のグラフは5Kにおける各電流の導波路放出光スペクトルを規格化したものです。 (このスペクトルにのっているフリンジのコントラストは内部に吸収がないとすると 両端面の反射率のみによってきまるべきものなので、このフリンジを 解析する事で内部の吸収係数を求めることができます。 今回は、解析方法としてCassidyの方法を用いてFPフリンジから 利得吸収スペクトルを導出しました。) それぞれのスペクトルにのっているFP振動をCassidyの方法を用いて解析し 利得吸収スペクトルを導出します。 こちらが導出された利得吸収スペクトルです。 これを見ると青、黄、赤と電流が上昇するに従って利得ピーク値が増加して いくことがわかります。 次にこの利得ピーク値の変化を電流に対してプロットしてみます。 ピーク値を電流に対してプロット

利得ピーク値変化の温度依存性 これはそれぞれ5,30,70,100Kにおける利得ピーク値変化を電流に対してプロットしたものです。 利得ピーク値が負のときは吸収領域で、利得ピーク値が正になりその値が 共振器のミラー損失まで達したときに発振が起こります。 HRコーティングしたものではこの点線がそのミラー損失に相当します。 そこでそれぞれのピーク値変化を外挿し、点線と交差する電流値を閾値電流として見積もります。 この丸は先ほどILから求めた閾値電流であり、利得ピークの変化から見積もられる値は それよりも少し高めな値になっています。 これを先ほどのグラフに加えてみます。

温度上昇と共にキャリアが細線に注入されやすくなる 閾値電流の比較 この青い×印が利得ピーク値変化から得られた閾値電流の値です。 これを見てみると先ほどILから得られたものとよい一致を示してることがわかります。 さて、先ほども述べたようにこの構造では100Kまでは 閾値電流はだんだんと減少し 微分量子効率は逆にだんだんと増加していきます。 これは温度上昇と共にキャリアが細線に注入されやすくなることを 示唆していると考えられます。 温度上昇と共にキャリアが細線に注入されやすくなる

高温ではwireで発光するキャリア数が増加 電子-正孔対の拡散長の温度依存性 正孔と電子の共存領域に電子-正孔対生成 電子-正孔対の拡散長は温度と共に上昇 ex. 30K =0.4um ,100K = 2um H.Hillmer et al. PRB, 39 10901 (1989) 高温ではwireで発光するキャリア数が増加 e-h e-h pair その原因の一つに電子-正孔対の拡散長の 温度変化による影響が考えられます。 左上の図は5KにおけるEl image測定によってえられたものです。 ここがコア層、ここがクラッド層に対応しています。 これを見るとクラッド層の外側の構造からの発光が観測されており、 正孔がコア層から溢れ出していることがわかります。 それを模式的に表すとこのようになっていると考えられます。ピンク色が正孔の分布を 水色が電子の分布を表しています。この分布は電圧のみに依存し温度には ほぼ依存しないと考えられます。 そして、この水色とピンク色が重なっている部分に電子-正孔対が生成されます。 電子-正孔対の拡散長は温度上昇と共に長くなることが知られており、 たとえば、6nmの量子井戸では30Kで0.4um,100Kで2um程度になります。 温度上昇によって拡散長が長くなるとたとえばこのあたりで生成された電子-正孔対 もコア層にながれこんで発光することができます。 よって、高温では細線で発酵するキャリアが増加し、その影響によって閾値電流 の減少と微分量子効率の上昇が起こるのではないかと考えられます。 しかし、拡散長がたかだか2um程度にしかならないことを考えると、 そもそもクラッドの外側にあふれさせないことが必要だといえます。 cladding 1.5um cladding 1.5um

改善する点:Stem wellからくるキャリアのクラッド層への流れ出し 構造の改善案 改善する点:Stem wellからくるキャリアのクラッド層への流れ出し 案1.クラッド層のバリアーを高くする N 変更点:クラッド層のAl含有率 50%→100% ΔE=1meV→1.5meV 100% 100% P 案2.ドーピング層を入れ替える そこで構造の改善案として二つほど考えてみました。 改善すべき点はStem wellから来るキャリアのクラッド層への流れ出しなので、 クラッド層とコア層のエネルギー差を大きくする必要があります。 一つの案はクラッド層のバリアーを高くするというものです。 クラッド層のAlの含有率を現在の50%から100%に変更すると 細線とクラッド層のエネルギー差は1.5倍になります。 もう一つの案は、ドーピング層を入れ替えるというものです。 これによってStemWellから注入されるキャリアがholeからelectron になり、クラッド層の組成を変更しなくてもエネルギー差は15倍になります。 こちらの案2の方がエネルギー差の変化が大きく、有効であると考えられます。 そこで、現在こちらの試料を作製し評価を行おうといているところです。 変更点:Stem Wellから注入する     キャリア hole → electron ΔE=1meV→15meV P cladding 1.5um N

まとめと展開 まとめ 今後の展開 1.HRコーティングした電流注入型T型量子細線試料において 5K~110Kでシングルモード発振が観測された。 広い発振温度領域をもつ電流注入型T型量子細線は世界初 2.IL曲線から得られた閾値電流は利得ピーク値変化から得られた ものと良い一致を示した。 3.100Kでもっとも良いデバイス特性を示した。 ・温度上昇と共にキャリアが細線に注入されやすくなる ・構造の改善が必要 最後に本発表のまとめと今後の展開を述べます。 今回、HRコーティングした電流注入型T型量子細線試料において 5K~110Kでシングルモード発振が観測されました。 このような広い発振温度領域をもつ電流注入T型量子細線は世界初 また、IL曲線から得られた閾値電流は利得ピーク値変化から得られた ものと良い一致を示しました。 そして、100Kでもっとも良いデバイス特性を示しました。 これは温度上昇と共にキャリアが細線に注入されやすくなっていることを 示しており、更なる構造の改善が必要であることがわかりました。 今後の展開としては nドープ層とpドープ層を入れ替えた試料を作製し、閾値電流の温度依存性を測定し 構造の改善を図る。 今後の展開 nドープ層とpドープ層を入れ替えた試料を作製し、閾値電流の温度依存性を測定し、構造の改善を図る。

Fin.

Cassidyの方法による利得スペクトルの導出 (Free Spectral Range)

各構造間の比較 Arm-Stem Arm-Arm 閾値電流 2.1mA 0.27mA 微分量子効率 0.9% 12% x10 1/10 活性領域の構造は同じ→発光確率は等しいと仮定 最後にArm-ArmとArm-Stemの特性の比較をおこないます。 閾値電流、微分量子効率ともに10倍程度悪化しています。 注入されたキャリアに対する発光するキャリアの割合を内部量子効率とよびますが、 アクティブレイヤーの構造はほぼ同じであるので二つの内部量子効率はほぼ等しいと考えられます。 するとこの特性の違いは注入効率に起因していると考えられます。 注入効率とはデバイス全体に注入される電流に対する活性領域に注入される電流の事をいい、 Arm-StemではこれがArm-Armの1/10程度であるといえます。 Arm-Stemの内部量子効率はArm-Armの1/10程度

電流・電圧特性の温度依存性

電流・出力特性の温度依存性 このグラフはIL特性の温度依存性です。 5Kからだんだんと閾値が減少し、傾きが大きくつまり微分量子効率が大きくなっていきます。 この部分を拡大したものがこちらのグラフになっており、100Kでもっとも低い閾値と高い微分量子効率を示した後 110Kではともに悪化、120Kでは発振しなくなってしまいます。 この120Kという発振温度限界はノンドープ試料のものと一致しており、この構造において 熱エネルギーの上昇により細線部への閉じ込めが有効でなくなってくるためだと考えられています。 これらのIL曲線からそれぞれ閾値電流、微分量子効率を求めるとこのようになります。

拡散長の温度依存性 井戸厚=6nm T=100K D=18[cm2/s] life time=2.25[ns] 拡散長=2um

各温度におけるEL image 全ての温度領域でクラッド層の外部の構造からの発光は観測される。

電流・電圧特性の温度依存性 50K 30K T=5K T=5K 50K 100K 300K 300K 4K 77K 300K μe 2.6x103 2.4x103 1.6x103 μh 1.8x103 1.0x103 1.4x102

温度上昇に従って利得ピークエネルギーがred-shift 利得・吸収スペクトルの温度依存性 温度上昇に従って利得ピークエネルギーがred-shift ↓ Band gapの縮小と一致 利得の起源が同じ 温度上昇によって利得ピークの半値全幅が広がっていく ↓ 発振時の利得ピーク値は一致 発振時のキャリア密度は温度が上昇するほど大きい 閾値以上に注入効率は上昇

プロセス方法 ここにプロセスの簡単な流れを書くかどうか検討中・・・ 書いておくと、次のIVについては理解しやすいが、あんまり物理学会っぽくない気もしてます。 次に、MBEで作製後、実際に測定するために行うプロセスを簡単に示します。 まず、Pドープ層へのコンタクトをとりやすくするため、エッチングを行ったのちにP側電極を蒸着します。 次に、N側電極を蒸着し、アニールしてコンタクトをとります。 この際、シリーズ抵抗としては主にこの部分が働くことがわかりました。 次に電流・電圧特性の温度依存性からその理由を述べます。

内部量子効率の温度依存性 ΔE=7meV Eth=0.4meV クラッドのbarrierが高く電子が細線に注入されにくい 熱エネルギーによって電子が細線に注入されやすくなる cf.正孔の場合 ΔE=0.5meV程度で5KのEthとほぼ等しい

電流によるEL imageの変化 Ib = 10uA Vb=1.64V 主にコア層から発光 コア層の外側の構造からの発光が観測できる Ib =2.0mA Vb=4.19V これらはレーザー端面からの発光imageです。 白い線はレーザーの中のT型光導波路のコア層とクラッド層の境界に対応しています。右図の黒い線も同様で、ここと、ここがコア層を、 その両側がクラッド層をあらわしています。 非常に低い電流値では、発光は主にコア層の中心で起こっているのがわかります。 これを模式的にあらわすと、このようになっていると考えられます。 アーム井戸から流れ込んでくる電子がちょうどコア層で正孔と再結合を起こし、そこで発光していると考えられるわけです。 こちらは高い電流のときの発光Imageです。 他のエネルギーでのイメージを見てみると、 001表面側や、基板のGaAs部分など、コア層以外の構造からも発光しているのがわかります。 正孔が細線部から流れ出すことによってアーム井戸から流れ込んでくる電子はコア層以外のところで再結合を起こし、そこで発光していると考えられるわけです。 これは、閉じ込めの弱い正孔が細線部からあふれ出していることを示唆していて、正孔が細線部においてはドミナントではないかと考えられます。 次に、本当に電子と正孔の濃度差が原因かどうかを調べるために、光励起による実験を行いました。 もし、本当に濃度差が原因であれば、電子と正孔を等しく生成(?)する光励起では利得が生じると考えられるからです。 正孔が細線から溢れ出していることを示唆