住環境と子どもの問題 ~21世紀出生児縦断調査データ分析~

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住環境と子どもの問題 ~21世紀出生児縦断調査データ分析~ 2017年1月21日 @学習院大学 金沢大学人間社会研究域 藤澤美恵子

研究の背景 住宅は子どもへどのような影響を与えるのか? 住環境はどのような影響を与えるのか? 引っ越しなどの住環境の変化はどのような影響を 与えるのか?

テーマ1. 住環境と子どもの行動 住環境と子どもの先行研究は、場所を限定した定 性的な研究が多い 住居学や家政学会などの研究が多い 福島・大垣(1999)「子どもの住環境整備に関する研究 : その1. 子どもの生活行為の連関に関する分析」 堀内(2009)「京都市中心部におけるマンション開発と 人口増加の動向」 松本(2010)「住環境に関する母親の評価が子育てに 対する意識および養育態度に及ぼす影響」 住居学や家政学会などの研究が多い

テーマ2 子どもの外遊びの決定要因 場所を限定した定性的な研究が多い 1990年代までは、建築・住居学からのアプローチ が多い 新田(1981)「高層住宅団地の子どもの遊び環境に関 する研究」 瀬渡ほか(1993)「高層住宅環境における子供の外出 行動と母親の育児意識」 1990年代以降は、医療系からのアプローチが多 い 逢坂(2007)「高層居住における健康面からの影響」

具体的なアプローチとして 高層マンションの子供の問題 子どもに音をたてさせない 子どもだけで外出させない ・子どもの活動性が低下 具体的なアプローチとして            高層マンションの子供の問題 子どもに音をたてさせない 子どもだけで外出させない          ・子どもの活動性が低下          ・遊ばない子供           (体力がない・自立性が劣る) 高層マンションの健康問題 窓が開けれない高層階 5階以上に子どものアレルギーが多い

超高層住宅(20階以上)竣工推移 出所:㈱不動産経済研究所

高層集合住宅(マンション) 高層の規定がない 建築基準法(消防法) 高層マンションの目安 低層マンション 1~3階 中層マンション 4~9階 低層マンション  1~3階 中層マンション  4~9階 高層マンション  10~19階 超高層マンション 20階以上 白石(2010)『高層マンション症候群』より

テーマ3. 引っ越しが子どもに与える影響 住環境が変化することによる子供への影響分析 はおこなわれておらず、先行研究も少ない 原岡(1957)「学業成績に対する努力と家庭環 境との関係」

従来の先行研究の仮説 外遊びをする 勉強もきちんとできる 住環境 住宅が充実していれば 母親が安定し

先行研究の傾向 限定的な地域を対象としたアンケート調査 統計的手法は集計 よって、21世紀出生児縦断調査のデータを使用し て分析することの意義は大きい 統計的手法で因果関係を明らかにする

21世紀出生児縦断調査のデータ 住居の状況の質問 1回目(2001年)引っ越しや増改築の有無 3回目(2003年)住居形態(集合住宅何階建ての何階) 4回目(2004年)住環境(住宅の多いところなど) 7回目(2008年)引っ越しや増改築の有無 8回目(2009年)住居形態と所有状況 子どもが育った住居の決定 3回目の住居形態を参考に7回目に引っ越しがない場 合は継続して居住していると判断。 8回目で確認

本研究のデータ 21世紀出生児縦断調査を使用 サンプルサイズ14,199 フォーカス変数として 住宅の環境に関する変数 住宅の形式に関する変数 引越しに関するダミー変数 アウトプットとして 問題行動 学校への適応度 学習時間

本研究の仮説 子供の問題は少なく 学校へ適応し 勉強もきちんとできる 住環境 住宅が充実していれば 母親が安定し

分析方法 モデル 最小二乗法による回帰分析 被説明変数=問題行動           学校への適応度           学習時間 説明変数=性別・住居の階数など

被説明変数 問題行動 質問に対して、親が問題と考える項目数を使用 質問項目に該当する設問を1ポイントとしてポイント化 学校への適応度 学校への適応の状態を質問 YESを+1、NOを‐1として、ポイント化 学習時間 質問は選択肢入力 順序データとして投入

住関連の説明変数 戸建ダミー 階数 住環境ダミー 引越しダミー 子供部屋ダミー 戸建は1階として変換 住宅の多いエリア 商業の多いエリア 階数  戸建は1階として変換 住環境ダミー 住宅の多いエリア 商業の多いエリア 工場の多いエリア 引越しダミー 第7回(小学校に入学時)で引越ししたかを質問 子供部屋ダミー 第7回(小学校に入学時)で子供部屋があるかを質問

その他の説明変数 親の就業状態 父母ともに以下をダミー変数処理 家庭学習コミットメント 父母ともに 1=2,2=1,3=0でポイント化 父母ともに以下をダミー変数処理  フルタイム パートや内職 自営業 無職 家庭学習コミットメント 父母ともに 1=2,2=1,3=0でポイント化

家族数や兄弟姉妹の数 祖父母の支援 父母の学歴 世帯年収 病気の有無 子育ての喜び 項目をポイント化 子育ての苦悩 ゲームとTV時間 質問は選択肢  順序データで変数投入

分析結果 分析の過程 住宅環境の変数は、有意な結果にならなかった このため、この変数の投入を抜きで分析した 戸建ダミーも有意にならず、住宅の階数とのマル チこの可能性も出るため 住宅の階数で分析した

問題行動 問題行動は、あまり住環境には関連がない 兄弟が多いと少なく、 本を読む子も少ない、 親が子育てに喜びを感じていると少ない B 標準誤差 t 値 (定数) 0.488 0.201 2.426 gender_menD -0.002 0.031 -0.052 educ_m2 0.032 0.014 2.247 educ_f2 -0.017 0.011 -1.534 moving7D 0.122 0.054 2.261 child_room7D -0.025 0.034 -0.736 income_amount_all8 1.626E-05 0.000 n_family8 0.041 0.019 2.157 n_siblings_twins8 -0.151 *** 0.029 -5.182 rel_gp8D 0.162 0.042 3.874 floor8H1 -0.003 0.007 -0.460 aftersch_who_18 0.049 0.060 0.813 book8 -0.033 ** 0.012 -2.767 commit_m_sum 0.052 0.009 5.706 commit_f_sum 0.008 6.370 expen8 -0.001 0.001 -1.983 tv8 0.098 0.017 5.778 game8 0.256 0.021 12.005 sick8 0.241 0.047 5.104 work_m8f -0.059 -4.935 work_m8p -0.110 0.037 -2.969 work_m8m -0.068 0.063 -1.093 work_f8f 0.223 3.732 work_f8p 0.370 0.209 1.769 work_f8m 0.217 0.074 2.930 distress_sum 0.480 56.421 good_sum -0.034 0.005 -7.247 POS -0.211 -17.710 BIH 3.589 hours_study8 -0.101 -4.874 問題行動は、あまり住環境には関連がない 兄弟が多いと少なく、 本を読む子も少ない、 親が子育てに喜びを感じていると少ない

学校への 適応度 学校への適応度は、あまり住環境に関係ない 勉強する子は高い B 標準誤差 t 値 (定数) 2.661 *** 0.174 15.309 gender_menD 0.034 0.027 1.243 educ_m2 0.049 0.012 3.940 educ_f2 0.010 1.286 moving7D 0.026 0.047 0.545 child_room7D -0.004 0.029 -0.125 income_amount_all8 -4.43E-05 0.000 -1.521 n_family8 0.008 0.017 0.493 n_siblings_twins8 0.033 0.025 1.284 rel_gp8D 0.139 0.037 3.798 floor8H1 0.005 0.006 0.912 aftersch_who_18 -0.093 0.053 -1.767 book8 0.060 5.821 commit_m_sum 0.013 1.610 commit_f_sum 0.038 0.007 5.273 expen8 -0.002 * 0.001 -2.537 tv8 -0.006 0.015 -0.425 game8 -0.094 0.019 -5.015 sick8 -0.058 0.041 -1.404 work_m8f 3.628 work_m8p 0.040 1.237 work_m8m -0.010 0.055 -0.177 work_f8f 0.052 0.134 work_f8p -0.107 0.183 -0.586 work_f8m 0.057 0.065 0.879 distress_sum -0.001 0.009 -0.077 good_sum 0.004 11.470 BIH 0.036 5.142 hours_study8 0.066 0.018 3.673 prob_behavsum -0.161 -17.710 学校への適応度は、あまり住環境に関係ない 勉強する子は高い

学習時間 学習時間は、子供部屋があると長くなる B 標準誤差 t 値 (定数) 2.212 *** 0.100 22.033 gender_menD 0.010 0.016 0.640 educ_m2 -0.017 0.007 -2.379 educ_f2 0.000 0.006 -0.071 moving7D -0.016 0.028 -0.591 child_room7D 0.045 0.017 2.600 income_amount_all8 -5.29E-06 -0.310 n_family8 0.014 1.392 n_siblings_twins8 -0.054 0.015 -3.607 rel_gp8D 0.031 0.021 1.423 floor8H1 0.008 0.003 2.283 aftersch_who_18 0.912 book8 0.062 10.293 commit_m_sum 0.080 0.005 17.308 commit_f_sum 0.043 0.004 10.150 expen8 12.770 tv8 -0.004 0.009 -0.464 game8 -0.032 0.011 -2.930 sick8 0.024 work_m8f -0.024 -3.900 work_m8p -0.075 0.019 -3.945 work_m8m 0.020 0.032 0.614 work_f8f -0.067 -2.202 work_f8p -0.146 0.107 -1.367 work_f8m -0.025 0.038 -0.671 distress_sum 1.570 good_sum 0.001 0.002 0.383 POS 0.023 3.673 BIH 0.329 prob_behavsum -0.026 -4.874 学習時間は、子供部屋があると長くなる

まとめ 住環境と子どもとのあきらかな関連は確認できな かった その他の要因については、先行研究の結果とおお よそ似ている 例えば、ゲームの時間が長いことによる影響など は確認できている そこで、住宅の階数が高いとゲームの時間が長く なる傾向にあるかどうかの検証は、間接的な住宅 環境の要因として確認する意義はある

その他の今後の作業 引越しの効果についてデータを分類して分析する 子供部屋の効果について確認する 増改築などのデータを新たに投入する