相互調整によるエージェントのクラスタ化: コンピュータシミュレーションによる検討

Slides:



Advertisements
Similar presentations
土木計画学 第3回:10月19日 調査データの統計処理と分析2 担当:榊原 弘之. 標本調査において,母集団の平均や分散などを直接知ることは できない. 母集団の平均値(母平均) 母集団の分散(母分散) 母集団中のある値の比率(母比率) p Sample 標本平均 標本分散(不偏分散) 標本中の比率.
Advertisements

地図の重ね合わせに伴う 位相関係の矛盾訂正手法 萬上 裕 † 阿部光敏* 高倉弘喜 † 上林彌彦 ‡ 京都大学工学研究科 † 京都大学工学部 * 京都大学情報学研究科 ‡
統計学入門2 関係を探る方法 講義のまとめ. 今日の話 変数間の関係を探る クロス集計表の検定:独立性の検定 散布図、相関係数 講義のまとめ と キーワード 「統計学入門」後の関連講義・実習 社会調査士.
●母集団と標本 母集団 標本 母数 母平均、母分散 無作為抽出 標本データの分析(記述統計学) 母集団における状態の推測(推測統計学)
世帯マイクロデータの適合度評価における 重みの決定手法
看護学部 中澤 港 統計学第5回 看護学部 中澤 港
平成14年2月8日 卒業研究報告 相関行列に基づく非計量多次元尺度法 に関する研究
静止背景における動物体の検出と追跡 陳 謙 2004年10月19日.
視線に基づくサブゴールを用いた 歩行者の行動モデル
自己重力多体系の 1次元シミュレーション 物理学科4年 宇宙物理学研究室  丸山典宏.
確率・統計Ⅰ 第12回 統計学の基礎1 ここです! 確率論とは 確率変数、確率分布 確率変数の独立性 / 確率変数の平均
統計的仮説検定 基本的な考え方 母集団における母数(母平均、母比率)に関する仮説の真偽を、得られた標本統計量を用いて判定すること。
エージェントモデル シミュレーション.
スケールフリーネットワークにおける 経路制御のためのフラッディング手法の提案と評価
分布の非正規性を利用した行動遺伝モデル開発
土木計画学 第5回(11月2日) 調査データの統計処理と分析3 担当:榊原 弘之.
外来生物が在来生物へ及ぼす影響 中内健伍.
Bassモデルにおける 最尤法を用いたパラメータ推定
統計的仮説検定の考え方 (1)母集団におけるパラメータに仮説を設定する → 帰無仮説 (2)仮説を前提とした時の、標本統計量の分布を考える
疫学概論 母集団と標本集団 Lesson 10. 標本抽出 §A. 母集団と標本集団 S.Harano,MD,PhD,MPH.
Effect sizeの計算方法 標準偏差が正確に求められるほど症例数が十分ないときは、測定しえた症例の中で、最大値と最小値の値の差を4で割り算した値を代用することが出来る。この場合には正規分布に従うことを仮定することになる。
社会心理学のStudy -集団を媒介とする適応- (仮)
確率・統計Ⅱ 第7回.
大阪工業大学 情報科学部 情報システム学科 宇宙物理研究室 B 木村悠哉
先端論文紹介ゼミ Role-based Context-specific Multiagent Q-learning
スパッタ製膜における 膜厚分布の圧力依存性
“いじめ現象”の形式構造を探る ~人工学級のMulti-Agent Simulation~
計算値が表の値より小さいので「異なるとは言えない」。
確率・統計輪講資料 6-5 適合度と独立性の検定 6-6 最小2乗法と相関係数の推定・検定 M1 西澤.
マーケティング戦略.
VI-7 連続分布(面データ)を分析する方法
TTF骨格を配位子に用いた 分子性磁性体の開発 分子科学研究所 西條 純一.
土木計画学 第6回(11月9日) 調査データの統計処理と分析4 担当:榊原 弘之.
モンテカルロ法と有限要素法の連成による 焼結のマイクロ‐マクロシミュレーション
集団的意思決定支援法の実験環境に関する研究
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
ボンドの効果 ―法と経済学による分析― 桑名謹三 法政大学政策科学研究所
市場規模の予測.
原子核物理学 第8講 核力.
ひび割れ面の摩擦接触を考慮した損傷モデル
弓射への力学的アプローチ(その7) 赤門支部 鈴木千輝
1DS05175M 安東遼一 1DS05213M 渡邉光寿 指導教員: 高木先生
第6章 特徴空間の変換 6.1 特徴選択と特徴空間の変換 6.2 特徴量の正規化 平成15年5月23日(金) 発表者 藤井 丈明
社会シミュレーションのための モデル作成環境
ランダムグラフ エルデシュとレーニイによって研究された.→ER-model p:辺連結確率 N:ノード総数 分布:
Introduction to Soft Computing (第11回目)
プラズマ発光分光による銅スパッタプロセス中の原子密度評価
市場規模の予測.
2009年12月4日 ○ 前田康成(北見工業大学) 吉田秀樹(北見工業大学) 鈴木正清(北見工業大学) 松嶋敏泰(早稲田大学)
市場調査の手順 問題の設定 調査方法の決定 データ収集方法の決定 データ収集の実行 データ分析と解釈 報告書の作成 標本デザイン、データ収集
Webコミュニティ概念を用いた Webマイニングについての研究 A study on Web Mining Based on Web Communities 清水 洋志.
再討論 狩野裕 (大阪大学人間科学部).
所属集団の変更できる社会的ジレンマ実験について2
リングの回転成形の 近似3次元有限要素シミュレーション 塑性加工研究室 平松直登 一般化平面ひずみを用い た近似3次元FEM
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
第4章 社会構造概念はどのように豊穣化されるか
適応的近傍を持つ シミュレーテッドアニーリングの性能
早稲田大学大学院商学研究科 2014年12月10日 大塚忠義
様々なシミュレーション:社会現象のシミュレーション
「データ学習アルゴリズム」 第3章 複雑な学習モデル 報告者 佐々木 稔 2003年6月25日 3.1 関数近似モデル
情報経済システム論:第13回 担当教員 黒田敏史 2019/5/7 情報経済システム論.
クロス表とχ2検定.
パターン認識 ークラスタリングとEMアルゴリズムー 担当:和田 俊和 部屋 A513
パターン認識 ークラスタリングとEMアルゴリズムー 担当:和田 俊和 部屋 A513
比較政治学における パレスチナ研究 ~交渉ゲーム理論を中心に~
メソッドの同時更新履歴を用いたクラスの機能別分類法
制約付き非負行列因子分解を用いた 音声特徴抽出の検討
様々なシミュレーション:社会現象のシミュレーション
「データ学習アルゴリズム」 第3章 複雑な学習モデル 報告者 佐々木 稔 2003年8月1日 3.2 競合学習
実都市を対象とした初期マイクロデータの 推定手法の適用と検証
Presentation transcript:

相互調整によるエージェントのクラスタ化: コンピュータシミュレーションによる検討 高木英至(埼玉大学) 相互調整モデルの提案: Social Impact Model の一般型 集団化への一定の含意 少数派の同類選択傾向 少数派相互の近接傾向

クラスタ化(clustering) 分離(segregation) 2つの経路 Nowak, Latane のSIM ← 態度変化 エージェントの移動 エージェントの態度変化(改宗) Nowak, Latane のSIM ← 態度変化 前提 セル空間にエージェント 距離に応じた相互影響 結果 態度ごとのクラスタ 少数派の残存 少数派はより小さく

相互調整モデル(MAM) MAM 基本的問題:例 SIMとの相違 得点の低下=影響圧力 と考えればSIMはMAMの特殊ケース 個人が行動ルール(例:言語)を持つ 近隣の他者と一致すれば得点が高い → 特定のルールはどの程度一般化するか? MAM SIMとの相違 エージェント状態の多次元性 例:10011 多数の状態、態度間の距離 エージェントは自発的に態度変更を模索する 得点の低下=影響圧力 と考えればSIMはMAMの特殊ケース 単なる影響よりはエージェントの自由度が高い

予測:MAM と SIM の共通性 少数派を含め、複数態度のクラスタができる 初期少数派の縮小 ただし影響力が局所に限定される場合だけ 規模/度数に基づく構造効果 少数派 確率的に多数派に囲まれやすい 少数派 → 多数派への改宗(効果の累積) 少数派は、相互支持的なクラスタだけが残れる。

MAM の新たな要素 SIM との相違 態度間の距離の効果:予測 態度は2つに限定されていない 態度間の距離を想定する 多数の態度でどのようなクラスタが生じるか? 態度間の距離を想定する 態度間の距離の導入が何をもたらすか? 態度間の距離の効果:予測 優勢な態度のクラスタ → かけ離れた態度の劣勢化 かけ離れた態度間で、中間的な少数派はニッチを見出す?

MAM の前提と手順 50 x 50 のセル空間、torus ブロック距離 セル間の適合度:態度の値が一致する次元の数 ノイマン近傍 セル間の適合度:態度の値が一致する次元の数 10 と 11 : 適合度1 セル i の態度の適合度 Fitness(i) = Σ fij・sj/dijn(2)          j ∈A       A:セル i が「相互作用」するセルの集合 fij はセル間の適合度 sj はセル j の強さ、同一(1.0) dij はセル間の距離である. n : 距離係数 セルの態度変化 自分のターンで態度の各次元を確率 0.5 で変更 適合度が上がればその変化を受け入れる。 離散的なラウンド進行 ターンはランダム 態度:2次元、4種類(00/01/10/11)

MAM のシミュレーション:関心の焦点 SIM 同様のクラスタ化? 距離係数の効果 セルはどの態度のセルと隣接しやすいか? 少数派クラスタが残るのは、影響力が距離によって限定される(距離係数が高い)場合のはずだ。 セルはどの態度のセルと隣接しやすいか? 相互調整/影響に基づく集団化の様相 新たな要因:態度間距離の効果は?

結果(1): 距離係数の効果 SIM と同じ挙動 以下、態度の初期出現率に差がある場合 影響が近くに限定される(距離係数が高い)ほど; 多数派は小さくなる。 クラスタ数が多くなる。 大域的な影響が生じる(距離係数が低い)なら、多数派が全体を支配。

続き:初期少数派の減少 多数派:初期では過半ではない  → 増大、過半を占める 中間派:減少 少数派:より減少

結果(2):隣接状況 隣接する4セルの態度構成 自集団選択率が高い 多数派ほど自集団選択率が高くなる 態度が遠いセルとの隣接度数は小さい。 少数派が残る条件 自集団選択率が高い 多数派ほど自集団選択率が高くなる Blau らの構造効果 多数派は近隣に同態度の他者を見出しやすい。 偶然からも生じる 態度が遠いセルとの隣接度数は小さい。

隣接係数 隣接係数 rij = Ln(Fij/Eij). (3) 最終ラウンドでの度数分布を各態度の出現確率と仮定すると、隣接セルの態度構成の出現確率は多項分布で表せる。 Fij:多項分布から求めた、態度 j の隣接セルの期待比率 Eij:実際の態度 j の隣接した比率 rij >0 → 態度 j と期待値以上に隣接しやすい rij =0 → 期待値と実際とが一致 rij <0 → 態度 j と期待値より隣接しにくい

隣接係数の値 自集団との隣接傾向が高い 少数派ほど、自集団との隣接傾向が高い 距離が大きい態度のセルからは遠ざかる 距離が大きい場合を除き、少数派と中間派は接近する

結果(3):態度間距離の作用 初期出現率が同じでも、多数派との距離が遠い態度は度数が減少する。

結果(3):態度間距離の作用(2) 初期少数派がかえって増大する場合 00,01,10,11の初期出現率が3:1:1:3 初期少数派( 01 と10)はむしろ増加する(シミュレーション3) 1:1:3:3なら少数派は減少(シミュレーション4) 距離が遠い相対的多数派が拮抗するとき、少数派は両者の間でニッチを見出し、生き残る。

まとめと考察(1):MAMの挙動 SIM の挙動の再現 態度間距離の効果 クラスタ化 少数派の減少 多数派から距離のある少数派は減少しやすい ただし影響力が距離で制限されるときだけ 少数派の減少 態度間距離の効果 多数派から距離のある少数派は減少しやすい 距離のある多数派が拮抗するとき、中間的な少数派は生き残りやすい

まとめと考察(2):集団構成への含意 従来の一見矛盾する観測 シミュレーションの含意 多数派の構成 少数派の構成 少数派は外集団成員と接触しやすい(Blau ら) 少数派は凝集的であるという「常識」 シミュレーションの含意 接触比率では、少数派は外集団成員と接触しやすい 構造効果 構造効果を除去した接触係数では、少数派は自集団選択傾向が強い 多数派の構成 同類を見出しやすい しかし内部に少数派を抱え込む(少数派を外側に押しやることがない) 少数派の構成 同類で密集する(そのときだけ生き残れる) 他の少数派と接近することで多数派の影響を緩和する →少数派同士の接近傾向