中性化 コンクリート工学研究室 岩城一郎
コンクリート内部の鋼材腐食の メカニズム 大前提:コンクリートがアルカリ性(pH13程度)に保たれており,鋼材表面の不動態被膜が健全であればコンクリート内部の鋼材は腐食しない. 鋼材腐食の発生原因 中性化:炭酸化等によるpHの低下→不動態被膜の喪失→酸素と水分の供給により腐食が進行 塩害:塩化物イオンの侵入→不動態被膜の破壊→酸素と水分の供給により腐食が進行 ※無筋コンクリートであれば考慮する必要なし
鋼材腐食の概念図 CONCRETE:Microstructure, Properties, and Materials, Second Edition, P. Kumar Mehta, Paulo J. M. Monteiro, McGraw-Hill
鋼材腐食のメカニズム アノード反応(不動態被膜の破壊):Fe→Fe2++2e- (電子2個を母材に残して鉄がイオンとなって溶出する反応) カソード反応:1/2O2+H2O+2e-→2OH- (アノード反応によって生じた電子を消費する反応) 総括反応:Fe+1/2O2+H2O→Fe(OH)2 アノード部:酸化反応により腐食生成物(さび)が析出(例えばFeOOH,Fe2O3あかさび,Fe3O4くろさび).さびの体積は鉄の約2.5倍→体積膨張によるコンクリートのひび割れ,はく離→腐食反応の促進→劣化 (鉄筋腐食は中性化,塩化物イオンの侵入の他に,酸素と水を必要とする.酸素と水のどちらかが少ない環境下では腐食しにくい.たとえば水中,非常に乾燥した環境では腐食しにくい.換言すれば,CaCO3,Cl-は腐食反応そのものには関係しない.)
中性化とは? コンクリートがアルカリ性を失って中性に近づく現象 炭酸化(Carbonation):セメント水和物,主としてCa(OH)2が炭酸ガスCO2と反応し,炭酸カルシウムCaCO3に変化すること Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O 3CaO・2SiO2・3H2O(C-S-H)+3CO2→3CaCO3+2SiO2+3H2O 劣化要因:二酸化炭素 劣化現象:炭酸化反応により細孔溶液中のpHを低下させることで,鋼材の腐食が促進され,コンクリートのひび割れやはく離,鋼材の断面減少→耐荷力の低下(炭酸化自体はコンクリートの物性を大きく低下させないため,劣化とはみなさない.) 劣化指標:中性化深さ(中性化残り),フェノールフタレインの1%エタノール溶液の噴霧による呈色反応により判定(高アルカリpH10程度以上に対し赤紫色に呈色し,中性化が大きく進んだ領域では色の変化が見られない.必ずしも赤紫色に呈色していれば健全とは限らない?)
中性化(炭酸化)の事例 資料提供 東北大学 久田 真 准教授
各要因と中性化との関係 セメント(混和材)の種類 混合セメント(高炉セメント,フライアッシュセメント)を用いた場合,中性化速度 大:ポゾラン反応により水酸化カルシウムを消費 水セメント比 水セメント比 小⇒中性化速度 小:組織の緻密化により,CO2の拡散を抑制 環境条件 屋内では屋外より一般に中性化速度が高い.CO2濃度が高く,湿度が低い. 温度:温度が高くなるほど中性化速度が速くなるが,20-50℃の範囲ではあまり変わらない. 湿度:50-70%RHで中性化速度最大,湿度 高⇒CO2の拡散を抑制.湿度 低⇒炭酸化反応が生じにくい.(炭酸化は二酸化炭素が気体として直接反応するのではなく,硬化体中の水分に溶解することにより酸CO32-,HCO3-として作用する).
中性化による劣化進行過程 腐食の開始 腐食ひび割れの発生 中性化による劣化 使用期間 (供用年数) 潜伏期 進展期 加速期 劣化期 (CO2が鋼材近傍まで到達) 腐食ひび割れの発生 中性化による劣化 使用期間 (供用年数) 潜伏期 進展期 加速期 劣化期 部材の性能低下 中性化進行速度 (中性化深さ) 鋼材の腐食速度 (ひび割れなし) 鋼材の腐食速度 (ひび割れあり)
中性化の進行予測(√t則) y=b√t ここに,y:中性化深さ(mm),t:中性化期間(年),b:中性化速度係数(mm/√年)→多くの提案式がある. 例えば, y=R(-3.57+9.0W/B)√t(示方書提案式) ここに,R:環境の影響を表す係数,乾燥しやすい環境R=1.6,乾燥しにくい環境R=1.0,W/B:有効水結合材比=W/(Cp+k・Ad),W:単位水量,B:単位結合材量,Cp:単位セメント量,Ad:単位混和材量(フライアッシュ,高炉スラグ微粉末),k:混和材の影響を表す係数 フライアッシュk=0,高炉スラグ微粉末k=0.7,使用材料(結合材の種類),水結合材比,環境条件(乾燥のしやすさ)を考慮 例題 Case-1:OPC,W/C=0.5,Case-2:OPC,W/C=0.4,Case-3:OPC,W/C=0.6,Case-4:OPCの20%FA置換,W/B=0.5,Case-5:OPCの70%BS置換,W/B=0.5,Case-6:OPCの70%BS置換,W/B=0.4
コンクリート標準示方書による各種コンクリートの中性化に対する耐久性能照査 5 10 15 20 25 30 35 40 50 60 70 80 90 100 中性化期間(年) 中性化深さ(mm) W/C=0.5 W/C=0.4 W/C=0.6 W/B=0.5, FA=0.2*B BS=0.7*B W/B=0.4, かぶり30mm 中性化残り 10mm
中性化によるコンクリートの剥落 資料提供 横浜国立大学 細田 暁 准教授
鉄筋かぶり量と剥落との関係 コンクリート表面 中性化深さ 中性化残り 鉄筋 かぶり 中性化残りと 剥落との関係
雨水等の影響を受けた場合 雨水等の影響を受けない場合
中性化によるコンクリートの剥落対策(JR東日本) ・ かぶりを十分に確保する.少なくとも20mm以上 ・ 中性化の進行が小さいコンクリートを使用する.できれば供用期間中に中性化残りが10mmを下回らないこと. → 標準示方書の照査方法に従い,建設後100年程度においても中性化残りが10mm程度以上となるように設計 ・ 雨水や漏水の影響が極力小さい 構造形式とする. → 水切り形状の見直し ・ コンクリートの単位水量の上限値 の設定と受入れ検査の徹底 ・ かぶりの非破壊検査 社会基盤メインテナンス工学(東京大学出版会)
中性化対策 中性化の進行を抑制するための対策 かぶりの確保 水セメント比の低下 (混合セメントは要注意) 中性化による鉄筋腐食を抑制するための対策 水分の供給の遮断