救急外来で救急医によって行われた 気管挿管の成功率と合併症: 救急気道管理に関する多施設前向き観察研究(JEAN study) 田中研三1)2) 葛西猛1) 伊藤憲佐1) 大橋正樹1) 中井智子1) 伊藤太一1) 林真也1) 中山恵美子1) 中村隼人1) 野田剛1) 清水翔志1) 1)医療法人鉄蕉会亀田総合病院救命救急科 2)Japanese Emergency Medicine Research Alliance 右下の紋章は、各施設のものに差し替えて下さい
第39回日本救急医学会総会・学術集会 CO I 開示 筆頭発表者名: 田中 研三 第39回日本救急医学会総会・学術集会 CO I 開示 筆頭発表者名: 田中 研三 演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある 企業などはありません 研究助成金 St. Luke’s Life Science Institute Grant (Hasegawa K.) Richard Wuerz Clinical Research Grant from Harvard Medical School (Hasegawa K.) 利益相反関係にある企業などはありません 以下の研究助成金を得ています
Japanese Emergency Airway Network (JEAN) 研究方法 前向き観察研究 多施設データレジストリー Japanese Emergency Airway Network (JEAN) 【期間】 2010/3/1~2012/8/31 (進行中) 【施設】 国内救急施設(11施設) うち、救命救急センター9施設 *全参加施設にて倫理委員会を通過 今回の研究はJEAN Studyに基づいた研究ですので、まず JEAN studyについて簡単にご説明します ご覧の国内11施設で現在進行中の気管挿管についての前向き観察研究です。 期間は2010年3月1日から2012年8月31日までを予定しており、現在もデータの蓄積は進行中です。 国立国際医療研究センター 沖縄県立中部病院 名古屋掖済会病院 新潟市立病院 公立小浜病院 日本赤十字社和歌山医療センター 福井大学附属病院 福井県立病院 亀田総合病院 済生会千里病院救命救急センター 湘南鎌倉総合病院
研究方法 【対象】 救急外来で気管挿管を施行した全症例 【記載項目】 【対象】 救急外来で気管挿管を施行した全症例 電子カルテやレントゲンなどの情報端末から記入漏れの症例がないかチェックする 【記載項目】 年齢、性別、推定体重、気道管理の適応、方法、器具、薬剤と用量、挿管者属性、施行回数、合併症 なお、喉頭鏡をかけた段階で施行1回と定義する。 都市部のある救急施設で年間10000台弱の救急車を受け入れています。 対象は、救急外来で気管挿管を施行した全症例です。 記載項目は、(スライドを指しながら)ここに挙げたものです。 なお、施行回数の定義ですが、喉頭鏡を口腔内にかけた段階で1回とカウントします。 NEARと同様な定義
JEAN Study結果 エントリー症例 2778 データ紛失 68 回収率:97.6% 登録症例 2710 非CPA症例 1696 JEAN Studyの結果は、エントリー症例が2778例、そのうちデータ紛失が68例あり、登録症例は2710例となり、回収率97.6%という高い数値を保っております。登録症例のうち非CPA症例は1696例、CPA症例は1014症例あり、いずれも内科的疾患が80%以上含まれています。 非CPA症例 1696 CPA症例 1014 内科的適応:1394 (82.2%) 内科的適応:852 (84.0%) 外傷性適応: 302 (17.8%) 外傷性適応:162 (16.0%)
結果 挿管の適応 登録症例 2710 内科的適応:2246 (82.9%) 外傷性適応: 464 (17.1%) 心肺停止 852 38% 結果 挿管の適応 登録症例 2710 内科的適応:2246 (82.9%) 外傷性適応: 464 (17.1%) 心肺停止 852 38% 162 35% 意識障害 673 30% 頭部外傷 131 28% 呼吸不全 396 18% ショック 83 222 10% 顔・頚部外傷 39 8% 気道閉塞 75 3% 気道熱傷 32 7% その他 16 1% 17 気管支喘息 12 挿管の適応理由をみますと、内科的適応、外傷的適応ともに心肺停止が最も大きな割合を占め、内科的適応では意識障害、呼吸不全、ショックと続き、外傷性適応では頭部外傷、ショックがこれに続きます。
背景 救急外来における気管挿管の成功率と合併症 施行した医師のスペシャリティーによって差はあるか 日本では大規模な研究は無かった 救急医と麻酔科医で比較 成功率、合併症ともに差異なし EMJ, 2007; 24: 394-7 RSI(Rapid sequence intubation) 成功率、合併症ともに差異がない Emerg Med J, 2006; 23: 62-4 日本では大規模な研究は無かった 今回の研究の背景です 救急外来における気管挿管を施行した医師の経験年数やスペシャリティーによる成功率、 合併症の違いについての研究は、欧米では救急医と麻酔科医で比較したものがありますが、 日本ではこれまで大規模な研究はありませんでした。
目的 JEAN Study 日本の救急外来における気管挿管 成功率と合併症に差があるか明らかにすること スタッフレベルの経験がある医師において 救急医 救急医以外の医師 成功率と合併症に差があるか明らかにすること 今回の研究はJEAN Studyのデータベースを使用した研究となります 目的は 日本の救急外来において、スタッフレベルの気管挿管の成功率と合併症発生率が救急医とそれ以外で差があるかを比較することです
方法 【対象患者】 the Japanese Emergency Airway Network (JEAN)データレジストリーに登録された患者 2010年3月 - 2011年8月 救急11施設に来院し、気管内挿管を施行したもの 実施者についてのデータが欠落していないもの 経験年数6年目以上の医師が挿管した症例 方法です 対象患者はJEANデータレジストリーに2010年3月から2011年8月までに登録され、実施者についてのデータが欠落していないもののうち、経験年数6年目以上の医師が挿管した症例としました。
方法 気管挿管の成功率と合併症発生率 2群間で比較 成功は1回目の施行で挿管できた症例とする 救急科専属医を救急医と定義 それ以外の医師 救急医が行った群とそれ以外の医師が行った群で成功率と合併症発生率を比較しました なお、救急科専属医を救急医とし、1回目の施行で挿管できた症例を成功例としました
方法 アウトカムに影響を与えると思われる、以下の項目についてサブグループ化 成功率と合併症発生率を比較 RSI(CPA以外の症例) アウトカムに影響を与えると思われる以下の項目においてサブグループ化し、それぞれ成功率と合併症について比較しました
解析 STATA ver9.2 有意水準5% Fisherの正確検定 解析はSTATAvdf9.2を使用し、有意水準5%、Fisherの正確検定を行いました
結果 18ヶ月の研究期間において JEANデータベースは2710例の挿管を記録 (回収率 97.6%) 対象基準を満たした患者:700例 結果です 18ヶ月の研究期間においてJEANデータベースは2710例の挿管を記録し、対象基準を満たした症例は700例ありました
対象患者の背景 性別、年齢には大きな差は認めませんでしたが、体重に差が認められました 救急医以外の医師が挿管する症例ではCPAが半分以上を占め、救急医が挿管する症例では外傷が多い傾向にあります。
成功率 全体の成功率は救急医が82%、それ以外が76%であり、有意差は認めませんでした
合併症 合併症発生率に関してもそれぞれ7%と8%であり、有意差は認めませんでした
CPA 次にサブグループ解析の結果です 上の段が挿管成功率、下の段が合併症発生率を示しています。 左半分がCPA症例について、右半分が非CPA症例について示しています 非CPAの症例における救急医の成功率は79%、救急医以外の成功率は66%であり、有意差を認めました
外傷(非CPA) 外傷及び内科疾患についてのサブグループ解析です。
RSI(非CPA) RSIを行った症例と行わなかった症例についてのサブグループ解析です
考察1 全体では成功率、合併症発生率ともに有意差は認めなかった 以下のサブグループで救急医の成功率が有意に良好であった 非CPA 非CPAの内科症例 非CPAのRSIを行っていない症例 非CPAの内科症例で救急医の合併症発生率が有意に良好であった 考察です 全体では成功率、合併症発生率ともに有意差は認めませんでしたが、 非CPA、非CPAの内科症例、非CPAのRSIを行っていない症例のサブグループで救急医の成功率が有意に良好でした また、非CPAの内科症例で救急医の合併症発生率が有意に良好でした
考察2 成功率に有意差が認められなかったサブグループにおいても救急医の成功率が高い傾向にあった 救急医の全症例における成功率は82%、合併症発生率は7%であった 文献によって差はあるが、海外の救急医の成功率は80~98%であり、遜色ない結果と思われる Emerg Med J 26(8): 604-608、Annals of emergency medicine 46(4): 328-336 今後、データの蓄積を待ってさらなる検討を行いたい 成功率に有意差が認められなかったサブグループにおいても救急医の成功率が高い傾向にありました 救急医の全症例における成功率は82%、合併症発生は7%でした 文献によって差はあるが、海外の救急医の成功率は80~98%であり、遜色ない結果と思われるます 今後データの蓄積を待って、さらなる検討を行いたいと思います
結論 6年目以上経験がある医師において、いくつかのサブグループで、救急医の挿管成功率、合併症発生率が有意に良好であった
謝辞 The authors acknowledge the following research personnel at the study sites: 福井大学病院 (森田浩史,永井秀哉) 福井県立病院 (東秀律,加藤之紀) 日本赤十字社和歌山医療センター (岡本洋史) 亀田総合病院 (田中研三) 国立国際医療研究センター (中尾俊一郎,阪本太吾) 名古屋掖済会病院 (坪井重樹 ) 新潟市民病院 (佐藤信宏) 公立小浜病院 (千葉拓世) 沖縄県立中部病院 (大久保雅史) 大阪済生会千里病院 (重光胤明) 湘南鎌倉総合病院 (大渕尚 ,今村太一) We are grateful to our many emergency physicians and residents for their perseverance in pursuing new knowledge about this vital resuscitative procedure