XMM-Newton 衛星による電波銀河 Fornax A の東ローブの観測 磯部 直樹(ISAS/JAXA; isobe.naoki@jaxa.jp) 金田英宏(ISAS/JAXA), 田代信, 阿部圭一, 伊藤光一(埼玉大学), 牧島一夫(東大理), 伊代本直子(GSFC/NASA) 2. XMM-Newton衛星による観測 1. 電波銀河 Fornax A Fornax A (NGC 1316)は、南天で4番目に明るい電波源であり、典型的なローブを持つ電波銀河である。我々はASCA により世界で始めてローブから逆コンプトン散乱X線を検出し(図1)、電波との比較から、ローブ中の電子と磁場のエネルギー密度を求めることに成功した(Kaneda et al. 1995)。 一方、ローブを持つにもかかわらず、中心核の活動性が非常に弱いこともASCAによって明らかになっている(Iyomoto et al. 1998)。 図2. XMM-Newton衛星の概念図 X線望遠鏡 焦点面検出器 EPIC MOS / PN XMM-Newtonは、1999年にESAが打ち上げたX線観測衛星であり、 2種類のX線CCDカメラ EPIC PNとEPIC MOS (MOSは2台:MOS1と MOS2)を搭載している。非常に大きな有効面積と広い観測帯域(0.15 - 12 keV程度)を持つことを特徴としている。電波ローブのような広がった天体の観測には、大きな威力を発揮する可能性がある。 これまで、ASCAによる Fornax A の観測は、混入点源の少ない西ローブに集中しており、西ローブについては電子や磁場の空間分布などがすでに明らかになっている (Tashiro et al. 2001)。そこで今回、観測の少ない東ローブを詳細に調べるために、XMM-Newton 衛星により、約 50 ksec の観測を行った。 Fornax A の観測パラメタ 母銀河の座標 (a, d)= (03h22m41.7s, -37d12m30s) 電波フラックス密度 (全体で) SR = 98 ±1.5 Jy (2.7 GHz) 電波スペクトル エネルギー指数 aR = 1.9 ± 0.2 赤方偏移 z = 0.005871 20分角 * Optical Blocking Filter 図1. ASCA GISによるカラー画像。母銀河周辺は取り除いてある。電波干渉計よる画像(1.5 GHz, 1989 Fomalont et al.)を等高線で重ねてある。図中の大きな円は ASCS GISの視野の大きさを表す。四角は、ほぼXMM-Newtonの観測の視野を表す。 MOS1 MOS2 PN 28.7 ksec 29.5 ksec 16.5 ksec GTI 検出器 Exposure 54.3 ksec 41.0 ksec Full Frame Medium Filter* Mode 表1. XMM-Newton による観測の諸元 観測は2002年2月 3日に行われた 3. 観測結果 <3.2> X線イメージ <3.1> Background Flare の除去 図3. MOS1全体でのカウントレート 10 – 15 keV, (b) 0.15 – 15 keV BGD Flare (a) 10 – 15 keV 10分角半径 XMM-Newtonはバックグラウンド (BGD) が非常に大きく変動することが知られている。そこで、ほぼBGDで占められていると考えられる 10 keV以上のCCD全面でのカウントレートが、MOSでは 0.15 Hz 以下、PNでは 1 Hz 以下の時間帯のみ、有効な観測時間(GTI, 図3の赤で示した時間帯)として、解析に使用することにした。 図のように 0.15 – 15 keV でも安定したのカウントレートになっている。 0.15 Hz (b) 0.15 – 15 keV MOS1,MOS2,PNを全て足し合わせたイメージ 5秒角半径のガウシアンでスムージングた。視野内に 92 個のX線の点源が検出された。(ほとんどがはじめて検出されたX線源で、他の波長で対応天体がない。) 4. ローブの物理パラメタ BGDを差し引いたイメージ。検出された点源を全て取り除いて、40秒角半径のガウシアンでスムージングしてある。 電波ローブの領域から広がった放射がはっきりと検出されている。X線の方が電波に比べてやや中心核によっているような気配がある。 図6.東ローブの多波長スペクトル (Spectral Energy Distribution) X線の放射機構は? aX ~ aR 逆コンプトン散乱 と考えられる。 X線 図4 XMM-Newtonで得られた東ローブのX線イメージ Seed Photon は? ローブのサイズが大きい 中心核が活発でない <3.3> 東ローブのX線スペクトルフィッティング 図5. MOS1, MOS2で得られた東ローブのスペクトル (検出器の応答を含んでいる) 宇宙マイクロ波 背景放射(CMB) MOS1 MOS2 電波 シンクロトロン 図4 の 緑の円内(10分角半径)のデータを全て積分した。MOSのデータは、0.3 – 6 keV程度のエネルギー帯域で十分な統計のX線が検出さたが、PNのデータはバックグラウンドが高く統計が不十分であったため、スペクトル解析には使用しないこととした。また、1.5 keV付近は検出器に由来する輝線が存在するために削除した。 電波 SR ∝ ue um V X線 SX ∝ ue uCMB V ue 電子 um 磁場のエネルギー密度 uCMB CMB V ローブの体積 図7. ローブ中の電子と磁場の エネルギー密度, ue と um 東ローブ 電波とX線の強度からue と umが求められる ue = um 西ローブ MOSのスペクトルは、我々の銀河による吸収を受けた Power Law のスペクトルで、 非常によく表すことが出来た。非常にハードなスペクトルであることが分かった。 西ローブも東ローブもほぼ同じ ue と um になっている。 ue < um になっている 唯一の天体である um [erg cm-3] 吸収のColumn density NH = 1.9 x 1022 cm-2 (固定) エネルギー指数 aX= 0.52 ± 0.11 X線強度 フラックス密度 SX(1 keV) = 91 ± 6 nJy フラックス FX(2-10 keV)= 7.5 ±1.2 x 10-13 erg s-1 cm-2 Fornax A は中心核が不活発ですでにジェットが止んでいるため、ローブ中の電子がシンクロトロン/逆コンプトン冷却で、すでにエネルギーを失ってしまったためではないか? 東ローブとほぼ同じX線強度であった。 ue [erg cm-3]