2018/09/13 分子雲: 星間ダスト進化と 惑星形成を架ける雲 (Molecular clouds: connecting between evolution of interstellar dust and formation of planets) 野沢 貴也 (国立天文台 理論研究部)   

Slides:



Advertisements
Similar presentations
火星の気象と気候 2004 年 11 月 10 日 小高 正嗣北海道大学 地球惑星科学専攻. 講義の概要 太陽系の惑星概観 太陽系の惑星概観 地球型惑星と木星型惑星 地球型惑星と木星型惑星 地球と火星の比較 地球と火星の比較 火星の気象と気候 火星の気象と気候 探査衛星による最新の気象画像 探査衛星による最新の気象画像.
Advertisements

星間物理学 講義4資料: 星間ダストによる散乱・吸収と放射 1 星間ダストによる減光 ( 散乱・吸収 ) 過程、放射過程 のまとめ、およびダストに関わるいろいろ。 2011/11/09.
COBE/DIRBE による近赤外線 宇宙背景放射の再測定 東京大学, JAXA/ISAS D1 佐野 圭 コービー ダービー.
2020 年代の光赤外線天文学 「恒星物理・超新星・晩期型 星」 サイエンス(分科会報告) 「恒星物理・超新星・晩期型星」検討 班 発表者: 野沢 貴也( NAOJ ) 2014/09/10.
TAO で紐解くダスト形成過程 2016/03/16 Targets in this talk: 1. Core-collapse supernovae in MW/LMC/SMC 2. Type IIn supernovae in nearby galaxies 3. Galactic luminous.
第5回 分子雲から星・惑星系へ 平成24年度新潟大学理学部物理学科  集中講義 松原英雄(JAXA宇宙研)
スケジュール 火曜日4限( 14:45-16:15 ),A棟1333号室
南極中口径望遠鏡計画 (AIRT) スーパーアースを持つ多惑星系のトランジット連続観測による系外惑星の大気構造の研究
第9回 星間物質その2(星間塵) 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
平成24年度(後期) 総合研究大学院大学 宇宙科学専攻
X線による超新星残骸の観測の現状 平賀純子(ISAS) SN1006 CasA Tycho RXJ1713 子Vela Vela SNR.
第6回 制動放射 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
加藤真理子1、藤本正樹2、井田茂1 1) 東京工業大学 2) JAXA/ISAS
第11回 星・惑星系の誕生の現場 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
DECIGO ワークショップ (2007年4月18日) 始原星の質量、形成率、連星度 大向一行  (国立天文台 理論研究部)
原始惑星系円盤の形成と進化の理論 1. 導入:円盤の形成と進化とは? 2. 自己重力円盤の進化 3. 円盤内での固体物質の輸送
H2O+遠赤外線吸収 ラジオ波散乱 微細構造遷位 ラジオ波 赤外線 X-線 H3+ 赤外線吸収 γ-線 塵遠赤外発光 再結合線
Report from Tsukuba Group (From Galaxies to LSS)
神戸大大学院集中講義 銀河天文学:講義1 銀河を構成する星、星間物質(ガス、ダスト) 1. 太陽系から銀河系へ空間スケール 2
地球惑星物性学1 ( ~) 参考文献: 大谷・掛川著 地球・生命 共立出版
生命起源への化学進化.
電離領域の遠赤外輻射 (物理的取り扱い)      Hiroyuki Hirashita    (Nagoya University, Japan)
Damped Lya Clouds ダスト・水素分子
スケジュール 水曜3限( 13:00-14:30 ),A棟1333号室 10月 11月 12月 1月 2月 10/08 11/5 や②
銀河物理学特論 I: 講義1-2:銀河の輝線診断 Tremonti et al. 2004, ApJ, 613, 898
信川 正順、小山 勝二、劉 周強、 鶴 剛、松本 浩典 (京大理)
星間物理学 講義3資料: 星間ガスの力学的安定性 星間ガスの力学的な安定性・不安定性についてまとめる。星形成や銀河形成を考える上での基礎。
土野恭輔 08s1-024 明星大学理工学部物理学科天文学研究室
銀河物理学特論 I: 講義3-4:銀河の化学進化 Erb et al. 2006, ApJ, 644, 813
銀河風による矮小銀河からの質量流出とダークマターハロー中心質量密度分布
村岡和幸 (大阪府立大学) & ASTE 近傍銀河 プロジェクトチーム
2.地球を作る物質と化学組成 1)宇宙存在度と隕石 2)原始太陽系星雲でのプロセス:蒸発と凝縮
理学部 地球科学科 惑星物理学研究室 4年 岡田 英誉
坂本強(日本スペースガード協会)松永典之(東大)、 長谷川隆(ぐんま天文台)、 三戸洋之(東大木曽観測所)、 中田好一(東大木曽観測所)
銀河・銀河系天文学 星間物理学 鹿児島大学宇宙コース 祖父江義明 .
地球惑星物性学1 ( ~) 参考文献: 大谷・掛川著 地球・生命 共立出版 島津康夫著・地球の物理 基礎物理学選書 裳華房
棒渦巻銀河の分子ガス観測 45m+干渉計の成果から 久野成夫(NRO).
2. 地球を作る物質と化学組成 1)宇宙存在度と隕石 2)原始太陽系星雲でのプロセス:蒸発と凝縮
星間物理学 講義1: 銀河系の星間空間の世界 太陽系近傍から銀河系全体への概観 星間空間の構成要素
論文紹介 Type IIn supernovae at redshift Z ≒ 2 from archival data (Cooke et al. 2009) 九州大学  坂根 悠介.
天の川銀河研究会 天の川銀河研究会 議論の種 半田利弘(鹿児島大学).
松原英雄、中川貴雄(ISAS/JAXA)、山田 亨、今西昌俊、児玉忠恭、中西康一郎(国立天文台) 他SPICAサイエンスワーキンググループ
星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか
星間物理学 講義4資料: 星間ダストによる散乱・吸収と放射 2 銀河スケールのダスト、ダストの温度、PAH ほか
塵に埋もれたAGN/銀河との相互作用 今西昌俊(国立天文台) Subaru AKARI Spitzer SPICA.
S5(理論宇宙物理学) 教 授 嶺重 慎 (ブラックホール)-4号館409 准教授 前田 啓一(超新星/物質循環)-4号館501
倉本研究室 宇宙理学専攻 修士1年 岡澤直也.
セイファート銀河中心核におけるAGNとスターバーストの結び付き
大井渚(総合研究大学院大学) 今西昌俊(国立天文台)
超高光度赤外線銀河(ULIRGs)中に埋もれたAGNの探査
宇宙の初期構造の起源と 銀河間物質の再イオン化
滝脇知也(東大理)、固武慶(国立天文台)、佐藤勝彦(東大理、RESCEU)
講義ガイダンス 「宇宙の物質循環を理解するために使われる物理・化学・数学」
3.8m新技術望遠鏡を用いた 超新星爆発の観測提案 -1-2mクラス望遠鏡による成果を受けて-
はやぶさ試料(RA-QD )の X線CT解析 – X線CT岩石学の適用例 - X線CT解析の結果に基づいて試料を切断し分析
星間物理学 講義 3: 輝線放射過程 I 水素の光電離と再結合
星間ダストの起源と量 (On the origin and amount of interstellar dust)
銀河系とマゼラン雲に共通する ダストの遠赤外輻射特性
銀河系内・星形成・系外惑星 系内天体の観点から
スターバースト銀河NGC253の 電波スーパーバブルとX線放射の関係
大規模シミュレーションで見る宇宙初期から現在に至る星形成史の変遷
天文・宇宙分野1 梅村雅之 「次世代スーパーコンピュータでせまる物質と宇宙の起源と構造」
COSMOS天域における赤方偏移0.24のHα輝線銀河の性質
理論的意義 at Kamioka Arafune, Jiro
シンクロトロン放射・ 逆コンプトン散乱・ パイオン崩壊 ~HESS J は陽子加速源か?
星間物理学 講義7資料: 物質の輪廻と銀河の進化 銀河の化学進化についての定式化
S5(理論宇宙物理学) 教 授 嶺重 慎 (ブラックホール)-4号館409 准教授 前田 啓一(超新星/物質循環)-4号館501
星間ダストは主にどこで 形成されるか? 野沢 貴也 (Takaya Nozawa) (国立天文台 理論研究部) 共同研究者
すざく衛星によるSgr B2 分子雲からのX線放射の 時間変動の観測
楕円銀河の銀河風モデル Arimoto & Yoshii (1986) A&A 164, 260
Presentation transcript:

2018/09/13 分子雲: 星間ダスト進化と 惑星形成を架ける雲 (Molecular clouds: connecting between evolution of interstellar dust and formation of planets) 野沢 貴也 (国立天文台 理論研究部)      田中 秀和 (東北大学 天文学教室) ©JAXA ©イラスト   パーク

0. 本日の3つのトピックス           (1) 銀河系の星間ダストの起源 (2) 宇宙における鉄の行方 (3) プレソーラー粒子の存在量

1-1. 銀河系の星間ダストの性質 〇 銀河系の星間ダストモデル - 組成: 炭素質(グラファイトなど)とシリケイト質    (Mathis, Rumpl, & Nordsieck 1977, Weingartner & Draine 2001, Zubko+2004, etc) - 組成: 炭素質(グラファイトなど)とシリケイト質 - サイズ分布: 冪分布(MRNモデル) n(a) ∝ a^{-q} with q=3.5, a = 0.005-0.25 µm - 存在量: Mdust / MH = 120 ➜ 重元素のおよそ半分(~40%)はダストとして存在 星間ガスのdepletion 星間減光 赤外線放射 Savage & Sembach (1996) Nozawa & Fukugita (2013) Compiegne et al. (2011)

Asano, Takeuchi, Hirashita, TN (2013) 1-2. 星間ダスト量の時間進化 ③ 分子雲での金属ガス   降着によるダスト成長 ① 超新星・AGB星か   らのダスト供給 - a ~ 0.1 µm - Mdust/Mmetal ~ 0.2 ② 金属量~0.1 Zsun 星間乱流中での衝突破砕による0.01 µm以下の小さいダストの生成 Nozawa et al. (2007) Asano, Takeuchi, Hirashita, TN (2013) 〇 分子雲でのダスト成長のタイムスケール   

1-3. 分子雲でのダスト成長は本当に起こるのか? ○ 高密度分子雲(n > ~103 cm-3) ‐ダスト表面に氷のマントルが形成され、   ダストの成長を阻害する (Ferrara+2016) 〇 ダストの選択的成長? - Si, Mg, Fe, O ➜ シリケイトダスト - C ➜ 炭素質ダスト ダスト 氷 heterogeneous dust model (Jones+2013, 2016, 2017) H2 Mg Fe H2O C Si 炭素質ダスト シリケイトダスト

(1) 銀河系の星間ダストの起源 Q1. 分子雲でのダスト成長は整合的か? 〇 星間ダスト総量(dust-to-metal ratio)    超新星・AGB星からの供給だけでは足りない    別の星間ダストのソースが必要    ➜ 分子雲での重元素ガス降着によるダスト成長 Q1. 分子雲でのダスト成長は整合的か?

2-1. 鉄はどのダスト種に含まれているか?

宇宙の鉄の99%以上は ダストに取り込まれている 2-2. 星間空間の重元素ガスの存在量 1 O Mg, Si: 5-10 % in gas C 0.1 C, O: 30-70 % in gas Si Mg 0.01 Fe: < 1 % in gas Fe 宇宙の鉄の99%以上は ダストに取り込まれている 0.001 Savage & Sembach (1996, ARAA, 34, 270)

2-3. 星間空間での鉄の行方不明問題 ○ 鉄を含むダスト種の候補 ○ 鉄を含むダストの主要な形成場所  ・ シリケイト ➜ (Mg, Fe)2SiO4, (Mg, Fe)SiO3 - astronomical silicate (Mg1.1Fe0.9SiO2)     鉄を含むシリケイトの存在は観測的に     確かめられていない ➜ シリケイトのほとんどはFe-poorである            (e.g., Tielens+1998; Molster+2002)  ・ 金属鉄(Fe)?硫化鉄(FeS)?酸化鉄(FeO)? ○ 鉄を含むダストの主要な形成場所  ・ Ia型超新星: 大量の鉄 (~0.7 Msun)を放出     ## 重力崩壊型の鉄質量 (~0.07 Msun)の十倍  ・ これまでIa型超新星での大量のダスト形成の   観測的証拠がない (e.g., Gomez+2012) Fe 0% Fe 1% Brommaert et al. (2014) Herschel 100 µm image Tycho Gomez+2012

(2) 宇宙における鉄の行方 Q2. 鉄はどのようにダストに含まれるのか? 〇 鉄の行方不明問題(Missing-Fe problem)    宇宙の鉄の99%は、ダストに取り込まれている Q2. 鉄はどのようにダストに含まれるのか?

3-1. プレソーラー粒子 - 存在量(測定量 by 体積充填率) ・ 始原的隕石中: ~0.01 % ‐ 始原的隕石・惑星間塵(IDPs)中で発見される ‐ 同位体異常を示す   ➜ 太陽系物質とは全く異なる同位体組成 ‐ 太陽系外で(太陽系形成以前に)、超新星や   AGB星で形成されたダストの生き残り ‐ 組成 graphite, SiC, TiC, Si3N4, Al2O3, MgAl2O4, Mg2SiO4, MgSiO3 … - 存在量(測定量 by 体積充填率)   ・ 始原的隕石中: ~0.01 %   ・ 惑星間塵(IDPs)中: ~0.05 % © Amari, S. Nittler 2003 Nittler+1997 http://presolargrains.net/

(3) プレソーラー粒子の存在量 Q3. なぜプレソーラー粒子の存在量は 0.01%程度と非常に小さいのか? 〇 プレソーラー粒子    始原的隕石・惑星間塵で発見される星(超新星・    AGB星)起源のダストの生き残り Q3. なぜプレソーラー粒子の存在量は     0.01%程度と非常に小さいのか?

4-1. 星間ダストの進化とプレソーラー粒子 分子雲でのダスト 成長は整合的か? プレソーラー粒子の 平均同位体は太陽系 組成と合わない 集積 隕石 超新星・AGB星 でのダスト形成 分子雲でのガス降着によるダスト成長 微惑星・ 惑星形成 プレソーラー粒子 存在量 : ~30% プレソーラー粒子をコアとしたマントル組成であるはず 分子雲でのダスト 成長は整合的か? プレソーラー粒子の 平均同位体は太陽系 組成と合わない ©JAXA プレソーラー粒子 存在量 : ~0.01% プレソーラー粒子の ふりかけ説 by ゆり本さんなど 原始惑星状星雲で ほとんどのダストは蒸発、ガスとして混合した後に再凝縮 すべてのダストを蒸発させることは可能か? Sakai+2014, Nakamoto et al.

4-2. 鉄の観点から見た星間ダストから惑星形成 集積 隕石 超新星・AGB星 でのダスト形成 分子雲でのガス降着によるダスト成長 微惑星・ 惑星形成 マントル組成 コア:鉄を含まないマントル:鉄を含む 鉄を含まないsilicate 鉄を含むsilicate のマントル ©JAXA GEMS in IDPs 鉄のナノ粒子がシリケイト中に存在 シリケイトの 蒸発・凝縮実験 プレソーラー粒子を振りかけることは可能か? すべてのダストを蒸発させることは可能か? Sakai+2014, Nakamoto et al. Bradley+1999 Matsuno+2011

4-3. 分子雲中でのガス相からのダストの凝縮 星間ダストの 新たなソース 鉄のダストへの凝縮サイト 超新星・AGB星 でのダスト形成 分子雲中の衝撃波による ダストの破壊と再凝縮 原始太陽 系星雲 微惑星・ 惑星形成 Sakai+2014 「星間ダストは惑星の原材料」と言える ©JAXA 星間ダストの 新たなソース 鉄のダストへの凝縮サイト プレソーラー粒子は星起源ダストの生き残り? 「ふりかけ」のタイムスケールを稼ぐことができる Asano+2012 Bradley+1999

4-3. 分子雲中でのガス相からのダストの凝縮 〇 ダスト成長のタイムスケール 〇 自由落下のタイムスケール 分子雲中の衝撃波による 超新星・AGB星 でのダスト形成 分子雲中の衝撃波による ダストの破壊と再凝縮 原始太陽 系星雲 微惑星・ 惑星形成 n~103 cm-3 T~104 K Sakai+2014 ©JAXA 〇 ダスト成長のタイムスケール    〇 自由落下のタイムスケール   

5. 本発表のまとめ (1) 銀河系の星間ダストの起源 (2) 宇宙における鉄の行方 (3) プレソーラー粒子の存在量 5. 本発表のまとめ           (1) 銀河系の星間ダストの起源  Q1. 分子雲でのダスト成長は整合的か? (2) 宇宙における鉄の行方  Q2. 鉄はどのようにダストに含まれるのか? (3) プレソーラー粒子の存在量  Q3. なぜその存在量は~0.01%程度と小さいのか?  分子雲でのダストの蒸発・凝縮を考えることによって、  これらの問題を統一的に理解できる!・・かもしれない