所属集団の変更できる社会的ジレンマ実験について2

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所属集団の変更できる社会的ジレンマ実験について2 ○大浦宏邦(帝京大学) 石原英樹(早稲田大学) 小林盾(シカゴ大学)

報告の概要 実験の目的 行動戦略の抽出 移動戦略の抽出 推定結果と戦略の利得 ジレンマ回避研究における意義 まとめ

実験の目的 所属集団変更可能な条件で社会的ジレンマ 実験を行い、次の予想が正しいか確かめる 1 スクランブルトリガー戦略(ST戦略)を  実験を行い、次の予想が正しいか確かめる   1 スクランブルトリガー戦略(ST戦略)を      とるプレーヤーが存在する   2 ST戦略者の利得は非協力戦略者の      利得を上回る

データ例

戦略の抽出 各プレーヤーの意思決定アルゴリズムを推定して、ST戦略が見られるかどうか検討する 手順 1 行動戦略(CDの選択戦略)の推定   1 行動戦略(CDの選択戦略)の推定   2 移動戦略(所属集団選択戦略)の推定  → クロス集計してST戦略があるか検討

行動戦略の抽出 上の意思決定アルゴリズムを想定して、重回帰分析を行う。 ステップワイズ法で変数選択を行い、R2とβ係数の値から行動戦略を推定 t 回目利益    t 回目協力率 会社人数 t+1回目行動 上の意思決定アルゴリズムを想定して、重回帰分析を行う。 ステップワイズ法で変数選択を行い、R2とβ係数の値から行動戦略を推定

推定の手順 95%以上C(D) ⇒ AllC (AllD) ↓ R2が有意でない ⇒ ランダム (R) ↓  95%以上C(D) ⇒ AllC (AllD)      ↓      R2が有意でない ⇒ ランダム (R)      ↓  協力率のβ係数有意  ⇒  トリガー的(T)      ↓                    その他(O) (人数依存、利益依存、          パブロフ、リバーストリガー)

推定結果 20回以上のデータのある111人について推定。

トリガー的な戦略の例 t回目協力率(%) t+1回目行動

移動戦略の推定 次の5つのアルゴリズムを想定する 人数の少ない会社に移動 (人少) 利益の多い会社に移動 (利多)    人数の少ない会社に移動 (人少)    利益の多い会社に移動 (利多)    人数の多い会社に移動 (人多)    利益の少ない会社に移動 (利少)    なるべく移動しない    (固定) 所属集団を予測し実際の所属先との   「ずれ」を測定→「ずれ」の最小の戦略は?

所属集団の予想例 B大学1回目の予想経路と実際の経路例 1 2 3 4 5 6 7 ずれ 人少 - D (BD) B D (AD)(BC)       1  2  3  4  5  6  7  ずれ  人少 -  D (BD) B  D (AD)(BC)    人多 - (AB) C  D  C  C  A       利高 -  D  D  A  D  A  B        利低 -  A  C  C  A  B  D        実際  B  C  D  A  D  A  A

「ずれ」の計算 i 期の会社の人数が、少ない順に D C A B だったとする。 このとき人少戦略からのずれは       D C A B    だったとする。  このとき人少戦略からのずれは  i+1期が D→0 C→1 A→2 B→3  と考える。(同順位があれば平均とする) 人多、利少、利多も同様。 固定は  移動無し→0 移動有り→2                  (1,2,3の平均)

「ずれ」の計算結果 B大学1回目の予想経路と実際の経路例 1 2 3 4 5 6 7 ずれ       1  2  3  4  5  6  7  ずれ  人少 -  D (BD) B  D (AD)(BC) 5   人多 - (AB) C  D  C  C  A  13     利高 -  D  D  A  D  A  B   3     利低 -  A  C  C  A  B  D  15      実際  B  C  D  A  D  A  A

ずれの最小となる戦略を採用と推定 ただし、ずれの平均がどの戦略についても2以上なら、R(ランダム)と判定。

クロス集計 人少・利多をSa、人多・利少をSbとまとめて クロス集計する → ST相当は38人(34%) 固定 Sa Sb R 計 AC 4  クロス集計する → ST相当は38人(34%) 固定 Sa Sb R 計  AC 4 1 6 AD 3 2 12 T 10 22 8 48 9 5 27 O 18 35 41 17 111

行動戦略ごとの移動戦略の比較

各戦略の利得 ADが最大。STは及ばない(6%有意) 固定 Sa Sb R 計 AC 0.66 0.09 1.01 0.62 AD 0.88 0.98 0.81 1.39 T 0.90 0.76 0.80 0.68 0.70 0.79 O 0.87 0.84 0.56 0.25 0.74 0.75

考察 予想は支持されたか? [予想1] ST戦略が見られる → 支持された ST的戦略が34%存在(但し応報的)   [予想1] ST戦略が見られる         → 支持された     ST的戦略が34%存在(但し応報的)   [予想2] STの利得はADより高い         → 支持されなかった     STの利得0.79<ADの利得0.98

含意  1 Orbell & Dawes の単純なモデルは    不成立。(TやACはADに負けるから)  2 選択的プレーパラダイム自体は有効で    ある可能性。(STの存在が、STが有利な    場合があることを示唆)  → どのような場合に有利なのか?    シミュレーションなどによる研究の必要性

社会的ジレンマの回避メカニズム 至近要因(至近メカニズム) 規範の内面化(C戦略の採用) サンクション(制裁戦略の採用)    規範の内面化(C戦略の採用)    サンクション(制裁戦略の採用)    条件付き応報戦略の採用 究極要因    D戦略、非制裁戦略の方が有利なのに    これらの至近メカニズムの存在を可能に    する要因

究極要因のモデル 離合集散モデル (Wilson 1994) 不等分裂モデル (金井 2000) なぜ離合集散や不等分裂が起こるのか? 離合集散モデル (Wilson 1994) 不等分裂モデル (金井 2000)    なぜ離合集散や不等分裂が起こるのか? 移住拒否モデル (大浦 2003)    移動性の高まった近代以降には不適切? 選択プレーモデル (Orbell,Dawes 1991)    現在のSD回避システムを支えている?

ただし、モデルの自由度が高く、理論的研究が困難であった。 今回開発した実験システムによって、    理論研究の手がかりとなるデータの供給    理論的予想の検証  が可能になると期待される。  → 究極要因の研究に貢献