第13回 法律行為の主体②-b(無権代理、表見代理) 民法(1) 第13回 法律行為の主体②-b(無権代理、表見代理)
無権代理 無権代理 113条1項:代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 →①本人への効果の不帰属 ②本人による追認→遡及的に代理行為は有効となるが、第三者の権利を害することはできない(116条)
無権代理 無権代理の相手方の保護 ①相手方の催告権 追認するか追認拒絶するかを本人に対し催告できる(114条) ②相手方の取消権 追認するか追認拒絶するかを本人に対し催告できる(114条) ②相手方の取消権 本人が追認をしない間は、無権代理につき善意の相手方は、無権代理行為を取り消すことができる(115条)
無権代理 無権代理人の責任 117条1項:他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 ・無権代理人の責任の要件 ①代理権の不存在に関する善意無過失(117条2項前段) ②無権代理人の行為能力(117条2項後段)
無権代理 無権代理人の責任と表見代理 最判昭和62・7・7民集41-5-1133 無権代理の相手方は、表見代理の主張と無権代理人の責任追及を選択的に主張することができるのであって、117条2項の「過失」は、「重過失」と解すべきはない ←原審では、表見代理が成立し得る場合には無権代理人の責任は成立しないという前提に立った上で、 表見代理が成立しないのは相手方が有過失の場合に限られる以上、117条2項の「過失」は「重過失」と読むべきである、とされていた
無権代理 【債権法改正】 無権代理人の責任 →代理人が代理権の不存在について悪意の場合には、相手方の無過失要件は不要(2項2号) 改正117条: ① (略) ② 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。 →代理人が代理権の不存在について悪意の場合には、相手方の無過失要件は不要(2項2号)
表見代理 表見代理の構造 A(本人) 効果帰属 B(代理人) C 相手方 ←外観への信頼 無権代理行為 =権利外観法理
表見代理 表見代理の3類型 ①代理権授与表示による表見代理(109条) ②代理権踰越による表見代理(110条) ③代理権消滅後の表見代理(112条)
代理権授与表示による表見代理 109条の要件としての代理権授与表示 →自分の名前や商号の使用を他人に許諾した場合などについても、代理権授与表示の存在が比較的広く認められている(最判昭和35・10・21民集14-12-2661) *白紙委任状の場合 白紙委任状は、109条の代理権授与表示に該当するか →授権表示の際に想定されていた本来の委任事項と一定程度の関連性が認められる限りにおいて、109条の適用を認めるべき(e.g. 代理人欄や相手方欄のみが白紙となっていた場合〔←非委任事項〕)
代理権授与表示による表見代理 白紙委任状と109条の表見代理 ・被交付者濫用型 ・被交付者濫用型 白紙委任状を交付された者が白紙委任状を濫用して無権代理行為を行った場合 →原則として、109条の代理権授与表示となる ・転得者濫用型 白紙委任状を交付された者からの転得者が白紙委任状を濫用して無権代理行為を行った場合 ①非委任事項濫用型 →109条肯定 ②委任事項濫用型 →109条否定(最判昭和39・5・23民集18-4-621)
代理権授与表示による表見代理 109条における相手方の善意・無過失の要件 それまで判例・学説上、不文の要件として想定されていたものが、2004年の改正により、明文化
代理権踰越による表見代理 110条の要件としての基本代理権 本人の側における帰責の要素としての代理権 ←権利外観法理の要件としての本人の帰責性 *法定代理への110条の適用の可否 →判例は肯定(大判昭和17・5・20民集21-571) →さらに、夫婦の日常家事に関する連帯責任を定める761条から導かれる代理権を基本代理権として、110条が適用できるかが問題となる
代理権踰越による表見代理 夫婦の日常家事に関する代理権と110条 最判昭和44・12・18民集23-12-2476 →761条から、夫婦間において日常家事に関する代理権が相互に発生することを認めた上で、110条に関しては、「当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり」、110条の趣旨が類推適用される、とした ←110条の直接適用を否定しつつ、日常の家事の範囲内に属することに対する信頼を110条の類推適用によって保護
代理権踰越による表見代理 公法上の行為に関する代理権と110条 最判昭和46・6・3民集25-4-455 登記申請行為に関する代理権を濫用して、連帯保証契約と抵当権設定契約を締結した事案 →110条の適用を肯定
代理権踰越による表見代理 109条・110条の重畳適用 最判昭和45・7・28民集24-7-1023 最判昭和45・7・28民集24-7-1023 基本代理権が存在しない場合において、代理権授与表示に基づいて109条によって導かれる(表見的)代理権を基本代理権として、さらに110条によってその基本代理権の範囲を超える行為についての表見代理の成立を認めた cf. 代理権消滅後の越権代理についても、判例は、112条と110条の重畳適用による表見代理の成立を認めている(大判昭和19・12・22民集23-626)
代理権踰越による表見代理 【債権法改正】 109条・110条の重畳適用 改正109条: ① (略) 改正109条: ① (略) ② 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。 →109条と110条の重畳適用に関し、(109条の善意無過失の要件を)110条における「正当な理由」の要件に統合する形で定式化
代理権踰越による表見代理 【債権法改正】 代理権消滅後の表見代理(112条) 改正112条: ① 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。 ② (略) →112条における善意無過失の対象が、「代理権の消滅の事実」、すなわち「過去に存在した代理権が、代理行為の前に消滅したことを知らなかったこと」(→過去に代理権が存在を知っていた者が、その消滅を善意無過失で知らなかったこと)であることを明確にする趣旨
代理権踰越による表見代理 【債権法改正】 112条・110条の重畳適用 改正112条: ① (略) 改正112条: ① (略) ② 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。 →112条と110条の重畳適用に関し、(112条の善意無過失の要件を)110条における「正当な理由」の要件に統合する形で定式化