感染症との闘いと抗微生物剤耐性 鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六

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感染症との闘いと抗微生物剤耐性 鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六 ヒトと動物の健康を害する最大の敵である病原体に対する闘いによって、人類はワクチンと抗微生物剤を手にし、1979年の痘瘡根絶に際して「感染症との戦いに勝利した」と宣言した。しかし、その後各種の新たな動物由来感染症が多発し、ワクチンが実用化されているのは一部の感染症に留まっており、抗微生物剤の使用がそれらに対する新たな耐性株を生出していることが明らかにされてきた。 細菌、真菌、ウイルス、寄生虫を含む耐性微生物は、現存の抗微生物剤の治療効果を無効にし、抗微生物剤が存在しなかった時代に人類を連れ戻してしまう。1928年にペニシリンを発見したフレミングは、1945年のノーベル医学生理学賞受賞講演で、次のように述べた。「誰でもペニシリンを商店で買うことができる時代が来るかもしれない。その時、無知な人が必要量以下の用量で内服して、体内の微生物に非致死量の薬剤を曝露させることで、薬剤耐性菌を生み出してしまう恐れがある。」 このフレミングの予測が的中し、各種の感染症で多剤耐性菌が広がっている。 たとえば、全世界で推定1,040万人が毎年新たに結核症に罹患しているが、多剤耐性結核は48万人(内25万人が死亡)と推定され、その割合は過小評価されているという。南米、南アジア、中国、インド、旧ソ連邦諸国などで多剤耐性菌の影響か深刻化しているが、この勢いで拡大すれば先進国も安泰ではない。

世界の結核症発生状況報告 出典:WHO, 2016 症例;1,040例 死亡:180万例 多剤耐性結核菌症例:48万例 ロシアの多剤耐性結核菌症例の割合は27%と、中国の7.1%、インドの2.8%を大幅に超えている。 人口10万人当り推定新規感染者数 新規患者の多数はインド、インドネシア、中国で発生している。発生頻度はアフリカとアジアの一部で高い。 総報告数 多剤耐性症例数 世界 東南アジア 西太平洋 アフリカ 中東 欧州 アメリカ 6,624,523 2,898,482 1,400,638 1,303,483 527,693 260,434 233,793 153,119 46,269 27,828 4,713 49,442 3,715 各国からの報告数であり、国内紛争のため未報告の国も多い。すなわち、「少なくともこれ以上」と判断する材料であり、実際の発生数を知ることは現在不可能である。

WHO :薬剤耐性の概要 Fact sheet November 2017 何が、抗菌剤耐性の発生と拡大を速めているか? ● 薬剤耐性は、かつてなく増加している細菌、寄生虫、ウイルスおよび真菌による感染症のかつてない増加の効果的な予防と治療を脅かしている。 ● それは世界の公衆衛生にますます深刻な脅威となっており、全ての政府部門と社会の全体に行動を求めている。 ● 有効な抗生物質がなければ、主な手術と癌の化学療法の成功は、混乱する。 ● 薬剤耐性菌感染患者に対する治療費は、感受性菌感染患者に対する治療と比較して、病気の長期化、余分の検査ならびに高額な薬剤の使用のため高額になる。 ● 多剤耐性結核菌による患者が毎年48万人発生し、薬剤耐性はマラリアおよびHIVとの戦いを複雑化している。 何が、抗菌剤耐性の発生と拡大を速めているか? 抗菌剤耐性は自然状態では長期間かけて起こり、一般的に遺伝的変化を必要とする。しかしながら、抗菌剤の誤用と過剰使用は多くの場所でその過程を促進しており、抗生物質はヒトと動物において過剰使用と誤用され、しばしば専門家の監督なしで投与されている。誤用の例として、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染の患者への投与、動物の成長促進や健康な動物における疾病予防のための投与が含まれる。 薬剤耐性菌は、ヒト、動物、食品および環境(水、土壌、空気)で見つかる。動物由来食品の喫食やヒト・ヒト感染を通して、それらはヒトと動物の間に広がる。貧弱な感染制御、不適切な衛生状態、食品の不適切な取扱いは抗菌剤耐性の拡大を助ける。 現在の状況(省略) 細菌、結核、マラリア、HIV、インフルエンザ 連携活動の必要性(省略)

抗微生物薬耐性:発生動向調査の国際的報告 2014年4月 WHOの危機認識と行動の呼掛け 抗微生物薬耐性:発生動向調査の国際的報告 2014年4月 ● ペニシリン発見後容易に治療可能だった肺炎などの一般的な市中感染症が多くの施設で利用可能なまたは推奨される薬剤に反応しなくなっており、患者の生命を危険にさらしている。 ● 新生児室や集中治療室において一般的な感染症が、益々治療困難になっており、時には治療不能になっている。 ● 癌の治療、臓器移植およびその他の高度な治療を受けた患者が感染に対してとくに脆弱になっている。そのような患者で感染の治療に失敗すると、感染が生命を脅かし、致命的になる可能性がある。 ● 術後の手術部位の感染を防ぐために使用される抗菌剤の効果が低下し、無効になっている。 報道発表 2014年4月 耐性とどのように戦うか? 次のことで、人々は耐性との戦いを手助けできる。 ● 医師に処方された時だけ抗生物質を使用する ● 快方に向かったと感じても、処方通り全量を使用する ● 抗生物質を他人と共有したり、残った処方を使用しない。 次のことで、医療従事者と薬剤師は耐性との戦いを手助けできる。 ● 感染の予防と制御の強化 ● 本当に必要な時にのみ抗生物質を処方・調剤する ● 病気を治療するために適切な抗生物質を処方・調剤する。 次のことで、政策立案者は耐性との戦いを手助けできる。・・・・・・・・・・・・・ 安易な使用が耐性化を加速させてきた。厳格な使用を維持しないと、新たに有効な抗菌剤が開発される前に、現存の全ての抗菌剤が無効になる。

抗生物質 合成抗菌薬 β-ラクタム系 アミノグリコシド系 テトラサイクリン系 リンコマイシン系 クロラムフェニコール系 マクロライド系 β-ラクタム系   アミノグリコシド系 テトラサイクリン系 リンコマイシン系 クロラムフェニコール系 マクロライド系 ケトライド系 ポリペプチド系 グリコペプチド系 ピリドンカルボン酸(キノロン)系    ニューキノロン系 オキサゾリジノン系 サルファ剤系 抗生物質(antibiotics)とは、他の微生物の発育や代謝を阻害する放線菌が産生する化学物質と定義されたが、微生物が産生し、ほかの微生物など生体細胞の増殖や機能を阻害する物質と拡大された。5,000~6,000種類あると言われ、約70種類が実際に使われている。 ベンジルペニシリンは1942年に開発されたが、 早くも1946年にはロンドンの病院内でペニシリン耐性ブドウ球菌が15%分離され、1947年 40%、1948年 60%となった。 薬が効かなくなるのはどうしてか? 耐性菌の割合が急速に増えるのはどうしてか?

抗菌作用の仕組み 細胞壁 ペプチドグリカン D-Alaを切り離して架橋形成する 構成要素であるD-Ala-D-Alaの部位で架橋が形成され細胞壁の強度が保たれる。この部分の立体構造がペニシリンと酷似しており、トランスペプチターゼが誤認識し、細胞壁の架橋ができなくなる。 失活 β-ラクタム環 耐性菌はβ-ラクタマーゼを出してβ-ラクタマム環を開裂させる

ペニシリンは、抗菌剤の不活性化による耐性獲得の代表例であるが、動物細胞にはない細胞壁を標的とする作用機序は副作用が少ないことを意味する。この有益な特徴を生かすため、 β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)によって分解されないメチシリン、オキサシリンなどの合成ペニシリンや第1世代セフェム系薬が1960年代に開発された。ところが、新たな種類のβ-ラクタマーゼを産生してそれらに耐性を持つメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)がすぐさま出現した。 耐性化の仕組みには、不活性化(薬剤の分解や修飾機構の獲得)の外に、細菌の薬剤作用点の変異、薬剤の細菌細胞外への排出促進などが知られている。 細胞壁合成阻害: β-ラクタム系(セファロスポリン、モノバクタム、カルバペネム)、グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン) 蛋白合成阻害:クロラムフェニコール、アミノグリコシド系(ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン)、マクロライド系(エリスロマイシン、リンコマイシン)、テトラサイクリン系(ドキシサイクリン) 細胞膜機能阻害:ポリペプチド系(バシトラシン、ポリミキシンB) DNA合成阻害:ナリジクス酸、ニューキノロン RNA合成阻害:リファンピシン  葉酸合成阻害:サルファ剤

耐性菌の割合が急速に増えるのはどうしてか? 抗菌薬を使用していない自然条件下でも、突然変異によって少数の耐性菌が発生しているが、通常の菌よりも生存力が弱く淘汰されてしまう。しかし、抗菌薬を使用すると、通常の菌が死滅するので生存環境を独占して生き残る(選択圧)。抗菌薬の低濃度投与、投与中断、長期間投与はこの選択圧を耐性菌に好都合なものとする。 このような耐性化は大腸菌などの腸内に常在する非病原菌でも起こる。薬剤耐性遺伝子は、細菌の遺伝子(染色体)そのものに組み込まれる場合と、プラスミドとして細胞質に存在する場合がある。耐性プラスミドには、性線毛とよばれる細胞表面の繊維状器官によって他の細菌にプラスミドを伝達する。バクテリオファージに組み込まれて他の菌にファージが感染することでも伝達される。 プラスミド ファージ 溶菌 性線毛

英国健康保健局による入院患者のMRSAの割合 MRSAに有効なバンコマイシンに対しても、2002年にはバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)も見付かった。 英国健康保健局による入院患者のMRSAの割合 バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は、健常者の腸管内に保菌していても通常、無害、無症状であるが、術後患者や感染防御機能の低下した患者では腹膜炎、術創感染 症、肺炎、敗血症などの感染症を引き起こす場合がある。現在世界のICUなどで分離される腸球菌の20%以上がVREと判定されている。vanA ~Gの耐性遺伝子がコードしている。

日本の状況 1939年に開発されたサルファ剤は、終戦直後の日本で赤痢が流行した際、有効な治療薬としてあちこちで多用された。ところがしばらくしてサルファ剤の効かない赤痢菌が出現し始め、1950年頃にはもはや赤痢菌の80%がサルファ剤耐性菌となってしまった。・・・・・ メチシリン耐性黄色ブドウ球菌( MRSA ):海外での発見は1960 年頃であったが、国内でも1980年代の後半より各地の医療施設で見つかり分離率は最大1割程度だった。しかし、現在では、分離される6 割程度がMRSA と判定される事態に至っている。 バンコマイシン黄色ブドウ球菌(VRSA):2002年にMRSA感染症の治療に用いるバンコマイシンに対する耐性菌が米国で見つかった。 バンコマイシン耐性腸球菌(VRE):1980年代前半に欧州で最初に分離されたが、国内でのVRE分離も増えている。 感染症法における取り扱い: VREおよびVRSAは全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る。MRSA 、ペニシリン耐性肺炎球菌、薬剤耐性緑膿菌は、定点把握疾患に定められ、全国約500ヶ所の基幹定点より毎月報告。

感染症法5類感染症のうち、多剤耐性菌の報告数 厚労省:平成22年09月10日 「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」の資料 厚労省:平成22年09月10日 「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」の資料

カルバペネム耐性腸内細菌( CRE ) 広域β-ラクタム系薬に対し耐性を獲得しているのみならず、他の系統の、例えばフルオロキノロン系やアミノグリコシド系の薬剤にも多剤耐性を獲得している。最後の切り札的抗菌薬であるイミペネムやメロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬に対し耐性を獲得した肺炎桿菌や大腸菌、さらにその仲間の腸内細菌科に属する細菌が近年報告されている。 一般健康成人では問題にならないが、手術後の患者は、創部の感染症や腹膜炎、膿瘍などの原因になることがあり、免疫低下者などの高リスク者も敗血症などに陥る。 元々腸内に棲息する菌種であり、腸内に長く定着することから別の病原菌に耐性を伝達する危険性がある。そうなれば、一般健康成人でも重大な問題となる。 セリン・β-ラクタマーゼ 活性中心にセリン メタロ・β-ラクタマーゼ 活性中心に亜鉛 クラスA・β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ) クラスC・β-ラクタマーゼ(セファロスポリナーゼ) クラスD・β-ラクタマーゼ(OXA型) クラスB・β-ラクタマーゼ(カルバペネマーゼ) IMP-1:イミペネムに耐性、NDM-1:ニューデリーメタロβ-ラクタマーゼ、KPC:K. pneumoniaeで発見

厚労省:平成22年09月10日 「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」の資料 海外での多剤耐性菌の検出状況(2010年) 欧米諸国と比べて、検出率が総じて低い。大半は渡航先、とくにアジアで治療を受けた際に感染している。しかし、渡航歴のない院内感染例もあり、予断を許さない状況にある。 厚労省:平成22年09月10日 「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」の資料

厚労省:「我が国における新たな多剤耐性菌の実態調査」の結果(平成23年1月21日) 耐性遺伝子解析結果(2010年9月15日~12月28日) 菌種 大腸菌 肺炎桿菌 エンテロバクター・クロアカ プロビデンシア属 セラチア・マルセセンス シトロバクター属 プロテウス・ミラビリス モルガネラ・モルガニイ クレブシエラ・オキシトカ 合計 IMP-1 23 19 22 3 2 ー 72 KPC ー 2 NDM-1 ー 2 全て陰性 44 12 6 3 2 1 77 合計 67 35 28 6 5 2 3 1 153 NDM-1:2010~12年にインドで感染した3名、渡航歴がない2名。 KPC: 2009 ~12年にインド、中国、北米、不明の6名。 IMP-1:この他に、イミペネムに感受性のIMP-6産生株が数年前より関西地区で分離されている。 厚労省:「我が国における新たな多剤耐性菌の実態調査」の結果(平成23年1月21日) 薬剤耐性菌研究界:薬剤耐性菌国内情報

サルモネラ・ティフィムリウム - 食品安全委員会 動物における抗菌剤使用と耐性菌の拡散 サルモネラDT104: 1984年に英国のウシから、アンピシリン(A)、クロラムフェニコール(C) 、ストレプトマイシン(S) 、サルファ剤(Su) 、テトラサイクリン(T)の5剤に耐性を示すS. Typhimuriumファージ型(definitive type)104が初めて分離された。1994年には牛サルモネラ症から分離されたサルモネラの66%がST DT104 ACSSuTと急増した。ヒトの感染例は、1088年以降増加し、1993年には1000名を越えた。 ST DT104 ACSSuT は、その他の家畜に広がるとともに、欧州、米国など世界に広がった。日本では1986 年ごろから散発下痢症事例や、小規模な集団事例、家畜での事例などが確認されていたが、2004年には大阪でDT104 による患者数358人の大規模集団事例が発生した。 サルモネラ・ティフィムリウム - 食品安全委員会 ST DT104の簡易スクリーニング法 ST DT104 ACSSuT は、耐性薬剤が追加または脱落した6剤、4剤耐性株や、ファージ型が異なるものの類似した耐性パターンを示すサルモネラ株を生み出したと考えられている。 ST DT104 の起源は、どこで、どの動物で誕生したか不明であるが、抗菌剤が広範に使用されている状況で家畜およびヒトに広がった。

研究成果報告書 研究科題名 多剤耐性サルモネラの ... - 食品安全委員会 1990 2000 DT104 クロラムフェニコールは ヒト・チフス症の特効薬。 この耐性遺伝子拡散は ヒトの健康への脅威

ヒトおよび各種動物から分離されたCampylobacter jejuni Ampicillin Gentamicin ヒトおよび各種動物から分離されたCampylobacter jejuni 感染症学雑誌、1984 耐性率(耐性株数/検査数) Tetracycline ヒト 1.8 2 0.0 68.8 77 ウシ 0.0 6.9 2 55.2 16 家禽 2.2 1 1.5 21.7 10 野鳥 1.7 1 0.0 10.2 6 Ampicillin Gentamicin Tetracycline 1984年の散発下痢患者のCampylobacterの感受性もほぼ同じだが、ヒト由来株をその後同じ薬剤を調べた論文は見当たらない。小児カンピロバクター腸炎および サルモネラ腸炎の検討(2010)では、サルモネラのAmpicillin耐性が8.7%。

牛および豚由来株に対するエンロフロキサシン(ERFX)またはシプロフロキサシン(CPFX)の耐性状況 牛及び豚に使用するフルオロキノロン製剤に係る薬剤耐性菌に関する食品健康影響評価 キノロン系抗菌剤は、DNAジャイレースの働きを阻害することによって細菌の増殖を妨げる。 ナリジクス酸(1962年)は第1世代のキノロンであり、1984年に第2世代のノルフロキサシン(NFLX)が発売され、現在第3世代。 ヒトの疾病治療におけるフルオロキノロン系抗菌性物質の重要度やハザードによるヒトの疾病の重篤性等から、腸管出血性大腸菌およびサルモネラは高度、カンピロバクターについては中等度。 DNAの「ねじれ」を解消して複製を準備するトポイソメラーゼの2型 牛および豚由来株に対するエンロフロキサシン(ERFX)またはシプロフロキサシン(CPFX)の耐性状況 カンピロバクター 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 ウシ 0.3 1.4 1.5 0.7 ブタ 4.1 1.3 2.2 2.8 0.8 一般大腸菌 サルモネラ ウシ+ブタMIC 0.1 <0.125 0.25 1 0.5 8.8 25 17.6 27.3 24.4 29.4 32.4 21.3 23.5 34.9 30.6 56.4 48.4 71.1 42.9 一般大腸菌:MIC分布域には大きな変動がみられず、耐性率は牛由来で0.0~1.5 %、豚由来で0.0~4.1 %の範囲 サルモネラ: MIC分布域には大きな変動がみられず、感受性を維持している。 カンピロバクター:牛由来C. jejuni の耐性率は8.8~30.3 %の範囲で変動、豚由来C. coli の耐性率は21.3~71.1%の範囲で変動した。

食品安全員会2009年:畜水産食品における薬剤耐性菌の出現実態調査 報告書 牛肉(大腸菌101株) 耐性率(耐性株数) 豚肉(大腸菌103株) 耐性率(耐性株数) アンピシリン オキシテトラサイクリン ストレプトマイシン アプラマイシン クロラムフェニコール トリメトプリム カナマイシン ビコザマイシン ナリジクス酸 コリスチン ゲンタマイシン エンロフロキサシン セファゾリン セフチオフル 10.9(11) 23.8(24) 19.8(20) 21.8(22) 8.9(9 ) 5.9(6) 6.9(7) 4.0(4) 3.0(3 ) 2.0(2) 0.0(0) 0(0.0 ) 6.9(7 ) 25.2(26) 51.5(53) 44.7(46) 39.8(41) 18.4(19 ) 27.2(28) 8.7(9) 2.9(3) 3.9( 4) 1.0(1) 0.0(0) 1.9(2 ) 1.0(1 ) 0(0.0) フロルェニコーは、 米国、EU 、カナダ、オーストラリア、ニュジンドに おいて使用が認められている。日本では、食品安全委員会の再評価において「食品媒介性疾患に使用されない」ことから無視できる影響とした。 欧州食品安全機関は、飼料添加物としてのトヨセリン(R)(Bacillus toyonensis)がクロラムフェニコールおよびテトラサイクリンに対して耐性を有し、耐性をコードする遺伝子を拡散するリスクが考えられるとした。

The 2012-2013 Integrated NARMS Report 米国における3剤以上に耐性のサルモネラの割合 ヒトの多剤耐性菌の割合は、2008年まで減少した。 The 2012-2013 Integrated NARMS Report 鶏と七面鳥の多剤耐性菌の割合は、処理場段階よりも小売段階が高い。七面鳥の割合は増加傾向にある。 牛の処理場段階の多剤耐性菌の割合は、2000年からの10年間増加していた。 食用家畜への使用目的で販売されている抗菌薬の量が、2009年の1270万kgから12年には1450万kgへと16%増加していた(2014年発表)。

The 2012-2013 Integrated NARMS Report 米国における3剤以上に耐性のサルモネラの割合 The 2012-2013 Integrated NARMS Report 生体分離株の多剤耐性菌の割合は、ヒトおよび鶏、乳牛、仔豚との間の差がないが、七面鳥、肉牛、出荷豚は高い。 解体・食肉処理・流通の過程で多剤耐性菌の割合が高まっている。感受性菌との消毒剤に対する抵抗力の差? 盲腸 盲腸 盲腸 盲腸 盲腸 盲腸

動物における抗菌剤使用と耐性菌の拡散ー Part 2 FAO:食用動物における抗生物質成長促進剤 治療を目的とする使用以外に、経済動物として生産コストを削減するための飼料添加物としての抗菌剤使用がある。 ビタミンB補給を狙ってテトラサイクリン製造残渣を家畜に与えると成長促進のあることが1949年に判明した(その後、この効果はビタミン補給とは関係なく、腸内細菌の改善によるものと推定された)。 少ない飼料で増体効果が得られ、成長促進効果があることから、抗生物質の飼料添加を米国FDAが1951年に認可し、欧州もそれに続いた。病気の治療を目的としない使用に対して、耐性菌や残留問題などで当初から反対があったが、欧州が成長促進剤としての使用を禁止したのは1999年であった。 FAO:食用動物における抗生物質成長促進剤 抗生物質成長促進剤の最善の代替方法は、たとえば、スウェーデンモデル(1985)のように食料生産動物の一般条件の改善である。医学的に重要な抗生物質は、成長促進での使用を即時に禁止しなければならない。残念ながら、スウェーデンが示したように、改革は遅く、非常に費用が掛かることがある。業界の改革を全体として開始するためには、成長促進抗生物質使用の考え方を変更することが不可欠である。抗生物質の使用を継続する最大の脅威はヒト用薬剤に起因しているが、耐性株の選別は全ての者に影響を与える。耐性株の選別が臨床的濫用やその他の原因で起きれば、抗生物質の治療がほとんど無効になる。

感染症の予防は、抗菌剤の予防的使用より、ワクチンが優る。

飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令 飼料は、抗菌性物質(飼料添加物として指定されたものを除く)を含んではならない。 飼料添加物名 (濃度ppm) 亜鉛バシトラシン アビラマイシン エンラマイシン クロルテトラサイクリン バージニアマイシン 硫酸コリスチン 前期用 16.8-168 2.5-10 1-10 10-55 5-15 2-20 後期用  5-15 ほ乳期用 42-420 10-40 2.5-20   10-20 2-40 子豚期用 ブロイラー用 豚用 衛生管理が行き届き、悪玉菌(Clostridium属など)が少ない農場では、成長促進効果はほとんどみられない。 GAP(適性飼育管理)の普及が鍵。 飼料添加物としての指定に際しては、 1. 人体薬として使用されていない 2. 人体薬に対する交叉耐性を生じない 3. 腸管吸収が悪く、残留問題を起さない ことが重視されている。 出荷前の仕上げ飼料には、添加が許可されていない。

抗菌剤の低濃度・長期使用が耐性化を進めるという見解もあるが、耐性遺伝子の拡散に関しては見解に留まらない事実である。

FAO・WHO:鶏肉のサルモネラとカンピロバクター 2009年 危害の低減のために可能な介入策 原種鶏群の管理 孵化場への種卵の輸送 種鶏用孵化場 初生雛の種鶏農場への輸送 種鶏群の管理 飲水の殺菌処理 餌付け・間引き 生菌剤・競合排除法 換気・暑熱慣例対策 敷料管理 農場に入る際の消毒 衣類・長靴の管理 鶏舎間での機材共有の制限 卵の孵化場への輸送 初生雛の農場への輸送 鶏群管理 孵化場 食鳥処理場への輸送 食鳥処理 流通、取扱い 購入・調理 低温管理 交差汚染防止 加熱 食鳥処理場での受け渡し 輸送カゴおよび湯漬け前の取り扱い 生体検査 と殺・整体 湯漬け、脱羽および内臓摘出 頭部除去、内臓摘出・素嚢の除去 汚染除去(と体の内側と外側の洗浄) 解体後検査 冷却(空気冷却、浸漬冷却・塩素) 包装・冷蔵・冷凍、保管・出荷 「農場から食卓まで(From Farm to Table)」の全ての工程を管理することでリスクを下げる。 毎日の作業であり、ウッカリ・ミスを防ぐために、重要な工程にはチェックシートで確認させる。

薬剤耐性問題は、エネルギー問題における核利用と似ており、人類が作り出した文明の逆襲とも言える。抗菌物質を利用せずに感染症と闘うことに限界があるのと同様に、化石燃料に代る核エネルギーを利用することなく地球温暖化を止める道筋は見えない。 20世紀の大規模化と効率化による生産性向上は、農業分野においても様々な側面で過剰な負荷を掛けることによって地域社会の持続可能性を損ね、地球環境問題を引起してしまった。大量生産・大量消費のシステムの中で、労働の喜びが奪われ、分業社会の絆が失われていった。 「文明の逆襲」を解決する方法を見付け出すには、時が必要である。 競争(Number One)ではなく、個性と協調(Only One)を重視する「節度ある消費を基盤とする伸びやかな生き方・社会」を求める中で、難解な問題を解決する時間稼ぎが必要である。