異所性妊娠卵管破裂に対する緊急手術中の輸血により輸血関連急性肺障害(TRALI)を発症した1例

Slides:



Advertisements
Similar presentations
学童の呼気中一酸化窒素濃度測定に 影響を与える諸因子の検討 高見暁 (1) 、望月博之 (2) 、荒川浩一 (3) 、坂井貴胤 (1) (1) 新潟県厚生連新潟医療センター (2) 東海大学医学部専門診療系小児科学 (3) 群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野.
Advertisements

11-2 知っておくと役立つ、 糖尿病治療の関連用語 一次予防、二次予防、三次予 防 1.1. インスリン依存状態 インスリン非依存状態 2.2. インスリン分泌 3.3. 境界型 4.4. グルカゴン 5.5. ケトアシドーシス、ケトン体 6.6. 膵島、ランゲルハンス島 7.7. 糖代謝 8.8.
三例の糖尿病性腎症導入例 仁和寺診療所 田中 貫一 仁和寺診療所.
障害基礎年金・障害厚生年金の診断書作成の留意事項
学習目標 【第5章 食物アレルギー患児の看護】 1.食物アレルギーの発生機序(I型)を理解できる. 2.食物アレルゲンの種類と侵入経路を理解できる. 3.食物アレルギーの症状を理解できる. 4.食物アレルギーの検査・治療を理解できる. 5.食物アレルギー患児・家族への看護を理解できる. 6.幼稚園・保育園・小学校との連携を理解できる.
1. 動脈硬化とは? 2. 動脈硬化のさまざまな 危険因子 3. さまざまな危険因子の 源流は「内臓脂肪」 4. 動脈硬化を防ぐには
A case of pneumatosis cystoides intestinalis attributed
アレルギー・アナフィラキシー 山形大学輸血部 田嶋克史.
藤井 康彦 山口大学医学部附属病院 輸血部/再生細胞治療センター
輸血の適応/適正使用 血小板製剤 福井大学輸血部 浦崎芳正.
背景 CABGを必要とする虚血性冠動脈疾患の背景には動脈硬化の影響があり、プラークの退縮効果が明らかにされているスタチンを投与することで予後を改善する効果が期待される CABGを行った患者に対しスタチンを投与することで予後を改善する効果を検証することが本研究の目的である 2015/2/17 第45回日本心臓血管外科学会.
腹腔動脈を介した 右肺底動脈大動脈起始症に対する 胸腔鏡下 右下葉切除術の1例
I gA腎症と診断された患者さんおよびご家族の皆様へ
術後の低酸素血症 なぜ起きどう対処するのか
輸血の適応/適正使用 新鮮凍結血漿 福井大学輸血部 浦崎芳正.
がんの家族教室 第2回 がんとは何か? 症状,治療,経過を中心に
輸血後GVHD 琉球大学輸血部 佐久川 廣.
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
最近の肺結核の治療と診断 浜松医大救急部           白井 正浩.
透析患者に対する 大動脈弁置換術後遠隔期の出血性合併症
甲状腺疾患 カイエー薬局 グループ発行 健康シリーズ 女性に多い 最近、テレビでも放送されましたが、いくつもの病院を
人工血液 神戸大学輸血部 西郷勝康.
外科手術と輸血 大阪大学輸血部 倉田義之.
学習目標 1.呼吸機能障害のメカニズムについて理解する. 2.呼吸器系における各機能障害とその看護について理解できる. 3.換気障害,拡散障害,ガス運搬障害について,その機能異常や障害が起こるメカニズムとその所見について理解できる. SAMPLE 板書(授業終了まで消さない) 学習目標 1.呼吸機能障害のメカニズムについて理解する.
日本人を脅かす三大疾病 癌 脳血管障害 心臓病 脳梗塞・脳内出血 虚血性心疾患・弁膜症・大動脈瘤・心不全 体にやさしい心臓・血管手術
高血圧 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 二次性高血圧を除外 合併症 臓器障害 を評価 危険因子 生活習慣の改善
脳血管障害 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 緊急処置 一般検査 画像検査 治療 診断
輸血の適応/適正使用 赤血球製剤 琉球大学輸血部 佐久川 廣.
放送大学面接授業試験問題
インスリンの使い方 インターンレクチャー.
Hironori Kitaoka.
資料 3ー1 平成28年度広島県合同輸血療法委員会 平成28年度事業計画案.
血管と理学療法 担当:萩原 悠太  勉強会.
疫学概論 患者対照研究 Lesson 13. 患者対照研究 §A. 患者対照研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
Outcomes Among Patients Discharged From Busy Intensive Care Units
白血球除去の意義 山形大学輸血部 田嶋克史.
チュートリアルシリーズ 検索事例編② 静脈血栓塞栓症(VTE) 予防 ガイドラインの参照について
疫学概論 患者対照研究 Lesson 13. 患者対照研究 §A. 患者対照研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
肥満の人の割合が増えています 肥満者(BMI≧25)の割合 20~60歳代男性 40~60歳代女性 (%)
メタボリックシンドロームはなぜ重要か A-5 不健康な生活習慣 内臓脂肪の蓄積 高血糖 脂質異常 高血圧 血管変化の進行 動脈硬化
メタボリック シンドローム.
頚動脈内膜剥離術 Carotid endarterectomy:CEA
非溶血性輸血副作用 神戸大学輸血部 西郷勝康.
重篤副作用疾患シリーズ(14) 急性肺損傷・ 急性呼吸窮迫症候群
喫煙者は糖尿病に なりやすい!! 保険者機能を推進する会 たばこ対策研究会 003_サードハンドスモーク(3).pptx.
FAX06-6339-2058(吹田保健所 企画グループあて)
樹状細胞療法 長崎大学輸血部 長井一浩.
小児に特異的な疾患における 一酸化窒素代謝産物の測定 東京慈恵会医科大学小児科学講座 浦島 崇 埼玉県立小児医療センター 小川 潔、鬼本博文.
感染症集団発生事例に対する基本的対応 大山 卓昭 感染症情報センター 国立感染症研究所.
輸血副作用 琉球大学輸血部 佐久川 廣.
福島県立医科大学 医学部4年 実習●班 〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇
学習目標 【1.ショック】 1.ショックとは何かを説明できる. 2.ショックの原因を分類できる. 3.ショックの段階を説明できる. 4.ショック時の観察ポイントを説明できる. 5.ショックへの対応の流れと治療の原則が説明できる. 【2.意識障害】 1.意識障害とは何かを説明できる. 2.意識障害の原因を分類できる.
高脂血症.
偶発性低体温患者(非心停止)の復温法 復温法 軽中等度低体温 ≧30℃ 高度低体温 <30℃ ○ PCPS 能動的体外復温法
トータス往診クリニック 国立がん研究センター東病院 血液腫瘍科 大橋 晃太
強皮症に伴う腎障害 リウマチ・アレルギー疾患を探る p142. 永井書店 強皮症に伴う腎病変には次の3パターンがある。
臓器移植と輸血 山形大学輸血部 田嶋克史.
輸血副作用とその対策 2008年6月11日.
疫学概論 疾病の自然史と予後の測定 Lesson 6. 疾病の自然史と 予後の測定 S.Harano,MD,PhD,MPH.
血栓性血小板減少性紫斑病 TTP 溶血性尿毒素症候群 HUS
単独CABGにおける長期成績からみたLADへのGraft戦略 -RITA-LADはLITA-LADと同等か?-
緊急輸血・大量輸血 山形大学輸血部 田嶋克史.
UFT服薬に関しての注意事項 ☆ 患者さんには「UFT服用のてびき」をお渡し下さい。.
肺の構造. 肺の構造 肺の間質とは? IPF(特発性肺線維症)とは? IPF患者さんの肺の画像(胸部X線)
輸血関連急性肺障害 TRALI 神戸大学輸血部 西郷勝康.
血液製剤の種類・特徴 琉球大学輸血部 佐久川 廣.
間欠型一酸化炭素中毒に対する高気圧酸素治療の限界
食物アレルギー発作時 に使用する 自己注射について
1. 糖尿病の合併症としての 性機能障害 2. 性機能障害と糖尿病治療 3. 性機能障害、とくにEDの 原因について 4.
諏訪邦夫 (当時東京大学医学部麻酔学教室所属)
Presentation transcript:

異所性妊娠卵管破裂に対する緊急手術中の輸血により輸血関連急性肺障害(TRALI)を発症した1例 独立行政法人 国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター  血液内科 高蓋寿朗 麻酔科 豊田有加里 杉本由紀 栗田茂顕 藤井聖士 橋本賢 森脇克行

はじめに 輸血関連急性肺障害(TRALI)は、輸血後6時間以内に非心原性肺水腫を発症する非溶血性輸血副作用である。 輸血を行った緊急手術の術後に、TRALI(possible TRALI)を来たしたと考えられる症例を経験したので報告する。

TRALI (transfusion-related acute lung injury) 診断基準 Possible TRALI (日本赤十字社ホームページより抜粋)

TACO (transfusion associatted circulatory overload) (日本赤十字社ホームページより抜粋) 現時点では、コンセンサスの得られた定義は存在しない。

鑑別点 特徴 TRALI TACO 呼吸器症状 急性呼吸困難 胸部Xp所見 びまん性両側浸潤影 血圧 血圧低下傾向 血圧上昇傾向 頸静脈 変化なし 怒張することも EF 正常 低下 体液バランス Neutral-negative positive BNP <250 pg/ml >1200 pg/ml (Kleinman.S ,et al. Transfusion related acute lung injury : UpToDate 2015 より改変)

TRALI(possible TRALI含む) 発生頻度 約0.04−0.1% しかし正確には不明、特に国内ではデータが少ない 予後 通常発症24-48時間以内で改善するが、70−80%で挿管が必要   平均挿管時間40時間、 重症化するのは5−8% 死亡率:5-17% 治療  対症療法 直ちに輸血中止 呼吸循環管理  ステロイド投与にエビデンスはない 研究中:HMG-CoA還元酵素阻害剤、代替可能な同種血液製剤 稀な合併症であり、医師の認識により報告されていない軽症例も多いと考えられ、データは様々。 重症例の報告に偏ったり。重症例では死亡率35-58% TRALI/TACO が疑わしい症例は血液センターに必ず報告する

発症メカニズム 仮説:two-hit model 基礎疾患など血管内皮損傷を起こす要因が存在し、肺毛細血管で好中球がプライミングされている状態 血液製剤中の抗体や活性脂質など生理活性物質が好中球を活性化、肺毛細血管内皮細胞を攻撃 免疫学的機序 抗白血球抗体が原因 →現在、血漿製剤は99%以上男性由来 非免疫学的機序 活性脂質などの生理活性物質が原因 製剤の長期保存は重要な危険因子 とまではいえない 製剤側の危険因子  女性由来(特に経産婦)  抗HLA ClassⅡ抗体  抗HNA抗体 患者側の危険因子  肝移植後、慢性アルコール中毒、 ショック、喫煙、高IL-8血症、  正のfluid balance  人工呼吸中の高い気道内圧

結語 緊急手術術後にTRALIを疑わせる症例を経験した。 輸血後の急性呼吸障害を認めた際、TRALI・TACOを鑑別に挙げる必要がある。