星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか

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プラズマからのX線放射 X-ray Radiation from Plasmas 高杉 恵一 量子科学フロンティア 2002年10月17日.
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W e l c o m ! いい天気♪ W e l c o m ! 腹減った・・・ 暑い~ 夏だね Hey~!! 暇だ。 急げ~!!
第11回 星・惑星系の誕生の現場 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
DECIGO ワークショップ (2007年4月18日) 始原星の質量、形成率、連星度 大向一行  (国立天文台 理論研究部)
H2O+遠赤外線吸収 ラジオ波散乱 微細構造遷位 ラジオ波 赤外線 X-線 H3+ 赤外線吸収 γ-線 塵遠赤外発光 再結合線
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H: 化学平衡 2006年11月27日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一
地球惑星物性学1 ( ~) 参考文献: 大谷・掛川著 地球・生命 共立出版
電離領域の遠赤外輻射 (物理的取り扱い)      Hiroyuki Hirashita    (Nagoya University, Japan)
Damped Lya Clouds ダスト・水素分子
授業の内容 天文学は天体からの光を研究する学問です。 そこでこの授業では、「光」をどう扱うかの基礎を学びます。 授業計画は、
第6課: 平衡 2005年11月28日 授業の内容は下のHPに掲載されます。
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すざく衛星による、2005年9月の太陽活動に起因する太陽風と地球大気の荷電交換反応の観測
銀河物理学特論 I: 講義1-2:銀河の輝線診断 Tremonti et al. 2004, ApJ, 613, 898
信川 正順、小山 勝二、劉 周強、 鶴 剛、松本 浩典 (京大理)
Dissociative Recombination of HeH+ at Large Center-of-Mass Energies
第8課: 電離平衡と解離平衡 平成16年12月6日 講義のファイルは
「プラズマエッチングによるレジストパターン転写実習」
HERMES実験における偏極水素気体標的の制御
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銀河物理学特論 I: 講義1-3:銀河性質と環境依存性 Park et al. 2007, ApJ, 658, 898
信川 正順、福岡 亮輔、 劉 周強、小山 勝二(京大理)
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J: 連続吸収 2006年12月18日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一
プラズマ発光分光による銅スパッタプロセス中の原子密度評価
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
実習課題B 金属欠乏星の視線速度・組成の推定
土橋 一仁1、 下井倉 ともみ1、 中村文隆2、亀野誠司2 、
星間物理学 講義1: 銀河系の星間空間の世界 太陽系近傍から銀河系全体への概観 星間空間の構成要素
2.4 Continuum transitions Inelastic processes
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銀河物理学特論 I: 講義2-1:銀河中心の巨大ブラックホールと活動銀河中心核
課題 1 P. 188.
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
大井渚(総合研究大学院大学) 今西昌俊(国立天文台)
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超高光度赤外線銀河(ULIRGs)中に埋もれたAGNの探査
Numerical solution of the time-dependent Schrödinger equation (TDSE)
ーラインX線天文学の歴史と展望をまじえてー
中性子過剰F同位体における αクラスター相関と N=20魔法数の破れ
星間物理学 講義1の図など資料: 空間スケールを把握する。 太陽系近傍から 銀河系全体への概観、 観測事実に基づいて太陽系の周りの様子、銀河系全体の様子を概観する。それぞれの観測事実についての理解はこれ以降の講義で深める。 2010/10/05.
「すざく」でみた天の川銀河系の中心 多数の輝線を過去最高のエネルギー精度 、統計、S/Nで検出、発見した。 Energy 6 7 8
これらの原稿は、原子物理学の講義を受講している
星間物理学 講義6資料: 衝撃波1 超新星残骸などに見られる衝撃波の物理過程について
星間物理学 講義 3: 輝線放射過程 I 水素の光電離と再結合
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
強結合プラズマ 四方山話 − 水素とクォーク、高密核融合、 クーロンクラスター、そして粘性 −
惑星と太陽風 の相互作用 惑星物理学研究室 4年 深田 佳成 The Interaction of The Solar
2・1・2水素のスペクトル線 ボーアの振動数条件の導入 ライマン系列、バルマー系列、パッシェン系列.
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
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大型ヘリカル装置における実座標を用いた 粒子軌道追跡モンテカルロコードの開発
ブラックボックスとしてモデルをみると、本質を見逃す。
星間物理学 講義7資料: 物質の輪廻と銀河の進化 銀河の化学進化についての定式化
国際会議成果報告 Structure Formation in the Universe
教育学部 自然環境教育課程 天文ゼミ 菊池かおり
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星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか 星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか 2012/10/24

銀河系内のガスの諸相 Myers et al. 1978, ApJ, 225, 380

星間ガス(Protosolar)の組成比 “Physics of the Interstellar and Intergalactic Medium” Draine 2011

さまざまな銀河におけるダストの組成 (ガスダスト比) 赤外SEDから推定されるダスト量とガス(HI+H2(from CO)) の比を金属量、銀河のタイプに対してプロットしたもの。H2/CO 比を仮定。 Draine et al. 2007, ApJ, 663, 866

星間ガスの平衡温度、密度 : 冷却率と加熱率のつりあう点=平衡状態として存在できる 星間ガスの平衡温度、密度 : 冷却率と加熱率のつりあう点=平衡状態として存在できる 加熱率を10倍した場合、低温のモードでは周りの圧力より大きくなる。 銀河系ディスク面での典型的圧力 銀河系ディスク面での典型的磁気圧 低温の 中性水素ガス 温度が <100K になると CII の冷却が効かなくなりそれ以上冷却できない。 高温の 中性水素ガス 圧力平衡にある場合この領域では不安定:密度が少し高くなってカーブの上に出た場合、冷却率が加熱率を上回り、温度が下がり密度がさらに高くなる。 密度が薄いところではCII, OI の輝線の冷却は効かず Lya の冷却が効き始める 10^4 K まで加熱される。 Cox et al. 2005, ARAA, 43, 337

水素のエネルギー準位図 (Grotorian Diagram) 重要な点: 電離に必要なエネルギー 13.53eV (912A) 第一励起状態へのエネルギー  10.15 eV (1216A:Lya) 小暮 1994 星間物理学

ヘリウムのエネルギー準位図 (Grotorian diagram) 小暮 1994 星間物理学 重要な点: 1階電離に必要なエネルギー 24.47eV(504A)、2階電離に必要なエネルギー 54.12eV(228A) 第一励起状態へのエネルギー 19.77eV(624A) と 40.50eV(304A)

電子の速度分布(Maxwell-Boltzmann分布)、エネルギー分布 20,000K 程度の温度であっても電離エネルギーに匹敵するようなエネルギーを持つ電子はほとんどない。 100,000K を超える温度になると衝突による電離が効いてくる。 水素やヘリウムなどを電離するにはほかの電離過程が必要。 “Atomic Astrophysics and Spectroscopy” Pradhan & Nahar 2011

電離の断面積:水素、ヘリウム “Atomic Astrophysics and Spectroscopy” Pradhan & Nahar 2011

紫外線の光子による電離過程:星の有効温度と電離光子の数 Sternberg et al. 2003, ApJ, 599, 1333

Teff (K) Log Q (ph/s) O3V 51,200 49.87 O4V 48,700 49.70 O5V 46,100 紫外線の光子による電離過程:星の有効温度と電離光子の数 Teff (K) Log Q (ph/s) O3V 51,200 49.87 O4V 48,700 49.70 O5V 46,100 49.53 O6V 43,600 49.34 O7V 41,000 49.12 O8V 38,400 48.87 O9V 35,900 48.56 B0V 33,300 48.16 “Astrophysics of Gaseous Nebulae and Active Galactic Nuclei” Osterbrock & Ferland 2006

各原子の電離エネルギー “Physics of the Interstellar and Intergalactic Medium” Draine 2011

電子の速度分布(Maxwell-Boltzmann分布)、エネルギー分布 酸素なども電離するためには数10eVのエネルギーが必要であり電子との衝突による電離が起こるためには 100,000K を超える温度が必要。 電子と陽子のスピンの向きによって決まる水素の超微細構造線 (Hyperfine structure line) は低い温度でも励起される。 電子のスピンの向きで決まる炭素などの微細構造線 (fine structure line) も低い温度でも励起される。 酸素などは水素と違い基底状態から比較的低いエネルギーで励起されるエネルギー順位を持つ。 “Atomic Astrophysics and Spectroscopy” Pradhan & Nahar 2011

酸素原子、イオンのエネルギー順位:微細構造線

酸素 O のエネルギー準位図 点線は禁制遷移 Partial Grotrian Diagrams of Astrophysical Interest http://ned.ipac.caltech.edu/level5/Ewald/Grotrian/frames.html

1回電離酸素 OII (O+) のエネルギー準位図 点線は禁制遷移 3727A ~ 3eV Partial Grotrian Diagrams of Astrophysical Interest http://ned.ipac.caltech.edu/level5/Ewald/Grotrian/frames.html

2回電離酸素 OIII (O++) のエネルギー準位図 点線は禁制遷移 Partial Grotrian Diagrams of Astrophysical Interest http://ned.ipac.caltech.edu/level5/Ewald/Grotrian/frames.html